【貴重種】
学校からの帰り道、健人、サルサ、美也、ミレイの2人と2匹が一緒に帰っていた。
これからバイト先である【ルナ】に向かうらしい。
と、前方で道路に飛び出す子猫が。
――― プップー!!
激しい音を出す、車。
「サルサ!」
「わかっている!」
「「あ!」」
健人の言葉に反応し、子猫を助けようとしたサルサ。
けれどそれよりも早く、子猫がその場から消えた。
「「「「な!??」」」」
健人たちは目を見開き、あたりを慌てたように見渡し。
そして、見つけた。
道路に飛び出した子猫を頭に乗せ、通り過ぎた車を目で追っている1人の少女を。
「あの子が助けたのかしら・・・・」
「そう見て間違いないだろうが、あの者・・・・」
「ねえ、サルサ。あの子、ちょっと変じゃない?匂いが嗅げない」
「え、それって!」
「まさか・・・・」
健人と美也がサルサとミレイの言葉に、勢いよくその少女を見た。
黒髪に白のメッシュが入った、腰まで届きそうな髪。
ほっそりとした体。
美人と称されるであろう、かなり整った顔立ち。
着ている制服は、どこの学校であろうか、健人たちの知らないものだ。
少女は反対に健人たちに気づいていないようで、頭に子猫を乗せたまま歩き出そうとする。
「あ!待って!」
「健人!」
健人が一歩踏み出して、サルサがそれを静止した。
美也とミレイはどうすればいいのか、と困惑気味。
「・・・・・・・」
少女は自分にかけられた声に気づいたようで、無言で健人たちを見ている。
「・・・・あの、俺、岩瀬健人。君の名前は?」
その問いかけに、サルサはため息をついた。
「・・・マメ吉」
「「「「マメ、吉?」」」」
あまりない名前に、4人してポカンとしてしまった。
「な、何でそんな名前なわけ?」
「・・・・?」
わかんない、そんな顔で首を傾げる少女、マメ吉に美也と健人は苦笑。
ミレイとサルサは呆れた顔をした。
「あんたの飼い主がつけてくれた名前じゃないの?」
「飼い主なんていない・・・・」
ミレイに小さく返し、マメ吉は頭に乗せた子猫を撫でる。
「それで、お前はなんなのだ?ワイルドハーフだろう?犬か?猫か?」
「・・・・・・・・・・・」
――― シュッ
「「「「っ!?」」」」
――― シュッ
一瞬である動物に変わり、その後また人型に戻ったマメ吉。
健人たちは、唖然とし、けれど一人サルサがハッとしたように声を上げた。
「っ馬鹿なのだ貴様は!こんな街中で戻る必要がどこにあるのだ!!」
「なんなんだって言うから・・・」
「時と場所を考えるのだ!」
サルサは怒鳴ると、周りで驚いたように目をこすっている人たちから逃げるようにマメ吉の手を取り、人通りのない場所へとやって来た。
その後ろを、慌てたように健人たちもやってくる。
「まったく。馬鹿なのだ、お前」
呆れたようにマメ吉を見下ろすサルサに、マメ吉は不満そうに頬を膨らませた。
表情こそ変わらないが、仕草はわりと子供っぽい。
そんなマメ吉の頭に乗っている子猫は、きょとんとした顔。
「良いか?俺たちワイルドハーフは、心を許している者以外の前で変身するのはいけないのだ」
「?」
「君だって嫌だろう?心無い人間達に、拘束されて好きかっていじられるのは」
健人に、こくん、と頷くマメ吉。
「だから、変身するなら人の見てないところとかでするほうが良いわよ?」
美也がそう微笑むと、マメ吉は表情を変えずに親指を立てた。
それにホッと息をつくサルサたち。
「ねえ、もう一度見せてもらっても良い?」
こくん、と頷いてマメ吉は転変した。
そこにいたのは、犬型に戻ったサルサと同じくらいの大きさの虎が。
普通の虎と違うのは、黄色と黒ではなく、白と黒、ということ。
「もしかして、あの貴重なホワイトタイガー!?」
「綺麗・・・」
美也が恐る恐る、といったようにマメ吉の柔らかな毛並みに手をうずめると、マメ吉がぺろりと美也の頬を舐めた。
それに思わず叫び声を上げてしまうミレイ。
美也を抱き寄せて、威嚇するようにフーッ!。
「もう、ミレイったら」
美也大好き、ご主人様万歳なミレイに、美也は苦笑。
「あ、その服ってどこで手に入れたの?」
「・・・・動物園から逃げ出して歩いてたら、見つけた」
人型に戻り、マメ吉は健人に答える。
健人たちはそれに首をかしげた。
「こんなに綺麗な制服、捨てたのかしら?」
「周りに、誰が人がいた?」
「草むらで抱き合ってた人間達がいて、女の方が捨てた服」
「「・・・・・・・・・」」
意味を悟り、美也と健人は思わず顔を赤らめてしまう。
反対に、サルサとミレイは良くわかっていないらしい。
「と、とりあえず、その名前変えない?」
「ど、どこから取ったの?」
話題を変えようと、健人と美也が慌てたように問いかけてきた。
マメ吉は、子猫を撫でながら。
「人間達に何度も名前聞かれるから、その時見た看板からとった」
ナンパか。
健人と美也はすぐに気づいた。
「なら、もっと良い名前つけたら?マメ吉なんて、ダサくない?」
「?」
そう言った観念はないらしく、ミレイに首をかしげてかえすマメ吉。
「美也。何か良い名前を考えてやれなのだ」
「私で良いの?」
「自分で考えるよりは、この馬鹿の場合は断然マシなのだ」
馬鹿、と言われたからか、マメ吉はぷく、と頬をふくらませる。
美也はそんなマメ吉に微笑み、そうね、と顎に手をあてた。
「、というのは?」
「?」
「ええ、どうかしら?」
首をかしげるマメ吉に、美也も首を傾げて問い返す。
「・・・・・・ありがと」
うっすらと、彼女は微笑んだ。
整った顔立ちの笑みはとても綺麗で、
「「「「っ!!?」」」」
美也も、ミレイも、健人も、サルサも。
全員が、頬を赤くしてしまった。
男も、女も、猫も、犬も綺麗だと、そう思ってしまうほどの笑み。
「さ、さすが、ホワイトタイガー」
何がさすが、なのかわからないが、ミレイは頬を染めながら、悔しそうにそう呟いた。
マメ吉、改めて。
美也たちのお友達に、なりました。
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