【何かがおかしい!!】





「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 急に挨拶をされたが、とりあえず返す。

「ごきげんよう、巳星さん」

「ごきげよう」

 何故、この人はわたしの名前を知っているのだろ?

 あれか?

 山百合会の威力?

 っていうか、一般生徒から段々遠のいてませんか?

「ごきげんよう、巳星さま」

「ごきげんよう」

 ・・・・・・・・・?

 さま?

 振り返るが、誰が今奇怪な挨拶をした少女かはわからない。

 今、何が起こりました?

 さまってなんですか?さまって。

 とりあえず、わたしは島津由乃のいるであろう教室へと急いだ。

 よかった、いた!

「島津由乃!」

「あら、どうしたの?巳星さん」

「何でかわからないけど、めちゃめちゃ挨拶された」

「ああ」

 微笑む島津由乃。

 なんですか?その笑み。

「巳星さん、自分がなんて言われているか知ってる?」

「わたしが?」

 眉を寄せ、島津由乃を見る。

「知らないのね。そんなことだろうと思っていたけれど」

 クスクスと笑う島津由乃。

 なんだ、一体。

「よっすぃ、隠し立てはよくない。吐いておしまい」

「ふふ。巳星さん、今、みんなから『青薔薇さま』って言われてるのよ」

「ろさ・おんでぃーな・・・・・・?」

「そう」

 ・・・・・・・・・・・・は?

「うん、もうちょっとちゃんと教えて。できれば詳しく」

「あのね、巳星さん薔薇の館に出入りしてるでしょう?」

 出入りさせられてるとも言うけどね。

「それで、結構巳星さんの信者が増えてるみたいなの」

「信者?」

 なんだ?それは・・・・・。

「あなたを、薔薇さま方の中に加えようっていう運動があるの」

「・・・・・なんで?」

「容姿良い、運動できる、性格良い。この3つが揃ってて、あなたを見逃す人がいると思う?」

 いや。

 そんなこと問われても。

 っていうか、

「容姿が良いって、どの辺りが?」

「そういうところもポイント高いのよ」

 ポイントとか言われても!

「それに、巳星さんにピッタリじゃない?」

「なんでさ?」

 眉をよせて島津由乃を見る。

「青薔薇って、作るのが凄く難しい色なの。だから、今回みたいに生徒たちからの申し出で薔薇さまに推薦
 されるなんて凄く珍しいことじゃない?」

「だから、わたしにピッタリだって?」

「ええ」

 うわ、満面の笑みなんですけど。

 じゃなくて!

「誰が言い始めたのさ!」

「さあ?気がついたら噂が広まっていたんだもの」

「・・・・・・・この学校って、恐いところだね」

「そうかしら?良いところだと思うわ」

 似非笑顔で微笑む島津由乃。

 それを見ていると、むしろこの人があることないこと広めたんじゃないかと思えてくるね。

「まあ、とりあえず」

「とりあえず?」

「様子を見よう v 」

 絶対今この人、どうでも良い。とか思ったって!

 ってまだ、疑問解決してないのに!!

 ああ!

 そのあからさまに、話はおしまい。みたいに前を向くのはどうなんですか!?

「巳星さん、さっきから口にでてるわよ」

「おおっと、これは失礼」

 とりあえず、口を押さえておく。

「あ、それと」

「なに?」

「明日からわたし、学校に来られないから」

「・・・・・・ああ、手術?」

 福沢祐巳が来たんだから、手術が早まっても問題はあるまい。

「な、なんでわかったの?」

 こちらを勢いよく振り返った島津由乃。
 
 ちょっとわたし、ビックリしちゃったじゃん。

 もう少し、静かに振り返ってよ。

 恐いから。

「だって、よっすぃ。今のままじゃいけないって、思い始めてるんでしょ?」

 そういうと、島津由乃はかなり大きく目を見開いてわたしをみた。

「よっすぃみてればわかるよ。最近、妙に真剣な表情で悩んでること多いからね」

 あれだよね。

 小説とか読んでて少しは予備知識あるけど、意外と何もなくてもわかるもんだよね。

「・・・・・巳星さん、あなた本当に凄い人だわ」

「そう?普通だよ」

 むしろ、支倉令が気づかない方がおかしいんじゃない?

 あんなに島津由乃のことみてるのに。

 あれかな?

 恋は盲目ってやつ?

