【つるりん】!








	  
 朝からやけに視線を感じる。

 なんだろう、一体。

 視線を感じてそちらを向けば、向けられた人は慌てたように目を逸らす。

 これを、何度繰り返しただろう。

「・・・・・・・はぁ」

 ため息をついているうちに、わたしは教室についた。

 教室につくと、昨日休んでいた島津由乃がわたしの前に座っている。

 ・・・・・確かに、はたから見れば儚げな少女だ。

 だが、実際はイケイケ青信号少女。

 密やかに、手術という名の改造をされたのだとネットではいわれていた。

 今はもう興味がなくて見ていないからわからないが。

 ・・・・・・といっても、小説の中に入ってきてしまったのでマリみて関係のネットなど見られる
 はずがないのだが。

 とりあえず、席に座り何度目かのため息。

 ああ、幸せが逃げていく・・・・・。

「ごきげんよう」

 そんなことを思っていると、島津由乃が振り返り微笑んできた。

 ・・・・・これは、似非か?

 だが、挨拶は返さねば。

「ごきげんよう」

 恥ずかしい挨拶だが、此処ではきっと恥ずかしがっている方が恥ずかしいに違いない。

「わたし、島津由乃というの。あなたは?」

 微笑みながら問うその声は、やはり外見の儚さに比例している。

 これでイケイケ(略)なのだから、人とは外見で判断してはいけないな、と改めて思うね。

「わたしは須加巳星。よろしく」

 ん?

 ちらりと光るものが見えた。

 もしや、ロザリオ。

「それって、ロザリオ?」

「え?え、ええ。昨日、お姉さまからいただいたの」

 少し戸惑ったように答える島津由乃。

 そういえば、小説にそんな事が書いてあったな。

 それにしても・・・・・・。

「金属アレルギーの人は、どうするんだろう?」

 ・・・・・またしても、口に出してしまった。

 島津由乃が、驚いたようにわたしを見ている。

「え?」

「いや、気にしないで。ただ思っただけだから」

 そう。

 小説を読んでいた時から気になっていたんだよね。

 首にかけるって、金属アレルギーの人はどうするんだろう?って。

 だって、かなり辛いと思うんだよね。

 痒いし、肌赤くなるし、出来物できるし。

 というか、わたしが金属アレルギーだから思っただけなんだけどさ。

「巳星さんって、金属アレルギーなの?」

「うん。こんなに生徒がいるんだし、金属アレルギーの人も何人かいると思うんだよね。
 わたしは姉妹(スール)とか興味ないけど、そういうことに興味ある人の方が多いだろうし、
 その場合、金属アレルギーの人はどうするんだろうって」

 なぜか、驚いたようにわたしを見てくる島津由乃。

 昨日今日あわせて、驚いた顔で見られるの多いな、黄薔薇ファミリー。

「巳星さん、姉妹(スール)に興味がないの?」

 ああ、それに対しての驚きね。

「うん、べつに。導いてほしいとか、指導してほしいとか思うところないし」

 というか。

「誰かを『お姉さま』とか呼んでる自分も、想像できないし」

「そうかしら?」

 首を傾げられてもね。
 
 笑っていたわたしを、誰かが呼んだ。

「はい?」

「あ、あの・・・・」

 その子がちらりと教室の出入り口を見ると、そこには支倉令。

「お姉さま?」

「・・・・・島津由乃じゃなくて?」

 わたしと島津由乃の言葉が被る。

 支倉令は、笑顔でわたしの所へとやって来た。

 なんだろう?

 わたしと島津由乃は顔を見あわせる。

 支倉令は、島津由乃に挨拶をしたあとわたしを見た。

「須加巳星さん?」

「はあ」

 っていうか、2日で黄薔薇ファミリーと会話しちゃったんですけど・・・・・。

 いや、わたしは大丈夫。

 あくまで、一般生徒。

「昨日、お姉さまを助けてもらったみたいで」

 ああ。

「律儀ですね」

 思ったことを述べる。

「「え?」」

 驚いたようにこちらを見る黄薔薇ファミリー、鳥居江利子抜き。

 何?

 その驚いたような表情。

「なんですか?」

「あ、いや。・・・・・・お姉さまが仰った通り、面白い子だね」

「・・・・あの人の面白いって、こっちに被害きませんでしたっけ?」

 いや、確実にこっちに被害くるはず。

「お姉さまの性格、知ってるの?」

 とりあえず、クラスメイト達を敵に回したくないので小声で言うことにした。

「退屈大嫌い、面白いことならなんでも好き。面白いことがあったら、しつこいくらいに吸い付いてくる。
 別名、スッポンの江利子。あのお凸は、太陽に負けないくらいの輝きを持っていて、むしろ太陽くらいに
 輝いているのではないかと言われている人」

 ですよね?

 いくつか足りないが、ネットではそんなことを言われていたはず。

「いや、ですよねって言われても・・・・・」

 支倉令が困ったように笑った。

 島津由乃は、目を見開いてわたしを凝視している。

 クラスメイト達には、もちろん聞こえていない。

 だが、本当のことだ。

 ・・・・・変なこと、言っただろうか?

