【夢】









「実は、私には夢があるの」

 話は、鳥居江利子のそんな言葉から始まった。









 夢があることは良いことだと思う。
 
 ただね?

 ただ、この鳥居江利子の夢が、普通じゃないことくらいわかる。

 というか、わかるに決まってる。

 だって、鳥居江利子だよ?

 この濃ゆい人の夢が、普通なわけなくない?

 OLとかだったら、絶対笑う。

 いや、笑っちゃいけないことくらいわかってるけど。

 わかってはいるけど、鳥居江利子にOLは絶対似合わないって。

 むしろ、OLを勤まるかどうかさえ危うくない?

 上司、絶対ストレス死するって。

 ああ、すっごい目に浮かぶよ。

 可哀想・・・・・。

「それで、どんな夢なの?」

 水野蓉子の言葉で、わたしは現実に戻る。

「ふふ。今度の日曜日、午前11時に薔薇の館に来てくれたらわかるわ」

 鳥居江利子はそういって、上機嫌で薔薇の館をでていった。

 スキップしそうな勢いだ。

 わたし達は、揃って顔を見あわせる。

「どういうのだと思う?」

「わたし達に被害が来なければ、何でも良いわよ」

 そう答えたのは、島津由乃。

 あ〜、確かに。

 思わず、わたし達は頷いていたのだった。






 ・・・・・・・・誰?

 誰、この熊男。

 誰かの知り合いかと思い、全員を見渡す。

 一様に首を横に振る水野蓉子達。

 誰だよ、ホント。

「初めまして、水野蓉子といいます。あなたは?」

「僕は、花寺の教師をしている山辺といいます」

 なるほど、山辺というのか。

 ・・・・・・誰?

 知ってる?

 その意味を込めて全員を見渡す。

 が、やはり水野蓉子達は首を横に振った。

「それで、その花寺の教師さんがなんの用でしょう?」

「江利子ちゃんに、呼ばれてきたんだけど・・・・・」

 あの凸!

 早く来いよ!

 こっちは、対応に困ってんだって!

 呼んだ本人が来ないで、どうするんだよ!

「江利子とは、どういう関係?」

「それには、私が答えるわ」

 佐藤聖が熊男に問いかけると同時に、ドアを開けて鳥居江利子が入ってきた。

 やっと来たよ。

「それで、どうしたというのですか?」

 男がいるからだろう。

 こめかみをヒクヒクさせて、小笠原祥子が問う。

「今回、みんなに来てもらったのは他でもないわ。今日は、みんなに私の夢を知ってもらおうと思っ
たの」

 まあ、そのために日曜日で仕事もないのに、薔薇の館に集まったんだしね。

「それで、どんな夢なんですか?」

 代表するかのように、支倉令が問いかけた。

「それはね、














 





 漫才師よ!!」
 











 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 わたし達は、揃って顔を見あわせる。

「あら、驚いてくれても良いじゃない」

 不満そうにいう鳥居江利子。

 いや、だって、ねぇ?

 気分的には、何言っちゃってんの、この人。って感じ。

「わ、わぁ!凄いですねぇ!!」

 いや、遅いから福沢祐巳!

 それも、棒読みだし!

 嘘くさいぞ!

「祐巳ちゃん、おちょくってるの?」

 素敵笑顔で福沢祐巳に問う、鳥居江利子。

 福沢祐巳は、わたしの腕にしがみつき、震えながら首を横に振った。

 うわ、すっげ怯えてる。

「それで、今日はどこのネジが飛んだわけ?」

 確かに。

 けど、水野蓉子。

 君もたまに、ネジが飛んでる時あるよね?

 あんまり、人のこと言えないかな、なんて。

「全部でしょ?」

 佐藤聖は、さらりと答えてテーブルに肘をつけて顎を乗せている。

 視線の先は、熊男。

「良いわ。そこまで言うのなら見ていなさい。私が、どれほど芸人に向いているかを」

 ふふん、と嘲笑うような表情を見せる鳥居江利子。





 ということで始まった、鳥居江利子のコントショー。

 きっと、誰もが色々な意味で興味があるだろう。

 だって、鳥居江利子がコントだよ?

 相方誰だよ。

 ・・・・・って、熊男かよ!

 その、ぬぼーっとした様子で、漫才師の相方!?

 いや、鳥居江利子の方も無表情だし、良いコンビなのか・・・・?

 あ、やっちゃう?

 やっちゃうのか?

「「はいはいはいはい」」

 手を叩いて、部屋の両端から中央に集まる鳥居江利子と熊男。

 なんか、ここからすでにヤバイ匂いがするんですが。

「実は昨日、変質者をけ―――」

「なんでやねん」

 ・・・・・・・・・・変質者をけ、ってなんだよ!

 何したんだよ!熊男!
 
 そして、そこでお前は突っ込むのか!?

 無表情に突っ込むのか!?

 っていうか、突っ込む所だったか!?

「「ありがとうございました」」

 終わり!?

 そこで終わっちゃうのか!?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言になるわたし達。

 水野蓉子はため息をつき。

 佐藤聖は唖然。

 小笠原祥子は眉をよせ。

 妹(スール)である支倉令は、魂が抜け。

 藤堂志摩子は、微笑みながら冷たい目を向け。

 島津由乃は、同じく冷たい目。

 福沢祐巳は、笑うべきか笑わざるべきかかオロオロしている。

 わたしといえば、無言で鳥居江利子と熊男を見つめるのみ。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 鳥居江利子達も無言になっている。

 沈黙が十数秒続いた頃、鳥居江利子は熊男に言い放った。

「クビ」

「ぼ、僕のせいかい!?」

「当たり前でしょう?」

 その会話を聞きつつ、わたし達の心はきっと一つになったはずだ。

『お前ら2人共だよ』






 熊男が帰った薔薇の館。

「山辺さんを、相方にした理由はなんなんですか?」

 福沢祐巳が、聞くに聞けなかったことを鳥居江利子に聞いた。

 まあ、なんとなく予想がつくけど。

「外見のインパクトよ」

 だろうな・・・・・・。

「どこで見つけてきたわけ?」

「兄貴達が見つけてきてくれたのよ。私の夢を聞いて。K駅で歩いていたのを」

 兄貴よ、君らは間違ってる!

 いくら、鳥居江利子ラブだろうが、いくらなんでもそれは諭すべきだろう!

 自分の妹が、漫才師に向いているかどうかくらい、見極めてくれ!

 っていうか、すっげぇ可哀想じゃん、熊男!

 連れてこられて、面白くもない漫才させられてその上クビって!

 可哀想過ぎる!(涙)

「確かに、インパクトは良いけど・・・・・・」

 同情の眼差しで、ドアを見つめる佐藤聖。

「というか、その夢はあきらめなさい」

「ええ。意外と、つまらなかったわ」

 水野蓉子の言葉に、ため息をつく鳥居江利子。

 そんな鳥居江利子を見て、わたし達は顔を見あわせ、同じようにため息をついた。
 






       あとがき。

 熊男の登場は、ここでお終い。
 だって、友情出演ですから(笑
 次は、【いとしき歳月】の後編です。





          

 

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