【選挙】





「巳星さん、戻ってきて早速だけど、今日の選挙頑張ってね」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ノォォォ!!!

 あったよ!

 そういや、ロサ・カニーナがいたよ!!

 っていうか!

 わたしが入院している間に進みすぎでしょ!!

 もう選挙て・・・・・。

 それも今日!?

 何も考えてないよ!?

 ぶっつけ本番をしろというのですか皆様!

 ・・・・・まあ、それは置いておいてさ

 蟹名静だからって、カニーナはどうよ?

 ちょっとセンスなくない?

 ヤバイよね?

 だって、ロサ・カニーナって黒薔薇だよ?(本当は違います)

 もしかして、あの人黒属性ってこと?

 じゃなきゃ、嫌味だよね?

 蟹名が名字だからって、いくらなんでもカニーナって・・・・・・。

 痛いよね。

 あたし、青で良かった。

 ・・・・でもないけど。

「巳星さん、よろしくね」

 ってどっから現れた!?

「どうも、須加巳星です」

 とりあえず頭を下げる。

「静さまは、白薔薇さまがやりたいんですって」

「へー」

 原作通りですね。

「で、銀マニは?」

 あの子、見た目ではわからないだろうけど、かなり緊張していたよね?

 原作では、だけど。

「巳星ちゃん」

「ッ!?」

 びくぅっ!!

「きゅ、急に後ろから声かけないでくださいっ」

 振り返れば、微笑みをたたえた久保栞の姿。

「・・・栞さま、なんのようですか?」

 うわ〜、敵意むき出しだよ島津由乃。

 ついでに蟹名静も。

 いや、蟹名静はわかるけど、なんで島津由乃も敵意むき出しなの?

「巳星ちゃんに会いに来たのよ」

 天使のように微笑む久保栞だが、その言葉の内容が意味わからない。

「あの、何でわたしに会いに来たんですか?」

 というか、わたしは藤堂志摩子に会いに行きたいのですが。

「それはもちろん、巳星ちゃんが―――」

「お待たせ、由乃、巳星ちゃん、静さん」

 どこからともなく、支倉令が現れた。

 それも、久保栞の口を押さえて。

 なんか、前もこんな場面見たような気がする。

「お姉さま、ナイスタイミングです」

「ありがとう、由乃」

 ・・・仲良いな〜、相変わらずこの2人。

「んじゃ、わたし銀マニのところに行ってくるから」

「「なんで?」」

 黄薔薇姉妹に問われ、わたしは肩をすくめる。

「銀マニ、緊張してそうだし」

「わたしだって、緊張してるのに!」

「人の口押さえてて、何が緊張してるか」

 わたしは支倉令の額を軽く叩き、藤堂志摩子のところへと向かった。

「・・・・令ちゃ〜ん?」

 何故か島津由乃の低い声が聞こえたが、気にすることもないだろう。

 いつものことだ。

「あ、いた」

 藤堂志摩子は、舞台袖に立っていた。

 軽く、藤堂志摩子の肩を叩いた。

「キャッ!」

「ってしぃー」

 慌てて藤堂志摩子の口を押さえる。

 藤堂志摩子の大きく開いた目が、わたしを見た。

「静かにね」

 頷く藤堂志摩子に、わたしは手を放す。

「み、巳星さん、一体どうしたんですか?」

「いや、緊張してるだろうと思ってね」

 微笑み、彼女の頭を撫でた。

 何故、顔を赤くする?

 緊張しているのがバレたから?

 ・・・・まあ、良いや。

「佐藤聖から、何か言われた?」

「・・・・いいえ」

 だろうな〜。
 
 佐藤聖は、終わった後に会いに来るって書いてあったし。

 硬い表情をする藤堂志摩子の頭を、軽く叩く。

「あの、巳星さん」

「ん?」

「巳星さんは、緊張しないの?」

「いや、これといって」

 だって、ねぇ?

「命綱なしのロッククライミングの方が、ドキドキだったし」

「・・・・・命綱、無しでやったの?」

 うわっ。

 目が落ちる!

 零れるよ藤堂志摩子!

 目を閉じろ!!

「う、うん」

 意識は藤堂志摩子の目。

 見開きすぎだよ。

「あと、熊と対峙した時とか、冬山で雪崩に飲み込まれそうになった時とか。・・・・色々と、半端ない緊張感味わってるから、
 わたし」

 ちょっと遠い目。

 そのおかげ、といっていいのかわからないけど、これくらいのことで緊張はしない。

 第一。

「落ちても、なんとも思わないし」

「あ・・・。巳星さん、やりたくてなったわけではないものね」

「そういうこと」

『小笠原祥子さん。よろしくお願いします』

「あ、小笠原祥子の番だね」

「そう、ね」

 反対側の袖から、小笠原祥子がでてきた。

「緊張、か」

「どうしたんですか?」

「・・・いや、わたしが交通事故にあった時、君達は緊張してくれたのかな、と思ってさ」

 もししてくれたなら、今の比じゃないんじゃない?
 
