師匠








 玲も知らない。

 玲のファンクラブの人も知らない。

 もしかしたら、会長さんも知らないかもしれない。

 それに、彼女の刃友でさえも、知らないはず。

 あの子の本当(真実)を。



「・・・・ねえ、紗枝。まさかそんな腕で、今まで白服着てたの?」

「・・・すみません」


 剣を杖にしながら体を支えながら、私はそう返すことしか出来なかった。

 目の前の師匠は、私とは反対に息一つ乱さずに剣を担いで立っている。


「今までずっと、目だけに頼ってた、なんてふざけたことしてないよね?」


 私よりもずいぶん小さな師匠は、私に近づいてくると、首を傾げながら顔を覗き込んできた。

 そんなことはない、と言いたいのに、何故か師匠の目から瞳を逸らしてしまう。


「ふ〜ん。紗枝は、刃友に恵まれてる、ってわけか〜」

「・・・すみません」

「さっきから、それしか言ってないの、わかってる?」


 またも覗き込まれて、私は唇を噛みしめた。


 師匠の目は怖い。

 純粋で。

 真っ黒で。

 相反したモノが宿る師匠の瞳は、見ているだけで吸い込まれてしまいそうになるから。


 性格から、玲さえも遊びの対称にしてしまう私の、唯一の弱点。

 それが師匠。

 会長さんでさえ、こうは思わないというのに。


「あ・・・」

「師匠?」

「今日はここまでね。紗枝のことししょーも呼んでるし、あたしは綾那が呼んでるから」


 師匠は剣を腰に戻すと、さっさと踵を返してしまう。


「っ師匠!」

「なに〜?」

「・・・・・・あ、あの・・・っ」


 何も考えていなかった私は、言葉に詰まってしまった。

 師匠以外ならば、起こらない出来事。

 師匠に見つめられてしまうと、言葉が浮かばない。

 それはきっと、私が師匠にある想いを抱いているから。


「・・・さ〜え」

「は、はい」


 いつの間にか顔を覗き込んでいた師匠に、慌てて返事をした。

 師匠は、周りに見せる作った笑顔ではなくて、素の綺麗な笑みを私に向けてくれた。


「また明日ね」

「・・・はい」


 自然と体から力が抜け、本来の笑みを師匠に返した。

 師匠はそれに笑みを深め、背を伸ばす。

 何か、と思っている間に感じた、唇への感触。


「っ!?」

「好きだよ、紗枝」

「・・・・・私も、あなたが好きです、師匠」

「よろしい♪」


 今度こそ去っていく師匠の背中を見詰め、私は唇に手をあてた。


 誰かにキスをされても、ここまで顔は熱くならないだろう。

 誰にキスされたとしても、ここまで幸せは感じないわ。


 相手が、小さな、小さな師匠だから。


 だから私は、あなたを愛することを止められないんです。

 止めようとは、思わないんです。


 あなたを愛しています、はやて




 一応、紗枝×クロ

 紗枝って、難しいですね・・・・。
















奉納












 私が、彼女の裏を知ったのは、偶然だった。


 偶々その日、いつもは行かないような場所に行き。

 偶々その日、いつもは出歩かない時間に出歩いた。


 そこにいたのが、彼女だった。

 月の光りしか、光源のないその場所に。


「っ!?」


 息をのんだ。


 それがどんなものなのかなんて、私にはわからない。

 それが、どういう意味のものなのかなんて、私にはわからない。


 けれど、それが、とても、素晴らしいものであるということだけはわかった。


 ―――シャラン


 彼女が腕を振るえば、かすかな鈴の音色があたりを震わす。


 ―――シャラン


 彼女が足を踏み込めば、涼やかな鈴の音色があたりに木霊する。


 月夜を浴びる中、舞う彼女は、らしくもなく月の化身だと、そう思った。


「・・・・祈紗枝」


 いつの間にか止んでいた、彼女の舞。

 いつの間にか止んでいた、涼やかな音。


 勿体無いと、私はそう思った。


「私のこと、知っているのね」


 それを表に出すことなく、なんでもないように問いかけた。

 あの子はそんな私に気付くことなく、肯定するように微笑む。

 見たことのある、元気な笑みではなくて。

 落ち着いた、優しい笑みを。


「今見たのは、秘密にしてね」

「・・・・なら、私とお友達になってくれないかしら?」


 踵を返した彼女に、私はらしくもなく慌てた。

 彼女との絆を持ちたくて。


「友達に?」


 驚いたように振り返る彼女に、私は頷く。


「どう?それならば、私も秘密にしているわ」

「・・・・変わってるね?」

「そうかしら?」

「そうだよ〜」


 そう言って笑う彼女は、否定していなかった。

 それに安堵して、私は笑う。


 私はその日以来、秘密の、けれど確かな絆を手に入れた。


「ねえ、祈ん。今日も来るの?」

「当然じゃない、はやてちゃん」

「あんなの見ても、面白くもなんともないと思うけどな〜」

「そんなことないわよ」


 私は今、毎日、彼女の舞を見に行く。


 ただ不満なのは、彼女が神という存在に奉舞をしていること。

 いつか、私にだけあの舞を、捧げてくれる時が来るかしら?



