【鼻血】





























 たまに見る、昔の夢がスナコにはある。

 10歳になったばかりのスナコが近くの公園に行くと、数人に囲まれて泣いている女の子がいた。

 囲んでいる中には、高校生くらいの少年もいる。

 彼らは、一様に女の子に残虐な言葉を投げつけていた。


 だから、スナコは彼らをこてんぱにのした。


 残された女の子の顔をスナコは覚えていないけれど、それでもとても驚いた顔で自分を見てきたことだけはスナコも覚えていた。

 スナコはそんな女の子に笑みを向け、そっと抱きしめたのだ。


 夢はいつもそれで終わってしまう。

 そのため、スナコは女の子がそのあとどうなったのかは知らない。

 それに、実際その後、スナコは彼女を見たことがないから。


 ただ、笑顔が可愛いと、珍しく思ったことは、確かである。










































 リアルホラーと呼び声の高いスナコだが、実は1人のファンがいる。

 以前のスナコに負けず劣らず前髪が長く、三つ編みで分厚いメガネをかけた少女が。

 その少女の名前は、 

 その彼女も、スナコ同様に気味悪がられている、かなり暗い子だ。

 それも、スナコに関することになると一気に変わるから、さらにまわりは恐ろしく感じている。


 そして、今日もはスナコを追いかける。


「スナコさん、お食事ご一緒してもいいですか!?」


 昼休み、隣のクラスからわざわざやって来たは勢いよく問いかけ、スナコもそれにうなずいて返す。

 入学当初からこんな感じなので、初めは驚いていたかもしれないスナコも今では慣れたもの。


 2人がいる場所を照らす点灯だけ、何故か消えたが2人は気にしていない様子だ。

 まあ、両方とも行く先々でこうなるのだから、気にすることもなくなるだろうが。


「ねえ、ねえ、スナコちゃん。今日、スナコちゃんの家にお邪魔しても良い?」

「かまいません」

「良かった♪実は、スナコちゃんに料理教わりたかったの」

「では、帰りに買い物でもしましょう」

「うん♪」


 そんな乃衣とスナコの会話を、はうらやましいのか指をくわえながら見ている。

 乃衣はそれに気づき、ふふと笑った。


ちゃんも、一緒にスナコちゃんから料理教わる?」

「い、良いんですか!?」

「大丈夫よね、スナコちゃん」

「はい」


 の周りをお花が飛び回る。


「ありがとうございます!乃衣さんも、ありがとうございます!」


 スナコと乃衣に頭を下げるのスナコラブな姿に、乃衣はくすりと笑った。


 乃衣たちは知っている。

 が、ただのファンではなく、本気でスナコを好きなことを。

 スナコは気づいていないだろうが。

























「・・・なんだ?これ」

「ちょっと、恭平君!私達が頑張って作ったのに、そういう言い方ないじゃない!」


 乃衣が腰に手をあてて、ムッとした顔で恭平を見た。

 恭平はそれを聞き、げ!といった顔で、乃衣の後ろでスナコに話しかけているに目を向ける。

 もちろん、恭平だけではなく雪之丞たちも似たような顔をしている。


「どっち見てるのよ!」

「だって、乃衣ちゃん。ちゃんも、その、作ったんだよね?」

「うん、もちろん」


 乃衣が綺麗に微笑むと、4人とも顔を見合わせた。


「俺、今日は夕飯いらねぇ」

「「「俺も」」」


 恭平に続き、ばっと手をあげるほか3人。


 テーブルの上に置かれた、ぐちゃぐちゃに形の崩れた食べ物たち。

 見る限り、あまり美味しそうには見えない。


「な、何よ!!」


 目じりに涙をためて乃衣が叫べば、4人に向かってフォークが飛んできた。


「「「「っ!!?」」」」


 避ける暇もなく、フォークがかするように横を通り過ぎ、壁に突き刺さる。

 乃衣がきょとんと振り返り、隣にいたスナコは輝いた雰囲気をだしてを見た。


「て、てめぇ!何しやがる!!」

「い、今っ!」

「怖いよー!」

「ふぉ、フォークが・・・!」


 青ざめながら恭平が怒鳴り、その後ろでは雪之丞たちが泣いている。

 乃衣の前にが立ち、フォークを4人に向けた。


「乃衣さんは、私の恩人です。そんな乃衣さんを泣かせるなんて、許されることではありません」

ちゃん、ありがとう!」

「い、いえ」


 フォークを向けたままのに、乃衣が笑顔で抱き、が恥ずかしそうにうつむいた。

