【くだらない】































<志摩子視点>


 祐巳さんが、私達と一緒に劇の練習を始めるようになってから、私は白薔薇さまからロザリオを頂いた。

 私は、白薔薇のつぼみになったのだ。

 けれど、その次の日、祐巳さんが学校を休んだ。


 授業にも身が入らなくて。

 それは、放課後になっても変わらなかった。


「あら?志摩子、今日は祐巳ちゃんは?」

「今日は、おやすみなんです」


 残念そうにしたのは、黄薔薇さま以外全員。

 練習が始まってすぐに、私はさりげなく黄薔薇さまに問いかけた。


「祐巳さんがおやすみになること、わかってらっしゃったんですか?」

「ええ」


 短く、前を向いて答える黄薔薇さま。


「何故、と聞いてもよろしいでしょうか?」


 そう問うと、黄薔薇さまは小さく溜息をつかれた。


「祐巳は、知っている通り人に触られるのが大嫌いなの。それも、知らない人にね。それと、他人と一緒にいることにとてもストレスを感じる子なのよ」


 それは、なんとなく感じていた。

 もちろん漠然としたものだったけれど。


「そう、ですか」

「そろそろ、体調を崩す頃だと感じていたわ」

「お見舞いに、行っても良いでしょうか?」

「残念だけど、今日は私が行くわ」


 即答され、ムッとしてしまう。


「一緒に行けば良いではないですか」

「確かに、あなたは祐巳の本当の姿を知っているわ。だけど、それはあなたが盗み聞きしただけ。祐巳が、あなたに気を置いているからではないのよ。そんな子に来られたら、休めるものも安めはしないでしょう?」


 それは、そうだけれど・・・・。

 だとしたら、黄薔薇さまは・・・・。


「黄薔薇さまは、祐巳さんに気を置かれているのですか?」

「私が祐巳と知り合ったのは、3年前よ?休みの日は、ほとんど一緒にいたわ。だから、あの子がしてほしいこと、してほしくないことは知っているつもりよ」


 年月をいわれてしまうと、私は何も言えない。

 私が彼女に初めて会ったのは、数ヶ月前。

 一年にも満たないのだから。


「それにいったでしょう。あの子は、他人といることにストレスを感じる子なの。お見舞いに行くにも、一人がベストなのよ」


 黄薔薇さまがそこまでいった時、紅薔薇さまが黄薔薇さまを呼んだ。


「それじゃあね」


 黄薔薇さまが去った後、私はため息をつく。


 わかっているの。

 私では、黄薔薇さまには敵わないことくらい。

 けれど、どうしても祐巳さんの近くに行きたい。

 祐巳さんを変えたい、なんて大それた事はいわない。


 いえ、きっと祐巳さんを変えることなんて出来ない。

 もしかしたら、誰も出来ないのかもしれない。


「志摩子さん」


 ハッとして、声の主を見る。

 そこには、いつの間にいたのか由乃さんがいた。


「な、なぁに?由乃さん」

「祐巳さんと黄薔薇さまは、付き合ってるの」


 その問いに、私は目を見開き由乃さんを見つめた。


「何故?」

「この間、祐巳さんと黄薔薇さまが、その・・・・・校舎裏で、色々としていたから」


 色々とは?


「色々?」

「恋人同士がするような事よ」


 それを聞き、思い出す。


【キスもさせてくれないの?】


 祐巳さんが初めて薔薇の館に来た時のことを。

 トイレで、黄薔薇さまは祐巳さんにそう問いかけていた。


 心が震えたのが、わかった。


「・・・・・わからないわ」

「そう・・・・」

「何故?」


 もう一度、私は由乃さんにそう問う。


「別に、何でもないわ。ありがとう」


 由乃さんはそういい、少し放れた位置にある椅子へと戻っていった。


 あら・・・?


 ふと気になることがある。

 もしかして、由乃さんは、本当の祐巳さんの姿を見た・・・・?


 祐巳さんは、黄薔薇さまと2人きりの時は本当の姿になるようだし。

 校舎裏ということは、人気のない場所。


 私は、聞きたくて、でも聞けないこの感情で、無意識に由乃さんを目で追っていた。











































<祐巳視点>


 人の気配に目を覚ますと、そこには見慣れた顔。


「・・・・・・来ていたんですか」

「ええ。お邪魔しているわ」


 江利子さんはそういうと、わたしの額に手をあててきた。

 いつもは払うけど、面倒くさくて私はそのままにする。


「少し、熱いわね」

「いつものことです」


 この人とは長いから、月に一回のペースでわたしが体調を崩すことを知っている。

 ただ、最近は人にも注目されるし、自分に戻れる時間も少なくなっているから体調を壊しやすい。

 その上、周りは吐き気がするような人ばかり。


 特に一番嫌いなのは、あの白薔薇という人だ。

 抱きつかれるたびに、わたしは吐き気と、手を払いのけたい衝動を抑えるのに労力を使う。

 薔薇の館という場所は、わたしにはあわない場所だ。


「明日には、来られそう?」

「熱が下がっていれば行きます」


 いい加減、手をはなしてほしくて、その手を払う。


「あ、ごめんなさい」


 すまなそうに謝ってくるその人を見もせずに、わたしは目を閉じた。


「祐巳・・・・」


 静かに、唇に柔らかい圧迫感。


 この人は、わたしを好きだと、愛しているという。

 くだらない。

 それほどにくだらない感情は、きっと何処を探してもない。


 好きだなんて、愛しているだなんて。

 なんて、くだらない感情だろう。


 ただ唯一わたしがその言葉を、好きに言わせている理由は、

 あの人とは違い、女性だから。

 もし、これが男だったならば、わたしは吐いていることだろう。

 江利子さんは、女性だから。

 そして、知り合って長いから、その言葉を好きに言わせているのだ。


 そうでなければ、わたしはきっと言われるたびに、その人を睨むだろうから。


「風邪移りますよ」

「祐巳の風邪なら、私は喜んで移るわ」

「アホらしい」

「アホでも良いのよ。少しでも、祐巳との繋がりが持てるのなら」


 目を開けたと同時に、江利子さんのキス。


 くだらない。

 わたしはそう思いながら、キスをされ続けた。


















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