【絆】








「銀マニ〜」

 藤堂志摩子と福沢祐巳のクラス、一年桃組。

 これといって用はない。

 でも、島津由乃がいなくて暇なんですよ、あたくす。

「巳星さん?」

「ごきげんよ〜」

 藤堂志摩子の席へと向かう。

「ごきげんよう。どうしたの?」

 少し笑って首を傾げる藤堂志摩子に、わたしは苦笑する。

「教室、暇なんだもん」

 島津由乃がいないの、飽きちゃった。

「あら」

 可笑しそうに口に手をあてる藤堂志摩子に、わたしは苦笑する。

「あ、巳星さん」

「お、ごきげんよ〜、福沢祐巳」

「ごきげんよう」

 福沢祐巳も笑って返す。

「ん?君の後ろでカメラを構えているのは、盗撮マニアの武嶋蔦子?」

 本当にカメラ放さないんだね。

「知ってるの?」

「福沢祐巳と一緒に薔薇の館に来た人でしょ?」

「光栄だわ。青薔薇さまに知ってもらってるなんて」

 とりあえず、チョップをお見舞いした。

「った!」

「「巳星さん!?」」

 驚いたようにわたしを見る藤堂志摩子と福沢祐巳。

「次、その呼称で呼んだら、もっと強いチョップね」

「な、何でよ?」

 不満そうにわたしがチョップをしたところに手をあてる武嶋蔦子。

「わたしは認めてないから。その呼称」

「そんなに嫌?」

 不思議そうにわたしを見る福沢祐巳に、わたしは頷いて答えた。

「うん。唯我独尊トリオと一日一緒にいるくらい嫌」

 あの3人と一緒にいたら、わたしは絶対に一日中からかわれる。

 一生の生気、絶対に使い果たすね。

「巳星さんだけだよ、そんなこと言うの」

「そうかな?銀マニも嫌でしょ?あの3人と一日一緒にいるの」

「そうね。上級生だし、緊張するとは思うわ」

 さすが藤堂志摩子。

 心が広い。

「唯我独尊トリオ?」

 あ、武嶋蔦子は知らないんだっけ?

「あのね。巳星さん曰く、紅薔薇さまと黄薔薇さまと白薔薇さまのことなの」

 福沢祐巳が武嶋蔦子に教えると、かなり驚いたようにわたしを見てきた。

 驚きすぎじゃない?

 あ、でも福沢祐巳よりは驚いてないか。

「薔薇さま方を?」

「そ。ま、あの3人の本性は、お気に入りという名の生け贄にならないとわからないけどね」

 肩をすくめていうと、藤堂志摩子は苦笑、福沢祐巳はなんだか複雑そうな表情をした。

「・・・・巳星さん、あなた変わってるわ」

「あいにく、『面白い』と『変』は言われ慣れてるんだよね」

 悲しいことにね・・・・・。

 ちょっと遠い目。

 その時、

「春子さん、元気出して」

 なんて言葉が聞こえてきた。

 わたし達はそちらへと目を向ける。

 すると、泣いている1人の少女を何人かが慰めているのが目に入った。

「何?あれ」

 藤堂志摩子に問いかける。

「あれはね、黄薔薇革命現象といって・・・・・」

 武嶋蔦子の言葉に、わたしは思いだした。

「ああ。憧れの黄薔薇ファミリーの一番下が、ロザリオを姉に返したからそれを真似てるってやつね」

「よくわかったわね」

 そりゃあ、小説読んだからね。

 っていうか、簡単に想像できるって。

「多感な少女達のやりそうなことですもの」

 そういうと、3人は驚いたようにわたしを見てきた。

 なんか、このクラスに来て注目されること多いな。

「何?」

「・・・・・・こうなること、予想してたの?」

「まあね」

「春子さんは悪くないわ」

「そうよ。だから泣かないで」

 蔦子の質問に答えた時、そんな会話が聞こえてきた。

 それにわたしは眉を寄せる。

「ちょっと失礼」

「「「巳星さん?」」」

 それには応えず、わたしは泣いている少女の元へと向かう。

「お姉さまは悪くないの。私が悪いの」

 泣きながらそういう少女。

「ちょっと良い?」

「「「「「え?」」」」」

 顔を上げたその少女。







―――パァン!





 わたしはその少女頬を叩いた。

「「「「「――ッ!?」」」」」

「「「巳星さん!?」」」

 わたしが頬を叩いた少女は呆然とした様子で、叩いた方の頬に手をあてる。

 涙も引っ込んだようだけど。

 そんなことを気にしていられない。

 ちょっと今、わたしは怒ってるよ?

