【よっすぃ復活】

	  






「お帰り、よっすぃ」

 ようやっと島津由乃が帰ってきた。

「ただいま、巳星さん」

 手術、もとい改造をされて戻ってきた島津由乃は、とても嬉しそうだ。

「そうそう、昨日聞いたわよ」

「何を?」

「令ちゃんから」

 支倉令から?

 首を傾げていると、ふふ。と笑われた。

 なにさ?

「気落ちしてた令ちゃんを、怒ってくれたんでしょう?」

「ああ。でも、大したこと言ってないよ。あまりのヘタレさ加減に、一喝しただけだから」

 ぶっちゃけ、福沢祐巳が何かいうと思ってたから、本当に大したことを言ってない。

「その一喝が、令ちゃんは効いたって言ってたわよ」

「それだけで効いたって事は、ヘタ令も思うことがあったからでしょ?じゃなきゃ、あれだけのこと
 で効くはずないもん」

 実際、話したのは2分にも満たないと思うし。

「ふふ。巳星さんって、本当に自分に関しては疎いのね」

 ・・・・・・最近、その言葉やけに言われるんですけど。

「疎いか?」

「ええ、凄く」

 うわ〜。

 凄くとか言われたし!

「君達って、よくわからない」

「そう?」

「うん」

 仕返しに、強く頷いておいた。

 でも、それも笑って返されてしまう。

「で?ロザリオは貰えたの?」

 驚き、わたしを凝視する島津由乃。

「何?」

「・・・・・巳星さんって、本当にわたしのやることがわかるのね」

「友達ですから」

 肩をすくめると、島津由乃は微笑みながら少し襟をめくる。

 そこには鎖が見える。

「良かったね。ま、ヘタ令のことだから渡すとは思ってたけど」

「そうなの?わたしはちょっとドキドキしたわ」

「そりゃあ、ドキドキするでしょうね。でも、はたから見ると確信持てるよ。入学してから、ずっと
 一緒にいるんだから予想済み」

 笑って言うと、島津由乃も嬉しそうに笑った。

「巳星さんって、わたしよりも令ちゃんのことわかるのね。令ちゃんも、自分以上に巳星さんがわた
 しを見てる、って言ってたわよ」

 違うよ。

「違うよ、島津由乃」

「え?」

 微かに目を見張り、わたしを見る島津由乃に笑いかける。

「わたしは、外から見てるからわかるんだ。君達は、近すぎるがために、相手のことを想いすぎるが
 ために、わからない」

 近すぎるからわからないって事、沢山あるんだ。

「どういう事?」

 首を傾げる島津由乃に、わたしは苦笑してしまう。

 それから、島津由乃に顔を近づける。

 それはもう、お互いの息が届くくらいまで。

「み、巳星さんっ?」

 驚いたように顔をどける島津由乃に微笑む。

「よっすぃとヘタ令の位置は、これくらい近いんだ」

「え?」

 だから〜。

「これくらい近いと、見える範囲は狭い。でも、その分見える位置は深くまでわかることができる。
 でも、反対に近い分、見えない位置のことはわかりづらい」

 それから、わたしは島津由乃の体全体が見える位置。

 さっきまでわたしがいた位置へと顔を戻した。

「これくらいが、わたしのいる位置。この位置は、近くはないけど、全体を視野に入れることができる」

 驚いたようにわたしを見ている島津由乃に、笑みを深める。

「ヘタ令ほど深くは見えない。でも、その分全体をみることができるから、ヘタ令よりも気づくこと
 もあるんだ」

 ようするに、そういうことだ。

「視野も、人間関係も、同じ事が言えるでしょ?そういうこと」

「・・・・・・巳星さんって、やっぱり凄い」

 最近、それもよく言われるな〜。

「自分では、凄いとか思わないんだけどね」

 肩をすくめると、島津由乃は口に手をあてて笑う。

「そこも、巳星さんの凄いところよ」

「ああ、そうですか」






