【付き合って】






	  
 呼び出され、いってみる。

「巳星ちゃん」

 そこにいたのは、ニッコリと微笑んだ水野蓉子。

「何?」

 初っ端から、似非笑顔だ。

「私と、付き合わない?」

 ・・・・・またかい。

 でも、ま。

「良いよ」

 あの頃より、水野蓉子のこと知ってるし。

 付き合っても良いかと思う。

「本当!?」

 そ、そこまで喜ぶ?

 チョー満面なんですけど。

「うん。で、どこに?」

「・・・・・え?」

 水野蓉子の表情が固まる。

 ?

 どうした?

「ど、どういう事?」

「だから、付き合うって。何処かに行きたいんでしょ?」

「・・・・・・・・・バカ」

 いたっ!

 水野蓉子に頭を叩かれた。

 な、何でさ!

 何で叩かれたわけ!?

 わたし何かした!?

 それも、バカとか言われたし!

「どういう意味?」

 眉をよせて、不満そうな水野蓉子を見る。

「自分で考えなさい!」

 水野蓉子はそういうと、さっさといなくなってしまった。

 な、何あいつ。

 意味わかんない!

 何がしたいわけ!?



「ねえ、巳星ちゃん。付き合わない?」

「どこに?」

 休み時間に呼び出されていってみれば、佐藤聖にそういわれた。

 水野蓉子のことがあるし、変なことは言わない。

「・・・・・・・・巳星ちゃん。もう一回言うね。付き合わない?」

「だから、どこに?」

 何度言われても同じだ。

 どこに付き合ってほしいかくらい言えっつーの。

 すると、佐藤聖はわたしの額にチョップをしてきた。

 いたっ!

「巳星ちゃんのぶんぶん茶釜!」

 意味わかんねぇよ!

 なんだよぶんぶん茶釜って!

 っていうか、暴言はいて走り去るなよ!

 気になるじゃん!

 水野蓉子と同じ事していくなって!

 

「ねえ、巳星ちゃん」

「どこに?」

 最後まで言い切る前に聞いてやった。

 いい加減、ここまで来ると展開が読める。

 呼び出し方も、前の2人と同じだし。

「・・・・・・・・・・・・・・・ナス」

 ナスって何だ!

 おたんこナス、とか言いたのか!?

 それを略したのか!?

 それをポツリと呟くなよ!

 意味わかんないけど、ちょっと傷ついたぞ!

 いたっ!

 すね蹴って行きやがった、あの女!

 なんてふてぇ、野郎だ!

 女だけど!

 っていうか、ホントなんなわけ?

 何が言いたいのさ!

 どこか行きたいからああいってきたんでしょ!?

 それにOKしたじゃん!

 だからどこに行きたいのかきいたんじゃん!

 それなのに、何で叩かれなきゃいけないわけ!?

 かなり親切じゃん!わたし!

 こんなに良い子、いないよ!?

 ・・・・・いや、いるか。

 ごめん、嘘ついた。

 嘘ついたら、泥棒の始まりだ。

 ヤバイ。

 泥棒なんてしたことないけど、泥棒になっちゃうよ!

 どうしようっ。

 って、問題はそこじゃなくて!

 あの3馬鹿トリオは、何がしたいわけ!?



「ということがあったんですよ」

 聞いてる?

 そう問うと、呆れた表情でニャーと鳴く猫。

 凄い、猫って表情豊かなんだね。

 猫、もとい、ランチ、ゴロンタ。

 まあ、どっちでも良いんだけどさ。

「ある程度の性格はわかってきたけど、まだまだ不思議だらけですよね。あの人達って」

 だいたいさ。

「呼びだしておいて、人を殴るってどういう了見なんでしょうね。わかります?」

 猫に問いかけてみる。

「にゃー」

 なんとなく、さあ?といわれているような気がする。

 わたしって、もしかして動物の言葉わかる?

 ・・・・・・わたしってすげぇ!

 それにしても、わたし何で猫に向かって敬語で話してるんだろう。

 ・・・・・・細かいことは気にしないでおこう。

 うん。

「何猫相手に話しかけてるのよ」

 聞き慣れた声が聞こえ、わたしは顔をあげた。

 そこには、呆れた表情の島津由乃、苦笑した福沢祐巳、微笑みを浮かべている藤堂志摩子の3人。

「いや、なんとなく」

 そこにたまたまこの猫がいたんだもん。

 突如現れた島津由乃達をみて、猫は走り去ってしまった。

 あ〜あ。

「だいたい、何で敬語だったのよ」

 何で・・・・・。

 う〜ん、何で・・・・・。

「ノリで」

「・・・・・・ばっっっっっかじゃないの?」

 うわっ。

 すっごいためて言われた!

 泣くぞ?

 泣いちゃうぞ?

「よ、由乃さんっ」

 良い子だね、福沢祐巳。

 君だけだよ、本当に。

 細川可南子が、君のこと天使って思うのも頷けるよね。

 3馬鹿トリオとか、ファミリーと会った後に会うと、本当に癒されるよ。

 癒し系だね、福沢祐巳。

 おめでとう(?)

