【写真】

	 




 

 意識が浮上していく。

 うっすらと目を開けると、そこにはわたしを見つめる6つの目。

「うおっ」

「「「巳星ちゃん!!」」」

 わたしの驚いた声に被さるように、6つの目の主がわたしの名を呼んだ。

 水野蓉子と鳥居江利子、佐藤聖の3人だ。

 かなり軽くなった体を起こし、辺りを見渡すとそこには小笠原祥子達もいた。

 武嶋蔦子も、久保栞も、蟹名静もいる。

 凄いビックリだ。

 皆、一様にホッとした表情でわたしを見ている。

「良かった。体調はどう?」

「ずいぶん軽くなった感じ」

 水野蓉子の問いにそう答えると、鳥居江利子が無言でわたしに体温計を差し出してきた。

 いや、口に出して。

 無言は、ちょっと怖いので。

 とりあえず、その体温計を脇の下に入れる。

「卒業式は?」

 時計を見ると、もう1時ちょっと過ぎ。

「終わったわ。30分くらい前に」

 目元の赤い小笠原祥子が答えてくれた。

 やっぱり泣いたか。

「そっか。ごめんね、出られなくて」

「そんなこと気にしなくて良いよ。卒業式よりも、巳星ちゃんの方が大事」

「ありがと、佐藤聖」

 笑顔の佐藤聖に微笑んで返してから、水野蓉子、鳥居江利子、佐藤聖の順で目を向ける。

「本当は、最初から最後まで出るつもりだったんだけどさ。とりあえず、卒業おめでとう」

「「「ありがとう、巳星ちゃん」」」

 微笑みを返してくれる3人。

「ところで、なんであんなに体が熱かったのに、熱があるって気づかなかったの?」

 福沢祐巳の言葉に、わたしは軽く笑って目を逸らした。

 途端に集中する視線。

「「「「「巳星ちゃん?」」」」」

「「「「巳星さん?」」」」

「「まさか・・・・・・」」

 支倉令と福沢祐巳以外が、笑顔でわたしの名前を呼んでくる。

「・・・・・アハハ。学校に来る前も、39.7分の熱あったんだ」

「「「「「巳星ちゃん!!」」」」」

「「「「巳星さん!!」」」」

「「ええ!?」」

 またしても支倉令と福沢祐巳以外に、名前を呼ばれた。

 睨み付きで。

 さすがに、11人からの視線は痛い。

 それも、各々が凄い迫力。

 怖いのなんのって・・・・・(汗)

「笑い事じゃないわよ!!」

「なんでそんなに無理するかな!」

「もう少し自分の体を労りなさい!!」

 水野蓉子、佐藤聖、鳥居江利子に怒鳴られてしまった。

 さすが薔薇さま。

 すっごい迫力です!(怯)

 でも、一応わたしにも理由があるわけなんですよ。

「だって、卒業式じゃん」

「「「「「「「「「「「え・・・・?」」」」」」」」」」」

「そりゃあ、わたしだって普通の日なら休むよ。そこまで無理していく理由なんてないしね」

 皆勤賞を狙ってるわけでもないし。

 でも、今日は卒業式だよ?

「蓉子と江利子、聖が卒業する日だよ?熱だろうがなんだろうが、行くしかないじゃん」

 唖然としたようにわたしを凝視してくる水野蓉子達。

「いくら、同じ敷地内だからって、今までみたいに毎日会えるわけじゃない。会えない日の方が多い」

 大学は、忙しいって聞くしね。

「それに、水野蓉子は弁護士の事務所のバイトもするって言うじゃん?わざわざ、わたし達に会いに
来る事なんて、出来なくなる」

「巳星ちゃん、覚えて・・・・」

 水野蓉子の驚いたような言葉に、わたしは片眉をあげた。

「当たり前っしょ?わたしは、一年間君らの仲間だったんだよ?仲間の言葉は、ちゃんと覚えてるよ」

 わたしの記憶力をなめるなよ?

「そんな仲間が、今日卒業するんだ。たとえ事故に遭おうと、絶対に行く」

 とか言いつつ、熱でダウンしちゃったんだけどね。

 ま、こうしておめでとうが言えたんだから、O K かな?

「・・・・・そうだね。巳星ちゃんって、そういう子だもんね」

 支倉令が笑う。

 その納得の仕方は微妙なんだけど。

 って、全員納得するなよ!

「でも、本心としては『好きだから』とか言ってほしかったかな」

 佐藤聖が苦笑していう。

「ん?好きだよ?」
 
 わたしは驚いたようにわたしを見る、全員を見渡していった。

「蓉子も、江利子も、聖も、祥子も、令も、志摩子も、祐巳も、由乃も、蔦子も、栞も、静も。全員
好きだよ」

 微笑んでそういうと、全員が驚いた表情でわたしを見る。

 それからすぐに、彼女たちは頬を赤く染めながら微笑んでくれた。

 それに、わたしも笑みを深くして返した。





「ところで、体温計は?」

 武嶋蔦子に言われ、わたしは体温計を脇の下から外して見てみた。

「・・・・・・復活!!」

 ガッツポーズをし、全員に見えるようにする。

「・・・・・・41.2分が、36.5分・・・・・・?」

 口元をひくつかせて呟いたのは、島津由乃。

「人間じゃないわね」

「人間じゃないね」

「人外ね」

 うわっ、ひどっ!

 自分でもビックリしたけどさ!

 水野蓉子、佐藤聖、鳥居江利子の言葉に、わたしはいたく傷ついたぞ!

「健康だけが取り柄の人間をなめんなよ」

「寂しい取り柄ね」

「うっさいよ、蟹名静」

「なら、写真撮りませんか?全員で、記念撮影を」

 武嶋蔦子の言葉に、わたし達は顔を見あわせて頷いた。

「巳星さん、平気?」

「平気平気。それに、写真くらいどうにかなるわけじゃないって」

 今時、写真を撮られたら3日後に死ぬ、とかじゃないんだし。

 手を振って言うと、福沢祐巳はホッと息を吐く。

 わたし達は、保健室を出て中庭へ。

「巳星ちゃんは、私の隣ね」

「何いってんの蓉子。わたしの隣でしょ」

「聖こそ、何を言っているのかしら。私の隣以外に、場所はないわ」

 なぜか、わたしが誰の隣になるかで3人が争い始めた。

「でしたら、蓉子さまとお姉さまが隣りに立って、聖さまが後ろに立ったらいかがですか?」

 苦笑しながら支倉令が言うと、3人は顔を見あわせて頷く。

 そして、支倉令がいったように、水野蓉子と鳥居江利子が両隣に立ち、佐藤聖がわたしの後ろに立
った。

「ま、今回は3薔薇さま方の卒業式ですから、目を瞑りましょうか」

「そうね。主役をたててあげましょう」

「私達は、いつでも撮れるんですから」

 島津由乃、小笠原祥子、藤堂志摩子は何やら意味のわからないことを言ってるし。

「では、いきますよ!」

 三脚にカメラを乗せて武嶋蔦子はそういうと、わたし達の方に走り寄ってきた。

 珍しいことに、武嶋蔦子も入るのだそうだ。

 そして、わたし達は、総勢12名で写真を撮った。










  今までありがとう。

 沢山振り回されたけど。

 それでも、楽しかったんだ。

 悲しみを、完全に乗り越えられるくらい楽しかった。

 楽しい思い出をありがとう。

 それと。

 これからもよろしく。









     あとがき。

 これで完結です。
 なんか、あっさりした話になりましたが(汗
 今まで、こんな駄文達を見てくださった方々。
 本当にありがとうございました!!





 

          

 

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