【言葉】

	  







「ごきげんよう」

「・・・・朝から元気だね、よっすぃ」

 にこやかな笑顔で挨拶をしてくる島津由乃にそう言うと、島津由乃はなぜか笑みを深めた。

 何?

 何かあったの?この人。

「聞いてくれる?」

「言いたいんでしょ?」

「まあね」

 嬉しそうに、島津由乃は小声で言った。

「昨日、巳星さんが来なかった時、福沢祐巳っていう子が薔薇の館にやってきたのよ」

 ・・・・・・・・・・・は?

「ちょい待ち、島津由乃。もう一度言ってくれない?」

 その上、出来れば詳しく。

「まず、一番初めは、祥子さまが昨日の朝に祐巳さんのタイを直したことから始まったらしいの」
 
 何ですって?

「それで、祐巳さんは同じクラスの武嶋蔦子さんを連れて、薔薇の館にやってきたのよ」

「・・・・・何で?」

「さあ、そこまでは。で、その祐巳さんと、紅薔薇さまと喧嘩して部屋を飛び出した祥子さまが衝突。
 そしたら、祥子さまは祐巳さんを妹だ、って言い出しちゃって」

 ・・・・・・・・・ん?

 おかしいよね?

 何がって、とりあえず全てが?

「それを聞いた白薔薇さまが、ロザリオは渡したのかって言うから祥子さまも意地張っちゃって、その場
 で渡す。って言って、祐巳さんにロザリオを首に掛けようとしたんだけど」

「その福沢祐巳は、ロザリオを拒否した?」

「何で知ってるの?」

 やっぱりか・・・・・・。

「まあ、何となく、ね」

 っていうか、藤堂志摩子はどこにいった!!

 小説とは違う話になってるじゃないか!!

 あ、いや。

 あれは小説であって、こことは違うから良いのか?

 いや、でもっ。

「でも、何で喧嘩なんて・・・・・・」

 だって、まだ柏木優の登場はまだでしょ?

 まだ、文化祭まで5ヶ月あるんだよ?

 その状況で、王子役が柏木優だってわかるのはまだ先だよね?

 第一、まだ演劇の練習さえもしてないんだから。

「それがね。巳星さんのことなんだよね」

「わたし?」

 なぜ、そこでわたし?

「最近、巳星さん薔薇の館に来てるでしょう?」

 ムリヤリね。

「それを、祥子さんは不満に思ってるらしいの。ムリヤリ連れてくるなんて、巳星さんが可哀想だって」

 小笠原祥子・・・・・・・・・。

 君は天使だ!!

 もっといってやれ!!

 昨日は藤堂志摩子を送っていったからいけなかったけれど、そんな会話がなされていたなんて!!

 その場にいたら、わたしも小笠原祥子の応援をしていたのに!!!

「だけど、紅薔薇さまは。妹もいない子に、発言権はないって」

 無理矢理だ。

 あんた無理矢理だよ、水野蓉子。

 そこでその発言はおかしいことに気づけ。

「そしたら、祥子さまは部屋を出て行っちゃって・・・・」

「それで、ドカン、といったわけね」

「そういうこと」

 微笑む島津由乃。

 何?

 島津由乃、福沢祐巳が来たから嬉しいの?

「よっすぃが嬉しい理由は?」

「だからね?このままいけば、白薔薇さまの妹も、祥子さまの妹もできるでしょ?ってことは、一気に
 同年代が2人増えるのよ」

 ・・・・・・・・?

 藤堂志摩子、いつの間に佐藤聖と知り合ったんだ?

 昨日の感じからいって、まだあってもいないような気がしたんだけどな・・・・・?

「佐藤聖の妹って、誰?」

 そう問うと、由乃は驚いたような顔をして問題発言をかましてくれた。

「巳星さんに決まってるじゃない」

 ・・・・・・・・・・・・はぃ?