「巳星さん、大丈夫?」

 って、近っ!

 近いよ、藤堂志摩子!

 いつの間にこんな近くまできたんだ!?

 島津由乃達だって、驚いているじゃないか!

 瞬間移動か!?

 くっ。

 いつの間に、そんな高度な技を!

 なんか、負けた気がしてむかつくぞ!

 いや、大丈夫。

 わたしにだって、瞬間移動くらい出来るはずだ!

 なんせわたしは、猫の言葉もわかる女!

 頑張れわたし!
 
 ファイト、オー!

「いい加減、戻ってきてくれない?」

 すいません。

「それで?何があったわけ?」

 呆れたその表情が痛いッス。

 わたしはとりあえず、今までの3薔薇の行動を説明した。

「って、わけ」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 無言!?

 それも、島津由乃の目がかなり鋭いんですけど!

 藤堂志摩子なんか、黒いオーラ出し過ぎ!

 お前は何で泣いてる!福沢祐巳!

「確かに、薔薇さま方はそろそろ卒業。いくら大学部の方に行くとしても、今みたいに会える確率は
少ない。・・・・・こんな簡単なことが予想出来なかったなんて!」

 一人ブツブツと呟く島津由乃。

 ど、どうしたっ?

「ふふ。お姉さま方ったら、抜け駆けだなんて。素敵なことをしてくれるわ」

 クスクスと笑い、黒オーラ大放出の藤堂志摩子。

 お前怖っ!

「えぐえぐ。皆さん狡いですよぉ。わたし、今までずっと我慢してたのに〜」

 子どものように涙を流す、福沢祐巳。

 マジで何で泣いてるわけ!?

 わたしは怖くなって、そっとその場から立ち去った。




 今更気づいたけど、わたしってホント、不思議系に囲まれてたんだね。

 福沢祐巳は癒し系だって思ったけど、同じ不思議系だったよ。

 まさか、急に泣き出すとは・・・・・・。

 睨まれるのも、黒くなられるのも怖いけど、泣かれるのもちょっと怖いよね。

 もしかして、山百合会にまともっていない?

 ・・・・・・やばくない?

 かなり、やばくない?

 大丈夫か?リリアン。

 平気か?リリアン。

 いや、一応まだ支倉令と、小笠原祥子がいる。

 今までの行動からみて、まともではないだろうけど・・・・・・・。

 希望を捨てるな!須加巳星!

 捨てたら、未来は暗いぞ!

「「巳星ちゃん!!」」

 あ、噂をすれば影だ。

 振り返ると、予想した通り支倉令と小笠原祥子。

 何故か、必死な様子。

 どうしたんだろう。

「どうしたの?」

「お姉さまから話を聞いて」

「すぐに飛んできたんだ」

 ・・・・飛んできたの?

 凄くない?2人とも。

 飛んできたんだって。

 もしかしてこの2人、人間じゃなかったりする?

 ありえるかも・・・・・・。

 嘘嘘、比喩だっていうことくらいわかってる。

 うん、比喩だって事くらい・・・・・・。

 比喩、だよね?

「それで?」

「「そ、それで・・・・・」」

 言葉に詰まる支倉令と小笠原祥子。

 まさか、何も考えてなかった?

 何でそこまで必死になって、わたしを探したんだろう?

 まさか、小笠原祥子と支倉令も、一緒に出かけたかった?

 なるほど。

 それなら、納得だ。

「どこに行きたいの?」

「「え・・・・?」」
 
「えって、2人も一緒に出かけたいから、わたしを探してたんじゃないの?」

 そう問うと、2人は大きなため息をはいた。

 失礼な子達だ。

 知ってたけど。

「そういうことにしておいて」

 いや、おいてって、違うって事?

「どういう意味?」

「何でもないから。抜け駆けされたと思って、焦っただけだから」

「抜け駆け?」

 眉をよせる。

 藤堂志摩子も言っていた言葉だ。

 もしかして、支倉令と藤堂志摩子って、同じ思考の持ち主。

 ・・・・うそぉ!

 ぜんっぜん、見えない!

 でも、人ってどこで繋がってるかわからないし・・・・・。

 って事はもしかして、支倉令も黒い可能性あり!?

 それってやばくない!?

 い、今から警戒しておこうっ。

 いつ目覚めるかわからないし!

 藤堂志摩子だって、急に現れたしね!

「あ、気にしないで良いから!」

 焦ったように言うその様子からは、黒そうには見えない。

 いや、外見に惑わされたらいけん!

 いつ何時、本性を現すかわからないしね!

「そ、それじゃあ、私達は教室に戻るわね!」

 小笠原祥子も焦った様子で、支倉令の手をとって去っていった。

 去っていったっていうよりも、引きずっていったっていう方が本当だけど。

 頑張れ、支倉令。

 負けるな、支倉令。

 でも、黒くはなるな、支倉令。

 いつか。

 そのうち、きっと、君にも幸せが訪れる日が来るから!

「ちょっ!祥子!引きずるのはやめて!やめてってばぁっ!」

 支倉令の叫び声を聞きながら、一生ないかもしれないと思い直した。

 


          

 

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