【普通だってば!!】









 「・・・・・ふと思ったんだけどさ」

 薔薇の館で、わたしはふと呟いた。

「みんな妹できたんだから、わたしっていらなくない?」

 というか、いらないと言ってほしいな。なんて。

「「「いる」」」

 即答してくれたのは唯我独尊トリオ。

「ああ、そうですか」

 そういわれると思ったさ。

 そう簡単に放す人達なら、わたしはもう既に此処にはいないよね。

 涙を拭う(ふり)。

「でも、どうしたの?急に」

 島津由乃が眉を下げて問いかけてきた。

「っていうか、祥子の妹はまだいないんだけどね」

 控えめなツッコミが入る。

 まあ、ヘタレだし、仕方ないよね。

「あれですよ。わたしもそろそろ、一般生徒の道を歩みたいな〜と」

 っていうか、なんかわびしいんですよ。

 藤堂志摩子と福沢祐巳、小笠原祥子を抜かしたメンバーの基準は『面白さ』。

 と言うことはですよ?おやっさん。

 わたしは彼女たちから面白さで気に入られた一般人。

 嬉しくないでしょ?

「諦めなさいよ、いい加減」

 水野蓉子が呆れたような表情で言ってきた。

「諦められるか!」

「ムリムリ。第一、一般生徒がどうして修行する必要があるの?」

「うわ〜!痛いところ突いてきたね、つるりん!」

 そういうと、勝ち誇ったような表情をされた。

 うわ〜、むかっ腹。

「「修行!?」」

 藤堂志摩子と福沢祐巳が驚いたようにわたしを見る。

 ああ、言ってないんだっけ?

「これを聞いたら、2人ともきっと巳星ちゃんのこと一般生徒とは絶対に思えないわよ」

「そうそう。修行って言われて、一ヶ月孤島で生活させられたり」

「冬山で一ヶ月修行させられたり」

「岩山で、一ヶ月ロッククライミングさせられたり」

 鳥居江利子、佐藤聖、水野蓉子、島津由乃の順でわたしの過去を暴露していく。

 といっても、彼女たちに話したのはわたしなんですがね。

「「・・・・・・・・・・・・・」」

「そんな目でわたしを見ないで!!」

 わたしは2人の視線の前に手をかざし、隠す。

「ね?一般生徒とはほど遠いでしょ?」
 
「なにしたり顔で言ってるのさ!このヘタ令!」

 最近のヘタ令は、何故か強気です。

「「ヘタ令??」」

「ああ、これのこと」

「これって言わないで・・・・・」

 藤堂志摩子と福沢祐巳が疑問を飛ばしてきたので、わたしは支倉令を指さす。

 支倉令は、ヘタ令らしくヘタレた。

「ヘタレで、名前が令だから、ヘタ令。よしのんには了承済み」

「ええ。面白いもの」

 やっぱり基準は『面白さ』なんですね。

「あ、ついでに藤堂志摩子。家のことは佐藤聖に言ってあるから」

「・・・・はい、お姉さまから聞きました」

 困ったように微笑む藤堂志摩子。

「っていうか、この人達にも言っちゃって良いと思うけどね」

「なぜですか?」

「だって、この人達面白ければオッケーだもん。藤堂志摩子の実家のこと言ったら、きっと面白いわね。
 っていうよ」

 凸が。

「・・・・・そうでしょうか?」

「勇気もちやがれ」

 似非笑顔で言うと、頭をはたかれた。

 はたいたのは何故か小笠原祥子。

「なんでしょう?」

 とりあえず眉を見て言うと、眉がピクリと動いた。

 ほら!

 やっぱり生きてるよ!この人の眉!

「そんな言い方では、言えるものも言えなくってよ」

 うわ!

 眉がピクピクってした!