「なんで頬を叩かれたかわかってないみたいだね」

「あ、当たり前じゃないですか!」

 怒ったような表情でいう少女を睨む。

「なんでわからないことが、当たり前なの?」

「わっ、わかるわけないじゃないですかっ」

 わたしが睨んだからだろう。

 ちょっと怯えたように言葉を弱めてきた。

 そんな彼女に、わたしはため息をつく。

「・・・・・・あなたは良いでしょうね。島津由乃の真似でロザリオを返して、悲しむだけだもんね」

「なっ!」

「違うの?わたしにはそうは見えないね」

 彼女の両頬を片手で掴み、わたしの目を見るように仕向ける。

「ッ!」

「わたしには、あなたが悲劇のヒロインを気取っているようにしか見えないけどね」

 周りにいた少女達が、わたしを睨んでいるのがわかる。

 だからって、何?

 あなた達はわからないの?

「あなたが悲劇のヒロインを気取っているのは勝手だよ。だけどね、ロザリオを返された方はたまっ
 たもんじゃないんだよ」

 だってそうでしょう?

 続ける。

「向こうは理由らしい理由を聞かされずロザリオを返されて、ショックを受けているはずだ。そりゃ
 あそうだよね。理由は島津由乃の真似をしただけなんだから」

 少女の両頬を掴んでいた手を放し、少女を睨む。

「悪いのは私だ。そんな言葉、理由にもならないんだよ。ショックなのは向こうだ。悲しいのは向こ
 うだ」

 まだよくわかってないみたいな顔をする少女。

 わたしはため息をつき、彼女の顔の横に勢いよく手をついた。

「わからないなら教えてあげる。ロザリオはね、人と人を繋ぐ絆の具現なんだよ。それをくだらない
 理由で返すってことは、あなたにとってそれだけの理由で返すほど軽い絆ということになるんだよ」

 少女の目が、大きく見開かれた。

 そんなことだと思っていなかったのだろう。

「それに気づけ、そして、周りもそれに気づいて助言しなければいけないんだ。それが友達だろう?
 理不尽なことをした人を慰めるのは、友達っていわないんだよ」

 チラリと周りにもいる少女達へと目を向ける。

「わかった?」

 涙ぐみ、頷く少女。

 それから少女の横に置いた手をどかし、少女の背中を出入り口に向けて押した。

「なら、謝ってきな。今君がやることは、泣くことじゃないだろう?ちゃんと本当のことをいって、
 許してもらうことだ。そんで、また絆をとりもどしてきな」

 微笑み、背中を押す。

「・・・・・ありがとう、巳星さん。それと、ごめんなさい」

「良いから。行きなって」

「うん!」

 少女は笑顔で頷くと、教室を出ていった。

「ふう」

 わたしは息を吐き、藤堂志摩子達の元へと戻る。

「・・・・・何、その顔?」

 こちらを唖然とした様子で見ていた藤堂志摩子達。

 そんな彼女たちの様子に、わたしは眉を寄せ問う。

 すると、ハッとしたような顔をした。

「み、巳星さん、凄いね」

「は?何が?」

―――パシャ!

「ん?」

 何か音が聞こえ、わたしはそちらへと顔を向ける。

 すると、武嶋蔦子がカメラを構えていた。

 今の音は、写真を撮った音か。

「武嶋蔦子、まさか今の撮ってた?」

「バッチリね」

 カメラを放し、笑う武嶋蔦子。

「ま、別に良いけど」

「巳星さん、格好良かったわよ」

「格好いい?」

 笑顔で言ってきた武嶋蔦子を、眉を寄せながら見た。

―――パシャ!

 真正面から撮られたし。

「・・・・・撮るの、本当に好きだね」

「ええ、生き甲斐だもの」

「そりゃ良かったね」

 苦笑しつつ言うと、

―――パシャ!

 またしても撮られた。

「・・・・・1人の人間、そんなに撮るもんなの?」

「良い表情なら、何度でも」

 ああ、そうですか。

 思わず呆れた表情をしてしまう。

―――パシャ!

「いや、撮りすぎだから。さすがに」

 さすがに制止しちゃうよ。

 一気に4枚はちょっと。

 それも、さっきのところも撮られてたらしいし。

「それにしても、巳星さんはロザリオの意味を知っているの?」

「ああ、絆の具現?」

 志摩子の問いに答えると、志摩子は頷く。

 何故か、福沢祐巳も武嶋蔦子もわたしを見ている。

 見過ぎじゃない?

「考えればわかることでしょうが。本来、あまり繋がりのない上級生と下級生。それを繋ぐのがロザ
 リオ。姉妹(スール)となることで、お互いは繋がる。それは、友達と同じくらい、いや、それ以
 上。そのつながりは『絆』って言うんだ。なら、それをわかりやすく具現したものが『ロザリオ』と
 なる」

 机に寄りかかり、わたしは続けた。

「『ロザリオ』は同級生では渡したり受け取ったりできないのは、同級生となら絆を深めることがで
 きるから。でも、上級生と下級生ではいくら部活が同じだとしても、遠慮してしまって深い絆を紡ぐ
 ことは難しい。だから、『ロザリオ』という絆の具現を使って上級生と下級生のつながりを深める」

 まあ、わたしの想像なんだけどね。

 でも、結構良いところいってると思うよ?

