【ドリルと遭遇】





 暇すぎて死にそうだったわたしは、町へとくりだした。

 小説でも良くでてくるK駅。

 なんてありえない。

 ローマ字だけの駅なんて理解なんて出来ないし、隣の駅に行くだけで十分お店がいっぱいあるから。

 とりあえず、やることもないのでカフェに入っていく。

 ・・・・・・・・・・・・・・・入ってすぐに、回れ右をしたい気分になった。

 なんで?って。

 それは、そこにドリル髪の少女がいたから!

 っていうか!!

 なんでここにいるのさ!!

 松平瞳子ーーーー!!!

 なんかわたし!

 最近会うはずのない人と会いまくってる気がするんですけど!!

 なんで!?

 わたし、何か悪い事したっけ!!

 イイコでいたよね!?

 わたし、イイコだよね!?

 ハッ!

 固まっている暇はない!

 逃げねば!!

 わたしは踵を返し、お店を出ようとした。

 が、しかし。

 誰かに腕をつかまれた。

 ビクリと震え、振り返る。

「・・・・・・た、武嶋蔦子っ?」

 な、なんでここにいるわけっ?

「ごきげんよう、巳星さん」

 うわっ。

 メガネがキラッて光ったよ、この人!

「ご、ごきげんよう。なんでここに」

「近いのよ。家から」

 最低・・・・・・。

 こんなとこ、来なきゃ良かった・・・・。

「さっ。いらっしゃい」

 嬉々とした様子でわたしの腕をつかんだまま、連れていく武嶋蔦子。

 泣いてしまいたい。

 それも、松平瞳子の隣ってどうよ?

「お客様、ご注文はどうなさいますか?」

「わたしはアイス抹茶で」

「わたしはカフェオレをお願いします」

 わたしがいうと、蔦子が続けていった。

 でも、彼女のテーブルにはまだ飲みかけのカフェオレが・・・・。

 どれくらい好きなんだ、カフェオレ。

「承りました」

 店員がいなくなると、蔦子が笑顔でいってきた。

「巳星さんはなんでここに?」

 ここに連れてくる前に聞けよ。

「ここは常連なの。駅が1つしか離れてないし」

「なるほど」

 何をメモってるんだ!何を!

「そうそう。知ってる?」

「主語を入れて」

 島津由乃じゃないんだから。

「2月14日に、山百合会の人達と新聞部が一緒になって、ヴァレンタインのイベントをすることよ」

「知ってるけど・・・・」

 一応、山百合会のメンバーだし。

 っていうかね?

 君の隣で、松平瞳子のドリルがピクリって動いたのが気になるんだけど。

 チラチラこっち見始めているのに気づけ、武嶋蔦子。

「ね。どんなことするの?」

「企業秘密」

「そんなこといわずに、教えてよー。わたしと巳星さんの仲でしょう?」

 どんな仲だよ。

「秘密なものは秘密。福沢祐巳にでも聞けばいいでしょうが。少し突っつけばボロしちゃうだろうし、
 彼女なら」

「残念。もう、調査済み」

「なら諦めな」

 珍しい。

 あの子がばらさないなんて。

「そこをなんとか!青薔薇さまでしょっ?」

 青薔薇関係ないし!

 っていうか、こんなとこでそんな恥ずかしい呼称で呼ばないで!

 それにほら!

 君の隣のドリルが勢いよくこっち向いちゃったでしょう!

 とりあえず、関わりを持ちたくないので無視をする。

「関係ありません。というか、用がそれだけなら帰るよ?」

「ダメよ!今日は巳星さんと一緒に遊ぶんだから」

 ・・・・いつ決まった、そんなこと。

 別に良いけど、一言言って欲しいんですけど。

「はいはい」

 ため息をつき、わたしは運ばれてきたアイス抹茶を口に入れた。

 ああ、もう!

 見過ぎだよ、松平瞳子!

 こんだけ見てるんだから、武嶋蔦子も気づきなよ!

 穴空くよ!

 禿げるよ!

 それは嫌!

