【天使疑惑】

	  



 あー。

 なんでだろう?

 わたし、最近こんなんばっかだ。

 いや、まだ会ってないし、見ただけだから問題はないけど。

 けどさ、なんでここにいるわけ!?

 細川可南子!!

 君はもっと後の登場人物でしょう!?

 最近、原作無視しまくる子が多いよ!!

 まあ、わたしが一番無視してるんだけどね!

 って、えばってる場合じゃなくて、そうだよ、細川可南子がいたんだよ。

 2年生って、たしか凄い波瀾万丈じゃありませんでした?

 福沢祐巳、天使疑惑。

 ありえない。

 松平瞳子、ドリル疑惑。

 あ、これはネットで言われてたことだ。

 細川可南子、ストーカー疑惑。

 これ、本当。

 ある種の才能だよね。

 将来的に、あんまり育ってほしくない才能だけど。

 すっごく危険。

 佐藤聖曰く、背後霊だしね。

 うっわ、こわっ!

 って、そろそろ会議が始まるじゃん。

 とりあえずわたしは、マリア様像を睨んでいる細川可南子に背中を向けた。

 否、向けようとした。

「何かご用ですか?」

 なんと、向こうから声をかけてきたではないか。

 ・・・・最悪。

「別に、何でもないよ」

 普通、見知らぬ人に自分から声かけなくない?

 というか、わたしだったら声かけないんだけど。

 見られてるだけじゃ。

「それじゃあ」

 わたしは早くこの場から立ち去るために細川可南子に声をかけ、今度こそ背中を向けた。

「待ってください」

 なんだよぉ〜。

 口に出しそうな思いを何とか押し込め、わたしは振り返った。

「あなたは、嫌ではないんですか?」

「?何が?」

 意味がわからない。

 眉をよせ、彼女を見た。

 うん、でっかいね。細川可南子。

 お姉さん、首痛くなりそうだよ。

 嘘、そこまででかくないけど。

 そういいたいくらい、背が高い。

 ビックだね。

「ですから、私がマリア像を睨んでいたことに関してです」

 なるほど。

 でも、別に、ねえ?

「わたし、もともとこの学校出身じゃなくて、編入組だからね。だから、マリア様に思い入れが強いわけでもないんだ」

 それに、どちらかというと仏教徒?

「・・・・変わってますね」

 ふっ。

 この子にもかい。

「悪いけど、その言葉は言われ慣れてるんでね」

 ええ、本当に。

 とてつもなく、ね。

 あ、泣きそう。

 ・・・・嘘だけど。

「褒め言葉ですよ?」

 うわ、笑った・・・・・。

 細川可南子が笑うのって、あまりないことじゃなかっただろうか?

 今日は、もしかして良いことがある?

「そう?それなら良いけどね」

 わたしも笑い返して挨拶をし、薔薇の館へと向かった。



「っ!」

 その人が微笑んだその瞬間、世界の色が変わったような気がした。

 白黒の世界から、色とりどりな色彩の世界に。

 視線を感じた時、無表情で私を見ているあの人に気がついた。

 声をかけたのは、その人の瞳に、何かわからない感情があった気がしたから。

 それに、何かを言われても嫌味で返そうと思っていたから。

 こんな学校を受験させられたうっぷんを、その人で多分晴らそうと思ったのだと思う。

 でも、返ってきたのはあまり感情のこもっていない、でも柔らかな声。

 もっと、声を聞きたいと思ってしまった。

 そんな自分に、驚く。

 それでも、欲求は強くて問いかけた。

 返ってきたのは、納得するような、でも驚く答え。

 あの人は、この学校に馴染んでいるように見えたから。

 変わってる。

 そう思って、そのまま口にすればそれこそ予想外の答え。

『悪いけど、その言葉は言われ慣れてるんでね』

 リリアンはお嬢様学校だって聞いたけれど、そのお嬢様らしからぬ言葉遣い。

 だけど、飾らないその言葉遣いが、好感を持てた。

 自然と、口端があがっていた。

『褒め言葉ですよ?』

 笑うことなんて、ここ最近していない。

 それも、こんなに柔らかい声を口にしたのもいつぐらいだろうか。

 あの人は、人を自然体にしてしまう不思議な力がある。

『そう?それなら良いけどね』

 今度は、その人が微笑んだ。

 本当に、息をのんだ。

 綺麗。

 そんな表現さえ、陳腐に聞こえるほどに美しい表情だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・見つけたっ」

 ごきげんよう。
 
 そういって去っていったあの人。

 もう、あの人の背中さえも見えないけれど、目を閉じれば微笑むその姿が目に浮かぶ。

 天使。

 あの人は、私がずっと探していた天使だ。

 穢れることのない、高潔な存在。

 そんな存在が、この学校にいる。

 私は、あの人と会うためにこの学校を受験する運命だったんだ。

 そんな風にさえ思う。

 きっと、それは間違っていない。

 初めて、私はこの学校を受験できることに感謝した。





           

 

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