【嘘と本音】





































 スナコとが恋人となった翌日、学校にきたを見て全員が目を疑った。

 あの暗く、スナコと同じくらい不気味だった少女の素顔が、アイドル顔負けの美少女だったから。


「あ、あれが、・・・?」

「誰か、嘘だといってーー!!」


「か、可愛い・・・」

「俺、ラブレター出しちゃおうかな・・・・」


 騒ぎ立てる女子と男子。

 そんな彼らのことなど眼中にないように、は鞄を机にかけたらウキウキといった感じで駆け出していってしまう。


 ――― きゅん


 その姿に、男女関係なく胸きゅん。


 が向かった先、それはスナコのクラス。


「スナコさん!」


 満面の笑みで駆け込んできたに、クラスメイトたちが見惚れ、騒ぎ出す中、スナコは鼻血を出していた。

 は昨日のように慌てたりせず、ポケットからティッシュを取り出して鼻血を拭く。


「おはようございます、スナコさん!」

「・・・おはようございます」


 周りに輝きをまといながら、はスナコに嬉しそうに抱きついた。


「中原スナコに抱きついた!?」

「あの美女は誰だ!!」

「あんな子いた!?」


 まるで猫のようにすりよるの頭を、スナコは震える手で撫でてやる。

 それを受け、の周りがさらに輝きを増す。


「あーん!もう、可愛すぎ!ちゃん!」


 乃衣が抱きつけば、サンドイッチ状態に。


「「「「まさか、!!??」」」」


 叫び声をあげる周りなどいないかのように、は乃衣ににっこりと笑顔を向けた。


「おはようございます、乃衣さん」

「おはよう、ちゃん♪」

「・・・乃衣ちゃん、あたしのです」


 むぅっと口を一文字にし、スナコがを抱きしめれば、の顔が赤くなる。

 自分から抱きつくぶんには気にしないが、抱きしめられると恥ずかしくなるらしい。

 そんなところも、乃衣たちのツボ。


「今まで髪に隠れてた部分が、こんなに可愛いなんてv」


 それに、スナコをぬかした全員がうんうん頷きながら、頬を赤くしている。


 だが、乃衣の言っている意味は、彼らと少し違う。

 髪で隠れていたからわからなかった、笑った顔だったり、頬を染めていたりと、前髪がなくなったことにより見えるようになった部分のことを言っているのだ。

 クラスメイトたちが言っているのは、あくまで素顔。


「ふふ、それにしても、スナコちゃんがヤキモチを妬くようになるなんて意外だわ」

「ヤキモチ・・・」

「あれ、気づかなかったの?今のあたしたち見て、ムカッてこない?」

「・・・・・・・・」


 乃衣がをさらにぎゅっと抱きしめ、スナコに問う。

 スナコは無言でを乃衣から取り返し、頷いた。


「きます」

「そう。それがヤキモチよv」

「ヤキモチ・・・・」


 ジッと、珍しく鼻血を出すことなくを見つめるスナコ。

 はボソボソとした会話を聞いていなかったのか、きょとんとスナコを見上げた。

 そして、にっこりと笑い返す。


 ――― ぶはーーっ


「きゃー!スナコちゃん!」


 慌てる乃衣と、ささっと鼻血を拭ってやる

 よくわからないが、自分を見て鼻血を出すスナコに慣れたようだ。

























「「お見合い(ですか)!!?」」

「そうなんだ。オバさんが、スナコちゃんにお見合いさせるって」


 ため息をつく武長。

 スナコは現在、部屋にこもってでてこないらしい。


「けど、スナコちゃんにはちゃんが!」

「いや、それを言う前に切られちゃって。それに、失敗したら家賃3倍だって言うし」

「武長くんのバカ!そういうことはちゃんと言ってよ!!」

「し、仕方ないでしょ!!」


 だって怖いんだもん!と続ける武長に、乃衣は呆れたようなため息をつく。

 それから、すぐにを見た。


ちゃん、大丈夫よ。今からでも言えば・・・」

「良いんです」


 乃衣の言葉を遮り、は笑う。


「身内の方が言うんですし。それに、それで恋人とか、結婚とかなんて、そんなことにはならないでしょうから」


 ぽろ、との目から涙が。


「だから、全然大丈夫です!あ、私、スナコさんのところに行ってきますね!」


 自分が泣いていることに気づかないのか、笑顔のまま駆け出していく


ちゃん・・・・」

「ヤバイ、ヤバイって今の顔・・・・!」

「俺、マジで火ーつきそう・・・・」

「儚い笑顔、すっごく良い・・・」

「泣くほどのことか?」

「今はそれどころじゃないだろがーーー!!」


 雪之丞、蘭丸、武長、恭平にとび蹴りをくらわせる乃衣。


 言っておくが、3人は冗談。

 場を明るくするための。

 乃衣には伝わらなかったが。


 一方、は。


 ――― コンコン


「お見合いなどしません」

「・・・スナコさん」


 ばっと開けられたドア。

 恐ろしく焦った顔をしているが、は気にした様子もなく微笑みかけた。

 涙は止まっているけれど、それは悲しそうな笑み。


「聞きました」

ちゃん、あたし、やりませんから」


 無意識のうちにの手をとっていたスナコは、通常状態でを見つめている。

 鼻血など出すことなく。


「良いんです」

「え?」

「してください、お見合い」


 意味がわからず眉を寄せるスナコに、ぐっとコブシを作りはにっこりと笑った。

 ただ、止まった涙を再び流しながらだが。


「私、気にしませんよ?だって、スナコさんの恋人は、私なんですから。だから、不安でもなんでもないです!」


