【還ってきたあの人】








 由乃さんが、令さまに叫んですぐ、意識を失った。

「由乃さん・・・・・・・」

 私は、右羽さんの行動をまねて彼女の髪を梳くように撫でた。

 多分、いえ、絶対。

 彼女のように、優しくて、気持ちの良い、あの撫で方は出来ないだろう。

「・・・・・・きっと、その右羽ちゃんが、由乃を助けてくれたのね」

 由乃さんのお母様が、そう呟きながら由乃さんを見つめている。

 私は、それを聞いて撫でる手を止め、上を向いた。

 涙が、溢れ出そうだった。

「・・・・・・・あの子は、何処までもあなた達が第一なのね」

 黄薔薇さまが、涙声で呟いた。

 それが、どうしようもないくらい、私の胸を締め付ける。

「・・・・・もう少し、自分本位になってほしいです」

「そうね。・・・・・あの子達を、少しは見習ってほしいくらいにね」

 紅薔薇さまの言う、あの子達とは、きっと右羽さんを傷つけていたあの人達の事だとわかった。

 本当に、そう思う。

「・・・・ねえ、由乃さん。本当の事を知ったら、あなたは怒るかしら・・・・・?」

 右羽さんが、イジメをうけていた事を知ったら・・・・・

 右羽さんが、階段から突き落とされた事を知ったら・・・・

 心臓が、一度、停止したことを言ったら・・・・・

 あなたは、彼女たちをどうしたかしら?

 私はね・・・・

「私は・・・・・凄く、憎くて仕方がないの・・・・・」

 マリア様

「こんな私を・・・・・あなたは罰しますか・・・・?」

「こんな所にいたのね!」

 そこに、先生が入ってきた。

 その表情は、とても嬉しそうだった。

「右羽さんの手術が、成功したそうよ!!」

 私達はそれを聞いて、一斉に立ち上がる。

「令は由乃ちゃんについて、起きたら教えてあげなさい!」

「はい!!」

 令さまが、満面の笑みでそう答えた。

 私達も、きっと同じような表情をしていると思う。

 先生に案内されてやって来たのは、集中治療室だった。

「ここよ!」

 中に入ると、真っ白い包帯を頭に巻いて眠る右羽さんがいた。

「右羽さん・・・・!」

「良かった・・・・・!」

 私と祐巳さんは急いで駆け寄り、体に負担がかからない程度に抱きつく。

「良かった・・・・・・」

 暖かい。

 あの時とは、大違い。

 右羽さんが階段から落ちてから、私はずっと一緒にいた。

 だから、右羽さんの体温が段々と無くなっていくのも、わかっていた。

 でも、今の右羽さんは、暖かい。

 いつもの、右羽さんの暖かさだ。

「良かったね、志摩子、祐巳ちゃん」

「はい!お姉さま」

「はい!白薔薇さま!」






 撫でられる感触に、私は目を覚ました。

 その感触は、まるで右羽さんに撫でられているようで、気持ちが良くて、手から優しさが伝わってくる。

 そんな私の耳に、最近聞けなかった声が聞こえた。

「シマちゃん、こんな所で寝たら風邪引くよ?」

「っ!?」

 私は慌てて体を起こすと、撫でてくれていた手の主を見た。

「・・・・・右羽さん!!」

 久しぶりに見る、右羽さんの笑顔だった。

 私は、嬉しくなって右羽さんに抱きつく。

 右羽さんも、私を抱きとめてくれた。

「右羽さん!右羽さん!!」

「・・・・心配かけて、ごめんね?」

「本当にっ、どれほど心配したか!!」

「ごめんなさい」

 背中にまわした手に力をこめると、右羽さんも力をこめて抱き返してくれた。

「しのちゃんの手術は、どうなったの?」

「成功よ。そうだわ!」

 私は右羽さんから離れると、座っていた椅子に座り直す。

「由乃さんが、右羽さんが迎えに来てくれたと言っていたのだけれど、右羽さん記憶にある?」

「うん。バッチリ!」

 ニッコリと笑う右羽さん。

 久しぶりに見た右羽さんの笑顔は、私の心に光を灯す。

「そうなのね、やっぱり。でも、どうやって?」

「うんとね〜。わたし、気がついたら手術されている自分を見下ろしていたんだけど、その時どこから
か声が聞こえたの」

「声?」

「うん。声の聞こえてきた方に行ったら、しのちゃんが寝てて、シマちゃん達がしのちゃんを囲んでた
の。それでわかったんだ。ああ、しのちゃんを連れてこなくちゃって」

「それで連れてきてくれたの?」

「うん!」

 笑顔で言う右羽さんは、本当に他人優先だと改めて自覚した。

「とりあえず、みんなを呼んでくるわね」

「了解!」

 敬礼をする右羽さんに笑みを返して、私は病室を出ていった。

 早く伝えたい思いが、私を動かす。

 右羽さんが目を覚ましたと知ったら、皆どんな反応をするかしら。

 きっと、皆泣いてしまうわね。

 だって、皆右羽さんを待っていたのだから。

 薔薇さま方なんて、話したくて仕方がなかったみたいだもの。

 由乃さんだって、祐巳さんだって、きっと泣いてしまうわ。

 私は、はやる気持ちを抑えながら、皆のいる由乃さんの病室へと急いだ。
 マリア様

 右羽さんを助けてくださって、ありがとうございます

 由乃さんを助けてくださって、ありがとうございます

 感謝しても、感謝しきれない思いで、今の私はいっぱいです

 

 早く、今までと同じように、笑い合いながらお話ししたいわ

 ねえ、右羽さん

 由乃さん  




        

 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次  前へ  次へ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送