「島津由乃、悪いけどもう一回」

「だから、白薔薇さまの妹は巳星さんでしょ?」

「ちょっと待った!」

 それこそ、『ちょっと待った』コールだよ!

「何でわたしが佐藤聖の妹になることになってるのさ!?」

 わたしは聞いてないぞ!!?

 っていうか、マジで藤堂志摩子はどこいったのさ!!

「え?」

 島津由乃は再び驚いた表情で、わたしを見た。

「だって、噂にもなってるし、白薔薇さま、良く巳星さんに抱きついてるじゃない」

「そんな理由で妹になったら、佐藤聖の妹は沢山出現するよ!!」

 第一、福沢祐巳だって妹って事になるじゃんか!!

「わたしはあくまで一般生徒!それに、佐藤聖がそういったわけじゃないでしょうが!」

 佐藤聖の妹は、藤堂志摩子!!

 それ以外にありえないから!!

 マリア様が許しても、わたしが許さん!!

「でも、巳星さんなら妹にしても良いかなって、白薔薇さまが」

「あの人の冗談を本気にしないで・・・・・」

 わたしは机に突っ伏した。

 冗談じゃない。

 何でわたしが、佐藤聖の妹にならにゃならんのだ。

 島津由乃は首を傾げている。

 あの唯我独尊も、こんな噂が立ってる時に変な冗談いわないでよね・・・・・。

 あ〜、疲れる。

 福沢祐巳の早い登場で既に一杯一杯なのに、これ以上話を狂わさないでよ。

 いや、マジで。




「巳星ちゃ〜ん!」

 きやがった、諸悪の根源が!

「ごきげんよう、白薔薇さま」

 騒ぐクラスメイト達。

 われ先にと挨拶を交わそうとする人達。

 それにちゃんと挨拶を返すその姿は、やっぱり白薔薇だね〜。

「・・・・・・なんか用ですか?根元」

「あれれ?何か機嫌悪くない?」

 机に肘をつき、挨拶も何も無視していう。
 
「朝、白薔薇さまが昨日おっしゃったことを巳星さんにいったんです。そうしたら」

「なるほど。それで、不機嫌だと」

「ええ、今すぐにでもあなたを月に飛ばしてしまいたいほどに」

 微笑んでいうと、一瞬教室が静かになった。

「・・・・・・本当に機嫌悪いね」

「はい。何でわたしが佐藤聖の妹にならなくちゃいけないんですか。わたしの野望は、穏やかに一般生徒
 としてリリアンを平穏に過ごすことですから」

「あはは。まだ持ってるんだ、その野望」

「ええ、常に」

 もう一度ニッコリと。

 再び静かになる教室。

 わたしはそんな状況が意味わからず、眉を寄せて教室を見渡した。

 すると、驚いたようにわたしを見ているクラスメイト達。

「・・・・・よっすぃ、何でみんな驚いてるの?」

 島津由乃に聞いてみる。

 が、島津由乃は曖昧な笑みを浮かべるだけ。

「????」

 意味がわからん。

「まあ、いいや。で、何のようですか?」

「これといって、用はない」

「・・・・・・・・・あなたは、唯我独尊トリオのトップか!」

「唯我独尊トリオのトップ?」

 わたしの言葉に、島津由乃が首を傾げる。

 それに応えたのは、笑う佐藤聖。

「蓉子のことでしょ?」

「あの人以外に、唯我独尊トリオのトップはいません。なんせ、人を掃除中に拉致したくせに、用件を問え
 ば用件はない。と笑顔で言ってくださりました人ですからね」

 ああ、あの時のことを思い出して泣きそうです、わたし。

 わたし、この学校に来て、とことんついてない。

 今までもついてないと何度か思ったけど、今が一番強くそう思うね。

「へー、蓉子そんな事したんだ」

「今のあなたと同じ状況ですけどね」

 何、その今気がついた。みたいな表情。

「で、用件がないなら早く教室へ戻ってくださいな」

 シッシッ。

 出て行け、と手で表す。

「あ、酷いな〜、巳星ちゃん。わたしがわざわざ来たのに、シッシッはないよね」

「知りませんな」

 ただの上級生ってだけでしょう、あなた。

 大体、この学校を代表する人間がこんなんで良いわけ?