「それで、どこに行きたいの?」

「近くの公園」

「?なんで?」

 わたしは眉をよせ、首を傾げた。

 あの公園に行って、何をするんだろう?

 幼少の頃に戻って、ジャングルジムとかで遊ぼうって?

 絶対に嫌だよ。

「もちろん。巳星さんの撮影大会!」

「却下」

 自分でも驚くほどに即答していた。

 さすがわたし。

 ビバ、慣れ。

「え〜。良いじゃない。やろうよ」

「武嶋蔦子、上目遣いのつもりだと思うけどメガネが光ってて、反対に恐い」

 キラリッて光ったよ今。

「大体。こんなメガネ娘を撮って、どうするのさ?」

 なんなら、メガネが光る角度で撮られようかな。

 それはそれで面白そう。

「なら、そのメガネをとっ―――」

「それこそ却下」

 オッドアイであることがばれるのはいただけない。

 山百合会に入った=騒がれる。

 そうなると、オッドアイであることが武嶋蔦子にばれたら学校で何を言われるかわからない。

 特に、唯我独尊トリオあたりに。

 恐い恐い。

「とりあえず、出よう」

 いい加減、松平瞳子の視線が痛くなってきましたし。

 マジで、穴あきそうです。

「そうね」

 武嶋蔦子が頷いたので、わたしはすぐに立ち上がり会計を武嶋蔦子の分も払い外に出た。

「あっ。お金渡すわね」

「別に良いよ。千円もかかってないし」
 
 お金よりも、松平瞳子の視界から消えることが先決だ。

 わたしと武嶋蔦子がお店を出た時、何故か会計のところに松平瞳子がいったのが見えた。

「・・・・・武嶋蔦子、こっちへ」

 わたしは彼女の腕をつかみ、足早にお店から離れる。

「み、巳星さん?」

「気づかなかったの?わたし達の隣の席にいた子、ずっとわたし達のこと見てたんだよ?」

「そうなの?」

 武嶋蔦子が目を見開いて驚きを表した。

「うん。・・・・山百合会で反応したから、多分リリアンの中等部の子だと思うけどね」

 にしても、個性強いのばっかりだよねリリアンって。

 ・・・・・そこに馴染んでしまっているわたしも、個性が強いのだろうか?

 ちょっと(かなり)嫌だ。

「さすが巳星さん。名推理ね」

 んなこといってる場合じゃないから。

 君は知らないだろうけど、こっちは彼女を知ってるんだよ!

 もちろん、向こうはわたしなんて知らないだろうけど、小説に出てくるの!

「良いから行―――」

「ちょっとよろしいでしょうか?」

 みつかっちまったい!!

 てか、見ず知らずの人に話しかけるなよ!

「はい?」

 わたしは固まり、武嶋蔦子が振り返る。

「言いたいことがあるのですが」

「・・・・なんでしょう?」

 仕方なしに、わたしも振り返る。

 うわ〜。

 ドリルだ。

「私、リリアン中等部3年、松平瞳子ともうします」

 今、わたくし、って言ったよ、このこ。

「わたしは武嶋蔦子よ。こっちが須加巳星さん。それで、言いたいことって何かしら?」

 ・・・・・よし。

 松平瞳子のことは、武嶋蔦子に任せた。

「巳星さま。あなたが青薔薇さまだとお聞きしました」

 任せた途端に、矛先こっち!?

「それが?」

「ハッキリ言わせていただきます。・・・・あなたは、青薔薇さまに相応しくありません!!」

 うわ、ホントにハッキリ言ったよ、この子。

 っていうかね?

 なんで、怒りの矛先がわたしに向けられているの?

 福沢祐巳は?

 小笠原祥子は?

「・・・・それは、ちょっと聞き捨てならないわね。あなたは、巳星さんの何を知っているわけ?」

 お。

 武嶋蔦子が喧嘩腰だ。

 これは初めて見るぞ?

「祥子お姉さまから、色々と巳星さまのことはお聞きしておりますから」

「祥子お姉さま?」

「祥子お姉さまと私は、従姉です」

 なんかしらんが、雲行きが怪しい?