 いや、言ったかもしれない。

「・・・・・・・・・・・お姉さまが、気に入るのわかるかもしれない」

「それはちょっと待ってください」

 その言葉は、『ちょっと待った』コールはいるよ?

「え?」

「わたしはあくまで一般生徒、そう一般生徒なんです。一般生徒のわたしは、穏やかに健やかに学園生活
 を送りたいんです」

「あ、うん?」

「しかし、そこに彼女が入ってきたら、わたしは一般生徒の枠内から片足を浮かさなくてはならない」

 ということは?

「ということは?」

 わたしの言葉をそのまま復唱する支倉令。

「妹であるあなたが、彼女を止めなければいけないんです」

「・・・・・わたしが!?」

「他に誰が止められるというのですか?島津由乃では、彼女の口車には勝てません。いくら、島津由乃が
 口達者だからと言っても、鳥居江利子も黄薔薇さま。口では勝てません」

 (もちろん小声で)言い切ると、再び驚かれた。

 ・・・・もう、驚かれるのには慣れた。

 けれど、何に対して驚かれているのかは知りたい。

「え、えっと。由乃の性格も知ってるの?」

 ああ、それにたいしてですか。

「ある程度は。見た目幸薄な島津由乃。しかし、内なるものはイケイケ青信号。『赤信号、みんなで
 渡れば恐くない』も、彼女にかかれば『赤信号、1人で行くなら道づれ必至』」

 これは、わたしが考えたことだけど。

 まあ、外れてはいないと思う。

「ついでに、見た目は好青年。けれど、中は純心乙女。暴走気味な妹と、唯我独尊の姉の間に挟まれた
 苦労人。別名、ヘタ令」

「プッ」

 前の席から吹き出す声。

 見てみると島津由乃が口を押さえて笑っている。

 聞こえていなかったクラスメイト達は、不思議そうにわたし達を見てるけど。

 気にすることもない。

「ヘタ令って、最高・・・・」

 震える声で、小さく呟く島津由乃。

 それが聞こえたのは、もちろんわたしと支倉令の2人。

 そうか。

 このころはまだ、ヘタ令の異名はなかったのか。

「・・・・わたしは嬉しくない」

「そうですか?わたしはその名前、結構気に入ってますよ」

「・・・・嬉しくない」

 ああ、ヘタレだ。

 生ヘタレだ。

 そこでチャイムが鳴った。

「あ、それじゃあ。とりあえず、昨日はお姉さまを助けてもらってありがとう」

 そういって去る背中に哀愁を感じる。

「・・・ヘタレてる」

「あなた、面白いわ」

「・・・・その言葉って、鳥居江利子のセリフ」

「そうだったわね」

 そういう島津由乃は楽しそうだ。

 まあ、楽しいなら良いとしよう。

「・・・・わたしは一般生徒」

 自分に言い聞かせた。

 それを聞いた島津由乃が、可笑しそうに笑っているがこの際無視の方向で。

 

「・・・・・わたしは一体、どこに連れて行かれるのでしょうか?」

 今わたしは、島津由乃に手を引かれて歩いている。

 そして、反対側には支倉令。

 なぜ、わたしがこんなところを歩いているかというと、お昼休みに支倉令が島津由乃を訪ねてきた。

 それは良い。

 姉妹だし、なんの問題もない。

 が、しかし。

 支倉令は、なぜかわたしまで誘ってきたのだ。

 島津由乃も、そのつもりだったのか驚くこともなくわたしの手をとって歩きだした。

 状況がつかめず、結局わたしは教室を連れ出され今に至ってしまった。

「お姉さまが、巳星ちゃんも連れてきてほしいって」

「・・・・・・・・・・・・・あの凸」

 低く呟く。

 それに吹き出すのは島津由乃。

 支倉令は困ったように笑っている。

 本人は気づいているのだろうか。

 その困ったような笑顔が、ヘタレて見えるのを。

「それになんの異論もなく連れていくんですか?」

「うん。だって、巳星ちゃん面白いし」

「・・・・黄薔薇ファミリーの判断基準は『面白さ』ですか?」

 まさに、この姉にこの妹あり、だね。

 遺伝あるんじゃない?

 黄薔薇ファミリーって。

「そうでもないんだけどね」

「が、それが大半だと」

 支倉令の言葉に、わたしは間髪入れずにいう。

 笑う支倉令。

「・・・・・わたしは、一般生徒なのに」

 呪文を呟くわたし。

「巳星ちゃんは、一般生徒とはいいづらいと思うよ?」

「その真意は?」

「だって。普通の生徒って、教室で黄薔薇さまを『凸』とかいわないもん」

「そうね」

「連れ出した後の初めての言葉が同意ですか?島津由乃」

 やさぐれるよ?いい加減。

「それ」

「どれ?」

 それ、とかいわれてもわからないし。

「なんでフルネームなの、ってことでしょう?」

「ああ。わたし、『さん』づけ嫌い」

 というか、小説の主人公達を『さん』づけて。

 すると、なぜか顔を見あわせる黄薔薇ファミリー、鳥居江利子抜き。

「なんです?」

「・・・・・やっぱり、巳星ちゃんは一般生徒とは言えないよ」

「・・・・・やっぱり、巳星さんは一般生徒とは言えないわ」

「言いやがりましたね」

 そういうと、2人は微笑んでうなずきやがった。

「・・・・黄薔薇ファミリーって、嫌い」

 ため息をつきつつ呟いた。

 2人はそれを黙殺してくれた。

 