 1人は退屈大嫌いの、面白いもの大好き鳥居江利子。

 1人は優等生だけど、実はこの人も面白い物好きな水野蓉子。

 1人は面白いもの大好き、抱きつき魔。

 今現在、わたしの目の前にいる佐藤聖。

「・・・・・・・共通点は『面白い物好き』か」

「「え?」」

 おっと、口に出していたか。

「ま、気にすんな」

 対・鳥居江利子用の似非笑顔でそういう。

「ってわけで、去れ」

「うっわ〜!ひどいよ巳星ちゃん!」

「あ〜、はいはい。で、本当に用はなんなのさ?」

 首を傾げる佐藤聖。

「だから、無いってば」

「ウソでしょ?それ」

 目を見開く佐藤聖。

「何でそう思うの?」

 島津由乃が聞いてきた。

「だって、佐藤聖。そこまで人にのめり込まないじゃん」

「ッ!?」

 それ以上目を見開いたら、目が落ちるよ。

「どういう、こと・・・・?」

「ちょいちょい」

 手招きをする。

 佐藤聖はゆっくりとわたしに近づいてきた。

 わたしはそんな佐藤聖の耳元に手を添え、いった。

「君、人と距離とってるでしょ?」

 過去のせいで。

 まあ、これは言わないけれど。

 勢いよく佐藤聖はわたしから離れた。

「だから、佐藤聖は自分から用もなく、人のところには来ないだろうと思った。understand?」

「・・・・・・・・・・だからだよ」

「へ?」

「え?」

 あ、「へ?」っていうマヌケな方はわたしね。

「佐藤聖?」

「・・・・・巳星ちゃんが、そういう子だから、わたしは君に会いに来たんだよ」

「?そういう子?」

 首を傾げ、佐藤聖を見る。

 佐藤聖は、微妙な表情をしていた。

 泣きそうな、でも嬉しそうな。

 そんな、表情を。

「・・・・・・はぁ」

 そんな表情を見てしまったら、ほっとけないじゃないか。

 まったく。

 わたしは立ち上がり、佐藤聖へと近づいていった。

「巳星さん?」

「巳星ちゃん?」

 あの表情は消え、不思議そうな表情をする佐藤聖、そして同じく不思議そうな表情をしている島津由乃。

 とりあえず、わたしは佐藤聖の腕を掴んだ。

「来て」

「えっ?」

「ちょ!巳星さん、もう少しで授業始まるわよ!」

「授業よりも、大切なモノ、見ちゃったから」

 そう言い残し、わたしは佐藤聖の腕を掴んだまま教室を出ていった。

 ということは、佐藤聖も教室を出ることになる。

「み、巳星ちゃん、どうしたの?」

 戸惑ったような声が、後ろから聞こえる。

 それにわたしはため息をつき、答えた。

「あんな表情見たあとで、授業なんて普通に出られないでしょうが」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 静かになる佐藤聖。

