知らないでしょうね






 息さえ吸えない。

 吐き出せない。

 そうしたの貴女で、けどたぶん気づいていないんでしょうね。

 私の、こんな想いになんて。


 だって、あなたの前で私はいつも、感情を押さえ込んでいるのだから。



「こんばんは、はやてちゃん」

「祈紗枝・・・・」


 微笑む私には、玲が気をかけている黒鉄はやてちゃんがいる。

 そんな彼女が持っているのは学校で使う剣ではなく、血塗れた刀。

 そして、彼女の足元にあるのが、少し前まで人だったモノ。


「学園を抜け出して、何をしているのかしら」


 一歩近づくと、はやてちゃんの手がピクリと動いた。

 それでも、顔には何の色も宿してないのだけど。


「ここでなにしてんの」

「あら、それは私があなたに問いかけた言葉じゃない?ねえ、死神さん?」


 今度は、見えない速さで刀の切っ先を向けられた。

 予備動作など、何もなく。

 それだけで、彼女の腕がどれくらいなのかを計ることができる。


 眼前には、血の滴った刀。

 その向こうにあるのは、冷徹な瞳。


 ゾクゾクする。


 向けられる瞳に。

 向けられる表情に。

 向けられる殺意に。


 それは、私しか知らない彼女だから。

 今の彼女を知っているのが私だけだと思うと、とてつもない快感が私を駆け巡る。


 殺されそう?

 そんなこと、私には関係ないのよ。

 目の前にいる、機械のような彼女が私を認識してくれた。

 それが私にとって、どれだけの感情をわきあがらせるかわかる?


 キチガイ?

 なんとでも言えばいいわ。

 私は自分がどれほど異常かくらい、わかっているもの。


「悪いけど、死んでね」

「残念だけど、それは無理ね」

「・・・・」

「あなたにあれを殺すように依頼したのは、私だもの」


 貴女が人を殺す場面を見たいがために、見も知らぬ人を殺すように依頼した。


 ああ、なんて心地がいいのかしら、彼女に向けられる殺気は。

 気絶してしまいそうな殺気でさえも、私には媚薬になる。


「・・・・・」

「ふふ、あまり殺気を向けられると、体が熱くなってきちゃうわ」

「狂ってるんだ、祈りんて」

「あら、それは私にとったら最高の褒め言葉だわ」


 第一、狂っているのははやてちゃんも一緒じゃない?


 機械のような目は、相変わらず私を見ている。

 その目が、私をとらえて離さないのよ。


 氷のような目が、私を熱くさせる。



<紗枝×はやて>










冷めた色





 伸びるような剣。

 剣筋さえも見えないその中で、唯一見えるのがそれ。

 Bランクである彼女の持つ剣が、普通よりも長い剣などというわけでありません。


 そんな彼女の剣が伸びて見えるのは、それは彼女の腕によるもの。


 それなのに、今私の目の前にいる彼女がそれを実践で使ったのを見たことなんてないんです。

 いつも画面越しに見る彼女は、私と同じくらい動きが早くて、けれど幼いゆえの詰めの甘さが目立つ少女。


 それがどうでしょう。

 すぐ前にいる彼女は、今まで彼女が見せていた剣筋とまったく違うものを見せているではありませんか。


 それで十分、悟ることが出来ます。

 彼女が、実践では本気を出していないのだということを。


 真剣な表情で剣を振るうその気迫は、ひつぎさんを思わせます。

 私ではまだ、立ち入ることのできない域にいるあの人に。


「黒鉄はやて・・・・」


 今もまだ、本気ではないのでしょう。

 もし彼女が本気になったとき、私はかなうのでしょうか。

 素早さも、剣の腕も。

 私には、わかりません。


「覗き見?」


 ハッとして我にかえると、いつの間にか剣をおろしていた彼女がいました。


「あ、い、いえ、別にそういうわけではっ」


 私を見てくるその瞳は、気を許していない者に向けるものがあって、私はあわててしまう。


 確かに、私と彼女に接点はありません。

 ですが、その目はあまりにも、いつも彼女がしている目と違っていて、戸惑うのです。

 彼女は、剣筋と同じように、本質も隠していたのでしょうか。

 いえ、きっとそうなのでしょう。


 無道さんは、それを知っているのでしょうか・・・。

 今にも、攻撃してきそうな、そんな彼女を。


「あなたは・・・誰、ですか・・・?」

「ふっ。そんなに意外?今のあたしは」

「・・・・はい」


 鼻で笑う彼女に、私は俯いてしまいました。


「外身しか見てないくせに、なに驚いてるの?」

「そんな、私は・・・っ」

「なんて、あんたたちになんて見せないけどね」


 それは、私達を絶対に信用しない、という意味と同義だとおもいました。

 
「何故、ですか!?」

「言う必要なんてある?」


 冷めた目で見られて、私は何も言えなくなってしまいました。

 言いたい言葉あるのに、口でないんです。


「止めて、ください・・・・っ」

「なに?」

「そんな目で見るの、止めてください!」

「ば〜か」


 はやてさんは最後まで、私を冷めた目で見ていました。


 その後ろ姿に、私はいつの間にか涙を流していました。






<静久×はやて?>











<閉じ込めて>







 わたくし以外を、見ることができないように。

 わたくし以外を、感じることができないように。

 わたくし以外を、聞くことができないように。


 あなたを、どこにも出しはしないわ。

 わたくしの心を奪った、小さな子猫ちゃん。


 尖った牙を抜いて。

 鋭利な爪を切って。

 獰猛なその眼を潰してあげる。


 けれど、それらも愛しく感じているわたくしは、それができない。


「ごはんよ」

「ここから出せ」

「それはできないわ、はやて」


 わたくしを見つめるその眼。

 それには今、わたくしだけしか写っていないのね。


 なんて甘美なことかしら。


「出せと言っている」


 手錠に繋がれたままの両手が、私の襟をつかみ引き寄せてきた。

 その手首には、逃げようとした後なのだろう、血が滲み、皮膚が破れていた。


 彼女の血の匂いが、わたくしの鼻腔をくすぐる。

 何物にも劣らない、極上の美酒のよう。


 わたくしは彼女の瞳を見つめながら、その血を舐めとった。


「やめろ!」


 振り払われ、腹部を蹴られてしまう。

 けれどわたくしは、今にも噛みつかんとする彼女に、笑みを向けた。

 だってわたくしは、彼女の全てを愛しているのだから。


 けれど、躾は必要よね。


「飼い主を蹴るだなんて、悪い子猫ちゃんね」

「誰が飼い主だ」

「今、わからせてあげるわ」


 わたくしは、手錠についている電流波を、オンにした。


「うぐぁぁっ」


 わたくし以外を、見ることができないように。

 わたくし以外を、感じることができないように。

 わたくし以外を、聞くことができないように。


 全てを、わたくしのものにしてあげるわ。





<ひつぎ×はやて>






















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