【デート計画 上 】


	 



「あ、巳星さん」

 廊下を歩いている時そう声をかけられ、そちらを向く。

 そこには、藤堂志摩子と蟹名静の姿が。

「どうしたの?」

「実は、どこに行こうか迷っているのよ」

 学校じゃないの?

 小説では学校に行くことになってなかったっけ?

 首を傾げつつ、2人へと近づいていった。

「学校とかには行かないの?」

 そういうと、蟹名静が驚いたような表情でこちらを見てきた。

「な、なに?」

「いえ。そう思ったのは、なぜ?」

 逆に問い返され、わたしは考える。

 もとい、思い出そうとした。

「う〜ん。親睦を深めるためと、諦めない、ってことを伝えるため?」

「・・・・・ふふ。巳星さんって、本当に不思議な子ね」

 不思議って、初めていわれた!

 今まで、変とか面白いとかしか言われたことなかったからね!

 ・・・・・でも、褒め言葉じゃないし。

 何喜んでんの、自分(凹)

「そう?そういう反応するってことは、考えてたんでしょ?」

「ええ。だけど・・・・」

 蟹名静は藤堂志摩子へと顔を向けた。

 わたしもそちらへと顔を向けると、不思議そうな表情で首を傾げる藤堂志摩子がいた。

「志摩子さんは、私が考えていたよりも白薔薇さまを想っていないようだから」

「・・・・・・姉(スール)が呼び出されたのに、それに気づかずにわたしの方に来たくらいだもんね」

 あの時のことを思い出し、ちょっと遠い目。

 当時のことを言われたからか、藤堂志摩子は恥ずかしそうにする。

「み、巳星さんっ」

「あ、ごめんごめん。そうだ。なんなら、わたし達と一緒にデートする?」

「「え?」」

「そっちが良いなら、こっちに引き入れようか?元々、こっちは5人でデートだし今更2人増えても
変わらないよ?」

 そういうと、2人は顔を見あわせた。

「私は、構いません」

「ええ。私もその案にのるわ。というわけよ」

 それに頷く。

「じゃあ、放課後に話し合いがあるから、薔薇の館に来てくれる?」

「ええ。伺うわ」

 蟹名静の言葉に再び頷き、わたしは藤堂志摩子と一緒に教室へと戻っていった。

「でも、本当の良かったの?」

「何が?」

「勝手に決めてしまって」

 ああ。

 別にかまわないと思うけど。

「向こうも、わたしだけよりも藤堂志摩子も一緒の方が嬉しいだろうし」

 またまた驚かれた。

 ホント、多いな、驚かれるの。

「・・・・・・巳星さんらしいわ」

 けど、藤堂志摩子はすぐに微笑みを浮かべて自分の教室のある方向へと歩いていった。

 ?

 らしいって、何が?