 <ごめんなさいと、言わせてください。>















知りえぬこと










 笑ったもん勝ち。

 世の中なんて、そんなもんだよ。

 笑ってたら、誰もあたしに気づかない。

 笑ってたら、誰もあたしの闇に気づかない。

 笑ってたら、誰もあたしの心に気づかない。

 誰も。


 綾那も。

 じゅんじゅんも。

 もかちゃんも。

 双子の、凪にだって気づかれない。


 でも、それで良いんだよ。


 笑って、

 馬鹿やって。


 どうせ、受け入れられないことだって、気づいているもん。

 あたしは、そんなもの求めてない。


 絶対に気づかせないし。

 人にはそれぞれ闇があるんだってこと、誰もわかってない。

 でも、それで良いんじゃない?

 あたしは、踏み込まれることを望んでない。

 心に入られることを、望んでない。

 ここの人達は、誰も、本当のあたしに気づかない。





「・・・・・・・・・・・・・」


 言葉なんて発さなくなった、ただのモノを見下ろすはやての目に、光はない。

 昼間の、みんなの前で見せているその顔は影を潜め、そこにあるのは冷徹な色。

 誰も知らない、その顔が本当の黒鉄はやて。


 誰が予想しているだろう、はやての本当の素顔。

 それは、殺し屋としての顔。

 本来のはやては、誰よりも冷徹で鋭利で、人をいとも簡単に殺す冷たさを所有している。


「つまらない・・・・・」


 うるさいくらいの声はなく、その唇から紡がれる声は低く、表情に比例するように冷たいもの。

 その声と同時に、はやての姿はかき消える。

 学園で少しだけ見せた動きよりも早く、気配も何もない。

 それは、ゆうに静久を上回る早さ。

 否、彼女の本来の強さは、あの学園では誰よりも上だろう。

 それを隠し、馬鹿で短絡的な黒鉄はやてを演じるはやて。




 学園へと戻る最中、はやてはある集団に目をとめた。

 その集団の中心にいる人物を目にとめ、軽く眉を寄せた。

 気配を完全に消し、はやては動向をうかがうことにした。


「悪いな、お嬢さん。あんたを消すように、依頼があったんだよ」


 それは、はやてと同業者であることを暗に示していた。


「消す、ですって?」

「おっと、無駄なことを喋るのは止めてもらおうか。あんたは、強いって報告受けてるからな」


 だからこそその人数なのだと悟り、はやては嘲笑った。

 それと同時に、その表情のまま彼らの前に躍り出る。


「暗殺者とあろう者が、たった1人に対してこの人数?1人じゃ勝てないって思うなら、依頼受けなければいいのに」

「あなたは・・・・‥っ」


 そこにいたのは、天地ひつぎ。

 はやてが入っている学園の生徒会長である。


「お前はっ!!」


 1人の男が無表情に佇むはやてを見て、顔を凍らせた。


「こいつ、ランクSSクラスのヤツだぞ!」

『SS!!?』


 SSとは、強い者の所属するクラスの呼び名だ。

 最低ランクがB、次がA、そしてS、と続いて最高ランクのSSへと続く。


「わかったら引いてもらえる?あたしも、同業者なんて殺したくないから。それとも、依頼人殺せばいいのかな?」


 抑揚なく問われた言葉に男達だけではなく、ひつぎでさえも戦慄した。


 男達ははやての実力を知っているから。


 ひつぎは、いつものはやてと今のはやての違いに対して。


「行くぞ!」


 1人の男が逃げるように消えると、それに続くように段々と消えていく男達。


 残ったのは、冷徹な顔をしたはやてと、驚き、恐怖しているひつぎのみ。


「あなた、一体・・・・・・」

「答えてほしいの?どうせ、今の会話でわかってるんでしょ?有能な会長さん」


 嘲るその顔に、ひつぎの見慣れたはやてはいない。

 暗闇でもわかるほどに、ひつぎの顔は青く染まっていた。


「あんまり、夜遊びは程々にね。じゃないと、あたしみたいな闇を持つ者に殺されるよ?」


 背中を向けたはやて。


 が、すぐにひつぎへと顔を向ける。


「あ、それと。あたしのこと、誰かに言ったら・・・・・・・」


 すーっと音もなくひつぎの前から消えた。


 驚き辺りを見渡したひつぎ。

 そんなひつぎの耳に、囁かれた言葉。


「殺すから」


 気配も何もなく聞こえた背中からの声に、ひつぎは喉元に刃を突きつけられたかのような感覚に陥った。


 数分してから、硬い体を動かして振り返った先には、はやての姿はない。


 それでも、はやての冷徹な声は覚えていて、容赦のない警告も覚えている。

 ひつぎは背中にびっしょりと汗をかいているのを自覚しながら、学園への道のりを歩き出した。


「黒鉄はやて・・・・・・」


 そう呟きながら、ひつぎはなぜだかはやての誰も知り得ないことを知れたことに高揚している自分がいることに気づいていた。




<申し訳ありません、はい、本当に(汗>
<かなり前に書いたものなので、できればスルーしてください。>























 ブラウザバックでお戻りください。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送