【企画】

	  



―――PuRuRuRuRuRuRuRuRuRu

 わたしは携帯の呼び出し音で、目が覚めた。

 枕元にある携帯を開き、ボタンを押して耳へ。

「もしもし?」

 目を時計へとむける。

 ・・・・・まだ7時じゃん。

 誰さ。

 冬休みに、こんなに朝早く電話かけてくる人。

【私よ】

 寝起きの人間に、そんなことをいわれてわかる人っているのだろうか?

「私なんていう名前の知り合いいない」

 体を反転させ、顔を枕に埋める。

【眠そうね。今起きたの?】

 クスクスという笑い声。

 ん〜・・・・・。

「トップ?」

【正解。冬休みだからって、ダラダラしていたらダメよ?】

 休みだからこそ、ダラダラすんでしょー?

 欠伸をする。

 ねむい〜。

「ヤダ」

【・・・・・子供みたいなこと言わないの】

 一瞬、驚いたような雰囲気が受話器から伝わってきた。

 どうしたんだ?

「まだ15だし。それで、どうしたの?」

 あ〜、寝そう。

【明日から山百合会の仕事が始まるでしょう?】

「うん」

【それで、私達3年は、明日から仕事は手伝わないことにしたの。お茶会の時だけ行くわ】

「ふーん」

【・・・・・もう少し、残念そうな反応をしてほしかったわね】

 いや、だってもうそろそろだとは思ってたし。

「寝起きだからだよ」

 とりあえずそういって宥めつつ、ベッドから体を起こし伸びをした。

【でも、声はいつもの声よ?】

「気にすんな」

 見えないだろうけど、似非笑顔で返す。

 と、ため息が聞こえた。
 
 失礼な。

【まあ良いわ。そういうことだから、よろしくね】

「了解」

 話を終え、電源を切った後わたしはメガネをかけて下へとおりていった。

 

 久しぶりの薔薇の館。

「ごきげんよう、巳星ちゃん」

「ごきげんよう、紅薔薇、黄薔薇、白薔薇ファミリー」

 小笠原祥子達からの挨拶にそう返すと、一瞬静かになった。

 なに?

「巳星ちゃん。一緒くたにしないでくれないかしら?」

「みんなに返すの面倒くさい、っていうのがあからさまに出てたんだけど」

 小笠原祥子と支倉令が、不満そうにいってくる。

 だって、ねぇ?

「めんどくさいじゃん?」

「うわっ、言っちゃった!」

「言っちゃったじゃないわよ!」

 島津由乃にツッコミを入れられる福沢祐巳。

 藤堂志摩子は一人、苦笑しているけれど。

「細かいこと気にしない」

 わたしはいつもの席に座り、鞄を床におく。

「ところで、トップから電話きた?」

「ええ」

「わたしの所にはお姉さまから電話きたよ」

「私のところも、お姉さまから」

 小笠原祥子、支倉令、藤堂志摩子が答える。

 わたしはそれに頷き、書類を取りだす。

 その書類には、『宝探し、つぼみ&青薔薇さまのチョコレートは何処だ!?』と書かれている。

 その企画については、冬休みが始まる前までさかのぼる。








 仕事がなく、わたし達が雑談をしている時だった。

 そこに、築山三奈子がやってきたのだ。

 ああ、バレンタイン企画か。

 わたしは悟り、傍観することに。

 だって、この企画はつぼみに対してのみだ。

 わたしは一応、薔薇さまの位。

 でる必要がない。

 なら、静観が一番良い。

 ・・・・・ぶっちゃけちゃうと、めんどくさい。

 ぶっちゃけすぎかな?

 でも、心の声だから誰もわからないし良いや。

「バレンタインデーはどうなさるのかしら?」

「「「バレンタインデー?」」」

 島津由乃、藤堂志摩子、支倉令が築山三奈子をみる。

 急な質問に驚いているのだろう。

 子狸は、吹き出しそうになった紅茶を何とか飲んだようだ。

 お疲れさま、福沢祐巳。

「バレンタインデーをどうするか、というご質問に聞こえましたけれど。それに間違えありませんこ
と?三奈子さん」

「え、ええ」

 視線が冷たいな、小笠原祥子。

 築山三奈子はさすがに、その視線に怯んだようだが1つ咳払いをして自分を立て直している。

 頑張れ〜。

 なんとなくやる気がなく、それがわかってしまうような応援を心の中で送った。

 だけど、まわりくど過ぎじゃないだろうか?

 直球過ぎても困るけど、早く本題に移ってほしいと思うのはわたしだけ?

