【乃梨子が山百合会に入った裏話】





	  
 あの人に会いに行ってみようと思った。

 居るかわからないけど、あの人と会ったお寺へ。



 お寺の玄関では、違う人が掃除をしていた。
 
 たしか、竹松さん。

「おや」

「こんにちは」

「こんにちは。今日も仏像を見に来たんですか?」

 笑うその表情に、微かな違和感。

 何故だか、泣いているように見えた。

「今日は仏像ではなくて、巳星さんに会いに来たんです」

 言った途端、困ったように笑うその人。

「お嬢様は、しばらくここには来ませんよ」

「?何かあったんですか?」

「先週、車に轢かれてしまって、まだ意識が戻らないんです」

 困ったような、悲しみをたえているような顔。

 理解した瞬間、頭を殴られたような衝撃が走った。

「車に轢かれた!?」

「はい。・・・・なんでしたら、病院をお教えしましょうか?」

「お願いします!!」

 すぐに返事をして、教えてもらった病院へと急いだ。

 息が乱れ、苦しくなっても走った。

 あの人の、無事を確認するために。



 受付であの人の病室を聞き出す。

 教えてもらったら、すぐに走って向かった。

 ちょっと注意されたけど、この際無視。

 ドアの前で呼吸を繰り返す。

 喉が痛い。

 それでも、あの人の姿を早く見たくて、呼吸が整う前にドアを叩いた。

「はい」

 返ってきた言葉は、あの人よりも幾分か高い声。

「失礼します」

 入ってみると、その人数の多さにビックリ。

 それも。
 
 全員が美女。

 これを見て、後退しない人はいるのだろうか。

 いや、絶対にいないと思う。

「あ、二条さん」

 呼ばれ見てみれば、あの人に教えてもらったお寺の娘さん。

「こんにちは」

「ごきげんよう」

 ごきげんよう。

 この人は、わたしが受けた学校の生徒さんらしい。

 それでもって、あの人の居る学校。

 あの人と一緒にいるために全力を出して受けたけど、この挨拶は恥ずかしいと思う。

 あの人も編入組らしいけど、想像してみて、まったく違和感ない。

「あ、あの。お寺で巳星さんのことを聞いて」

 視線をベッドに移すと、テレビでしか見たことのない酸素マスクをつけ、眠る巳星さんの姿。

 体中には、ギブスや包帯が沢山ついている。

 それでも、やっぱり巳星さんは綺麗だった。

「今はまだ目を覚まさないのよ」

 悲しげに微笑むその人。

 とりあえず、視界に入るこちらを見る好奇の目。

 特に、バンダナをした人と、髪を顎くらいまで切った人、彫りの深い顔をした人の視線が痛い。

 なるべく、視野に入れないようにベッドに近づいていく。

 でも、そんな風に上手くいくはずなんてなくて、

「ねえ、志摩子。この子はどなた?」

 バンダナの人に、この人が声をかけられた。

「彼女は二条乃梨子さん。こっちの方の学校を受けるために来たらしいんです」

 微笑むその人。

 というか、藤堂さん。

「巳星さんのお祖父様がお寺だというのも、二条さんから聞いたんです」

「へー。どこの学校を受けたの?」

 なんだか、目がキラキラ光って見えるんですけど。

 幻覚だろうか?

「・・・・リリアン女学園です」

 そういうと、かなり驚いたような顔をされた。

 だって、藤堂さんにも教えてないし。

 なんか、キラキラ度が増したように感じるのは気のせいだろうか?

「ねえ、乃梨子。この子面白いから、山百合会のメンバーにしない?」

「そうよね。仏像を見て回る子なんて、面白いわ」

 ・・・・山百合会が何かはわからないけど、かなり危険な香りがする。

 逃げた方が良いのだろうか?

 でも、巳星さんの近くにいたいし。

 というか、面白いって、褒め言葉じゃない気がする。

「賛成」

 ほりの深い人が手を挙げた。

 これって、多数決なのだろうか?

 それだと、もの凄く困る。

「あの、まだ受かってもいないので」

「大丈夫だと思うよ。だって、認めたくないけど、二条さんも巳星さんと一緒にいたいから、
 全力でリリアン受けたんじゃない?」

 な、何故知っているのだろう。

「な、なぜっ?」

「気づくわよ、それくらい」

「だって、ここにいる、わたしも含めて全員、巳星ちゃんが好きだから」

 黒髪の人とちょっと男の人っぽい人が言った言葉、特に男の人っぽい人の言葉に、わたしは
 驚いてそこにいる美女達を見渡した。

 それは、困る。

 ハッキリ言って、この人達に勝てる気がしない。

 何たって、全員が全員系統の違う美少女や美女達。

 無理だ。

「だから、あなたのことがわかるのよ。私達も、巳星ちゃんと一緒にいたいから、
 大学をリリアンにしたんだもの」

「そうそう。譲れないんだよね〜」

 黒髪の、顎まで切りそろえた人に、ほりの深い人が同意した。

 巳星さんって、凄い。

 こんなに沢山の美女達の愛されてるなんてっ。

 ・・・・合格してたら、わたしもこの中の一員になるんだけど。

「でも、面白い子は別問題。確かに、巳星ちゃんを好きになる子は少ない方が良いんだけど、
 もう少ない、なんてレベルじゃないしね」

 バンダナをした人が言った。

 少ない、ってレベルじゃないってどういうことだろう?

「あ、あの、少ないってレベルじゃないって、一体・・・・」

「巳星さんって、わたし達と同じ山百合会のメンバーなんだけど、学校中に巳星ちゃん
 に惚れてる子多いのよ」

「が、学校中っ?」

 儚そうな人の言葉に、わたしは眩暈がしそうになった。

 好きになった人は、どれだけモテるんだ。

 一体。

「でも、山百合会に入った方がお得だよ。学校がある日は、大体会えるし。廊下で会った
 りしても、学年違っても巳星ちゃんは声かけてきてくれるし」

 ちょっと男の人っぽい人が嬉しそうに言う。

 というか、山百合会ってなんだろう?

 でも、それは確かにお得だ。

「・・・・・入りたいです」

「「「「「「「「でしょう?」」」」」」」」

 したり顔で、全員が言った。

「というわけで、仏像マニアの面白い君は、リリアンに入ったら志摩子の妹ね。志摩子、
 お寺の子だし」

 ほりの深い人の言葉に、わたしは藤堂さんを見た。

「本当は、こういうのはいけないんだけど、巳星さんが山百合会に普通を求めても無駄と
 言っていたし。よろしくね、二条さん」

「こらこら。名前で呼ばないと」

「でも、まだ入ってませんから、ロザリオを伝授してからで良いんじゃないですか?」

 ほりの深い人の言葉に、ツインテールの人が言った。

 その言葉に納得する人達。

「あの、ロザリオって一体・・・・」

 そういうと、その人達はリリアンについて教えてくれた。

 ・・・・色々と凄いところだった。

 でも、一番驚いたのは、巳星さんが『青薔薇さま』と一年生ですでに呼ばれていること。

 普通は、2年生か3年生しか呼ばれないらしい。

 やっぱり、巳星さんは凄い人なんだな。

 改めて思った。 





          

 

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