【関係ないから】

	  




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 目の前に、今にも倒れそうな人がいます。

 あなたは助けますか?

 ・・・・・・・・・・・・・・それがたとえ、後々山百合会のメンバーとなる藤堂志摩子だとしても。

「・・・・・・・・・わたしの幸せはどこにある?」

 とりあえず、最近思い始めた疑問を口にして、彼女へと近づいていった。

「え、えっと」

 困惑気味でわたしを見てくる藤堂志摩子。

 なんでしょう?

 わたしは変ですか?

 変ですよね?

 最近のわたしは、不幸ばかりに見舞われて変なんです!(断言&涙)

「ちょいとおでこを拝借」

 とりあえず、初対面の彼女にいっても仕方がないのでおでこを拝借する。

「う〜ん」

「あ、あの」

「なに?藤堂志摩子」

「え、えっと。何か?」

「なにか?」

 思わず眉をよせる。

「こんなに熱い額をしておいて、何か?」

「えっ?」

「いいかね、藤堂志摩子。今の時代は、自分の体温でお湯は沸かせないんだよ?」

「そ、それは、いつの時代でも一緒だと」

 戸惑いつつも、良いツッコミだ。

 控えめなのが少し残念だけど。

「それは置いておいて。なぜこんなに熱があるのに、学校に来たのさ」

「あ、あの。今日は、音楽のテストが」

「音楽のテストがあるから、熱を無視して学校に来たと?馬鹿者」

 そんなことを言われたことがないのだろう。

 驚いた顔でわたしを見る藤堂志摩子。

「何時間目?」

「え?」

「その音楽の授業」

「さ、3時間目です」

 3時間目か・・・・。

「掴まってて」

「え?キャッ」

 ちょっと、キャッて。

 キャッてなんですか?

 似合うな畜生!

 あ、いや別に羨ましいわけではないけどさ。

「な、なにをっ」

「そのあからさまに、どこに連れて行くんですかあなた!的な表情やめてくれない?どこぞの変態じゃない
 んだからさ」

 どこぞ、とはあの白薔薇だ。

 あの人は、人が薔薇の館に連れて行かれるたびに抱きついてきやがりますからね。

 動きづらいったらない。

「あ、ご、ごめんなさいっ」

「とりあえず、保健室連れていくんで」

 そう宣言した通り、わたしは保健室へ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

―――ガンガン!

 そして、同じように頭で叩くのだ。

「痛いね、やっぱり」

「あ、あの。大丈夫ですか?」

「ああ、平気。でも、勘違いしないでね?別にマゾとかじゃないから」

 変に勘違いされたくない。

「あら、また連れてきてくれたのね」

「はい。熱があるみたいなんで、連れてきました。ついでに、3時間目の音楽テストまで寝かせておいて
 ください」

「2時間目までね。わかったわ」

「あ、あのっ」

「ん?」

 以前鳥居江利子を寝かせたベッドに寝かせ、布団を掛ける。

「あ、ありがとうございます」

「別にそういうのいらないから」

「え?」

 驚いたようにわたしを見る藤堂志摩子に、先生。

 なに?

 そんなに驚くことですか?

「だって、これはわたしの自己満足でしてることだから」

 だってそうでしょう?

 他の人からすれば、余計なお世話ってやつになるもんね。

「じゃ、後はよろしくお願いします」

「え、ええ」

 驚いたように頷く先生に後は任せて、わたしは保健室を出た。

「・・・・とりあえず、藤堂志摩子の担任に報告かな?」

 ってわけで、やって来ました職員室。

「失礼します」

 ここは鳥居江利子の似非笑顔で対応だ。

「あら、巳星さんじゃない」

 近づいてきたのはわたしのクラスの担任。

 ナイスタイミングです、先生。

 先生なんで、似非笑顔を取り払う。

「ちょうど良いところに。藤堂志摩子の担任って、いますか?」

「志摩子さんの?」

 軽く目を見張り、先生は職員室を見渡す。

「あ、あの方がそうよ」

「ありがとうございました」

 お礼を言い、その人のもとへ。

「すいません」

「はい、何かしら?」

「藤堂志摩子についてです」

 すると、少し驚いたような顔をした。

 なんの驚きでしょうか?