「バレンタインデー。心の内に秘めた想いを、大切な人に打ち明けるための素晴らしい日ではありま
せんか」

 急に立ち上がり、壁を見つめながら語り出す築山三奈子。

 ・・・・・・この場面だけみると、かなり怪しい人だ。

 むしろ、ちょっと(いや、かなり)イッちゃってる人みたい。

「ストップ」

 途中で、築山三奈子の言葉をとめる。

 だって、怖かったんだもん。

 言っちゃ悪いけど、なんか気持ち悪かったんだもん。
 
 だって、壁に向かって、ちょっとイッちゃってた様な表情で熱く語ってるんだよ?

 あれが気持ち悪くなくて、何が気持ち悪いと言うんだ。

「「巳星ちゃん?」」

「「「巳星さん?」」」

「何かしら?」

 ちょっとムッとしたような表情の築山三奈子。

 気付け。

 自分が、今どれほど危ない人だったかを。

 写真があったら、後日見せてあげたいほどに危ない人だったから。

「本題に入らせていただきます。バレンタインデーに何かを企画しているのでしたら、その企画書を
見せてください。持ってきているんでしょう?」

 全員が驚いたようにわたしを見た。

 いや、普通気づくでしょ。

 何かなきゃ、この人わざわざこんなところに来ないって。

「・・・・さすが、異例で青薔薇さまになっただけあるわね」

 そうですね、異例ですよ。

 嬉しくない、異常事態でしたよ。

 思い出させないでほしいな、あの時の気分を。

 地面にめり込みそうになったんだぞ?

「どうぞ」

 企画書を、小笠原祥子達にも渡す。

「『宝探し、つぼみ&青薔薇さまのチョコレートは何処だ!?』って・・・・・・何なのこれは?」

 ってわたしもかい!

 安心してたよ、こんちくしょー!

 まあ、こんなことに小笠原祥子達だけさせるのは悪いし、文句はないけどね。

「言葉通りの意味よ。つぼみと巳星さんの4人が手作りチョコレートを校内に隠すの。それを見つけ
た生徒が勝ち」

 チョコレート、ねぇ。

「ちょっと、みんな来て」

 築山三奈子に断りを入れて、全員を部屋の端に集める。

「どうしたの?」

 不機嫌そうな表情がありありとでている小笠原祥子。

「いっとくけど、断ることは無理だと思うよ?」

「何でよ」

 眉が寄るのは、藤堂志摩子と福沢祐巳以外全員。

 2人は首を傾げている。

「考えてもみなよ。蓉子達は、面白いことが大好き。ってことは、蓉子達はきっとこの話に介入して
くる。わたし達が断ったとしても、明日か明後日にやりなさい、って言いに来るはずだ。3人は、自
分のお姉さまに口で勝てると思う?」

 あの3人が、こういう面白いことを見逃すはずがない。

 何たって、唯我独尊トリオだし。

 そういうと、閉口してしまうつぼみ3人。

 島津由乃はあからさまにムッとした表情をし、福沢祐巳はハッとした表情。

「何でそう言い切れるのよ」

「わたしを青薔薇さまにしたのは、あの蓉子と江利子が一般生徒にわたしのことを話したから。理由
は、2人して『面白いから』ときた。そんな人達が、見逃す企画でもないと思うけど?」

 言葉に詰まる島津由乃。

 あの3人の唯我独尊ぶりと、面白いもの大好きぶりはわたしが一番知ってるつもり。

 だって、被害者だしね(泣

「だから、ここでいくら断っても、意味がないわけ?オッケー?」

 渋々頷くのは、小笠原祥子、支倉令、島津由乃。

 諦めた表情で頷くのは藤堂志摩子と福沢祐巳。

「でも、あの3人の思い通りに動くのも癪だよねぇ?」

「当たり前よ!」

 小声で言葉を強くする島津由乃の言葉に、わたしは口端を上げた。

「なら、ちょっと任せておいて」

 わたしがその場から離れて席に戻ると、小笠原祥子達も席に戻る。

「話は終わったかしら?」

「はい。この企画、了承します」

「ありがとう。さすが、話しがわ―――」

「ですが」

 築山三奈子の言葉を遮り、わたしは書類へと目を通す。

「この内容では、了承できません」

「何故、と聞いても良いかしら?」

「まず一番に、チョコレートの部分です」

「あ、それはわたしも気になった」

「ええ。私もよ」

 わたしの言葉に支倉令と小笠原祥子が同意する。

 島津由乃と藤堂志摩子も、同じようなことを思ったらしい。

 約一名、何がダメなのかを考えている子狸がいるけれど。

「かさばるから、とかじゃないから」

「えっ!?」

 考えていることがバレたからか、かなりの驚きを表してわたしを見る福沢祐巳に呆れた視線を送る。

「チョコレートは生もの。これだけ言えばわかる?」

「????」

 首を傾げる福沢祐巳に、小笠原祥子と島津由乃がため息をついた。

 わたしと支倉令、藤堂志摩子は顔を見あわせて苦笑。

「宝探しっていうことは、隠すっていうことだ。もし土の中に隠したとして、いくら袋に入れている
からといって土の中から出てきた食べ物を食べたいと思う?」

「あ・・・・」

「そういうこと。第一、チョコレートということは、隠す場所が限られる。むしろ、隠せる場所なん
てほとんど無いんじゃない?ある程度空間がないと、隠せない。机の中、ロッカーの中、テーブルの
下。そんなところにしか隠せない」