「そう。・・・・祥子さまも、失礼な子と従姉になったものね」

 おお、言うね〜。

 でもね、武嶋蔦子。

 何故そこまで怒っているんだ?

 文句を言われたのはわたしなんだから、君が怒ることじゃなくない?

「なんですって!?」

 お、ヒステリー。

 なんていうか、松平瞳子と小笠原祥子は似てるよね。

 ヒステリーなところとか、天の邪鬼なところとか、たまに素直になるところとか。

「本当のことでしょう?巳星さんのことを聞いただけのあなたに、巳星さんを否定されるいわれはないわ」

 とりあえず、傍観することにする。

「話を聞くだけで十分ですわ!私は恥ずかしく思います!このような方が、リリアンを代表する方だ
 なんて!!」

 いや、別になりたくてなったわけじゃないし。

 むりやり?

 知らぬ間に?

「それこそ恥ずかしいわね。人なんて、実際に話してみないとその人のことなんてわからないのよ」

 良いこと言うね、武嶋蔦子。

 ちょっと感動。

「あなたの想像している巳星さんがどんな人かはわからないけれどね、実際の巳星さんは素晴らしい人よ」

「武嶋蔦子、それは言いすぎ」

 素晴らしい人って。

「そんな事ないわよ。きっと、由乃さん達だってあなたのことは素晴らしい人だって思っているはずよ」

 いや、島津由乃達なら、わたしのことは『変』だと思っている気がする。

 断言しても良いよ?

「それこそ、蔦子さまの想像ではありませんの?どう見たって、この方が私には素晴らしい方には見え
 ませんわ?」

 思わず頷くと、武嶋蔦子に脇腹に肘鉄を入れられた。

 今のは痛かったな・・・・・・(涙)

「それはそうよ。巳星さんを見ただけじゃ、巳星さんの性格なんてわかるはずないもの」

 それはそうだ。

 武嶋蔦子にばれないように小さく頷く。

 また肘鉄を食らうのは嫌だからね。

「見たまんまではありませんの?」

 あ、鼻で笑ってる。

 似合うね、そんな表情。

 その年で似合うようになるのもどうだろうとか思うけど。

 っていうか、見たまんまって。

 わたしの見た目はどんな感じなんだろう?

「見たまんまって?」

 初めて会話に入ってみた。

「無表情に無感動。自分以外はどうでも良さそうで、冷たい人に感じますわ」

 なるほど。

「ふふ。これだからお子様は」

 ・・・・武嶋蔦子が、嘲笑してる。

 ちょっと恐い。

「巳星さんは常に人のことを考え、周りの笑顔を守っている人よ?見た目で人を判断するだなんて、
 まだまだね」

 え?

 常に周りのことなんて考えてないよ?