「どう?これ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 口が引きつっているのがわかる。

「凄いじゃない!蔦子さん!」

 島津由乃はわたしの反応など無視して、武嶋蔦子の持ってきたモノを凝視している。

 その持ってきたモノ、とは、

「・・・・・・・・・破り捨ててしまえ」

 写真だ。

 それも、この間、藤堂志摩子達のクラスでの出来事を撮ったやつ。

「そんな勿体ないことできるわけないでしょ?」

 などと、意味不明なことを言う笑顔の武嶋蔦子。

「何がどう勿体ないんだか」

 わたしは思いため息をついた。

「これ、喧嘩?」

 驚いた表情でわたしに見せてきたのは、ちょうどあの少女の顔に勢いよく手をついた時の場面。

 確かに、それだけを見れば喧嘩しているように、もとい、わたしが少女を脅しているように見える。

「違うのよ。それはね、巳星さんがその少女を諭している場面」

「諭す?」

 首を傾げる島津由乃。

「そう。その子ね、あなたの真似をしてお姉さまにロザリオを返しちゃったのよ。それを聞いた巳星
 さんが怒って、その少女を叱ってる場面なの」

 それを聞き、更に驚く島津由乃。

「わたしの真似?」

「ええ。その子だけじゃなくて、他にもいっぱいいたんだけどね。丁度、巳星さんがわたし達のクラ
 スに遊びに来た時、その子がロザリオを返した日だったの」

 とりあえず、わたしは笑顔で写真を島津由乃に見せている、武嶋蔦子の持った写真を奪い取った。

「ああ!」

「で、これがどうしたの?」

「ただ、本人に見せに来たのよ」

 武嶋蔦子は、わたしから写真を奪い取る。

「ついでに、これも凄いわよ」

 そういい、懐から幾枚かの写真をとりだした。

「ッ!!」

 島津由乃はその写真を急に食い入るように見始めた。

「?」

 それが気になり、わたしはその写真を島津由乃の横から覗き込む。

 だが、それはわたしが笑っているだけの写真。

「?これがどう凄いわけ?」

 武嶋蔦子に聞くと、何故か島津由乃と一緒になって驚いた顔で見られた。

「なに?」

 思わず顔を後退させる。

「巳星さん、まさか無自覚?」

「何が?」

「無自覚なのね」

 ため息をつかれた。

 なにさ!

「あのね、巳星さん。あなたは常に無表情なの」

「で?」

「そのあなたが微笑んでいる場面は、それはそれは貴重なのよ!」

 いや、そんな力説されても。

 第一。

「それのどこが貴重なわけ?唯我独尊トリオが常に無表情で、時たま微笑む表情が貴重だって言うな
 らわかるけど。わたしくらいの顔、そこら辺にいるじゃん」

 それのどこかが貴重になるわけ?

 って、そこまで驚くことか?

 それも、2人して。

「・・・・・巳星さん、あなたとことん無自覚ね」

 そんなため息混じりに言わないでほしいね。

「まさか、ここまでとは・・・・・」

 君までか、島津由乃。

「意味わかんないし」

 すると、2人同時にため息をつきやがった。

「良い?あなたは、そのお三方と同じくらいに綺麗な顔をしているの。そのあなたの微笑みが、貴重
 でなければ何が貴重になるわけ?」

「いや、わたし綺麗じゃないし」

 とりあえず、突っ込んでおく。

 またしてもため息をつく2人。

 いや、ため息つき過ぎじゃない?

「無理よ、蔦子さん。今までも、わたし達が何度かそれを言ったけど、巳星さんはとことん疎いの」

「酷い言いようだね」

「「本当のことでしょう?」」

 は、ハモらないでよ。

「ところで蔦子さん、この写真って貰えるの?」

「はぁ?」

 島津由乃の言葉に、わたしは驚き島津由乃を見る。

「ええ。本当はお金を取るけど、退院祝いをかねてあげるわ」

 何か人を無視してるよ!

 っていうか!