「志摩子さんがどうかしたの?」

 何に対しての驚きかはわからないが、とりあえず用件を述べることにした。

「実は、藤堂志摩子が熱がでた状態で学校に来たらしく、どうしても3時間目の音楽のテストをでたいよう
 なんです」

「まあ」

 まあ。

 思わず、かの人(黄薔薇の誰か)に似ていたため心の中で復唱してしまった。

 気を取り直して、と。

「なので、保健室に連れて行きました。それで、3時間目まで保健室で休むようにいっておきました。
 その報告に」

「・・・・律儀な子ね」

 かつてヘタ令にいった言葉だ。

「そうでもないです。自分で勝手にしたことなので、無責任にはできませんから」

 自分で休むように言っておいて、それでさよならはわたしの信条に反する。

 信条なんてないけどね。

 ここはあえてスルーで。

「わかったわ。ありがとう。えっと、あなたのお名前は・・・・」

「須加巳星です」

「ああ、あの」

 あのってどの!?

「・・・・失礼ですが、あのってどの?」

「ああ、ごめんなさいね。噂で聞いてるのよ、あなたのこと」

 どんな噂ですか?

 凄く嫌な予感がしますが。

 あれでしょう?

 あれなんでしょう?

 黄薔薇ファミリーに拉致られた回数10弱、紅薔薇トップに拉致られた回数2回、白薔薇に拉致られた
 回数3回。

 これのせいですよね?

 ですよね?

「山百合会の人達と、仲の良いっていう」

「仲が良いと言うよりも、拉致られていると言う方が正解です」

「拉致?」

 軽く目を見張る先生。

 ちょっと愚痴っても良いですか?

「あれですよ?黄薔薇ファミリーの根本は『面白さ』。なぜかそれにピッタンコしてしまったという、本人
 としてはとてつもなく心外なソレのせいで、今やわたしは時の人」

 ん?

 時の人?

 まあ、良いや。

「リリアンに入って、細々と一般生徒として生活をするというわたしの夢、もとい野望。それを、彼女たち
 がことごとく玉砕していくんです」

 わかってくれます?

「は、はあ」

「そう。気に入った、だから拉致。面白い、だから拉致。なんですかこの理由!わたしは普通に、
 静かに一般生徒としての生活をしたかったのに!」

 許せるものか!

「あまつさえ、わたしは一般生徒だといっているのに、一般生徒は無理よ。と似非笑顔を顔面に貼り付ける
 あの凸!」

 いっそ太陽電池を設置すれば良いんだ!

 そうなれば、ソーラーカーも走るほどの電気が蓄積できるはず!

 いや、できる!

「「プッ」」

 ・・・・・・・・・・・・・・・ああ、あの音が聞こえた。

 そちらへと目をむければ、やはり見慣れた震えた肩。

 いつの間にいたのか、我が担任と藤堂志摩子の担任。

 口に手をあて笑う先生2人。

「ね?面白いでしょう?巳星さんって」

「本当。石塚先生が気に入るのもわかるわ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハッ!

「まさか、先生達もわたしを『面白い』と思う派ですか!?」

 ちょっと距離をとる。

 とっても意味はないんだけど。

 気分的にね。

「正解 v 」

 ・・・・・今、ハートマークあったよね?

 あったよね!?

「そんなっ!先生は山百合会の唯我独尊メンバーとは違うと思っていたのに!」

「ふふ。あなただけよ、山百合会の生徒たちを唯我独尊メンバーだなんていうの」

 口に手をあて、笑う藤堂志摩子の担任。

「先生、騙されてはいけません。あの顔は仮面です。実際は、わたしを拉致る凶悪犯!」

 訴えるわたし。

 騙されちゃいけません!

「大丈夫よ、あの子達には許可してあるから v 」

 なにぃ!?

「先生、わたしを売ったんですか!?」

「そういうことね v v 」

 そういうことね(絶対ハートマークついてる)。

 じゃない!!

「先生!我が身の平穏のために、可愛い生徒を・・・ん?・・・自分の生徒を売ったんですよ!?」

 わたしは可愛い生徒ではないな、と思い直し言い直した。

 それがまずかったのか、またまた笑い出す2人の薄情先生。

「わざわざ言い直さなくても、あなたも十分可愛い生徒よ」

「あ、ありがとうございます」

 とりあえずお礼。

「律儀だわ、本当に!」

 お腹を押さえてまで笑いますか!?