 それを見たスナコが、小さく眉を寄せたが誰も気づかない。


「とにかく、謝ってください!」

「ごめんね?乃衣ちゃん。悪気があったわけじゃないんだ」

「俺もごめん、乃衣っち。だから、泣かないで」

「乃衣ちゃん、ごめんよ。泣かないでよ、ね?」

「ほら、恭平も謝って!」

「・・・・・悪かったな」


 雪之丞、武長、蘭丸。

 恭平も、雪之丞に言われ、渋々謝る。


「良いの、ちゃんがかばってくれたから。ありがとう、ちゃん♪」

「い、良いんです。乃衣さんは、私の恩人ですから」

「そういえば、その恩人ってなに?」


 武長が不思議そうに問うと、が口に笑みを浮かべた。


「乃衣さんは、今日ここに来ることをスナコさんに提案してくださった方なんです。だから、恩人なんです!」

「そんなことかよ」

「私には、どれほどお返ししても足りないくらい嬉しかったんです!」


 口を一文字にして、不機嫌なのを表すに、恭平はけっ!と。


「こいつにそれほど価値があるかよ」

「・・・・・・・・」


 途端、電灯が次々と割れていった。

 一気に暗くなる室内。


「「「きょ、恭平が余計なこと言うから!!」」」

「し、しかたねぇじゃん!」


 手を取り合って怯える4人とは反対に、乃衣とスナコは驚いてなどいない。

 相変わらず乃衣はに抱きつたままだし、スナコはそんな2人を見て不満そうにしている。


「スナコさんを悪く言うなんて・・・・」


 すっと、音もなくの体が動き、どうやってか乃衣の腕の中から消え、4人、正確には恭平の前に。


「命がいらないと思って、良いんですよね・・・・?」


 しゃっと手に現したのは、ナイフ、フォーク、ハサミ、包丁。


「「「わーーーーーっっっっっ!!」」」


 武長と蘭丸がを羽交い絞めにし、雪之丞が恭平に抱きついた。

 4人とも、全員ガタガタ体を震わせている。

 尋常ではないくらいに。

 何故なら、今のは本当に恭平を殺しかねないから。


「おおおお落ち着いて!ちゃん!」

「ははははやまらないで!」

「そそそんな奴のどこがいいんだよ!!」

「全てです!!」


 武長と蘭丸に抑えられながら、は恭平に叫ぶように返した。


「好きな人にブスと言われて以来、引きこもるくらい純粋なところも!一途なところも!とっても優しいところも!可愛いところも!全部ですよ!!」


 前髪の下から、ぽろりと、涙がこぼれる。

 全員がそれを見て、目を見張った。


「っ親にさえ捨てられた私に、初めて笑顔を向けてくれたのが、スナコさんなんです!!」

「え・・・」


 時間が、止まった。


「スナコさんが私のことを覚えていないことくらい、知ってますよ!!だからなんですか!?私にとったら、スナコさんは女神様だったんです!!スナコさんだけが、私にとって光りなんです!!」


 が、肩で息をくりかえす。

 そして、崩れるように座り込んだ。

 武長と蘭丸の手は、いつの間にかない。


「いつも、殴ってくる手という存在が、そのとき初めて、温かいということを教えてくれた人なんです・・・・っ」


 の頬を流れる涙が、床に小さな水溜りをつくっていく。


「・・・・・どんな姿をしていようと、私にはスナコさんだけなんですっ」

ちゃん・・・」


 スナコが近づいていき、ゆっくりと、昔をなぞるように華奢な体を抱きしめた。


























「あ、あの」


 スナコの部屋。

 今は、ホラービデオもつけることなく、部屋は無音。

 ロウソクだけに照らされた部屋の中、ベッドに背を預けて座っていたとスナコ。

 乃衣たちは、リビングにいるはずだ。


 静かなそれを破り、が伺うように声をかけてきた。

 スナコがを見ると、気まずそうにうつむいてしまう。


「お、お見苦しいところを見せてしまって、すみません」

「こちらこそ、覚えていなくてすみません」

「いえ、いいんです。あんな些細なこと、覚えているほうが変ですから」


 口が弧を描く。


 暗闇の中、の顔が前を向いた。

 そこにいるのはひろしくんだが、彼女自身はひろしくんを見ているつもりではないのだろう。


「・・・私は、あなたが好きです。やっぱり、根底には私を見てくれた人だから、というのがあります。けど、それはキッカケに過ぎません。好きだから、私は、あなたとキスしたり、体を重ねたりしたいと思っています」