「・・・・・・・・・・・・・・・勇気をお持ちになって」

 とりあえず、『眉(小笠原祥子)』を真似してみた。

「・・・・それは、誰の真似かしら?」

「敬称に『紅』と『つぼみ』がつく人ですわ」

 ちょっと面白いので、眉を見ながら言ってみる。

「・・・・・・・私かしら?」

「それ以外に、今現在『紅』と『つぼみ』がつく人って他にいないんじゃござーせん?」

 ちょっと似非セレブを気取ってみる。

「・・・・・・喧嘩うってるの?」

「まさか!『紅』薔薇の『つぼみ』に勝てるはずがないじゃありませんか!」

 とりあえず、強調してみた。

 もちろん、視線は眉。

「あなたね!!」

「あははははははははっっ!!」

 急に佐藤聖の笑い声が乱入してきた。

 そちらを見ると、佐藤聖以外にも口に手をあてて笑ってる者たち。

 言わなくてもわかると思うが、福沢祐巳以外全員が笑っていた。

「佐藤聖、あんまり笑うと外に響いて『薔薇の館』じゃなくて『笑いの館』って呼ばれるよ」

 そういうと、何故か更に笑いだし、あまつさえ机を叩く佐藤聖。

「だ、だってっ、巳星ちゃん目線ずっと祥子の眉なんだもんっ」

「それは仕方がないじゃん。本当に眉がピクピク動いて、生きているように見えるんだから」

 わたしに非がないことを伝えるが、通じない。

 その時、わたしの携帯が鳴った。

『Hi』

 母の携帯からだ。

 母は英語しか話さないため、もちろん英語ででる。

 だからか、幾人かが驚いたようにわたしを見た。

『あ、巳星?・・・・・・なんか、笑い声が聞こえるんだけど』

 不思議そうな声が受話器から聞こえ、わたしは見えていないだろうけど母に向かって似非笑顔を送る。

『笑い声?わたしは1人だから、聞き間違いじゃない?それか、濃いキャラの幽霊だよ』

 鳥居江利子と水野蓉子の笑い声が増した。

『そうなの』

『そうそう。で、用事は?』

『あのね、此処がどこだかわからなくて』

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

『あのね?わたしは今、学校にいるの。だから、今母さんがどこにいるかなんてわからないの?OK?』

 ああ、誰かが吹き出している。

 っていうか、ブハッてどうよ、ブハッて。

『そうよね〜』

『ソウデスネ。・・・・・近くに交番は?』

『あ、あったわ!』

 あるんかい!

『あるなら先に交番に聞きなよ!わたしに電話かける前にさ!』

 常識でしょう!そういうの!

 なんですか!?

 イギリスでは違うんですか!?

『そんなに怒らないでよ。ママ、耳にタコだわ』

『耳にタコなら、同じこと言わせないでくれませんか?』

 もう、わたし疲れたさ・・・・・。

 なんか、泣きたい。

 泣いて、この悲しさを浄化してしまいたい。

『良いじゃない、別に』

 ああ、頬をふくらます母が見える。

『母さん、頬をふくらましている暇があったら、警察に聞いてね』

『なんでわかったの?』

『あなたの行動は、いつも同じですから』

 沈黙。

『拗ねんなよ!』

『良いもん。今日の巳星の夕食、豆腐だけにしちゃうから』

『・・・・・・・夕食豆腐って、母さんいつも夕食作らないじゃん。っていうか、わたしから教わる立場でしょ?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
 
 またかよ!

『っていうか、周りにどんな建物あるのさ?』

 どうせスーパーが見えるとかでしょ?

『えっとね、リリアン女学園が見えるわ』

『・・・・・・・なんでそんなとこいんの?』

『えっとね、可愛い子猫を追ってたの』

 あんたは幼稚園児か!!

『なんで子猫追ってリリアンまでこられるのさ。電車のるでしょうが・・・・・』

『だって、子猫も電車のってたんだもの』

 不満そうな顔が浮かびます。

『母さん、あなた人の飼い猫追ってきたでしょう?』

『正解 v 』

『・・・・・・・今日の母さんの夕食、豆腐だけね?』

『ええ〜!!』

『ええ〜!じゃないから!普通に来た道通って帰りなさい!!』

『・・・・・わかったわよぅ。巳星の意地悪』

『意地悪違うし』

 もう机に突っ伏したい気分です。

『良いもん!今日は豆腐十丁買っちゃうから!!』

『豆腐十丁もいらないから!!』

『べーっだ!――プツッ』

『ちょっ!』

 ・・・・・・・・・。

「切りやがった、あの女」

 今ならわたし、携帯壊せる・・・・・。

 そして、残ったのは笑っている人達。

 どうやら鳥居江利子と水野蓉子が、わたしの言葉を訳していたようだ。

「み、巳星ちゃんのお母さん、面白い方ねっ」

「ソウデスネ」

 目に涙溜めてまで笑いますか?

 こっちは疲れまくってるのに。

「まったく・・・・・。子猫追ってリリアンまで来るなんて、最近の幼稚園児でもやらないっつぅの」

 ため息をついて携帯をしまった。

 再び吹き出す音が聞こえる。

「あなたですか。『ブハッ』の吹き出し音は」

「だっ、だってっ」

 机を叩くな、うるさいから。

「はぁ・・・・・・。わたしの周りでまともなのって、藤堂志摩子と福沢祐巳くらいだよ」

「ええっ!?」

「なにその驚きは。もしや、君もまともじゃないというの?」

 君が一番まともなはずなんだけどね、小説の中では。

「じゃ、じゃなくてっ、わたしよりもまともな人いっぱいいるよ!」

「・・・・・・・・・(辺りを見渡し)どこに?」

 藤堂志摩子はまともなため除外として、どこにまともな人間がいるんだ?