「せ、先生なんて、先生なんてっ」

「あら、嫌い?」

 目尻を拭いながら首を傾げる担任。

「ぐっ」

 嫌い、ではない。

 優しいから好きな部類だ。

 言葉に詰まったわたしを見て、クスクスと笑う薄情コンビ。

「〜〜〜!ヘタ令のばかぁぁぁぁ!!」

 ヘタ令へ罪をなすりつけて、わたしは職員室を出ていった。

 走れないから、早歩きで。

 そんなわたしを見て、さらに笑う薄情コンビ。

 畜生!

 この恨み、テストで晴らしてやるぅ!(泣)



「あら、今日は遅かったわね。巳星さん」

「薄情コンビに笑われた・・・・・・」

 机に突っ伏すわたし。

「薄情コンビ?」

 不思議そうに首を傾げる島津由乃。

「担任と藤堂志摩子の担任」

 さらに不思議そうな顔をする島津由乃に、いきさつを話した。

「それはそれは」

 楽しそうに笑う島津由乃。

 笑えないって、わたしは。

「・・・・改造手術は間近か」

 ちょっと遠い目をしてわたしは呟いた。

 お昼休み、とりあえず逃げるためにさっと立ち上がる。

 が、そんなわたしの腕をつかむのは、前の席の、改造手術前のはずなのに素早い動きをみせる島津由乃。

「逃がさないからね v v 」

 ああ、この人も絶対ハートマークついてる。

「たまには、姉妹水入らずでお昼なんてどうですか?」

 とりあえず、提案してみた。

「今更令ちゃんと一緒にお昼食べても、新鮮味もなにもないし」

 はい、正論ですね。

「はぁ・・・・・」

 わたし、幸せどこに置いてきたんだろう・・・・・。
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 なんだか、回想しててもどこにも幸せなかった気がする。

 わたしって、幸薄少女?

「お待たせ、由乃、巳星ちゃん」

「待ってません」

 即答してやると、支倉令は困ったように笑ってわたしの腕をつかんできた。

 はいはい。

 連行ですね。

 わかってますよ。

 もう一度ため息をつき、わたしは立ち上がる。

「ちゃっちゃと行こうね」

「そうですね(棒読み)」

 楽しそうな島津由乃の横に並んで、わたしは薔薇の館へと向かった。

 薔薇の館は、相変わらずガラスが綺麗。

 でも、すんでる人はきっとくもってる。

 じゃなきゃ、変だ!

「はいはい。良いから入ろうね」

「最近のヘタ令は、強気だ」

「慣れだよ」

 笑顔でいわれたら、それはそれで悲しいね(泣)。

「「「「いらっしゃい、巳星ちゃん」」」」

 3人の似非達が出迎えてくれる。

 1人は似非ではない。

「・・・・・・・・・似非がいっぱいだ」

「あら酷い」

 クスクスと笑うのは、似非のトップ。

 その名も鳥居江利子。

「そうだよ。似非はないな〜、巳星ちゃん」

「気にすんな」

 笑顔(似非)でとりあえず返すわたし。

 ついでに親指もたてておいた。

「最近の巳星ちゃん、敬語がなくなってきたわよね」

 そういってきたのは似非に少し遠い、水野蓉子。

「そうですか?バリバリ敬語じゃないですか」

「あら、わたしは敬語なしでも良いと思ったんだけど。その方が、嬉しいもの」

「それ無理ですよ〜。隣に、こめかみピクピクしてる方いますし」

 水野蓉子の隣には、ヒステリーが最近音沙汰なしの小笠原祥子。

 溜まってそうだね。

「ピクピクなんてしてないわよ?」

「口元引きつってますよ?」

「祥子、巳星ちゃんも。ご飯食べようね」

 支倉令に促されて、わたし達は定位置へ。

「今日のお弁当は、昨日みたいにノリ弁当でなければいいわね」

「にこやかに言わないでください」

 ちょっと恨みの視線を鳥居江利子に送る。

 そんなこと、彼女には効かないが、気分的にさ。

「毎回、巳星ちゃんのお弁当を見るのが楽しみだわ」

「こっちは悲しみ満載ですけどね」

 この間なんて、梅干しすら入ってない白米だけだったよ!?

 ため息をついて、早速お弁当のフタを開ける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 沈黙する部屋。

「今日はダイエット週間ですか!?」

 なんと、中身は空。

『こんなことあって良いんですか!?』

 思わず英語で叫んじまったさ!

