【感じるのは】





























 私が今いるのは、1人暮らしをしている恋人の部屋。

 彼女の名前は、福沢ちゃん。

 なんと、あの祐巳ちゃんの妹。


 彼女は、私たちが卒業した年にリリアン高等部にあがった子。

 その彼女と、何故私が恋人になりえたのか。

 それは、やはり祐巳ちゃんがいてくれたから、と言えるだろう。


 私が彼女と出会いは、祐巳ちゃんの忘れ物をが届けにきたことから始まる。

 ただ、私たちは現れたにとても驚いてしまった。

 何故なら、


「蓉子、料理ができたわよ」


 彼女は、私よりも年下であるはずなのに、


「だから、いつまでも考え事しないで」


 とても色っぽく、妖艶だった。


 頬を撫でてくるその手を、私は誘われるようにとった。


「ごめんなさい、

「ふふ、席についてくれる?」

「ええ」


 その柔らかそうな唇に、口付けて立ち上がる。

 漂ってくる匂いはとても良い匂いで、食欲を誘う。

 それが、は料理が得意なのだということを限りなく示していた。


「美味しそう」

「蓉子への愛情をたくさんこめたもの」


 ふふ、と笑うは、本当に艶めかしくて、食事のことなど忘れてその細い腰を引き寄せてしまいそうになる。


 初めて会ったときも、そうだったわ。

 香水か何かをつけているのか、から漂ってくるのは、嫌味のない香り。

 後日、その香りが香水ではなく、彼女自身から漂ってくるものだと知った。


 妖艶な笑みに、私たちは目を奪われ、手を伸ばしたくなってしまう。

 実際、聖は抱きしめていた。


 祐巳ちゃんならばそれに悲鳴をあげるけれど、はそんなことなく、反対にさらに艶めかしい笑みを聖に返した。

 ドキリどころではなく、一気に体温が急上昇して、日頃では感じることのない欲望さえも私達は感じてしまった。


 それから、私達はに会いにいったり、電話をかけたりと、様々なことをした。

 そうすることによって強くなる、彼女がほしいと思う感情。

 止めることなんてできないほどに、彼女を求めてしまう。

 夢にまで、見てしまうほどに。


 そんな彼女が、私同様に彼女を求める人たちの中で、私に応えてくれたことは本当に奇跡で。

 あの日のことは、一生忘れないと言っても良いくらいの思い出だわ。


「今日の蓉子は、考え事ばかりね」


 妖艶な彼女は、初めて会ったころと変わらずにその魅力を振りまいている。


「ごめんなさい」

「なにを考えていたの?」


 頬に伸ばされた手を握りしめ、の隣に移動する。

 耳に顔を寄せ、腰に腕を回して引き寄せた。

 はそれに抵抗することなく、笑みを浮かべながら応えてくれる。


 けれどその行動は、私に対してだけではなく、誰に対しても同じ。

 抱きしめられても拒絶せず、キスされたとしてもそれを受け入れる。

 彼女が拒否するのは、体を重ねることだけ。

 だから、他の人たちは期待してしまう。

 少しすれば、最後までいけるのかも、と。


 だから私は、いつも不安になる。

 そのまま、私の知らないところで、流れのまま彼女が最後までいってしまうのではないかと。

 彼女が、流れでそんなことをする性格ではないことを、私は知っているのに。


「また、考えてるわ」

「・・・・どうかしてるわね、私」

「私よりもほかのことを考えるなんて、酷いじゃない?」


 顔を寄せてくるに、私は応える思考が消えてしまう。

 それだけで、私は全てを彼女に奪われてしまう。

 彼女以外を、感じられなくなってしまう。


 彼女は、それを知っている。

 そう言って、帰ってくる私の反応を楽しんでいる。

 まるで江利子みたい。

 江利子よりも、年下で、妖艶だけれど。


「違うのよ」

「あら、何が違うの」


 笑うたびに触れる、の吐息。

 それだけで、背筋がしびれる。


 顔を近づけようとするけれど、反対には離れてしまう。

 近づくのをやめれば、先ほどと同じ距離まで近づいてくる。

 近づけば離れ、私がそれをやめれば近づいてくる、そんな消化不良に、私は我慢ができずにの後頭部に手を回した。


「駄目よ」

「何故?」

「だって、まだお昼じゃない?」


 いつもは、そんなこと関係なく人を誘ってくるくせに。

 現に、今だってあなたは私を誘っているじゃない。


「関係ないわ」

「エッチ」


 ふっと息を吹きかけられ、私は耳の奥で何かが切れる音を聞いた。


「ええ、私はエッチよ。に対して、私はいつも欲情しているんだもの」


 自分でも意識する暇もないくらい、の服を脱がしていた。

 いつみても見惚れてしまう、の素肌。


 今まで好みなんてものはなかったけれど、今では理解している。

 私がこの感情を抱くのは、のスレンダーな体だけなのだと。

 手を触れたくて、唇を寄せたくて、しかたなくなるのはこの子の体だけなのだと。






















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