「ど、どこにって・・・・っ」

「唯我独尊トリオはもちろん除外として、よっすぃは青信号だし、ヘタ令はヘタレだし、小笠原祥子は眉が
 生きてるし。いる?まともな人」

 もう一度聞いてみた。

「私の眉は生きてはいないわよ!!」

 立ち上がる小笠原祥子。

 そうはいってもね。

「・・・・動いてるよ、眉」

 ピクピクって。

 勢いよく自分の眉を押さえる小笠原祥子。

「あ、でも、藤堂志摩子も銀杏マニアだっけ?」

「なっ、なんで知ってるんですかっ?」

「だって、藤堂志摩子の部屋に袋に入った銀杏いっぱいあったし」

 あれを見て、銀杏本当に好きなんだなって、改めて思ったもん。

「あっ・・・・・」

 恥ずかしそうに下を向く藤堂志摩子。

「よし、今度から藤堂志摩子『銀杏マニア』、略して『銀マニ』ね。あだ名」

「ぎ、銀マニ、ですか?」

「そ。よろしく、銀マニ」
 
 微笑んで言うと、藤堂志摩子は固まった。

 そして、顔を真っ赤にしてしまう。

「???どうした?顔真っ赤だよ?」

 首を傾げ、藤堂志摩子を見る。

「・・・・・確かに、綺麗ね」

「なんか言った?」

 小笠原祥子を見る。

「いいえ、なんでもないわ」

「そですか」

 まあ、小笠原祥子がそういうのなら。

「ところで、銀マニの家はなんなの?」

 早速あだ名を使ってくれる水野蓉子。

 そういえば、そんな話をしていたんだっけ?

「あ、うん。お寺」

「みっ、巳星さんっ」

「どうしたの?」

「そ、そんなにさらりとっ」

 そういうけどさ。

「あら、お寺?・・・・面白いわね」

「ポイント高いでしょ?」

「そうね。確かに」

 ほら、面白い物好きの反応はこんなもんなんだよ。

 鳥居江利子は目をキラキラさせてるし。

 佐藤聖は笑ってるし。

 水野蓉子は楽しそうに笑ってるし。

「だから言ったでしょ?この人達の基準って、『面白さ』なんだって」

 拍子抜けしている藤堂志摩子に言う。

「し、志摩子さんのお家って、お寺だったの?」

「あ、ついでにこれが普通の反応ね?」

 福沢祐巳をさして言う。

「ちょっと悔しいわね。令ちゃん!わたし達もお寺に住みましょう!」

「由乃、そんなこと無理だから」

「あら、お寺?風情があって良いわね」

「で、こっちが山百合会にとっての、普通の反応だから」

 島津由乃と支倉令、小笠原祥子の反応を言う。

「・・・・ふふ」

 小さく笑う藤堂志摩子は、嬉しそうだ。

「大したことじゃ、なかったでしょ?君の悩んでること」

 笑っていうと、藤堂志摩子は嬉しそうに微笑み、頷いた。

 そんな彼女の頭を撫でてやる。




「ところで、気になってたんだけどさ」

 藤堂志摩子を見る。

「はい?」

「なんで銀マニ、わたしに対して敬語なの?」

 実は、気になってたんだよね。

 同級生なのに敬語を使ってくる藤堂志摩子を。

「あ、それは・・・・っ」

 何故か言葉に詰まる藤堂志摩子。

 わたしはそんな彼女の反応に首を傾げた。

 と、そんなわたしの肩に手がおかれた。

 見てみると、佐藤聖。

「佐藤聖?」

「巳星ちゃんは、志摩子にとってマリア様みたいなもんなんだよ」

「は?」

 なんで?

「悩んでいた志摩子を、導いてくれたから。だよね?」

「は、はい」

 恥ずかしそうに頷く藤堂志摩子。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ〜っと」

 頬をかく。

「藤堂志摩子、手を出して」

「あ、はい」

 慌てたようにわたしに手を出してくるその手を取って、わたしは自分の胸、正確には心臓だけど、そこに
 手をあてた。

「みっ、巳星さんっ」

「わたしは此処にいるよ」

「え・・・?」

「わたしは、マリア様みたいに君を見守ることなんてできない。静かに微笑んでいるだけなんて、わたしは
 しない。啓示とか、そんな大それたことはできない。前も言ったけど、わたしは聖人君子じゃないんだ。
 1人の、醜い人間」

 胸にあてた手を、今度は自分の頬にあてる。

「躓くことだってある。悲しむことだってある。怒る時だってある。泣くことだってある。わたしは、感情
 を持って、体を持ってここにいる、ただの人間だよ」

 そう、壊れることだって、あるんだ。

「わたしは、君と同じ位置に立っているんだ。君達と、同じ目線でいるんだよ。・・・・・わたしは、普通の
 人間なんだから」

 わたしは、藤堂志摩子の言うような、凄い人間じゃないよ。

「それに、マリア様に人と友達になることはできないでしょ?」

 そういうと、全員が驚いたような顔になった。
 
 けど、すぐに笑った。

 顔が何故か赤いけど、嬉しそうに笑った。

 わたしは、それに笑顔を返した。





          

 

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