「確かに」

 福沢祐巳が納得したところで、わたしを唖然とした表情でみてくる築山三奈子へと目を移す。

「というわけで、チョコレートは却下です」

「ならっ!」

「するんでしたら、カードとかですね」

 修正するわ、とでも言おうとしたのか。

 まあ、その前に提案をしてしまったけれど。

「え・・・?」

 まさか、わたしの方から提案するとは思っていなかったのだろう。

 すっごく驚いてる。

 何度もいうけど、目玉落ちるよ?

「それぞれの薔薇の色のカードなら、隠すところは無限に広がりますからね」

「けれど、カードなんて探してまで欲しいものかしら?」

「まあ、副賞をつければ問題ないんじゃない?例えば」

「「「「「「例えば?」」」」」」

「半日デート券。その企画は、放課後にでも予定しているのでしょう?」

「っ反対!反対!」

「諦めな、由乃。バックに薔薇さまがついている以上、この企画は呑まなくちゃいけない。それに、
彼女たちなら、もっと酷い提案をしてくるかもしれないんだよ?1週間、姉妹(スール)交代、とか
ね」

 ありえる、とか思ったのだろう、言葉に詰まる由乃達。

「な、何故わたしが薔薇さま方に話をしたと知っているの?」

 築山三奈子は、彼女たちの性格を知らない?

「わたし達は、いつも一緒にいたんですよ?わからないわけがありません。彼女たちが、自分たちに
被害もないこんな面白い企画を見逃すはずありませんから」

 肩をすくめて答えると、絶句する築山三奈子。

「手書きのカードに、半日デート券。人を商品にすることには抵抗を感じますが、彼女たちによって
さらに酷い提案を呑まされるよりはマシですからね。それと」

 ハッとしたように我にかえり、わたしを見る築山三奈子。

「わたしやつぼみは、その1時間の間スタート地点から動けないみたいですが、薔薇の館で待機させ
ていただきます」

「「「「「「薔薇の館で?」」」」」」

「はい。薔薇の館で、やりたいことがあるので。以上のことが呑めないのでしたら、申し訳ありませ
んがこの企画はなかったことにさせていただきます」

「わ、わかったわ。修正しておくわね」

「よろしくお願いします。カードは、こちらで用意させていただきますので」

「ええ、お願い」

 何故かフラフラとした様子で部屋から出ていった築山三奈子。

 どうした?一体。

「・・・・・巳星ちゃんって、本当に鋭いわ」

「被害者は語る、だよ。それと、手書きカードは水野蓉子達に書いてもらうから」








 というのが、冬休み前にあったのだ。

「なら良いや。それで、バレンタインデー企画、どうする?」

「どうするって?」

 首を傾げるのは福沢祐巳。

 支倉令の隣でも、島津由乃が首を傾げていた。

「あ、そっか。2人にはいってないんだっけ」

「何をですか?」

 ムッとしたような口調の島津由乃に、支倉令は苦笑。

 頑張れ、支倉令。

 そして、そんな君がヘタレだ。

「巳星ちゃんが、バレンタインデー企画の時、中学生も一緒に混ぜたらどうか、って提案を出したの
よ」

「「中学生も!?」」

 そんなに驚くことか?

 ・・・・・驚くことか。

「中等部と高等部がふれあう機会って、なかなかないでしょ?だから、この企画の時に中等部の子と
ふれあえる機会を作ったらどうかと思ってね」

「で、でも何で?」

 顔全体が、疑問符だよ福沢祐巳。

 怪人百面相だね。

 意味が違う?

 大丈夫、わかってて言ってる。

「何人かから、中等部と一緒の行事をしてみたい、っていう要望があってね。高一の子は、来年のた
めに中等部の子と知り合いになりたいみたい」

「だからって、そんな数人の意見を聞くの?他の人は、嫌がるかもしれないじゃない(カード取れる
確率下がるし)」

 まあ、確かにね。

「けれど、良い機会だと思うわ。中等部の子と一緒に何かをするなんて、今までなかったことみたい
だし」

「志摩子さんは良いの!?」

 え?