 通る人通る人、わたし達を驚いた表情でみている。

 とりあえず、屋上へと連れ出した。

「・・・・・・わたし、どんな表情してた?」

「泣きそうな、嬉しそうな、変な顔」

 すると、佐藤聖は小さく笑った。

「変な顔とはひどいなぁ」

「自分だって、自覚あるんでしょ?」

 ぶっちゃけ、敬語とか消えてる。

 まあ、今更だけど。

「・・・・・まぁね」

「ホント、似たもの同士だね。君らは」

 実家がお寺だというだけで、あそこまで悩んでいた藤堂志摩子。

 過去の出来事のせいで、人と関わることを怖がる佐藤聖。

 似ていないようで、凄く似たもの同士だよ。

 君ら。

「似たもの?」

「そ。わたしの知り合いにね、かなり敬虔なクリスチャンなんだけど、実家がお寺っていう理由でかなり
 奥底まで悩んでる子がいるんだよね。その子と、似てる」

「・・・・・どこが?」

 首を傾げる佐藤聖に、わたしは笑う。

「無駄に悩んでるところが」

「無駄って」

 怒ったような表情をする佐藤聖。

 そりゃあ、本人にとってみれば、その悩みは深いことだろう。

 でも、

「でも、本当に無駄なんだよ。第三者からみれば、そういうのって」

「どこが?」

 同じようでいて、先程とは違う問い。

「・・・・こういっちゃ悪いけどさ、たかが1人のことでそこまで悩む必要がどこにあるの?」

「たかがじゃない!!」

「うん。わかるよ。確かに、本人にとっては『たかが』じゃない。でもね、いったでしょ?他人からみれ
 ば、『たかが』なんだよ」

 そう、『たかが』だっていわれた。

 わたしも・・・・・・・。

「『たかが』1人のために、これから会う人とも距離をとるの?」

 バカのすることだって、いわれた。

「そんなの、バカのすることだよ」

 あの時のあなたの言葉、使わせてもらいます。

 良いですよね?

「これから先、佐藤聖は色々な人と出会う。そんなことをしてごらん、きっと君は壊れるよ」

「何でそういえるわけ?」

 睨んでくる佐藤聖に、過去の自分が重なった。

「前、言ったことあるよね?名前を呼ぶことで、認められると。距離をとるということは、認めないし
 認めてもらえないってことなんだ」

 それは辛かった?

 ううん。

 別に、辛くはなかった。

 だって、その頃のわたしは――――――壊れていたから。

 もう既に、壊れていたんだ。

「別に、認めて欲しいなんて思わない!」

「本当に、そう思ってる?」

「当たりま―――」

「ウソでしょ?佐藤聖は、認めてほしいと思ってる。認めて、自分を見てほしいと思ってる」

 そう思えるうちは、まだ大丈夫なんだよ。

 まだ、戻れるんだ。

 簡単にはいかないけど。

 壊れた後よりは、簡単に戻れるんだよ。

「ッ!!」

 言葉に詰まる佐藤聖。

 わたしは、そんな彼女に近づいていき、そっと抱きしめた。

「君が悩んでることは、悩む必要のないことなんだ。だって、周りにとっては『たかが』だから」

 周りにとって、それは大したことのないことだから。

「少しずつで良いから、人との距離を縮めてみようよ。・・・・・そうだね、水野蓉子とか、まずは身近な人から
 でも良いから、さ」

 ポンポン。

 背中を優しく叩く。

 安心するでしょ?

 こうやって、優しく叩いてもらうの。

 わたしは、凄く安心したんだ。

「・・・・・泣いちゃえ」

「ッ!」

「誰も、見てないからさ」

 そういわれると、涙が溢れてくるでしょ?

 その涙は、今まで溜めてたモノ、流してくれるよ。

「うっくっ」

 大声でなんて、泣かなくて良いんだ。

 少しの涙で、君はきっと変われるんだから。







「なんか、年下に泣き顔見られるのって恥ずかしいね〜」

「そう?」

 少し目の下が赤い佐藤聖。

 結構泣いたね。

 良いんだよ、それで。

「・・・・・・ねえ、今日は来るの?薔薇の館」

「いくよ。よっすぃと約束したからね」

 屋上の柵の外に腕を垂らして、わたしは笑う。

「ホント!?やったね!」

「・・・・・・・お茶煎れてる時くらい、放れてね?」

「どうかな〜?」

 笑顔で言ってくる佐藤聖。

「うっわ〜」

 そういいつつ、わたしは笑う。

 と、ふと思い出す。

 少し狂った物語。

 少しは知っておかないとね。

「そういえば、福沢祐巳はどう?」

「ああ。凄く良い子だよ。百面相で」

「へー。今日来るかな?」

 生百面相は見たいかな。

「来ると思うよ。江利子達が、巳星ちゃんに会わせるって言ってたし」

「なんでやねん」

 なんでそこにわたしが出てくるのさ?

