【幸せとその裏】


















 蔦子がいつものようにカメラを手に歩き回っていると、右羽がいることに気づいた。


「あら、右羽さん?」


 ただいま放課後。

 由乃と志摩子は薔薇の館でお仕事中。


「退院したばっかりなのに、何でまだいるのかしら?」


 蔦子が不思議に思いながら近づいていくと、右羽だけではなくてもう一人いることに気づいた。


「まさか、イジメじゃないわよね・・・?」


 以前のこともあり、蔦子は真剣な顔で気づかれないように近づいていく。

 だが、見てみると右羽もその少女も微笑んでいる。

 どうやらイジメではないらしい、と気づき蔦子はそっと息を吐いた。


 以前から、何度が右羽が志摩子たち以外の誰かと一緒にいるのを見たことがある蔦子は、それに驚くようなことはなく、カメラを構えた。


 フレームの中では、微笑みながら会話をする右羽と少女。

 何度か、こういった構図を写真に収めている。


 今度のも、それらと同じものになるはずだった。




























「何、これ・・・・っ?」


 蔦子は現像した写真の中から、数枚の写真を手に持ちながら目を見開いていた。

 そこには、つい最近撮った右羽がいる。


 しかし・・・。























「右羽さん、紅茶飲む?」

「あ、ありがとう、しのちゃん!」

「どういたしまして」


 にっこり笑い、由乃は機嫌がよさそうに流しのほうへと足を向けた。


「右羽ちゃん、体のほうはもう大丈夫なの?」

「はい!ご心配おかけしました」


 蓉子にえへっと笑う右羽に、全員が自然と頬を緩めてしまう。


「本当よ。どれだけ心配したと思っているの?」

「あぁぅ・・・」

「江利子、そんなふうに右羽ちゃんを責めないの」


 そう咎めながらも、蓉子の口元は笑みを浮かべている。

 江利子だってもちろん、責めているわけではない。

 反応が可愛いから、からかっているだけなのだ。


「黄薔薇さま!右羽さんを困らせないでください!」

「よ、由乃っ」

「あら、私がいつ右羽ちゃんを困らせたというの?」

「今です!」

「そう?ねえ、右羽ちゃん。私、あなたを困らせたかしら?」

「ほえ?・・・・え、えっと・・・・」


 右羽は自分を睨みつけてくる由乃をちらりと見た後、どう答えれば良いのかとみんなを見渡す。

 けれど、大半が微笑ましそうに自分達を見ているだけ。

 志摩子と祐巳も。

 唯一、令だけがわたわたとしている。


「ねえ、右羽ちゃん。私、いつあなたを困らせたかしら?」

「そ、それは・・・」

「右羽さん!ハッキリ言って良いのよ!」


 とてつもなく楽しそうな江利子と、若干機嫌の悪い由乃。

 黄薔薇家の孫と祖母に挟まれ、優しい右羽はどちらの味方にもなれない。


「・・・・江利子さまは、わたしを困らせてないよ?だから、しのちゃん笑って?わたし、しのちゃんが笑った顔、好きなんだよ?」

「なっ!?」

「あら」


 一瞬で、ピー!と湯気を立たせる由乃に、江利子はそうくるのね、と若干の驚きと面白さを感じた。

 蓉子たちも江利子と似たような顔をしている。

 反対に、右羽の性格を知っている志摩子と祐巳は、右羽さんらしい、と微笑みあう。


「しのちゃん?顔真っ赤」

「なっ、なんでもない!」


 赤くなった顔を隠すために、由乃は再び流し台へ。

 そんな由乃の背中を、右羽は首をかしげながら見ていた。


「右羽さん」

「あ、シマちゃん。しのちゃん、どうかしたの?」

「由乃さんは、なんでもないのよ。少し、恥ずかしかっただけなの」

「志摩子さん!余計なことは言わなくて良いの!」

「ふふ、ごめんなさい」

「んもう!」


 そう鼻息荒くする由乃に、江利子たちは笑う。


 ずいぶん変わった、この子達は。

 それもこれも、右羽ちゃんのおかげ。


 そんなことを思いながら。

 もっとも、右羽が聞けば否定するだろうが。

 わたしは何もしていませんよ、と。


 志摩子と祐巳も、またしても微笑みあう。

 戻ってきた、穏やかな時間が楽しくて。

 幸せで。





 再び訪れた、幸せ。

 長く続くと、そう思っていた。


 けれどそれは、数枚の写真によって、崩れてしまうこととなる。









 

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