 表情と真逆に元気いっぱいにこたえるが、の手をとっているスナコは手から伝わる震えを感じとっていた。


「だから、お見合いしちゃってください!大切な叔母さんの頼みなんですし。ね?」


 だが、そこで涙がの手に落ちたことによって自分が泣いていることにようやく気づいたようで、慌てて目元を拭う。


「な、なんで泣いてるんでしょうねっ。・・・・なんで止まらないのっ」


 止まらない涙に、苛立ったようにさらに強く目元をこするの手を、スナコがつかんだ。


「あたし、やりませんから。オバちゃんに、ちゃんがいるからやらないと言います」

「わ、私のことは、本当にお気になさらないでください!」

「あたしが嫌なんです。以前は、ひろしくんたちがいたから嫌だったけど、今はちゃんがいるから嫌なんです」

「けど・・・」


 自然な動きで、スナコはは抱きしめた。

 の手は、渋る言葉とは違い、素直にスナコの背中に腕を回していた。


 スナコの耳に届く、儚い嗚咽。

 震える肩。

 考えるよりも先に、スナコの腕に力がこもる。


「あなたはあたしの恋人なんですから、嫌なら嫌だと言ってください」

「だ、って。スナコさ、んを愛し、てくれる、身、内の方じゃな、いですかっ」


 それだけで、スナコはが何を言いたいのかわかった。


 かつて、実の両親から捨てられた

 そんな彼女だから、思うのかもしれない。

 愛してくれる、大切にしてくれる身内の願いを叶えてあげたいと。


「だか、らっ」

「わかりました」


 びくりと、の肩が震えた。

 それは、心の動き。


ちゃんの気持ちはわかりました。ですが、それとこれとは別です。あたしは、お見合いなんてしません」

「スナコさん・・・っ」


 の心の動きに合わせて、スナコにもたれかかるかのように体から力が抜けた。


 2人はしばらくそのまま抱き合っていたが、が少しだけ離れ、潤んだ目でスナコを見つめた。

 スナコの顔が、最近慣れてきた行為をするために、へと近づいていく。

 ゆっくりと閉じていくの瞳。


 交わす、優しい口付け。


「もっと・・・・」


 離れてすぐに、艶やかに囁かれた。

 スナコは鼻血を出しそうになるが、それを我慢して繰り返しキスをする。


 2人は、心配してやってきた乃衣が来るまで、キスを交わしていた。





















【本当に恋人ができたのね?】

「うん。だから、ごめんなさい」

【・・・・・わかったわ。スナコちゃんが自分から言ってきてくれたんだもの。本当なのよね。素敵な人?】

「・・・・・可愛い人」

【可愛い?雪ちゃんみたいな男の子なの?】


 当然、スナコの恋人が女性だと知らないオバちゃんは、不思議そうに返してくる。

 ここでミニスナコ以外ならばどもったり何を言えばいいのか困るかもしれないが、さすがはスナコ。


「違う。女の子」


 そう、さらりと返した。


 後ろで聞いていたたちは、あまりにもさらりと返すために飲んでいたお茶を吹き出してしまう。

 同時に聞こえた、叫び声。


【なんですって!!?本当なの!?】

「うん」

【うんって・・・】

「オバちゃんは以前言ったわ。恋をすれば、世界が変わるって」

【え、ええ。そうよ、バラ色になるわ】


 通常状態になり、スナコは振りかえると、口元を拭っているを見た。


がいてくれるおかげで、本当に変わったの。と会えるから、学校に行くのが楽しくなったし、誰か(限定)と一緒にいることも苦痛じゃなくなった」

「スナコさん・・・」


 胸の前で両手を握り締め、頬を赤くしながら潤んだ瞳でスナコを見つめるは、まさに可憐な乙女。

 これで、恭平が切ったままのギザギザの前髪がなければ、さらに良し。


ちゃん、マジ可愛い・・・」


 雪之丞を筆頭に、4人ともさりげなく頬を染めてそんなを見つめている。

 そういう対象に見ていなくとも、4人はにきゅんとしてしまったようだ。

 4人がいつも言っているのは、あくまで冗談。

 に向けているのは、家族(妹?)に向ける感情なのだ。

 たまに、いき過ぎな発言があるが。


【・・・・スナコちゃんが、そこまで言うようになるなんて!わかったわ、女の子でもあたしは気にしない!お見合いも取り止めるわ!だから今度行ったとき、紹介してね♪】

「うん」

【それじゃあ、またね♪近いうちに必ず行くわv】

「うん」


 電話を切ったあと、すぐにがスナコに駆け寄った。


「私・・・私スナコさんにあそこまで言ってもらえて、嬉しいです!」


 少し涙目で、それでも満面の笑みを浮かべるは、乃衣たちの胸にクリーンヒット。


ちゃーーーん!!」


 乃衣が飛びつくようにに抱きついた。

 ミニスナコはを奪うように抱きしめ、フシャー!と猫のように威嚇する。


「スナコちゃん、ちょっとだけ!」


 人差し指と親指で少しだけ、を表す乃衣だが、スナコは頷いてくれない。

 そんなスナコの腕の中で、は嬉しそうに、猫のように、ミニマムスナコの腕の中を堪能している。


「スナコちゃんにあそこまで言わせるなんて、かなり凄いよね」

「うんうん。やっぱり、恋は人を変えるんだね」

「俺たちも、応援しないとね!」


 蘭丸、武長、雪之丞が感動の涙を流しているその横で、恭平がふと気づく。


「ところで、あいつに恋人できたなら、俺たちの家賃の件どうなるわけ?」

「「「あ!!」」」


 4人がスナコへと目を向けると、相変わらず乃衣と争奪戦を行っていた。



















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