 凄く言いすぎだよ、武嶋蔦子。

 わたし、そんな良い人じゃないし。

「そうは見えませんけれど?」

 あ、ヒステリーを我慢してる顔だ。

 眉がつり上がってる。

 本当に、小笠原祥子に似てるな〜。

「見えなくても、そうなのよ。まあ、来年はいってきて巳星さんの素晴らしさを見て驚きなさい」

 武嶋蔦子はそこまでいうと、ごきげんようといって話を終わらせた。

 わたしの腕をとって。

「・・・・・・・それじゃあ、ごきげんよう。松平瞳子」

 とりあえず松平瞳子に挨拶をし、わたしは彼女に背を向けた。

「蔦子さまこそ、巳星さまの本性を知った私を見て驚かないでくださいませ!!」

 本性ってなんだ。

 いつでもどこでも、わたしはナチュラルなんだけどな。

「まったく、失礼よね。最近の中学生って、みんなあんな感じなのかしら?」

 ズンズンと進んでいく武嶋蔦子。

 なんだか、あなたが島津由乃に見えます。

「武嶋蔦子、落ち着いて。どうしてそんなに怒ってるの?」

「巳星さんは怒ってないの!?」

 驚いたようにわたしを見る武嶋蔦子に、わたしは頷いて返した。

「あれくらいで怒るわけないでしょ?」

「・・・・・・巳星さんって、温厚なのね」

 温厚とは違う気がする。

 第一。

「あの子、多分本心じゃないと思う」

「え?」

「だって、あのこの言葉に、違う感情が交ざってたし」

 驚いた顔でわたしを見る武嶋蔦子。

「これは憶測だけど、多分小笠原祥子がわたしのことをよく話していたんだと思う」

 自分で言うのもなんだけど、話題に事欠かないしわたし。

 異例で薔薇さまになったり、一般生徒叩いたり、唯我独尊トリオにも小笠原祥子達にもタメ語だし。

 うん、話題はいっぱい。

「それで、小笠原祥子に懐いていた彼女は、わたしに小笠原祥子をとられたと思った。だから、わたしに
 突っかかってきたんじゃないかな?」

「嫉妬の感情が交ざってたってこと?」

「うん。わたしが聞く分には、ね」

 そういうと、感心したように頷く武嶋蔦子。

「さすが巳星さんね。本当、人には鋭いわ」

「人には、が余計」

 わたしは軽く武嶋蔦子の頭を叩いた。




 最近、祥子お姉さまが1人の方の話を良くする。

 その方は、『須加巳星』さま。

 異例の方で、署名で薔薇さまになった方。

 その方の話題は、祥子お姉さま方よりも中等部では出回っている。

 無表情だけど、素敵な方。

 みなさんがそう言う。

 会うたびに巳星さまのことを楽しそうに話す祥子お姉さま。

 初めは、嫉妬だった。

 聞けば、薔薇さま方に敬語を使っていないという。

 なんて失礼な方だろう。

 そう思っていた。

 けれど、お話を聞く度に、私の感情はかわっていった。

 巳星さまが人をフルネームで呼ぶ理由。

 今現在、白薔薇さまのつぼみである方を思っての、朝会での言葉。

 気がつけば、祥子お姉さまから巳星さまのお話を聞くのが楽しみになっていた。

 気がつけば、嫉妬という感情から尊敬という感情へと変わっていた。

 だから、私は入学する前に、その方にお会いしたかった。

 そして今日。

 1人カフェにいる時、隣の方々の話題。

 リリアンの話題だった。

 そちらに耳を傾けた。

 そこで出てきたのが、私の隣にいた方の『青薔薇さまでしょう?』という言葉。

 私は思わず勢いよくそちらの方へと向いてしまう。

 そんな私に気づいた様子もなく、その方、巳星さまは噂通りの無表情で相手の方とお話しをした。

 綺麗だと、思った。

 少し切れ長の目も、黒く天使の輪が輝く黒髪も、切れ長の目を柔らかく見せるメガネも似合っていた。

 そのお姿は、想像していた以上に綺麗で、知らず知らずのうちに見惚れてしまった。

 ハッとした時には、巳星さまは相手の方とカフェを出ていこうとしていた時で、慌てて私は巳星さまを
 追った。

 外に出ると、歩いている巳星さまと相手の方を見つけた。

 その後ろ姿を見て我慢が出来ず、声をかけていた。

 この方に、私を覚えておいてほしい。

 この方に、特別と見てほしい。

 その想いが、我慢できなかったのだ。

 だから、私はあえて傷つけるような言い方をした。

 覚えていてほしいから。

 けれど、なんとも無様な状態で担ってしまった。

 お話ししたのは、実質相手の方。

 巳星さまは、ただ無言でこちらを見るだけ。

 無言で、私の失礼な物言いに憤った様子もなく、静かに見ているだけ。

 その瞳に、私の心臓が激しい音をたてているのに気づくはずもなく。

 そして去り際。

 『ごきげんよう、松平瞳子』

 そういって去ってしまわれた巳星さま。

 その去る背中を見て、私の心は歓喜に震えていた。

 その人を認めているから、フルネームを呼ぶ。

 祥子お姉さまから教えてもらった理由。

 認めてもらえたのだと、そう感じた。

 その時、私は嬉しさに涙が出そうになった。




           

 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次  前へ  次へ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送