【多数決】

	  



 家から数分の所に、小さな公園がある。

 わたしは、久しぶりにまったりとした時間をそこで過ごすことにした。

「・・・・・・・・・・・・・」

 うん、ごめん。

 無理だった。

「あ、いた!」

 いや、いたじゃないから。

 っていうか、なんで家知ってるわけ?

 っていうか、なんでここにいるわけ?

 もう、ツッコミどころが満載 w

「もうお昼よ?」
 
 うるせぇよ。

 っと、失言失言。

「いつまで寝ていたの?」

「っていうか、君らがいつからいたの、だよ」

 呆れを通り越して、悲しみさえ湧いてくるね。

 不幸な自分に乾杯。

 そして、それに耐えてるわたしに万歳。

「ちょっと、トリップしないでよ。巳星さん」

 誰のせいだ、誰の。

「・・・・・なんでここにいるわけ?」

 ため息をつきつつ問う先には、何故かそこには山百合会メンバー勢揃い。

「ご、ごめんね?巳星さん」

「ごめんなさい」

 素直に謝るのは、福沢祐巳と藤堂志摩子の2人のみ。

 その横で疲れたような表情でいるのが、二条乃梨子。

 ・・・・・・この子達は、確実に連れてこられたっぽいね。

 ご愁傷様。

 って、人のことをいっている場合じゃないんだよね。

「良いけど。二条乃梨子、大丈夫?」

「・・・・・・パワフルですね」

「そうだね。年長者が、一番パワフルだからね、山百合会って」

 ええ、そりゃあもう。

 顔を変えたアンパンマン並に、パワフルなんだよこの人達。

 いや、100倍なんてもんじゃないね。

 アンパンマンとドキンちゃんの元気を足しても敵わないくらいだわ。

 特に、トリオが、ね・・・・・・。

 ちょっと遠い目をしてしまうが、そんなわたしを現実に戻したのがトリオに唯一ついていける
ほどのパワーを持っている島津由乃。

「巳星さん!今日は皆で一緒に遊ぶんだから!時間がないのよ!」

 知らないし。

「そういうなら、ちゃんと連絡してよ。来るかわからない、こんな場所でまつくらいなら」

 もし今日公園に来なかったら、この人達ってどうしてたわけ?

「ドッキリの方が面白いでしょう?」

 ニッコリと微笑む鳥居江利子。

 ・・・・・・・・・・バカだ、この人って絶対にバカだ。

「巳星ちゃん。言いたいことがあるのなら、口に出してね?」

 微笑む水野蓉子。

「これからどこに行くの?」

 とりあえず、思ったことは言わないでおく。

 変な反撃に来られそうだから。

「海!」

「却下」

 佐藤聖が笑顔で叫ぶが、わたしはそれに即答する。

「何でよ!」

「海になんていったら、君らの頭のネジが錆びるでしょう」

 なんていうけど、海は嫌だ。

 泳げないとか、そういう理由ではない。

 なんか、亀とか鮫に襲われそうじゃない?

 まあ、さすがに真冬に泳ごうとか言い出すほど、バカじゃないと思うけどさ。

「頭のネジ?」

 不思議そうに首を傾げる藤堂志摩子。

「大丈夫。頭のネジが危ないのは、トリオだけだから」

 うん、君らは普通だから平気。

 島津由乃は、微妙な位置にいるけどね。

「下らないこと言ってないで、本当に決めた方が良いのではないですか?」

 ・・・・・・・・決まってなかったの?

 それなのにここにいて、皆で一緒に遊ぶの、とか言ってるわけ?

「山百合会の将来が不安だ・・・・・・・」

 こんなにボケボケがいて、平気なのか?



 あれから、どこに行くかが決まったのは30分後。

 いや、決めとこうよ。

 わたしが来る前に、せめて案くらいだしとこうよ。

「ぬくい〜」

「佐藤聖。人の熱を奪うな」

「だって寒いんだもん」

 もんってなんだ、もんって。

「第一、歩きづらい」

「巳星ちゃん。年頃の女の子として、抱きつかれて嫌がる理由が歩きづらいってどうなのかしら?」

 不満そうにそういうのは水野蓉子。

 いや、でもさ

「わたしに、年頃の女の子の対応を求められても困るから」

 そう答えると、全員が納得の表情を見せた。

 ・・・・・・・全員に納得されると、それはそれで悲しいね。

 別に、わたし自身年頃の女の子っぽくないのは自覚してるけど、全員に納得されるのもちょっと。

「あ、見えてきました」

 支倉令が指さした先には、モダンな感じの建物。

「へー」

「どう?この間見つけたのよ」

 鳥居江利子が微笑みながらいってきた。

 わたしはそれに笑みを返す。

「良いんじゃない。綺麗だしね」

 そういうと、鳥居江利子は嬉しそうに笑った。

 うん、やっぱり美人だね。

 というか、ここにいる人達って皆美人とか、可愛い系なんだよね、思えば。

 だから、さっきから視線集めまくり。

 なのに、視線が来るたびになぜか水野蓉子達が相手を睨むから、すぐに視線は消える。

 恐い集団だ。

 そして、わたしがその中にいるというのが問題だね。

 一言でいうなら、チョー嫌だ。

 それから店内に入り、わたし達は店員に案内された席へ。

 店内も、外見と同じように落ち着いた雰囲気だった。

「それじゃあ、多数決ね」

「はっ!?」

 なにその主語無しの決定事項!