 というか、比じゃないでほしいね。

 本人としては。

「・・・・凄く、緊張したわ。胸が、張り裂けそうなほど」

 そう答えてくれた彼女の頭を、わたしはもう一度叩く。

「なら、今以上の緊張をしたことがあるのなら、これくらいヘでもないでしょ?」

 苦笑する藤堂志摩子。

「・・・・言われてみれば、そうだわ」

 少しだけ、彼女の顔から硬さが抜けた。

「必要以上に気張るな、志摩子。気張りすぎて良いことはないよ。大丈夫、大丈夫だから」

 いつの間にか支倉令が話していた。

 さすが、ミスター・リリアン。

 凛々しく見えるね。

 視線だけを支倉令に向けたまま、わたしは藤堂志摩子に囁いた。

「大丈夫、大丈夫」

 それは、魔法の言葉。

 修行をさせられた時、1人自分に言い聞かせていた言葉。

 大丈夫。

 そういい続けるたびに、彼女の肩から力が抜けていくのがわかる。

『藤堂志摩子さん、お願いします』

「大丈夫だよ」

 そう囁き、わたしは彼女の背中を軽く押した。

「はい」

 彼女はそうわたしに返すと、背筋を伸ばしステージの中央へと歩き出す。

「聖」

「あ、わかった?」

「うん。・・・・これが終わった後、志摩子を抱きしめてあげな」

「え?」
 
 いや、何故そこで驚くか!

 ホントに、大丈夫か?この姉妹。

「・・・・蟹名静には悪いけど、彼女は勝てないだろうから。結果がでたら、きっと志摩子は緊張の糸が切れる。だから、抱きしめ
 てあげて」

 というか、泣かせてあげて。

「最後くらい、お姉さまらしく接してあげないと」

「あ、酷いな〜」

 どこが?

「本当のことでしょ?君ら、こっちが心配するくらい姉妹らしくないんだよね」

 いばらの森の時、同じように呼び出された佐藤聖に見向きもせずに駆け寄ってきた藤堂志摩子を思い出し、ため息をつく。

 だって、あの子君が呼び出されてること、気づきもしなかったんだよ?

 それって、やばくない?

「そうかな〜?」

「そりゃあさ、姉妹関係は人それぞれだけど、さすがにあれは・・・・・」

 姉の存在に気づかないってどうよ?
 
 ホント、この人なんで藤堂志摩子を妹にしたんだか。

 できることなら、今問いつめてみたいよ。

 大体、佐藤聖が藤堂志摩子に興味を持った時(【心の言葉】参照)、藤堂志摩子を妹にしたい理由の『秘密』、って何さ。

 今更ながらに、あれがすっごく気になるんですけど。

「でも、なんで彼女が落ちると思うの?」

 黒属性の人のことね〜。

「・・・・彼女は、きっと生徒のためじゃないから」

「そうなの?」

 気づいていなかったのか?

 彼女は、君をずっと見ていただろうに。

「それに」

「それに?」

「彼女は、この学校にいるよりも夢を追いかけた方が良い人間だから」

「どういう意味?」

 首を傾げる佐藤聖に、わたしは笑って返す。

『須加巳星さん、どうぞ』

「お呼ばれだ。行ってくるね」

「・・・行ってらっしゃい」

 ステージの中央に向かった。



『ごきげんよう。もしかしたら、今日でみなさんに、リリアン代表として言葉を紡ぐのは、最後かもしれません』

 うわ。

 島津由乃達の視線が痛いんですけど。

 何さ、そんなに睨むことないじゃん。

『わたしの言葉を覚えていただいても、耳を素通りしてくれても結構です』

 少しざわつく体育館。

 まあ、選挙で耳を素通りしても良いよ、って普通は言わないもんね。

『もともと、わたしは誰かのロザリオを受けたわけではなく、異例としてみなさんの署名でなることを許された、いわば異端者で
 あります。そんなわたしを選んでくださった人達からの、毎朝の挨拶。入学当初、まったく予想をしてなかったことでした』

