【悲しみのカウントダウン】















「皆さんに、見ていただきたいものがあります」


 お茶会ではなく、仕事の日。

 そこに、右羽の姿はない。

 志摩子たちが、仕事の日に右羽を呼ばないようにしているのだ。

 自分たちが、仕事よりも右羽を優先してしまうことを理解してるから。


「カメラちゃん?どうしたの?そんな険しい顔して」


 そこに現れた蔦子。

 見慣れない、真剣な顔。

 全員が顔を見合わせ、聖が代表するように問いかけた。


「見ていただきたいものがあるんです」


 答えは、入ってきて挨拶の次に言ったのと同じ言葉。

 再び彼女達は顔を見合わせた。

 それでも、とりあえずそれを見ようと蓉子が空いている椅子に座るように促す。

 みな、書類を脇に避けて。


「失礼します」

「それで、見てほしいものとは?」


 江利子が問いかけると、蔦子は少し躊躇うような仕草を見せた。

 そんな蔦子に、全員が疑問符を浮かべる。

 彼女から見てほしい、と言ってきたのに、と。


「蔦子さん、今日朝から様子変だったよね?何かあったの?」

「・・・・これを見てもらえば、わかると思うわ、祐巳さん」


 祐巳にも、答えといえる答えは言わず、意を決したように数枚の写真をテーブルの上においた。


「これは、写真?」

「はい。見ていただきたいのは、これです」


 その中の一枚を、蔦子は蓉子に差し出した。


 それを受け取ってみた瞬間、蓉子の目が見開かれる。


「これは・・・っ!?」

「蓉子?」

「お姉さま?」

「紅薔薇さま?」


 あまりにも驚いた様子の蓉子に、聖たちは訝しげに。


「これと、見比べてみてください」


 もう一枚差し出され、蓉子は躊躇いつつ受け取り、見てみた。

 するとまたしても目を見開き、もう一枚の写真と見比べ始める。


 痺れをきらせたのか、聖と江利子が蓉子の後ろに回りこみ、覗き込む。

 そして、蓉子と同じように目を見開いた。

 その表情のまま、交互に2つの写真を見比べている。


「これ・・・っ」


 江利子の指が、写真の表面をなぞった。


「おかしいですよね?以前は、そんなものなかったんです!」


 蔦子の見慣れない表情。

 蓉子たちの行動。

 祥子たちは顔を見合わせ、祥子が蓉子を呼ぶ。


「・・・見てみて」


 それでようやく写真を渡してもらえ、祥子たちも見ることができた。


「っ!?」


 祥子たちは、写真を見たとたんにそれに気づき、やはり蓉子たちのように目を見開いた。


「・・・・はね・・・・?」

「というよりも、翼、ね・・・」


 呆然としたような由乃の呟きに、江利子が小さくため息をつきながら訂正を入れる。


 そう、右羽を写した写真には、翼のようなものが、すぐに視覚できるくらい、けれどうっすらと写っていたのだ。

 まるで、右羽の背中から、生えているかのように。

 おとぎ話や神話などに出てくる、天使のような翼が。


「・・・右羽さんは・・・・本当に・・・・天使、さま・・・・?」
























 ふっと、右羽はどこかを見た。

 それは、リリアンのある方向で。

 もっといえば、薔薇の館がある方向で。


 何かに気づいたように、目を細めた。


「・・・・バレちゃった・・・」


 小さな呟き。

 それは寂しそうで。

 どこか、悲しそうに。


「仕方、ないよね・・・・」


 まるで、自分に言い聞かせるかのように。


「・・・・うん。茜に会いに行こう」


 最後に、ね。


 周りの喧騒に掻き消えた、泣き出しそうな呟き。







 

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