 放課後になり、途中であった藤堂志摩子と一緒にビスケット型のドアを開ける。

 そこには、佐藤聖達と楽しそうにお茶を飲み、話をしている蟹名静、玖珂姪、水菜弥生がいた。

「ごきげんよう。もう来てたんだ」

「ごきげんよう。巳星ちゃんのお客様よ」

 そういって嬉しそうに笑うのは水野蓉子。

「ご機嫌だね」

 水野蓉子のご機嫌な様子に、わたしは笑いながら言った。

「ええ、とても楽しいもの」

 本当に嬉しそうに言う水野蓉子のその姿は、いつもの唯我独尊ぶりが嘘のようだ。

「そ、良かった」

 水野蓉子の頭を撫で、わたしは藤堂志摩子とお茶の用意を始める。

「ごきげんよう。あれ?」

 部屋の中をみて首を傾げる福沢祐巳。

「福沢祐巳、何が飲みたい?」

「あ、ありがとう。オレンジペコが良いな」

「了解」

 オレンジペコの缶を取りだして、流し台に乗せる。

「巳星ちゃん、私ももらえるかしら?」

「大丈夫。用意してるから」

 鳥居江利子が言ってきたので、わたしはそう返した。

 さっきみた時、ほとんど無かったからね。

「さすが」

「・・・・でしょ?」

 何が「でしょ?」だかわからないけれど、とりあえずそう答えておいた。

「巳星ちゃん、私のもお願い」

「あ、わたし―――」

「はいはい。ちゃんと2人のも、用意してるから」

 気付くっつーの。

「ありがとう」

 素直なお礼にビックリし、振り返る。

「・・・・何よ、その反応」

 ニッコリと微笑みながら、水野蓉子。

「いや。水野蓉子にお茶をいれて、お礼を言われたことないからね」

 今までここに来て、お茶を入れてお礼を言われたことないよね?

「そうかしら?」

「鳥居江利子は絶対に言わないから」

 何さりげなく、私は言ってるわよ?みたいな顔してるかね、君。

「酷いわね」

「本当のことでしょうが」

 酷いわねって、わたしの方が酷いこと言われてるっつーの。

 変だとか、変だとか、面白いだとか、面白いだとか、変だとか。

「言われたね、江利子」

「お前もだ、抱きつき魔」

 流し台に立ってすぐ抱きついてきた佐藤聖に、デコピンをする。

「お姉さま、危ないですわ」

 熱いヤカンを持って微笑むな!

 なんかそれで殴られそうな勢いだぞ!?

 熱いんだぞ!

 沸騰する寸前だったから、熱いんだぞ!?

「ご、ごめん」

「姉(スール)を脅すなよ」

「あら。私はただ、ヤカンをもっているだけよ?お姉さまをこれで殴ろうとも、肌につけようとも思
ってないわ」

 十分怖いわ。

 むしろ、やるつもりだっただろう。

「し、志摩子さんっ!」

 福沢祐巳が慌てたように藤堂志摩子の持っているヤカンを奪い取ってくれた。

 ホッ。

「やぁね、祐巳さんまで」

 この人黒いよ!

 蟹名静よりも黒いよ!!

 っていうか、今更本性現し始めたし!

「祐巳、色々気をつけよう」

「だ、だね」

「酷いわ、2人して」

 藤堂志摩子、絶対薔薇の色間違えたでしょ?

 今の君、鳥居江利子にそっくりだよ。

「祐巳、君だけは普通だよね?」

「ふ、普通以外にはなれないよ」

 それにどでかい安堵の息を吐いた。

「だよね」

「なんだか、まるで私達が普通じゃないみたいね?祐巳ちゃん?」

「いいいいいえ!そんなことはありません!!」

 声、裏返ってるよ、福沢祐巳。

 水野蓉子も、素敵笑顔で脅さない。

「出来たよ」

 ため息をつきつつ、3人の前に紅茶を置く。

「「「ありがとう」」」

 ブルッ。

 ごめん、今ちょっと寒気を感じた。

「どういたしまして」

 すぐに自分たちの紅茶をもち、いつもの席に座る。

 そこで目に入ったのは、ポカンとした表情でこちらを見る蟹名静達。

 あ、忘れてた。

「これが、この人達の素だから気にしないで良いよ」

 それだけいって、わたしは紅茶を飲む。

「それで、蟹名静から話は聞いた?」

「え、ええ」

「は、はい」

 水菜弥生と玖珂姪が、少し慌てたように頷いた。

「じゃあ、どこに行きたい?といっても、指定されたお金で行けるところといったら、K駅とか位しか
ないけどね」

 最近知った、K駅の場所。

 ちょっと感動したのは秘密だ。

「そ、そうね。実は、行きたい紅茶のお店があるの。行ってみない?」

 蟹名静がそういうと、わたし、藤堂志摩子、水菜弥生、玖珂姪は頷く。

「良いと思うよ。後は、お店とか見て回ろうか」

「そうね。小物とか、あの子達は好きそうだし」

 わたしの言葉に、水菜弥生が同意してくれる。

「あの、祥子さまの従妹の?」

「そう。ドリルヘッドが松平瞳子で、もう一人が土田尚子っていうんだ」

「ドリルヘッドって」

 ブッと吹きだし、口を押さえる佐藤聖。

 鳥居江利子も口を押さえ、笑っていた。

「こらこら。素敵ヘッドなんだから、笑ったら悪いよ?」

「巳星ちゃんの言い方が、笑いを誘うのよ」

 わたしの言い方?

