【全員集合】

	  




 目が覚めると、そこは見慣れない白い部屋だった。

 重い身体。

 こうなる経緯について、思い出してみる。

 たしか、買い物の帰り道だったはず。

 それで、帰ろうとしたところで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 そうだ、思い出した。

 子供が、轢かれそうになってた。

 もう、人が死ぬところなんて見たくなくて、反射的にその子を突き飛ばしていたんだ。

 そして、直後に鋭い痛み。

 それを総合して、わたしは病院にいるのだとわかった。

「〜〜〜〜〜〜」

 微かな声が聞こえた。

 聞き慣れた声だ。

 体は動かない。

 軽く首を持ち上げ、声が聞こえてきた方へと顔を向ける。

 どうやら、ドアの向こう側から聞こえるらしい。

 近づいてくる。

「今日は、巳星さん起きてるかな?」

「起きていると良いわね」

「そうね」

 福沢祐巳と島津由乃、藤堂志摩子の声だとわかった。

 ドアが開く。

「「「ッ!!巳星さん!!!」」」

 わたしが3人を見ていることに気づいた様子で、駆け寄ってきた。

 とりあえず、いばらの森はどうなったのだろう。

 聞いてみたくなった。

 口を動かす。

 声が出ない。

 っていうか、酸素マスク邪魔だね。

「巳星さん、なにっ?」

 酸素マスクを外され、島津由乃が耳を近づけてきた。

「・・・・いばら・・・森・・・・」

 単語かYO!

 それでも、島津由乃には伝わったらしい。

「開口一番に、いばらの森について聞くなんて・・・・・・」

 呆れた顔をされた。

「巳星さんらしいね」

「巳星さんらしいわね」

 ・・・・らしいとか言われても。

 なに?

 でしょ?

 とか言えばいいわけ?

「それで、いばらの森のことだけど、実はあれを書いたのは学園長の上村シスターの恋人
だった人らしいのよね」

 知ってます。

「それも、相手の人生きてたんだって!」

 知ってますとも。

「それでね?久保栞さま。お姉さまの愛する方が、戻ってこられたのよ。リリアンに」

 うん。それも知って・・・・ないし!!

 わたしは上半身を起こす。
 
「っ!」

 途端に痛みを感じ、身体を押さえた。

「「「巳星さん!?」」」

 涙目になりながら、わたしは顔をあげる。

「なに・・・・それ・・・っ」

「もうバカ!完全に治ってないのよ!!」

 島津由乃の声に、かき消されてしまった。

 すいません、もう少し小さな声でお願いします。

「落ち着いて、巳星さん」

 福沢祐巳と藤堂志摩子に両側から背中を撫でられ、苦しい息を穏やかにする。

「バカ!治りかけたのがまた酷くなったらどうするのよ!!」

 そういいながら、島津由乃は涙目だ。

「ご、ごめん・・・・」

 ご心配おかけしました。

 でも、久保栞のこと、聞きたい。

「その人、なんで・・・・」

「それが、白薔薇さまが忘れられなくて、戻ってこられたらしいのよ」

 んだ、それ・・・・。

「大丈夫?」

「ちゃんと寝た方が良いよ?」

 藤堂志摩子と福沢祐巳の手を借りて、わたしは再びベッドに横になった。

「でも、白薔薇さまはすでに好きな方がいらして、それで、栞さま、とてもショックを
 受けてらっしゃるの。でも、それって結構自業自得よね」

 怒ってらっしゃいますね〜。

 わたしは島津由乃の言葉に苦笑する。

「にしても、あの人好きな人いたんだね〜・・・・・」

 そう呟くと、何故か3人して困った顔で見られた。

 なにさ、その表情。

「とにかく、そのことだけでも報告しておこうと思って」

 福沢祐巳に頷いて返す。

「ところで、わたしってどれくらい寝てたの・・・・?」

「えっとね。巳星さんが入院してから・・・・・」

 どうやら頭の中で計算しているらしい。

 百面相だ。

「1週間ちょうどよ」

「・・・・・だって」

 島津由乃に答えられたのが恥ずかしいのか、照れたように笑う福沢祐巳。

「へー」

 1週間か・・・・。

「勉強、どうしよ・・・・・」

 ため息をつく。

 まあ、教科書見ればわかるけどさ、日数が一番問題。

 留年なんて、絶対にしたくないんですけど。

「あ、それについては大丈夫。巳星さん、頭良いし学校も休んだことないから1ヶ月く
 らい休んでも余裕あるんですって」

 ・・・・・ってことは、留年しなくて済む?