「自分たちのお気に入りだからじゃない?」

「嬉しくないし」

 ちょっと、支倉令と初めてあった時のことを思い出した。

 ヘタ令といわれて、嬉しくないといっていた彼女。

 ヘタ令、あの時の気持ちよくわかった。

 確かに、全然嬉しくないね。

「でも、蓉子達がここまで人を気に入るのも珍しいんだよ?」

「そりゃあ、あの唯我独尊メンバーを満足させられる人間なんて、そうはいないでしょう」

 ・・・・・・・・・・・・・・?

「わたしか!?」

 ハッとしたようにいえば、大きな声で笑い始める佐藤聖。

「・・・・・はしたなくってよ?白薔薇さま」

 ちょっと、小笠原祥子の真似をしてみた。

 似てない?

 うん、わかってる。

「だ、だって、巳星ちゃん面白いっ」

「そういわれて喜ぶ人間は、漫才師くらいだよ」

 ため息をついて、わたしは柵に背を預ける。

 笑う佐藤聖。

 わたしは、そんな彼女を見て自然と微笑んでいた。

 と、なぜかそんなわたしを見て固まる佐藤聖。

「?何?」

「・・・・・・前から思ってたけど、巳星ちゃんって笑うと綺麗だね」

「寝言は寝て言え」

 とりあえず、即答しておいた。

 誰が綺麗か、誰が。

 産まれてこの方、綺麗だなんて言われたことないっつぅの。

 というか、

「わたしを綺麗だっていったら、この世界中にいる人間全てが綺麗だって」

「勿体ないなぁ。無自覚か」

「勿体ないって、何?勿体ないって」

 呆れた顔で佐藤聖を見る。

「ま、いいや。・・・・・巳星ちゃん、わたし決めた!」

 急に何さ?

「何を?」

「わたし、藤堂志摩子っていう子を妹にする!!」

 ・・・・・・・なんだって!!?

 急な展開だな、オイ!

「・・・・会ったことあるの?」

「ううん」

 うわっ。

 さらりと答えたよ、この人!

 っていうか、なんで妹にしようって思い始めたの!?

 それも、会ったこともない人を。

 ・・・・・・・・まさか、あれですか?

「家がお寺だから、『面白い』ってこと?」

「それもあるけど」

「他にも理由が?」

 それだけだと思ってたよ。

 良かったね、他にも理由があるみたいです。

 良かったね、藤堂志摩子。

 ・・・・・・・それ『も』ってことは、『面白い』からっていう理由も入るのか。

 微妙だね、藤堂志摩子。

「あるけど秘密!」

 笑顔で口に指をあてる佐藤聖は、なんだか幼く見えました。





「お帰り、本当に授業さぼるとは思わなかったわ」

「そう?まあ、細かいことは気にすんな!」

 肩を叩き、わたしは似非笑顔を振りまく。

「まったく。細かくないわよ」

 そういう島津由乃は、呆れた表情をしているけれど、笑っていた。

 放課後、わたし達は島津由乃と支倉令に引きずられて薔薇の館へ。

「あのさ〜。わざわざ腕を掴まなくても、逃げないって」

「本当?」

「ううん、ウソ」

 ・・・・ヤバ!

 本当のこと言っちゃった!!

 素直だから、わたし!

 嘘がつけない人間なの!!