 やって来ました薔薇の館。

 意外と古い。

 でも、ガラスは綺麗。

 うわ〜、本当にビスケット型なんだ、ドア。

「「ごきげんよう」」

 ハモル姉妹。

 とりあえず、静観。

 部屋には小笠原祥子と、水野蓉子、佐藤聖。

 そんでもって凸がいた。

「巳星ちゃんをお連れしました、お姉さま」

「ご苦労様」

「どこぞの悪代官か」

 思わずツッコミが入る。

 黄薔薇ファミリー以外が驚いているが、そんなことは関係ない。

 だって、自然にでちゃったから。

「ふふ。待ってたわ、巳星ちゃん」

「そうですか。わたしはあくまで細々とリリアンを満喫したかったんですけどね」

 言ってやるさ!

 醜悪の根元はこの凸だ!

「あら、あなたを見逃すなんてできるわけないでしょう?それに、細々だなんて無理だわ」

 いや、この口車に乗ってはいけない。

 のったら馬鹿を見る。

 目を覚ませ、須加巳星。

「そう、わたしはあくまで一般人。一般ピーポー」

 そうさ!

 そうだとも!

 わたしは一般生徒。

 それ以下でも、それ以上でもない。

「あなたのどこが一般人なのかしら?自分よりも背の高い人間を、お姫様抱っこで保健室まで連れて行った
 り、両手が塞がってるからって、保健室のドアを頭で叩くあなたが」

「幻です」

 即答してやる。

「あなたはきっと、幻を見たんですよ」

 似非笑顔には似非笑顔で対応だ。

「あら、なら昨日あなたにベッドに押し倒されたのも幻かしら?」

「倒してねぇし!」

 おっと、乙女らしからぬ言葉遣いだったな。

「やっぱり現実に起こった事じゃない」

「・・・・あなたは、口から先に出てきたんじゃないですか?」

「ありがとう」

 褒めてねぇよ。

「島津由乃。わたしはどうしたら良い?逃げても良い?教室に帰って良い?むしろこの学校辞めても良い?」

 とりあえず、島津由乃に振ってみた。

「全部ダメ」

「うわ〜・・・・・」

 全部拒否された。

「「「プッ」」」

 またプッ?

 最近、吹き出されるの多いよ?

 見てみれば、水野蓉子と佐藤聖、小笠原祥子。

「え、江利子から聞いてたけど、あなた面白いわっ」

「ホントッ。こんな子に、進級してすぐに会えるなんて、今年ラッキーかもっ」

「わ、私もですっ」

「・・・・・・・・よっすぃ。泣いても良いと思う?」

「「「よっすぃ?」」」

「島津由乃のあだ名」

 黄薔薇ファミリーの言葉に、答える。

 某アイドルグループの、現リーダーのあだ名だけどね。

 あそこ、恐いくらいに脱退者多いよね・・・・。

 きっと、気がつけば誰もいなくなるよ、きっと。

 ふふ・・・。

「巳星ちゃん、戻っておいで」

「・・・・・支倉令。あなたをヘタレといったことを許してください。あなたは神だ。此処で唯一の」

 わたしは彼女の両手を握る。

「むしろ、普通の人だ。常識人だ・・・・・・・・・と思いたい」

「巳星ちゃん。最後の余計」

「いつまでも漫才してないで、お昼を食べましょう。お姉さま、巳星さん」

 よっすぃに、わたしは空いている席に座らされた。

 はぁ・・・・。

 わたしはため息をつくと、お弁当をテーブルの上に置く。

「巳星ちゃん、ため息をつくと幸せが逃げるわよ」

「もう幸せは遠のいてますから、お気になさらず。あなたのせいで」

「あらあら」

 楽しそうに笑う鳥居江利子。

「わたし、きっと明日にはグレてる・・・・・」

「本当?なら、明日もきてもらおうかしら」

 聞いてやがったか。

「・・・・・つるりん!あなたはつるりん!」

「・・・・それ、私のこと?」

 驚いたように首を傾げる鳥居江利子。

「ええ。素敵でしょう?」

 ニッコリと微笑んで。

 むしろ『凸』でも良かったが、リリアンでそれはまずかろうということで『つるりん』。

「そうね。良いわね、つるりん」

 水野蓉子も同意してくれたことだし、わたしはお弁当のフタを開けた。
 
「まあ、素敵。今日のお弁当は日の丸だわ。ってなんでやねん!!」

 ノリツッコミしちまったよ!

「「「「「プッ!」」」」」

 そこかしこから聞こえる、今日何度目かの音。

 そこからは笑い声。

 一番大きいのは、佐藤聖のアハハハ、という笑い声。

「・・・・・・わたしの幸せって、なんだろう」

 とことん、それを追求したい気分になった。





          

 

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