「お医者さまが言うには、完全に治るまで1ヶ月はかかるだろうから、って」

 1ヶ月もかかるんだ。

 うわ〜、どうしよう。

 藤堂志摩子の言葉に、わたしは色々頭に浮かんだ。

「仕事は・・・・?」

「大丈夫!巳星さんの分、みんなで分担してやるもの!」

 元気ですね。

 元気すぎて、剣道部に入るんですもんね。あなた。

「・・・・剣道部は?」

 うわ、かなり驚いてますけど、この娘さん。

「・・・・巳星さんには、本当に敵わないわ。もう、お医者さまには許可いただいているの。
 後は、入るだけ」

「ガンバ・・・・・」

「もちろんよ!」

「って!由乃さん、剣道部にはいるの!?」

「大丈夫なの?」

 反応遅いな、福沢祐巳、藤堂志摩子。

「ええ!大丈夫よ!」

 胸を叩く島津由乃。

 わたしはそんな彼女たちに笑いながら、瞼が落ちるのを感じた。

 彼女たちの心地良い会話を聞きながら、わたしは眠りにつく。




【巳星、巳星】

 懐かしい声。

 目を開けると、そこは病室ではなかった。

 第一、わたしは立っている。

 なら、ここはどこだろう。

【巳星、こっちよ巳星】

 声の聞こえてきた方へと目をむける。

「ッ!華南さん!!!」

 その人を見た瞬間、わたしは叫んでいた。

 その人は、わたしの恋人。
 
 そして、死んでしまった人。

【巳星】

 駆け寄る。

「どっ、どうしてここにっ?」

【あなたが、道に迷わないように】

 目の前には、かつて愛していた人。

「・・・・華南さん、わたし、もう高校生だよ?道になんて、迷わないから」

 相変わらずな華南さんの様子に、わたしは自然と微笑んでいた。

 そんなわたしの頬に、華南さんの手が触れた。

 温かい、華南さんの手。

【あら。なら、なんで此処にいるの?】

「え?」

 首を傾げて言われた言葉に、わたしは目を見張る。

【ここは、あなたが来るべき所じゃないのよ?】

「何、言って・・・・・」

 ハッと気づく。

 そうだ。

 さっき自分で思ったじゃないか。

 華南さんは、もうすでに死んでいるのだと。

【帰りなさい、巳星。あなたには、あなたの居場所がある】

 わたしの思いに気づいたのだろう。

 華南さんは、ニッコリと微笑んでわたしの唇にキスをした。

【戻りなさい、巳星】

「・・・・・・・・・そうだね」

 わたしは、最愛の人にキスを返して、目を閉じた。

 聞こえてくる、みんなの声。

【巳星、私のことは気にしないで、幸せになってね。あなたの幸せを、私はいつまでも
 願っているんだから】

「・・・・・・・・ありがとう、華南さん」

 返事はできないから。

 まだ、あなた以外を好きにはなれないから、感謝の言葉を。

【いつまでも、あなたを見守っているわ】

「・・・・華南さん、愛してたよ」

【私も、愛していたわ。巳星】

 額に、柔らかい感触が落ちるのを感じた。



 目を開けると、母さんのドアップ。

「ッ!?」

 素で思いっきり目を見開いてしまった。

 慌てて顔を横にずらす。

「mihosi!!」

 抱きつかれた。

 な、なに?

 なんなのさっ。

「バカ!!」

 また島津由乃にバカと怒鳴られた。

「バカ!」

 ・・・・藤堂志摩子にまで、バカと言われた。

 藤堂志摩子にバカと言われると、とてつもなくショックなのですが!

 いつもそんなことを言わない人にそういうこと言われると、重く感じるあれですな。

 とりあえず、上半身を起こし、母さんの背中を叩く。

 どうやら、ずいぶん寝ていた(?)らしく、身体に痛みはない。

「とにかく、説明願えません?さっきから、バカと連呼している2人組」

 部屋を見てみれば、水野蓉子達もいる。

 うわ、大所帯。

 むさい。

 全員が美人だけど、むさく感じるのは何故だろう。

「巳星さん、わたし達と話した後すぐに意識失ったのよ!」

 ああ、あれは眠くなったんじゃないのか。

 島津由乃の言葉に、わたしは1人納得する。

「身体は治ったけど、意識はずっと戻らなくてっ。1週間、ずっと意識を失ったまま
 だったのよっ!」

 ああ、ごめんなさい。

 だから泣かないで、藤堂志摩子。

「さっきなんて、一回心臓が停止したんだから!!」

「うそぉ!」

 福沢祐巳の言葉に、わたしは目を見開いた。

「嘘なんてつくわけないでしょう!!」

「って!小笠原祥子まで!?」

 なっ、泣くな!

「テレビとかで良く心臓停止した人見るけど、本当に心臓に悪いわね」

「本当。こっちまで心臓停止しそうだったわよ」

 ちょっと疲れた感のある水野蓉子と鳥居江利子。

「すいませんした」

 素直に頭を下げる。

「巳星さん!」

「にっ、二条乃梨子!?」

 なんでここに!?

 っていうか!

 めちゃめちゃみんなと顔見知りになったみたいですけど!!