「巳星ちゃん・・・・・」

「おっと、その表情は何?この子、頭のネジゆるいんじゃない?みたいな表情は」

「実際にそう思ってるんじゃない?」

 支倉令に喧嘩を売っていると、島津由乃がさらりと言ってくる。

「・・・・・・よっすぃ、もう少しオブラートに包んでほしいな」

 いくら鋼の心を持つわたしでも、泣いちゃうよ?

「無理」

 うわ〜。

 即答してくださりやがったよ、この子。

「よしのん、本性が出始めてるね。何でだろうね?ヘタ令」

 とりあえず、ヘタ令に聞いてみた。

 その問いに、困ったように笑うだけのヘタ令。

 うん、ヘタレだ。

「・・・・・巳星さんのせいだわ」

 わたしのせいですか!?

 っていうか『せい』ですか!?

「なんで!?」

「だって・・・・・・。巳星さんが、本当のわたしを受け入れてくれるからよ」

「??????」

 何言ってるの?この子。

「本当のわたし?よしのん、嘘の自分を演じてたの?」

「そ、そうじゃないけど・・・・」

 ・・・・・・ああ、成る程ね。

「あれか。見た目が幸薄少女だし、心臓病だから暴れることできないしで、結果的に物静かな少女と見られ
 がち。ってこと?」

 怖ず怖ずと頷く島津由乃。

 そんな島津由乃の姿を見つめるのは、支倉令。

 まあ、普通の光景だね。

「それで、わたしもそういう風に見てると思ってたわけね?」

「うん。でも、それはすぐに終わったけどね」

「?なんで?」

「だって巳星ちゃん。入学式の次の日、由乃はイケイケ青信号だって、言ってたじゃない」

 ああ〜。

 支倉令の言葉にわたしは頷く。

「あれを聞いて、巳星さんは本当のわたしを見てくれる人だって思ったの」

「見てくれるも何も、あきらかに似非笑顔で一番最初挨拶されたけどね」

 そう返すと、2人して驚いた顔をした。

 なにさ?

「・・・・・巳星さんって、何者?」

「なに?地球外生命体に見える?」

 そう見えるって言ったら、わたし泣くよ?

 泣きながら、山百合会のあること無いこと言いふらすよ?

 ・・・・・・多分、全部ホントのこと言うことになると思うけど。

「見えないわよ」

「見えないから」

「そう。なら良いけど」

 ホッ。

「ただ、ね。巳星さんって、今まで会ったことがない人なのよ」

「・・・・・・・・そう」

 あれですか?

 珍種ってことですか?

 喜べないよね?

 え?

 それとも、ここは喜ぶべきところ?

「なんか、わたし達のこと知ってるみたいで」

 ドキリ。

「それは感じるね。だって、巳星ちゃんって編入生でしょ?なのに、お姉さまのことも、わたしのことも、
 由乃のことも知ってたし」

「・・・・・わたし、見た目よりも内側を見る癖があるんですよ」

 ちょっと無理があるかな?

 いや、ありまくりだけどさ。

「だから。この人は、わたしの本当を受け入れてくれると思ったの」

「それで、段々と本性が現れ始めたということね」

 まあ、本を読んでて、島津由乃の本当なんてわかってたから驚くこと無いけどね。

 ただ、そうしたのが福沢祐巳だと思ってたんだけどね。

 まあ、ここまで物語が狂ってきてるんだから、ここは細かい部分だし気にすんな。みたいな感じで
 いこう。

「まあ、わたしはそっちのよしのんの方が好きだけどね」

 そういって、わたしは島津由乃の頭を軽く叩く。

「あ、ヘタ令もだから」

 笑い、わたしは薔薇の館へと向かった。

 ・・・・・・・・・・・・?

 わたしはついてこない2人に気づき、振り返る。

 なぜか、2人は顔を固めてわたしを見ていた。

「どうしたの?」

「「なっ、なんでもないっ!」」

 2人は慌てたようにわたしの横へと移動する。

 よくわからないけど、まあ気にせずにわたし達は薔薇の館へと向かったのだった。






          

 

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