「・・・・・巳星ちゃんってたまに、英語になることがあるけどなんで?」

 冷静に問われた。

 それも、鳥居江利子に。

「家は、母親がイギリス人なんです」

 泣きながらそっとフタを閉めるわたし。

「あーん」

「え?」

 聞こえてきた方に顔を向ければ、島津由乃がタコウィンナーを箸で持ちながらわたしに差し出していた。

「・・・・・よっすぃー!ありがとう!」

 わたしはそのタコウィンナーを口に入れ、ホクホク気分。

「間接キスゲット」

「なに?よっすぃ?」

 呟きが聞こえ、わたしはホクホク笑顔で島津由乃を見た。

「なんでもないよ」

 それに笑顔を返してくる島津由乃に笑みを返し、タコウィンナーを咀嚼する。

「おいしい、これ」

 ちょっと顔の赤い人達を視野に入れながら島津由乃に言うと、島津由乃は満足げに微笑んだ。

「よかった」

 それから、島津由乃が食べて、わたしが食べる。

 それを何度か繰り返して、島津由乃のお弁当は終わった。

「ありがとう、よっすぃ。何かお礼するよ」

 そういうと、島津由乃の目がキラリと光ったように見えた。

「なら、頬にキスして」

「由乃!?」

「「「「由乃ちゃん!?」」」」

 急に立ち上がった5人。

 なに?どうしたの?一体。

「なんですか?」

 平然とそう問う島津由乃。

 なぜかそんな島津由乃を悔しそうに見つめる5人。

「?まあ、良いや」

 わたしは5人を気にすることなく、島津由乃の頬に一つキスをした。

「「「「「あ!!」」」」」

「どうしたんですか?頬にキスくらいで、驚くほどのことですか?」

 首を傾げて5人を見る。

「気にしない、気にしない」

 そういうと、島津由乃はわたしに抱きついてくる。

 またしても声をあげる5人。

 今日は叫ぶ日?

 とりあえず、島津由乃を抱きしめ返しておいた。



「あ、あの!」

 掃除を終えて廊下を歩いていると、なんとなく聞き覚えのある声に呼び止められた。

 振り返ると、藤堂志摩子。

「藤堂志摩子。どうしたの?」

「あ、朝のお礼をしたくて・・・・」

 ?????

 彼女って、こんなにどもる子だったっけ?

 一応、わたしの中では落ち着いた感じの子、っていう設定だったんだけど・・・・?

「お礼?あの時言われたし、いらないとも言ったはずだけど?」

「それでも、どうしても言いたかったの」

 お、やっと普通に戻ったみたいだね。

「律儀だね、藤堂志摩子」

 まあ、律儀だとは思ってたけどさ。

「い、いえ」

 少し頬を染める藤堂志摩子。

 それを見て、わたしは頬に手をやった。

「っあ、あのっ」

 またどもる藤堂志摩子。

 それよりも・・・・・。

「まだ、体温高いよ?もう帰った方が良いよ。明日、もっと辛くなるから」

「・・・・ええ。今から帰るつもりだったの。でも、もう一度あなたにお礼を言いたくて、あなたを捜していた
 のよ」

 赤い顔で微笑む藤堂志摩子に、わたしも笑みを返す。

「そっか。そうそう、わたしの名前は須加巳星。一年松組だから、用があったら松組に来な。体調悪い時
 とか、運んであげるから」

 ウィンクをして言うと、赤い顔でクスリと微笑む。

「ありがとう、巳星さん」

「それじゃあ、お大事に・・・・・・。なんなら、送ってあげようか?」

「え?」

 目を見開く藤堂志摩子に、わたしは笑みを向けた。

「送ってあげるよ。途中で倒れても困るし」

「だ、大丈夫よっ」

「良いから」

 わたしは彼女の手をとり、教室へとむかう。

「あ、巳星さん。・・・・そちらは?」

 教室には、島津由乃がいた。

「藤堂志摩子。朝に言ったでしょ?」

「ああ。初めまして、島津由乃よ」

「初めまして、藤堂志摩子です」

 お互いに儚い外見だね。

 片方、実はイケイケだけど。

「それで、家まで送ることになったから。今日は薔薇の館に行けないんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・嬉しそうね?」