「心配したんですから!」

「ご、ごめんね?」

 病人服を握りしめる二条乃梨子の頭を撫でる。

 えっと、・・・・・・・・・・・。

 逆効果だったらしく、泣き出してしまった。

「ごめんって」

 二条乃梨子の頭を抱きしめ、周りを見渡す。

 何故か、視線は二条乃梨子にいっている水野蓉子達。

 あの、恐いんですけど。



 仕事があると言っていなくなった母さんと父さん。

 どうやら、目が覚めないこと以外、身体に異常はないらしい。

 水野蓉子達の残った病室を見渡す。

 病室には、見慣れぬ美女が1人。

「えっと、久保栞?」

 驚いた顔をされた。

 いや、だって見知らぬ人がいたりしたら集中するよ?

 見慣れた水野蓉子達の中に、ぽつんと見知らぬ人がいたりしたらさ。

「えっと、とりあえず、須加巳星です」

「名前を知っているみたいだけど、久保栞よ」

 なんだろう。

 ちょっと藤堂志摩子に似てるかも。

 やっぱり、敬虔なクリスチャンだからだろうか?

「えー、なんでここにいるんでしょう?」

 初対面だし。

 あれですか?

 みんな来たから、寂しくてついて来ちゃった。みたいな。

「聖が、あなたにあった方が良いって」

「・・・・・佐藤聖、意味がわかんない」

「いや、ライバルになる可能性少ないし、良いかなって」

 頬をかく佐藤聖に、わたしは首を傾げた。

「ライバルって、なんのさ」

「まあ、色々?」

 疑問系ですか?

「・・・・・・で、トップはちょっとご機嫌ななめ?」

 不機嫌そうな水野蓉子に、わたしは笑いながら問う。

 あれだろう。

 久保栞に、どう対処して良いのかがわからないのだろう。

 佐藤聖を悲しみに追い込んだのは、久保栞だと言っても過言ではないから。

「別に」

「おいで」

 ゆっくりと近づいてきた水野蓉子。

 手が触れられるところまで近づいてきた水野蓉子の手をとる。

「わかってる。どう対応して良いのかがわからないんだよね?」

 そういうと、ちょっと困ったような表情をされた。

 久保栞にも、水野蓉子にも。

 そんで、佐藤聖にも。

「だから、急にじゃなくても良い。言ったでしょ?君は、普通の人間なんだから。
 紅薔薇さまだからって、模範となる人間になろうとしなくても良いんだよ?」

 水野蓉子をベッドの端に座らせ、髪を撫でる。

「感情に、折り合いがつかないことなんて人間だったら良くあることだ。それを、わざわざ
 閉じこめようとなんてしなくて良い」

 疲れてしまうから。

「気楽にいこう、気楽にさ」

 抱きしめ、背中を叩く。

「ね?」

 微笑み、彼女の顔をのぞき込んだ。

「・・・・・ありがとう、巳星ちゃん」

 ホッとしたように息を吐く水野蓉子を、再び抱きしめ、微笑む。

 そんなわたしの耳に、

「素敵・・・・」

 という、呟きが聞こえた。

「「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」」

 この場にいる、わたしを含めた総勢10名の声が重なる。

 多いな、オイ。

 声の出所は久保栞。

 久保栞へと目を移すと、何故か彼女は胸の前で手を組み、妙にうっとりとした目で
 わたしを見ていた。

「素敵だわ、巳星ちゃん。あなた」

 ちょっと待て!

 この人、こんな性格だったのか!?

「・・・聖、あなたのせいよ」

 ひっくい声が、わたしの目の前にいる人から聞こえた。

 先ほどまで、わたしが抱きしめていた人。

 もちろん、水野蓉子だ。

「えっ?ええ!?ちょっ、栞!?」

「聖に逢いたくて戻ってきたけど、聖はすでに好きな人がいた。その人がどんな人か
 知りたくて来てみたけど、・・・・・・こんなに素敵な人だなんて・・・・・」

「ちょっ、聖!この人意味わかんないこと言ってるんだけど、それは置いておくとして!
 この人一体どうしたの!?」

「あっ、いや、それがっ、わたしにもよくっ」

 佐藤聖も混乱しているのか、久保栞や周りで恐い目つきをしている人達をキョロキョロと見ている。

 な、何なのさ、一体・・・!

「巳星ちゃん、覚悟していてくださいね?私あなたがす―――」

「それは待ったぁ!!」

 何故か福沢祐巳が叫んだ。

 あなたが素?

 それとも、あなたガス?

 どっちとも意味わかんないんだけど!!

「私達、今日はここまでにするわ。行きましょう、みんな」

 何故か鳥居江利子が仕切っている。

 珍しいぃー。

「そうね。それじゃあ、また」

 水野蓉子は似非笑顔でわたしに挨拶をすると、支倉令に口を押さえられている久保栞
 を連れていく。

「乃梨子ちゃんも」

「は、はい!それでは、巳星さん。また!」

「あ、うん」

 島津由乃に呼ばれて二条乃梨子もでていく。

 一気に部屋が静かになった。

「・・・・・嵐が去った後って、こんな感じかな?」

 絶対、そうだと思った。




           

 

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