 あ〜。

 なに言おう・・・・。

 困ったな〜。

『毎朝、挨拶をしてくださる人達に、無法者ながら前回の挨拶で感謝の言葉を述べるのを忘れてしまいました。このようなところ
 で感謝の言葉を述べるのはあまり良くはないとは思いますが、一言を言わせてください。ありがとうございました』

 軽く頭を下げる。

 さあ、なに言おう。

 マジ、思いつかないよ。

 う〜ん・・・・。

『前回、我が友を認めてくださったみなさん。そのことにも、感謝いたします。ありがとうございました。彼女を認めてくださった
 、優しい心根を持ったみなさんの学校での生活をなるべく楽しくすることで、言葉には表せない嬉しさをお返ししたいと思って
 います』

 うわ〜、普通〜。

 自分でいっててなんだけど。

『ですが、わたしは普通の生徒です。そして、今現在薔薇の館にいるメンバーも、普通の生徒です。故に、どうすればみなさんが
 楽しんでいただけるかということを、理解してはいません。何をして、みなさんが喜ぶのか、何をして、みなさんが楽しいのか、
 何をして、みなさんは嫌だと思うのか』

 いや、わからないのは当たり前なんだけどね。

 マジ、自分で言ってて何言ってんだ、って感じだよ。

『ですから、教えてください。何をしてほしいのか、何をしてほしくないのか。確かに、山百合会であるわたし達はリリアンの
 代表ではあります。ですが、学校はわたし達だけで楽しくすることは、わたしは不可能だと思っています』

 思っていますっていうか、8人だけじゃ不可能だって。

『誰でも構いません。わたしでも、福沢祐巳でも、話してください。要望があれば考慮したいと思っています。・・・・みなさんも、
 リリアンの一員なのですから、わたし達と一緒に悩み、楽しみ、笑い、高校での生活を有意義にしませんか?』

 これくらいで良いかな?

『それでは、これで終わりにします』

 頭を下げると、何故か拍手がわき起こった。

 え?

 おかしくない?

 ハッキリ言って、大したこと言ってないんだけど。

 もしかしてこれ、薔薇さま効果?

 うわ〜、微妙。

 もう一度頭を下げ、わたしはステージを降りた。



 マリア様像の前で、聖と静が向かい合い、話をしていた。

 全てを静から聞いたあと、巳星の言葉を思い浮かべた。

「巳星ちゃんのこと、どう思う?」

「巳星さん?」

 急にでてきた名前に、静は軽く目を見張る。

 けれど、すぐに表情を戻し呟く。

「普通。・・・・確かに、容姿も綺麗ですけど、祐巳さんくらい、普通の子のような感じをうけます」

 その言葉に、聖は軽く笑った。

「普通、か」

「違うんですか?」

 肩をすくめる聖。

「さあ。あのこの事は、わたし達でさえわからないことが沢山あるから。たとえば、栞のこととか」

「久保栞さんですか」

 突然消えて、突然、それもつい最近現れた聖の元恋人。

 静は軽く眉をよせた。

「彼女は、今年入ってきたのにわたしが去年色々あったこと、知っていたんだ」

「え?」

「いや、知っていたというよりも、気づいていた、かな」

 聖は、空を見上げ目を細める。

 愛おしむように。

「あの子は、誰よりも凄いよ。誰よりも、鋭い」

「・・・・わかりません」

「あの子ね、君は選挙に落ちるっていってた」

 眉間の皺が増える静に、聖は笑う。

「彼女は、静、君が生徒のために白薔薇さまになろうとしているんじゃないって、いってたよ」

 眉間の皺を消して、軽く目を見張る静。

「それと、君は学校にいるよりも、夢を追いかけた方が良い人だとも」

 今度こそ、彼女は目を大きくみひらいた。

「何故・・・・」

「言ったでしょ?誰よりも凄いって、鋭いって」

「ですがっ」

「不思議なら、聞いてみると良い。彼女は、必ず質問に答えてくれるから。納得できる内容を」

 聖は微笑みながらそういうと、静の前から去っていった。

 場所は、祐巳の隠れている場所なのだが。



「とりあえず、4人ともおめでとう」

 近づきながら、カラリと笑う佐藤聖。

「「「ありがとうございます」」」

「とりあえず、ありがとう」

 わたしがそういうと、佐藤聖は苦笑する。

「そうそう。巳星ちゃん」

「ん?」

「後で、静が巳星ちゃんのところに来るかもしれないから」

「は?」

 なんでさ?