 何が良いの?

「だって、私はつぼみだから、ほしいカードが取れるわけじゃないもの」

 藤堂志摩子がニッコリと微笑むと、あ、というような表情をする島津由乃と福沢祐巳。

「へー。銀マニ、ほしいカードあったんだ」

「ええ。でも、私はとられる方だもの」

 それはそうだ。

 誰だかわからないけど、ご愁傷様、藤堂志摩子。

「まさか、お姉さま方もその理由で・・・・・」

「ええ。それに、同じ仲間だから、半日デートなんていつでも行けるわ」

「うん。この間みたいに」

 支倉令が言っているのは、スキー旅行のことだろう。

 でも、わたしの時みたいに、問答無用で連れていくのはやめた方が良いと思う。

「というわけだから、よしのん達には拒否権はありません。それで、3人はそれで良い?」

 3人が頷いたのをみて、わたしは築山三奈子がもってきた書類に、そのことを記入した。

「オッケー。中等部の方には、すでに許可とってあるし、大丈夫だね」

「もう許可もらってるの?」

 驚いたようにこちらを見るファミリー一家。

 あ、ファミリーと一家って、同じ意味だ。

 じゃあ、山百合会ファミリーってことで。

「うん。この企画が持ち上がった時に、中等部の方に話しておいたんだ。快く了承してくれた」

 話したわたしも変わってるけど、了承する中等部も凄いよね。

「巳星さんって、行動力あるんだね」

「期限が迫った状態だと、向こうに失礼だからね。それに、行きたくても、突然すぎて時間が合わな
い、なんてことになったら可哀想でしょ?」

 福沢祐巳の言葉にそう答えれば、全員が納得したような表情をする。

「一応、中等部の方は希望した人のみ参加、っていう形にしてもらった。じゃないと、当日に参加者
全員に配るチョコが足りなくなるかもだし」

「そうね。その方が良いわ」

「ありがと。で、もう一つ提案があるんだけど―――」

 わたしは、書類を整えながら、言った。

 みんながカードを探している間、薔薇の館にいたいといった理由を。

 

「巳星さんって、時々突飛なこと言うよね」

「そう?」 

「時々じゃなくて、いつもでしょう?」

 島津由乃。

 その言い方だと、わたしがいつも突飛なことしかしていないみたいじゃないか。

 多大な誤解を招くから、そういうこと言わないでよね。

「あ、そっか」

「・・・・納得するのは、その頭か?」

 わたしは似非笑顔を貼り付け、福沢祐巳のこめかみをぐりぐりする。

「ごっ、ごめんなさいぃ〜!!」

 これって、意外と痛いんだよ?

「わかればよろしい」

 手を放すと安堵の息を吐く福沢祐巳に、ニヤリと笑う。

「でも、良い提案だと思うわよ?素敵じゃない」

「薔薇の館は、敬遠されがちだからね」

 小笠原祥子と支倉令が、微笑みあいながら言った。

「まあ、そうですね」

 呆れたような表情でわたしを見る島津由乃。

 何さ。

 まだわたしの繊細な心をいたぶろうって言うのか?

 ・・・・・・ごめん、自分で言ってて気持ち悪い。

 声に出さないでよかった。

 声に出してたら、気持ち悪さ倍増だもん。

 とりあえず、心の中の思いはなかったことにして。

「といっても、それだけのことで集まるようになるわけではないけど、キッカケにはなってくれるこ
とを願うよ」

「なるわよ、きっと」

 藤堂志摩子が微笑みながらいう。

「そうね。巳星さんなら、きっと出来るわ」

「うんうん」

 何言ってんだか。

 笑顔で言い切った島津由乃と福沢祐巳の額に、一回ずつデコピン。

「痛っ!ちょっと、何よ!」

「酷いよ〜」

「違うでしょ?わたし達が、やるんでしょうが」

「「「「「え?」」」」」

「わたしだって、一人ならこんな事しないって。みんながいるから、仲間がいるから出来るの。オッ
ケー?」

 片眉をあげて5人に問う。

 一人で、この学校まとめられるはずないっしょ?

 それでなくても、山百合会だけでも摩訶不思議少女達ばかりなんだから。

 無理無理。

 それでなくとも、4月からさらに摩訶不思議少女達が増えるんだし。

 ストーカーとか、ストーカーとか、ドリルとか、ストーカーとか。

 あ、ほとんど細い川の人だ。

 ま、気にすんな。

「でしょ?」

 彼女たちは驚いたような顔をしたけれど、すぐに綺麗に微笑んで頷く。

「「「そうね」」」

「「そうだね」」

 わたしもそれに微笑んで頷いた。




          

 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次  前へ  次へ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送