<物語が始まる前のこと>





 誰でも良かった。

 ただ、暇がつぶせれば、それで。


 まさか、それを学校の人に見られてるなんて、思わなかった。


「月野さん・・・」

「水野さん、だったよね?どうかしたの?」


 真剣な顔をした相手、水野亜美。

 まさに、優等生、といった感じの子。

 たぶん、あたしとは一生無縁だろうな、っていう感じの。


「昨日、見たのよ。私」


 それだけで、あたしは彼女が何を言いたいのかがわかった。

 別に、制服を着ていたわけでもないし。

 それなりの格好をすれば中学生になんて見えない。

 それに、結構地元から離れた場所で、相手を探していたのに。


「・・・へー・・・」

「いけないわ、あんなこと!」

「・・・・別に、水野さんに関係ないじゃん」


 あたしがそういうと、彼女は目を見開いて、驚きを表した。


 そんな彼女があまりに純粋に見えて。

 そんな彼女が、あまりに綺麗で。


 あたしは、醜い自分を直視するのを避けるように、水野さんから目をそらした。


「あたしが何してようが、水野さんには関係ないじゃん」

「月野さん・・・」

「用はそれで終わり?じゃあ、あたしもう行くね」

「月野さん!」


 踵を返そうとした足は、水野さんに腕をつかまれたことによってそれはできなくなった。


「なに?」

「私、必ずあなたを止めてみせるわ」

「だから・・・」

「止めてみせる!」


 遮った強い声に、あたしは何も言わず手を振り払い、屋上を後にした。


 その数ヵ月後、セーラー戦士なんてものになるなんてこと、あたしは知らない。

 彼女と、ともに命を懸けて戦うことになるなんて、知らない。


 彼女から、無縁だと思っていた、恋を教えられるなんて、知らない。




<亜美×うさぎ>











<隠れた真実>






 初めて彼女を見たときは、平凡な子だと思った。

 普通の中学生。

 普通よりも、頭が悪そうな子。


 でも、うさぎを見ていると、そうではないことがわかる。


 なんて言ったら良いのか・・・・。

 普通の、なんて範疇から飛び出た存在。

 確かに、私達はセーラー戦士で、その時点で普通とは違うけど。

 そういうことではなくて・・・。


 ほら、学校帰りの亜美ちゃんとうさぎの姿。

 今日は、美奈子ちゃんとまこちゃんがいないのか、2人きり。

 その時だけ見ることができる、うさぎの様子。


 いつも笑顔を浮かべているうさぎが、当たり前のように無表情で話をしている。

 亜美ちゃんは、それを疑問に思った様子もなく笑顔。


 私の知らないうさぎ。

 亜美ちゃんが知っているうさぎ。


 亜美ちゃんは仲間だというのに、感じるこの苛立ち。

 亜美ちゃんのいる位置に、私がいたられたら・・・。


 なんて、馬鹿らしい想像さえしてしまう。


「うさぎ、亜美ちゃん」


 声をかけると消える、うさぎの本当の顔。

 声をかけると表れる、亜美ちゃんの残念そうな顔。


「レイちゃんも帰り?」

「ええ。今日はまこちゃんたちは?」

「なんか用事があるんだって〜」


 不満そうに頬をふくらませるうさぎの仮面。


「だから、今日はレイちゃんのお家に、2人で行きましょうって、話しをしていたのよ」


 困ったような笑顔の亜美ちゃん。

 私はそれに苦笑した。


「2人がいないなら、たまには3人で遊びましょうか」


 そう答えるけど、私は聞いていたのよ。


 今日は、うさぎちゃんの家に行っても良い?

 別に良いけど・・・。


 そんな会話を。


 だって、私はずっと後ろにいたんだもの。


「レイちゃんからお誘いなんて、珍しいね〜」

「たまには良いでしょ」


 亜美ちゃんの残念そうな顔に気づかないふりして、うさぎの頭を叩く。


 亜美ちゃん、見ていないさいよ?

 あなただけが、うさぎの特別だなんて、私は受け入れないわ。


 亜美ちゃんに負けないくらい、私はうさぎが好きなんだから。






<セラムンの亜美×うさぎ←レイ、みたいな>











<前世なんて、くそくらえ>





 苦しい。

 痛い。

 それらは、あくまで比喩。


 昔から、よくそれは起こった。

 家にいるとき。

 学校にいるとき。

 寝ているとき。

 起きている時。


 関係なく起こるそれ。


 あたしじゃない”私”に書き換えられる感覚。


 いつもそれに必死に抵抗して。

 毎回、全身に汗をかいて自分を取り戻していた。


 それが誰なのか、ようやくわかった。


 ―――ようやく見つけた!エンディミオン様!!