 首を傾げていると、背中を叩かれた。

 振り返れば、島津由乃。

「おめでとう、巳星さん」

「ありがと、よっすぃ。にしても、薔薇さま効果って凄いね。大したこと言ってないのに、あんなに拍手もらっちゃったよ」

 そういうと、何故かみんなが無言でわたしを見てきた。

 え。

 なに、その顔達。

 ああ。

 自分で言うなってヤツ?

「あれさ、即興なんだわ。だから、とりあえずやりたいな。って思ったことを述べただけ」

 が、言い訳も効かなかったらしい。

 顔を見あわせられて、全員にため息をつかれた。

 なにそのため息。

 悪かったね!

 即興で!

 っていうか、教えてくれなかったそっちが悪いんじゃん!

 来た当日に選挙とか言われても困るっつぅの!

「ホント、巳星さんって疎すぎ」

 過ぎ、とか言われたし!

「なにさ」

「なんでもない。じゃ、わたし達帰るから」

「わたしの両親と、由乃の両親がお祝いしてくれるんだって」

「でしょうね」

 子供が仲良くて、親が仲良くないなんて、どこのロミジュリだよ。

「それじゃ、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 島津由乃と支倉令は挨拶をし、帰っていった。

「ところで、久保栞は?」

 そう問うと、途端に疲れた表情をした佐藤聖。

「なんとか、返した。巳星ちゃんと帰るって聞かなかったけど・・・・・・・」

 何でわたしと帰りたいの?

「というか、栞の性格がわたしと一緒にいた時と違う気がする」

「・・・・まあ、ガンバ」

 それしか言えなかったっす。

 ついでに、肩も叩いておいた。

「巳星さん」

 声をかけられ、振り返る。

 そこにいたのは蟹名静。

 別名、黒属性。

 本当かどうかは知らない。

「ちょっと良いかしら?」

「はい。じゃ、わたしそのまま帰るから。佐藤聖、よろしくね」

 わたしはそういって、藤堂志摩子の髪をぐしゃぐしゃとか思いっきり撫でた。

 訂正。

 思いっきりはさすがに可哀想。

 半分ぐらいの力でしました。

「みっ、巳星さんっ!」

 慌てた様子の藤堂志摩子に、わたしは笑い背中を叩く。

「お疲れさま、志摩子。祥子も」

「「・・・・ええ」」

 ウィンクをして言うと、恥ずかしそうに2人して微笑んでくれた。

「じゃ、ごきげんよ」

「「「「ごきげんよう」」」」

 近くに置いておいた鞄を持ち、わたしは蟹名静に声をかける。

「行きましょう」

「・・そうね」

 やって来たのはマリア様の前。

「それで、なんでしょう?」

「聖さまから聞いたの、あなたが、わたしは生徒のために白薔薇さまになるんじゃないって。それと、夢を追った方が良い人だって」

 ああ、なるほどね。

「まず、一番初めの理由。それは、あなたの目ですよ」

「目?」

「はい。あなたの目は、常に佐藤聖を追っていた。それに、あなたが言っていたことは、あまり感情がこもっていなかった。
 生徒のために、そういう想いが伝わってはこなかった。確かに、良いことは言っていたとは思いますけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 沈黙する蟹名静。

「そして、二つ目の理由。それも、目です」

 わたしは、自らの右目を指さす。

「あなたの瞳は、何故か淀みがなかった。感情がこもっていないと言うことは、みんなのためではなく1人のために入ろうとして
 いる。それなのに、あなたの瞳には綺麗な色が宿っていた。だから、あくまで憶測だけど、思ったんです」

 わたしは、彼女を見つめる。

「彼女は、もし落ちたとしたら、この学校から去るのかもしれない。最後にやりたいことをやれるから、
 彼女の目は綺麗なのかもしれない。と」

 やはり、彼女は何も言わない。

「去れるわけを、2つ考えました。1つ、あなたは、この学校を辞めるつもりだった。もう1つは、あなたが学校で一番の美声を
 持つと言われていることを考え、留学するのではないかと思いました」

 ですが、

 わたしは続ける。

「1つ目の可能性は、あなたの綺麗な目を見れば皆無だとわかります。あなたの瞳は、わたしの大切な人が夢を追いかけていた時
 の瞳と、同じ色をしていますから」

「・・・・あなたは、聖さまの仰った通り、凄い人ね」

 ・・・・あのバカ、何言ったわけ?

「嫌そうね」

 気がついたら眉が寄っていたからだろう、蟹名静は可笑しそうに笑った。

「ええ、とっても」

「正直な子だわ」

「素直ですから」

 そういうと、さらに蟹名静は楽しそうに笑った。  




        

 

トップに戻る 小説入口へ戻る  目次  前へ  次へ


 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送