 武嶋蔦子、色々と聞き捨てならない言葉が聞こえたんですけど!!

 あれですか!

 ネットで言われてた、影で山百合会の人達の写真を売って収入を得ていたって本当なんですか!?

 っていうかまず!

「わたしの写真も売るの!?」

「もちろん。っていうか、売り上げナンバー1は、今のところ巳星さんよ」

「・・・・・・・・・・・・はぁ!?」

 何言ってるんすか!?

 この人!!

「確かに納得できるわね。今度写真を見せてくれる?買いたいから」

「なんであんたが買うんだ!」

「欲しいからよ。他に理由がある?」

 そ、そりゃあそうだけど・・・・・・。

「・・・・この学校の人達って、意味わかんない」

「「巳星さんだけよ」」

 またハモられた・・・・・。





「そうそう由乃」

 何がそうそうだ、支倉令。

「なんですか?」

「わたしを怒った時、巳星ちゃん、一回だけ由乃のこと『由乃』って呼んだんだよ」

 ・・・・・・それを、笑顔で言う必要は?

「本当!?」

 わたしが支倉令の行動に首を傾げていると、島津由乃が叫んできた。

「は?」

「だから、名前を呼んでくれたこと!」

「いつも呼んでんじゃん」

 最近はあだ名だけど。

「違くて!『由乃』って言ってくれたの!?」

「え、うん。それって、そんなに叫ぶこと?」

 あ、そっか。

 この学校では、同級生には『さん』付けが主流なんだっけ。

 でも、今更『さん』付けもな〜。

「叫ぶことよ!・・・・・そうなんだ、巳星さん、わたしのこと『由乃』って呼んでくれたんだ・・・・」

 え?

 そこまで嬉しそうにいうことですか?

 っていうか、『さん』付けじゃないから怒ってたのかと思ったら違うの?

 わたしが首を傾げていると、

「巳星さん」

 藤堂志摩子に呼ばれた。

「なに?」

 そちらを向くと真剣な顔。

「?」

「わたしのことも、名前で呼んでください」

「?志摩子?」

 とりあえず、呼べといわれたので呼んでみた。

「はい」

 途端に嬉しそうに微笑む藤堂志摩子。

 なんだ、一体?

 1人首を傾げていると今度は、

「「「巳星ちゃん!!」」」

 唯我独尊トリオに呼ばれた。

「何?」

「「「私(わたし)達も名前で呼んで!」」」

「は?・・・まあ、別に良いけど」

 ちらりと小笠原祥子を見る。

 ちょっとこめかみがピクピクしているが、何を言うでもないようだ。

 なら、言っても良いだろう。

「蓉子、江利子、聖」

 すると、前の2人のように嬉しそうに微笑む3人。

 なんなんだ?

 いや、マジで。

「巳星ちゃん、わたしもわたしも!」

「・・・・令」

 とても嬉しそうにいう支倉令に、わたしは苦笑しながら名前を呼んだ。

 支倉令も、嬉しそうに笑う。

 その顔は、本当に純心乙女に見える。

 まあ、他は呼んでほしいと思う人はいないだろう。

 なんせ、上下関係にはちょっと厳しい(かもしれない)小笠原祥子と、それほど仲良くない福沢祐
 巳。

 この2人は、人に『呼び捨てして』と言わないだろうし。

 が、

「・・・・・巳星ちゃん、私も呼んでくれるかしら?」

「わ、わたしもっ」

 わたしの予想に反して、2人はそんなことを言ってきた。

 おかしいな?
 
 特に、小笠原祥子はいわないと思っていたのだが。

「祥子に祐巳」

 ちょっと首を傾げつつ言うと、小笠原祥子の表情が微かに嬉しそうに緩んだ。

 福沢祐巳は、嬉しさ満点。

 わたしはそれに更に首を捻った。

「意味がわからん」

 わたしに名を呼んでもらって、何故そんなに嬉しそうなのさ?

 やっぱり、山百合会は不思議がいっぱいだね。



          

 

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