 ぶっと、思わずスナコの鼻から鼻血が。

 は、それを気にした様子もなく、近くにあるティッシュで鼻を拭いてやりながら続けた。


「この気持ちは、疑似恋愛だとか、思い込みだとか、そういうものではないと私は思っています。というか、違います」


 スナコは新しいティッシュを、鼻に突っ込む。

 それでも、はスナコの肩に額を置いた。

 スナコの体が固まった。


「あなたを、愛しています」


 優しい匂いが、スナコの鼻腔をくすぐる。


「今までの事を無視して、私をどう思っているかだけでも、答えてくださいませんか?」


 お願いします。

 かすれた声で、がスナコのジャージをつかんだ。


「・・・・・あたしは、あの人たちみたいに、眩しくありません」

「そんなの関係ありません」


 すぐに、がそう返してくる。

 少し、強めの声で。


「私が好きなのは、あなたなんです。だから、教えてっ」


 スナコのジャージをつかむ手に力がこもり、スナコは恐る恐るその手に自らの手を重ねた。

 スナコの手が重なると、は息を呑んだ。


「・・・・たぶん、あたしもあなたが好きだと思います」


 暗闇で見えないが、スナコの頬がかすかに赤くなっている。


 はそれを聞いた瞬間、がスナコの体を押し倒した。


「愛してる・・・・」


 2人の影が重なった。











「お前らが付き合うことになったっていうなら、お前もやらなくちゃ駄目だろ」

「ななななんでですか!!?」


 今、は雪之丞たち3人に羽交い絞めにされていた。

 目の前には、ハサミを持った恭平が。


「だって、ちゃん。スナコちゃんだって前髪切ったんだから、恋人であるちゃんも切らなきゃ」


 雪之丞に、うんうんと頷く3人。


「乃衣さん!スナコさん!」

「ごめんね?私も、ちゃんの顔見てみたいんだ♪」


 乃衣がスナコを止めながら、笑顔で言ってくる。

 スナコも、乃衣に暴力を振るうことができないので、拘束が取れないようだ。


 が恭平を見上げると、にやりとした笑みが返ってきた。

 きっと、先ほどの仕返しなのだろう。


「ジッとしてろよ?」


 楽しそうに、ハサミをの前髪に近づけていく。

 そして。


 ――― ジャッキン ジャキン ジョキジョキ


 多めの前髪が、床に落ちた。

 現れた、の素顔。


「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」


 スナコたち全員が、息を呑む。


 スナコのときのような状態ではない。

 肌も荒れていない。

 ニキビだってない。

 クマだってない。

 そばかすだってない。

 むくんだりもしていない。


 そこにあったのは、乃衣に負けないくらいの美少女の顔。


 ――― ぶほーーっ


「・・・・可愛いーーーーーー!!!」


 乃衣が恭平を押しのけて、に抱きついた。

 だが、それどころではないらしいはアワアワと床に落ちた前髪を拾おうと必死だ。


ちゃん、すっごく可愛い!!こんなに可愛いのに、前髪で隠すなんてもったいないわよ!」

「か、顔がっ顔がっ・・・!」


「・・・・今、俺きゅんときちゃった・・・」

「「・・・実は俺も」」

「ひ、酷いです!!私、スナコさん以外に素顔をさらさないつもりだったのに!」


 武長たちの会話が聞こえていないは、キッと恭平を睨みつけた。

 だが、可愛い顔のにそんな目で見られても怖くなく、むしろもっと武長たちの心をくすぐってしまう。


「ねえ、ちゃん。スナコちゃんじゃなくてさ、俺にしない?」

「は、離してくださいっ!」

「蘭丸の病気が始まった・・・」

「けどさ、俺も結構きゅんてきちゃった、今のちゃんの顔」

「・・・・俺も」


 蘭丸がの顎をつかみ、武長が呆れたようにため息をつく。

 だが、雪之丞も蘭丸に同意したため、武長も本音をポロリ。


 しかーし、そんな蘭丸を蹴り飛ばす人物が。

 鼻血をだしたままのスナコである。


は、あたしの恋人です・・・!」


 なんと、あのスナコがみんなの前でを抱きしめたではないか。

 これには、恭平たちもビックリ。

 も驚いたが、すぐにスナコに抱きついた。


「お前さ、実は顔のケアしてただろ。こいつみたいになってねぇし」

「当然です!スナコさんにだけは見せるつもりだったんですから、顔のケアくらいしないでどうするんですか!!」

「健気だね」

「うんうん」

「スナコちゃんも、これくらいいじらしいところがあったら・・・」

「「それは言うなって」」


 恭平の問いかけに、が当然のように答え、それに武長と雪之丞が感動するが、蘭丸がもらした呟きに、すびしとツッコミ。

 本音では、蘭丸に同意しているのだろう。


「スナコちゃん、嬉しい?」


 いまだにに抱きついていた乃衣がスナコに問いかけると、スナコが固まり、またまた鼻血を。


「大丈夫ですか!?」


 が慌てて自分のハンカチを取り出し、スナコの鼻を押さえてやる。

 スナコの血を滴らせながら。


 そんな幸せ(?)な2人に、から離れた乃衣がにっこり。


ちゃん」

「はい?」

「良かったね」

「・・・はい!」


 いつもは口が弧を描いたのしか見たことがない。

 しかし、その全体図のなんと可愛いことか。


「・・・・いいな、あんな妹」

「・・・・俺も、妹たちいるけど、ちゃんみたいな妹もほしいかも」

「・・・・あんな健気な妹いたら、すっごい可愛がりそう、俺」

「「同感」」

「・・・・あんな顔で笑ってたのか・・・」


 武長、雪之丞、蘭丸、恭平がそれを見て呟く一方で、乃衣がその笑顔に頬を染めてまたしても抱きしめ、スナコはまたまたまた鼻血を噴出させていたのだった。


「スナコさん!!?」


 彼女たちは、いつちゃんと向き合えるのだろうか・・・。

 実質的な意味で。










 あとがき。


 展開意味わかんないし、もはや、本当にノリ。

 ちなみに、武長と乃衣はなんでもない設定です。










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