 ・・・・・違うか。

「あなたが普通だったら、周りの人全員がよほど鈍いってことになるわよ」

「そこまで言いますか?」

「断言できるわね」

 うわ、断言までされちゃったんだけど。

「でも、ま。早く帰ってこられると良いね」

「・・・・ええ」

 嬉しそうに微笑む島津由乃に、わたしも微笑んで返した。





「そうそう、聞いてよ凸りん」

「・・・・・・・・なあに?」

 あ、返事した。

 軽く抵抗見せつつ。

「って、そうじゃなくてね」

「何も言ってないわよ」

「ああ、ごめん。こっちのこと」

「それで、どうしたの?巳星ちゃん」

 水野蓉子に言われ、頷く。

「あのさ、わたしが青薔薇さま。とかって言われてるのは何故?」

「ああ、そのことね」

 あ、似非だ似非。

 似非笑顔だ。

「というか、今更ね」

「え?ずいぶん前から言われてたの?」

 水野蓉子の言葉に、わたしは驚く。

 そうなら、なんで言ってくれなかったのさ!

 ああ、でもこの人達なら、『面白いから』とか言われてお終いか。

 ・・・・・・・簡単に想像できるほど、わたしは彼女たちと一緒にいるわけね。

「そうよ。一ヶ月くらい前から」

「そんなにですか!?」

 せめて一週間前くらいが良かった!

「ええ。それくらいよ。ね、江利子?」

「そうね。大体、それくらいの時に私達があなたの素晴らしさをみんなに話してあげたから」

「お前らが根元か!」

 そういうと、2人は鮮やかに微笑むだけ。

 ムカツク〜〜〜!

「なんでそんなことしやがったんですか!」

「「面白いから」」

 ・・・・・・・泣いても良いですか?

 この根元ども、反省の色なしだよ!

 むしろ、こやつらは『どこがいけないの?』とか言うタイプだよ!!

 なんでわたし、ここにいるわけ?

 わたし絶対運、修行で使い果たしたよ・・・・・。

 だから、こんなに不幸なんだ。

「あんたら最低だぁ・・・・・・」

 凸が目にしみやがるぜ(涙)。

 ちくしょう。

 楽しそうに笑ってやがる・・・・。

 マジで、この学校辞めようかな・・・・・。

「ごきげんよう。聞いたよ、青薔薇さま」

 入ってきて早速それか、佐藤聖。

「根元はこの2人だって」

「やっぱりね。そんなことだろうと思った」
 
 楽しそうに言わないで。

 こっちは涙に溺れてしまいそうだというのに。

「ごきげんよう。嫌なの?」

 お、ちゃんと普通に話してくれたね、藤堂志摩子。

「嫌なの」

「ごきげんよう。なんで?」

 お、福沢祐巳も一緒か。

「そんな称号いらないし」

 第一、そんな称号もらったら、一般生徒から更に遠く・・・・・・・・って!!

「まさか、わたしがもう一般生徒って言えないように手回ししたの!?」

「「ご名答 v 」」

 ご名答。
 
 じゃないから!!

「だって、巳星ちゃん。一般生徒に執着するんだもの」

「一般生徒じゃないって言うのに、あきらめが悪いあなたがいけないのよ」

「ええい!コロコロ笑うでない!」

 水野蓉子に鳥居江利子。

 この2人はかなり唯我独尊だぞ!

「あはは。これで巳星ちゃんも、はれて薔薇の館の住人だね」

「だね。じゃない!」

 佐藤聖も佐藤聖でやっぱり、唯我独尊型だ!

「・・・・・巳星さん。わたし達と一緒は嫌?」

「勘違いしないで、銀マニ。君達と一緒にいるのが嫌なら、わたしはこの学校辞めてるから」

「じゃあ、なんで?」

 首を傾げる福沢祐巳に、わたしは力説した。

「せめて高校生活くらいは、普通に過ごしたいから!!」

 今までが今までだけに。

 小説の中に入ったのが普通?とかっていうツッコミは無しで。

「「「今更」」」

 唯我独尊トリオに、笑いながら言われた。

 ため息をついて、わたしの幸せは逃げていくんだね。




「体調はどう?」

 放課後、わたしは薔薇の館には行かずに島津由乃の入院している病室にやってきた。

「あ、巳星さん。ごきげんよう」

「ごきげんよ〜」

 島津由乃の寝ているベッドの横にあるイスに座る。

「どうだった?今日の学校は」

「一段と多く、挨拶された。それも、何人かが『青薔薇さま』って呼んできた」

 ため息をついて言うと、島津由乃は楽しそうに笑った。

「笑い事じゃないよ、よっすぃ」

「ため息つくと、もっと不幸になるわよ」

「それは遠慮したいね」

 わたしはため息をつきそうになり、口を押さえる。

 ところで、

「ロザリオ、返したんだって?」

「ええ。どうだった?」

「凄い騒ぎになってたよ。ヘタ令は、かなりヘタレてた」

「やっぱりね」

 楽しそうに笑う島津由乃は、スッキリしているようだ。

 そんな島津由乃を見ていると、急に気まずそうな表情になった。

「どうした?」

「・・・・・バカなことしてって、思わないの?」

「なんで?」

 島津由乃は思ってるの?