 水野蓉子の言葉に、わたしは眉をよせる。

 あの髪型を、ドリル以外の何で表現しろというんだ?

 アレはドリル以外の何物でもないと思うけど。

「・・・・・地面が掘れそうな髪型?」

「それドリルと一緒だってっ」

 さらに笑う佐藤聖達。

「・・・・・銀マニ、交代」

「わ、私?」

「わたしは、ドリル以外が思いつかないから」

 そう答えると、藤堂志摩子は先ほどの黒さなど何処へ行ったかと思うほどに純粋に、考え始めた。

 ドリル以外で、何が浮かぶだろう?

 ・・・・・・・・・・あ、トルネード。

「・・・・・巻き髪?」

「じゃあ、それで行こう」

「巳星さん。今って、デートの場所を決める話じゃなかったの?」

 笑いながらの福沢祐巳の言葉に、わたしと藤堂志摩子はハッとして顔を見あわせる。

「そうだ。今は、巻き髪はどうでも良いんだって。場所だよ、場所」

「巳星ちゃんが先に言ったんじゃない?」

「わたしは紹介しただけ。入ってきた佐藤聖が悪い」

「わたしのせい?」

 酷いな〜。

 とか言いつつ、顔笑ってるし。

「とりあえず、場所は決まったって感じで良いよね」

 佐藤聖を無視し、わたしはやはり驚いたような表情でこちらを見てくる蟹名静達に言った。

 ハッとし、慌てて頷く蟹名静達。

「どうしたの?」

「い、いえ。教室とかで蓉子さん達を見た時は、もっと張りつめた空気を持っているから」

「・・・・・だって」

 張りつめた空気って、何?

 わたしは、この状態の水野蓉子達しか知らないからさっぱりなんだけど。

「張りつめてる、ね」

「まあ、否定は出来ないわね」

「だね」

 鳥居江利子、水野蓉子、佐藤聖が苦笑する。

「張りつめてるんだ」

「それはそうよ。ここにいない時は、どうしてもしっかりしなくちゃって思うもの」

「・・・・・つるりんと佐藤聖も?」

 驚きつつ、2人を見る。

「見えない?」

 そういわれると、確かに、と思う。

「驚いたけど、それはそうかって思う」

「どうして?」

 佐藤聖が首を傾げながら問いかけてきた。

「見えなくても、見えないだけで本人にとったら、張りつめてるってこともあるじゃん?それ」

「わたしは見えないかも・・・・」

 うわ、言っちゃったよ、この子。

 この子、意外と天然ツッコミだ。

「「祐巳ちゃ〜ん?」」

「すすすすすみません!」

「ま、それほどここでは素を出してるってことでしょ?良いことじゃん」

 紅茶を飲みながら言うと、バッと3人がこっちを向いた。

 うおっ!

 何さ!

 急にこっち向かないでよ!

 ビックリするっちゅーの。

「な、なにさ」

「いや、別に。巳星ちゃんらしいな、って」

「そうね。巳星ちゃんらしいわ」

「ええ。巳星ちゃんらしいわ」

 うわ、トリプルで「らしい」とか言われた!

 「でしょ?」とか言えないって。
 
 せめて、1人が言って。

 3倍はキツイ。

 普通に、キツイから。

「そう?」

 とりあえず、それだけ返す。

 というか、それだけしか返せないって。

「・・・・巳星さんって、変わってる」

 玖珂姪にまで言われ、わたしは床にめり込みそうになった。
        



  

 

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