 なんのために多数決するわけ!?

 なんかおかしいよっ。

 今日この人達、なんかおかしいよ!

 いつもの倍くらいおかしいよ!

「じゃあ、良いと思う人〜」

 無視された!?

 綺麗に、それも佐藤聖に無視された!

「「良いと思います」」

「私もです」

「「「わたしも良いと思います」」」

 トリオ以外のメンバーが手をあげる。

 支倉令達にも無視されたよ!

「もちろん、私達も良いわ」

「ちょっと待った。なんの話し?」

 水野蓉子に被るように、わたしは問う。

 その問いに、佐藤聖は「ん?」と首を傾げ、笑った。

「明日から行く2泊3日のスキー旅行に、巳星ちゃんを入れるか否か」

「・・・・・・・・はあ!?」

 何いってんのこの人!

 というか、この人達!

「わたしの意見を聞こうよ!まず!」

 その3日間、暇かどうかを聞こうよ!

 ねえ!!

「あら。巳星ちゃん、その日暇なんでしょう?」

「そうだけど、なんで知ってるの!?」

 鳥居江利子の言葉に驚いているわたしに、水野蓉子が答えた。

「お母様にお聞きしたわ」

 ・・・・・・・・あぁ、もう、意味わかんない。

 誰か、説明お願い。

 簡潔で良いから、説明してっ。

 そう机に突っ伏しながら呟くと、二条乃梨子が戸惑い気味に教えてくれた。

 たんだけど・・・・・・。

「一応、これもドッキリ企画らしいです」

 ごめん、簡潔はやめて詳しく説明してください。

 簡潔すぎて、意味わかんなかった(涙

「あの、薔薇さま方が卒業前に、皆で一緒に旅行とかに行きたかったらしいの。それで、皆で
時間作っていこうということになって」

「それとドッキリと、何が関係あるのでしょう?」

 藤堂志摩子に問う。

 とか言いつつ、なんとなく予想ついちゃう可哀想なわたし。

「あら、ドッキリの方が面白いでしょう?」

 やっぱりだよ。

 ああ、もう!

 お凸が輝きすぎだよ!鳥居江利子!



 来ました。

 スキー場。

 本当に来ちゃったよ。

 泣きそうです、あたくす。

 ああ、笑顔で送ってくれた母が、凄く腹立つ。

 あんなあでやかな笑みを浮かべた母親見たの、いつぶりだろう?

 ・・・・・・・・・小笠原祥子の家に泊まる日に、見たわ。

 あの時も、同じようなあでやかな笑みを浮かべて見送ってたね。

 ついでに、嫌なことも思い出しちゃったよ。

 ったく、人に今まで友達がいなかったみたいな言い方して。

 そりゃあ、いなかったけど・・・・・・。

「そういえば巳星ちゃん。親衛隊がいたって、本当?」

「っなんで知ってるの!?」

「「「「「「「「親衛隊!?」」」」」」」」

 わたしの声と、江利子以外の声が重なった。

「巳星ちゃんのお母様に聞かれたのよ。巳星ちゃんの、親衛隊の人?って」

「なんで、こう・・・・・・」

 額に手をあて、空を仰ぎ見る。
 
 ああ、綺麗な空。

 真っ青だね v

 雲一つないよ。

「親衛隊ってどういうこと!?」

 島津由乃に揺さぶられ、現実に戻された。

 もう少し、優しく戻してほしいんですけど。

「わたしに聞かないで。それも、中学校の頃だから」

「巳星ちゃん。中学校の頃、友達はいなかったけど親衛隊の子達が沢山いたって聞いたのだけど」

「鳥居江利子も余計なこと言わない!」

 空を切る、裏手。

「お母様が教えてくださったのよ?」

 とても楽しそうな笑顔で、鳥居江利子がいう。

 ああ、もう!

 本当に楽しそうですね!

「親衛隊・・・・・・・」

 何故かショックを受けたように呟く二条乃梨子に、わたしは首を傾げた。

「二条乃梨子?」

「あ、いえっ。なんでもありません!」

「それならいいけど」

 勢いの良い返事に、ちょっと押された。

 意外と、元気が良いね。

「親衛隊ね・・・・・」

 何故か、島津由乃が低く呟いた。

 それには、恐くて何も問えなかったけれど。

 マリア様、弱いわたしを許してください・・・・・。          



 

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