「それが姉妹(スール)制度じゃない?・・・・・・それにね、憧れている人の真似なんて、する必要はな
 いんだよ」

「え?なんで?」

 福沢祐巳が不思議そうに首を傾げた。

「十人十色。その言葉通り、人はそれぞれ違うんだ。その人達にはその人達の姉妹(スール)のあり
 方が存在する。それは、誰にも真似のできないことなんだ」

 微笑み、福沢祐巳の頭を撫でる。

「自分たちだけの姉妹(スール)関係。それは、人には真似のできない素敵なことなんだ。それって
 、誇れることでしょ?」

―――パシャ!

 カメラの音は無視して、わたしは少女の周りにいた少女達へと目を向ける。

「誰にも真似のできない、最良の関係は、誇れることなんだ。だから、人の真似をする必要なんてな
 いんだよ。だって、姉妹(スール)であるというだけで、それは素敵なことだから」

 ね?

 顔を真っ赤にしている少女達に微笑みかけ、わたしは藤堂志摩子達へと顔をうつした。

 そこでチャイムが鳴る。

「あ、もう行くわ」

「え、ええ。・・・・・・・・・・やっぱり、巳星さんはマリア様だわ」

「なんか言った?」

 藤堂志摩子が何か呟いたような声が聞こえ問いかけるが、藤堂志摩子は微笑んで首を横に振るだけ。

「そ?じゃ、薔薇の館でね」

 藤堂志摩子達に挨拶をして、わたしは教室を出ていった。

―――パシャ!

 何故か、背中まで撮られた。

 ・・・・・・武嶋蔦子って、よくわからない。







「ねえ、巳星ちゃん、知ってる?」

「何が?」

 キラキラお目々の鳥居江利子へと目を向ける。

 にしても、やっぱりこの時期はまだ、鳥居江利子の親不知は無事なんだね〜。

 あの『妊娠事件』同時に起こるかと思ってたけど。

 そうではなかったか。

「黄薔薇革命でロザリオを返した妹たちが、みんな姉に謝ってもう一度ロザリオの伝授を申し込んで
 るんですって」

 は?

 早くない?

「もう?」

「やっぱり知らなかったのね」

「っていうか、つるりんとトップが既にその情報を持ってることにも驚きなんだけど」

 微笑む水野蓉子にそういうと、2人は微笑み顔を見合わせた。

「なにさ?」

「いえ、巳星ちゃんらしいな、と思ってね」

「そうそう。自分が、どれだけみんなに影響を与えてるかなんてわかってないんだもの」

 可笑しそうな水野蓉子と鳥居江利子。

「意味がわかんないんだけど」

「「巳星ちゃんはそれで良いのよ」」

 ・・・・それって、褒められているんだろうか?

 首を傾げていると、更に笑われた。

「巳星ちゃんって、他人に対しては鋭いけど、自分に関してのことはとことん鈍いわよね」

 楽しそうな、でもどこか嬉しそうにいうのは鳥居江利子。

「?そうかな?」

「「そうよ」」

 またハモられたし。

「ごきげんよう!巳星ちゃん!」

「ええい!入ってきたと同時に抱きつくな!」

「良いじゃん、別に〜」

 はぁ・・・・・。

「銀マニ、教室ぶり」

「ええ、ごきげんよう」

 クスクスと笑いながら、藤堂志摩子は指定席であるわたしの隣に鞄をおいた。

「あ、お茶煎れるの手伝うよ」

 どうせ、この抱きつき魔は何をしても放れないんだし。

「ありがとう」

 微笑む藤堂志摩子に肩をすくめて返し、流し台の方へ。

「「「ごきげんよう」」」

 流しの方へ行きやかんをコンロにかけたところで、支倉令、福沢祐巳、小笠原祥子もやってきた。

「あら、随分とスッキリした顔してるわね。令」

「はい!巳星ちゃんのお陰です!」

「は?わたし何かしたっけ?」

 笑顔で変なことを言ってきた支倉令に、わたしは思わずそう返す。

 なんでわたし?

 福沢祐巳は?

「だって、怒ってくれたでしょう?」

「まあ、怒ったけどさ」

 マジで福沢祐巳は?

 もしかして、あのままわたしが福沢祐巳の出番とっちゃった?

 ・・・・・ごめん、福沢祐巳。

 悪いことをした。

「やっぱり、巳星ちゃんは自分に関係することには疎いわね」

 クスクスと笑う鳥居江利子。

 無性に腹立つわ、あんたのその笑い。

 っていうか、全員頷くなよ!

「ですが、それが巳星さんなんですよね」

「・・・・・・・トップとつるりんにもいわれたさ」

 ため息をつきいった。

 だから、強く頷くなっつぅの!!

       





   あとがき

 久しぶりのup。
 ここまで読んでくださって感謝します。
 かなり駄文にもかかわらず。
 実をいってしまいますと、本当は夢小説用の話なんですよね。
 色々問題があって、オリジナルとさせていただきましたが。      





 

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