「だって、ロザリオを返すだなんて・・・・・」

「それは、よっすぃが自分で決めたことでしょ?」

「ええ、もちろん」

 強く頷く島津由乃に、わたしは笑って返した。

「なら、わたしが言うことはないよ。よっすぃは、自分で考えて、自分で良いと思ったことをやったんだか
 ら」

 でしょ?

「うん。わたしが良いと思ったことをしたわ」

「なら、問題なしだよ」

 それに、最終的に丸く収まるんだし。

 第一、島津由乃と支倉令が離れるなんて、天変地異が起こっても有り得ないことだからね。

「・・・・・良かった」

「ん?」

 島津由乃は嬉しそうに笑う。

 何が良かったの?

「巳星さんに、呆れられるか、怒られるかするかと思ってたから」

「バカだな。そんなことするわけないでしょ?」

 それに。

 そう続けた。

「島津由乃の性格、わたし知ってるんでしょ?だったら、こんなことするのは予想内だって思ってる、
 くらい思っていてもらわないと」

「予想内だったの?」

「うん。もう少し遅い時期にすると思ってたけどね」

 例えば、文化祭が終わった後とかさ。

 まさか、文化祭が始まる3ヶ月前だとは思ってもいなかったよ。

「・・・・・巳星さんには、敵わないな」

 彼女のその言葉に笑う。

「そう?」

「うん。絶対に敵わない」

 そういう島津由乃は、とても嬉しそうに笑っていた。



「あらら」

 温室にいるヘタ令を発見。

 ドアを叩く。

「どうした?」

「あ、巳星ちゃん」

 笑う顔には力がない。

 ああ、かなりヘタレ度が増してるね。

「まったく」

 わたしはため息をつき、支倉令へと近づく。

「巳星ちゃん?」

 不思議そうにわたしをみる支倉令の両頬を、いい音を立てて挟んでやった。

「ッ!?」

 目を見開き驚く支倉令の顔を挟んだまま、わたしは自分の方へと寄せた。

「あんた、島津由乃の何をみてきた?」

「え・・・?」

「あんたは、今までずっと一緒にいたんでしょ?それで、何をみてきたの?」

 驚いた顔のままわたしを見てくる。

「島津由乃は、イケイケ青信号だ。わたしはそういったね?それに、支倉令も同意した」

「う、うん」

「そんな子が、あんたの行動を不快に思うのは当然でしょうが」

「不快って・・・・どこがっ?」

 おいおい。

 それさえもわからないのか!

「支倉令、君の過保護な行動だよ」

「過、保護・・・・?」

「そう。心臓病だから、必要以上に面倒を見てしまうのは仕方がない。でも、支倉令の行動は、それ以上
 なんだ」

 君達はいつも一緒にいたんだろう!

 ・・・・・いや、違うな。

 いつも一緒にいたから、気づかないんだね。

「島津由乃は、それじゃあいけないって思ってる。君が過保護になるのも、自分が君に頼ってしまうのも。
 全てが、このままじゃいけないって思ってるんだよ」

 だから、

「だから、あの子は『心臓を手術する』っていう恐いことに向かっていくことで、変えようとしてる」

 どれほど恐いだろう。

 それは、わたし達にはわからない。

 島津由乃にしか、わからない。

 でも、一番近くにいた支倉令。

 君が一番わかってやれることなんだ。

「それなのに、あんたは今ヘタレてる。由乃が頑張ってるのに、あんたはそれで良いのか?ドヘタレ」

「ドヘタレって・・・・」

 やっと、いつもの困ったような笑顔に戻ってきたね。

 最後に、わたしは支倉令の顔から両手を放し、心臓辺りを軽く拳をつくり、ドン、と軽くあてる。

「あの子が戦ってるなら、支倉令、あんたのすることはなんだ?心配すること?オロオロすること?違う
 でしょ?」

 わたしがそういうと、支倉令は強い表情で微笑んで頷いた。

「良し」

 わたしは微笑み、支倉令から放れ温室を出ていく。

 後は、ちらりと見えたツインテールがどうにかするでしょ。

          

 

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