 ニッコリと微笑む島津由乃に、わたしも笑顔を返す。

「わかる?」

「・・・・・明日は、絶対に来てね?」

「うん。行くよ、平気」

 ちょっと寂しそうなその表情に、頷いてしまうわたしが憎い。

 ま、島津由乃は本当に寂しいのだろう。

 何たって、一年生が1人だけなのだから。

「それじゃあ、よっすぃも気をつけるんだよ?」

 バックを持ち、島津由乃に言う。

「ええ、ごきげんよう、巳星さん、志摩子さん」

「うん、ごきげんよう、よっすぃ」

「ごきげんよう、由乃さん」

 由乃と別れた後、わたしと藤堂志摩子は藤堂志摩子の家へ。

 話すと体温が上がるから、これといって話はしない。

 さすがに倒れられて、こんな公の場で藤堂志摩子を抱きかかえて家に行くのは無理。
 
 体力的には可能だが、ちょっと恥ずかしいからね。

「み、巳星さん」

「ん?」

「こ、ここで結構よ」

「え?」

 わたしは辺りを見渡す。

 大きなお寺があった。

「なんで?あのお寺でしょ?藤堂志摩子の家って」

 すると、藤堂志摩子は驚いたようにわたしを見た。

 え?

 なに?

 驚くようなこと言ったっけ?

 言ったかな?

 首を傾げていると、藤堂志摩子が震えた声で言う。

「な、何でわたしの家が、お寺だって知っているの?」

「?だって、あそこくらいじゃん。藤堂っていう名字」

 なに?

 あ・・・・・。

 藤堂志摩子って、自分の家がお寺であることで悩んでたんだっけ?

 あの回、詳しく読んでないからあんまり記憶してないんだよね〜。

「あ、あの、嫌じゃないの?」

「何が?」

 藤堂志摩子の言葉に、わたしは首を傾げる。

 何が嫌なんだろう?

「私がリリアンに通っていながら、実家がお寺だということが」

「?なんで?」

「なんでって・・・・」

 わたしは藤堂志摩子の頭に手をおいた。

「だって、生まれる場所なんて、選べないじゃん。それに、藤堂志摩子はお寺の住職である親、嫌いじゃ
 ないんでしょ?」

「当たり前だわ!」

 叫んだ途端ふらついた藤堂志摩子を支え、わたしは抱き上げた。

 これくらいの距離なら、人に見られても問題ないだろう。

 そう思ってだ。

 歩きながら、わたしは藤堂志摩子にいう。

「あのさ、藤堂志摩子は勘違いしてるよ?」

「勘違い?」

「うん。さっきも言ったけど、産まれる場所は産まれる側のわたし達に選択できないんだよ。それを、
 リリアンの校長だって知ってるはずだ。お寺の娘だからって、藤堂志摩子がクリスチャンになったら
 いけないって、誰が決めたの?」

 藤堂志摩子の顔を見れば、かすかに目を見張ってわたしを見上げている。

 そんな彼女に微笑み、わたしは続けた。

「自分のやりたいことをやる。それには、産まれた場所なんて本来関係のないことなんだ。藤堂志摩子の
 お父さんは、将来藤堂志摩子にこのお寺を継がせようとしてる?」

「・・・・いいえ」

「でしょ?なら別に、藤堂志摩子が何になろうと誰も文句は言えない。クリスチャンになろうが、シスター
 になろうが、文句は言えないんだよ?」

 だからさ。

 わたしはそう続けた。

「周りを、拒絶する必要なんてないんだ」

「ッ!?」

 驚いたようにわたしを見る藤堂志摩子に、笑みを返す。

「わたしの言葉を信じて、一歩だけ足を前においてみよう。今はまだ、一歩だけで良いからさ」

 1年後、君を人に歩み寄れるようにしてくれる子に、出会えるから。

 だから、今はわたしの言葉を信じてほしいな。

「急にとは言わない。今までずっと壁を作ってたんだから、急にはきっと無理だろうけど。それでも、少し
 努力してみよう?」

 ね?

 そういって微笑んで藤堂志摩子を見ると、わたしの胸に顔を押しあてて泣いているのがわかった。

 わたしはそんな彼女の頭を、無言で自分の方に押しつけ、泣かせてあげた。

 藤堂志摩子には今、泣かせることが大切だと思ったから。
           

 

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