 あいつだ。

 馴れ馴れしく「お団子頭」と声をかけてくる男。


 あいつと話をしたとき。

 イカレタ格好をした男が現れた時もそう。


 あたしの中の”私”は、叫ぶ。

 愛しげに。

 切なげに。

 エンディミオン様!!と。


 人の戦いを、命がけの戦いを、高みから見物して、さも助けてやった、みたいに邪魔をする男。

 人の作戦を、毎回無にする男。


 やめてと、一人誰にでもなく叫ぶ。

 ルナがいなくなって、ようやく安心できたのに。


 あたしの、初めてつかんだこの想いを、あの男への恋心へと書き換えられそうになる。


 亜美ちゃん、助けて。


 あたしの、いつも隣にいてくれた彼女を求め、叫ぶその声は、届かない。

 そんなこと、知っている。

 そんな都合の良いこと、考えることはしない。


「うさぎちゃん!!」


 なのに、血相を変えて部屋に入ってきた亜美ちゃん。

 抱きしめてくれる、細い腕。

 早い鼓動が、走ってきてくれたことを証明していて。


 あたしは、この人が好きなの。

 あたしの傍にいてくれたのは、他でもない彼女なの。



 もう1人の”私”、それくらいわかってよ。

 ねえ、プリンセス。







<セラムンの亜美×うさぎ。>










<お前とあたしは、違う人間だ>







 タキシード仮面さまが敵の手に落ちた。

 相手は、きっと彼がエンディミオン様だということを、知っている。

 やっぱり、敵のボスはあいつ・・・。


「どうする?うさぎちゃん」


 いいえ、プリンセス・セレニティ。

 あなたの愛する人が、死ぬかもしれないの。


 そんなこと、前世の記憶のないうさぎちゃんに、言えるはずがないけど。


 うさぎちゃんは、うつむいたまま沈黙。

 きっと、前世の記憶はないけれど、彼には懐かしさや愛しさを感じているはず。


「うさぎちゃん、大丈夫?」


 亜美ちゃんが心配そうに、うさぎちゃんの顔を覗き込む。

 その瞬間、うさぎちゃんは亜美ちゃんに抱きついた。

 肩が震えて、苦しそうに。


「うさぎちゃん・・・・」

「うさぎちゃん!」


 泣いているのだろうと思ったわたしの声は、亜美ちゃんの声で掻き消えた。

 驚いてうさぎちゃんを見ると、額から凄い汗を流して、苦しそうに呼吸を繰り返し、胸を抑えていた。


「「うさぎちゃん!!?どうしたの!?」」

「どうしたんだい!?」

「うさぎ!?」


 わたしやルナ、まこちゃん、レイちゃんの声が重なった。


 うさぎちゃんの様子は尋常ではなくて、わたし達はどうすれば良いのかわからない。

 何がうさぎちゃんの体で起こってるの!?


 その時、うさぎちゃんが、なんと亜美ちゃんに口付けた。


「っ!!?」


 わたし達は息を呑み、けど亜美ちゃんは驚きながらも、目を閉じてそれを受け入れている。


「なんで・・・・・」


 目の前の光景に、頭が働かない。


 うさぎちゃんは、ずっと彼が好きだと思っていた。

 だって、うさぎちゃんの前世は、彼を心から愛していたから。


「・・・・・うるさい!プリンセス!!」


 うさぎちゃんは亜美ちゃんから離れると、強い、初めて聞く口調で、声をあげた。


 うさぎちゃん、あなた、前世を憶えて・・・・?


「う、うさぎちゃん?」

「はぁ・・・はぁ・・・・」


 息荒く呼吸を繰り返すうさぎちゃんを、わたしやルナ、まこちゃんは呆然と見つめ。

 レイちゃんは、睨むようにうさぎちゃんを抱きしめる亜美ちゃんを見つめていた。


「あたしは、月野うさぎなんだ・・・。プリンセス・セレニティなんかじゃ、ない・・・っ」

「うさぎちゃん、大丈夫よ。大丈夫だから」


 静かに泣くうさぎちゃんを。

 そんなうさぎちゃんを、とても愛しそうに抱きしめる亜美ちゃんを。


 わたしは、呆然と見つめることしかできなかった。




<セラムンの亜美×うさぎ。>

<美奈子視点>






<あなたが護れたら、それで・・・>








「うさぎちゃん・・・」


 ようやく、敵を倒すことができた。


 あたしの手を握りしめる亜美ちゃんの手を、握り返す。

 けど、全然だめで、力なんて入らなかった。


 だって仕方ない。

 あたしの体は、もうボロボロだから。

 きっと、死ぬんだ。


 少し前まで、どうでもいいと思ってた。

 全部、全部。

 自分自身さえ、どうでもよくて。

 別に、生きたいとか、思ったこともなくて。

 むしろ、あたしは死にたいと思っていたほうで。


 そんなあたしを変えてくれたのが、亜美ちゃんだった。

 だから、護りたかった。

 そして、護りきった。


 今、あたしは充足感に満ちている。

 それでも、この人の隣にいたかったとも、あたしは願う。


「ごめんね・・・・」

「うさぎ・・・っ」


 レイちゃんの泣き顔なんて、初めて見たかも。

 ううん、美奈子ちゃんの、まこちゃんの、ルナの泣く顔なんて、初めて見た。


 そう、みんなのこと、初めて”見た”。

 いまさら知るなんてね。

 あたしには、みんながいたってこと。


「美奈子ちゃん、大好き・・・・」

「うさぎちゃんっ、ごめんなさい!全然、気付かなくて、ごめんなさい!」

「・・・・まこちゃんも、大好きだよ・・・」

「うさぎちゃん・・・・っ」

「レイちゃんも、大好き・・・・」

「この馬鹿うさぎ!!」

「ルナ・・・・ごめんね・・・・」

「うさぎちゃんっ、謝るのは、私の方だわ!」


 泣くルナの頭を、あたしは”初めて”撫でた。


「亜美ちゃん・・・・」

「お願い、死なないでっ。うさぎちゃんがいなくなったら、私はどうすればいいのっ?」


 すがり付いてくる亜美ちゃんを、抱きしめる体力もない。


 だんだんと、塗りつぶされる黒。

 ああ、早く、伝えなくては。


「・・・・亜美ちゃん・・・・・愛してる・・・・」


 嘘偽りのない、あたしの本心。

 初めて伝えた、あなたへの想い。


「うさぎちゃん!!いやっ!死なないで!!」


 真っ黒な闇に落ちていく。

 それは少し心地よくて。

 少し、寂しい。


「っいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」br>





<一章、ラスト。原作とかなり違いますが>

<一応、うさぎのみ死ぬ、という死にネタです>

<セラムンの亜美×うさぎ。>















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