【情報屋がいない間は】
































「しばらく仕事を休む?」

「おう。長期の用事があってな」

「でしたら、その間誰が情報を?」

「俺が信頼してるやつに来させる。もうすぐで着くはずだ」


 情報屋が里奈にそういうのと、部屋のドアが叩かれるのは同時。

 怨み屋が猛臣に目配せすれば、彼は戸惑いながらドアを。

 そこに立っていたのは、里奈と同じ制服に身を包み、棒つき飴を口に含んだ少女。


さん!?」

「こんにちは、杉河さん」

「知っているの?」

「は、はい。同じクラスの人で・・・・」


 怨み屋に里奈は戸惑いつつ答え、少女を見た。


、よろしくお願いしま〜す」

、しばらくここのこと頼むぞ」

「もちろん、お金は貰えるんだよね?」

「ああ。ちゃんと仕事すれば、な」

「もちろん。手を抜いたりはしないよ」


 情報屋とは、訝しげに見てくる怨み屋たちを無視したように、話しを進めている。


「ここのやり方は、うちの事務所と同じだ。じゃあ、後は頼んだぞ、

「任せてよ、パパ」

「「「パパァ!!?」」」


 それに反応したのは、怨み屋以外。

 いや、怨み屋も口には出さないが、驚いたように目を見開いている。

 怨み屋のそんな顔は、珍しい。


「10年位前にな、捨てられてたのを俺が拾って育てたんだ」


 情報屋はそれだけ言うと、さっさと事務所を出て行ってしまった。

 残った怨み屋たちは、真意を探るためかを注視。

 反対には気にした様子もなく、情報屋がいつも座っている椅子に腰掛けると、パソコンをいじり始める。


、さん?」

「そんな他人行儀な呼び方しなくても良いよ〜。一時的にしろ、同じ仲間になったんだしさ、って呼んでよ、里奈」

「え、えっと、・・・?」

「うん、どうかした?里奈」


 笑顔でパソコンから目を離し、里奈に向ける。


 里奈が知っているは、いつも無表情。


 それも、机をカッターで切られたりしても、その机ごと窓から捨てたり。

 水をかけられたら、反対に泥水をかけたり。

 殴られたら、反対に蹴り返したり。

 自分にはできないことをたやすくやってしまう、里奈にとっては憧れとも言っても良い人物。


 そんな人物から微笑を向けられ、里奈は驚きと同時に嬉しく思った。


「う、ううん。なんでもないよ、

「そう?」


 笑みを深めて返し、は再びパソコンへ。


「情報屋」

「駄目だよ、怨み屋。それはパパの名前だもん。私のことは、って呼んで。第一、パパはすぐに戻って来るんだし。・・・・たぶん」

「そう。なら、。あなたは、どれくらい使えるの?」


 怨み屋が問うと、はパソコンから目を離し、顎に手をあてる。

 口の中で、棒つき飴を転がしながら。


「あたし的には、パパ以上だと思ってる、かな?」

「あら、情報屋以上?」


 にやりと笑う怨み屋に、は満面の笑みで頷く。


「うん。不満?」

「いいえ。そういう子は嫌いじゃないわ」


 それに、は嬉しそうな笑みを浮かべた。


「ねえ、。聞いても良い?」

「どうぞ、里奈」

「学校と性格が違うような気がするんだけど・・・・」


 里奈の言葉に、は、ああ、と納得の声。


「頭の中が小学生の頃で止まってるやつらに、わざわざ笑顔を向ける意味なんてないじゃん?」

「小学生・・・?」

「そう。いじめをするやつなんて、どんなに頭が良くてもしょせんガキ。頭の中はいつまでも、キチガイハッピーな小学生。相手にするだけ、こっちが馬鹿になる」


 辛辣な言葉をはきながら、にっこりと笑う。

 そんなにシュウと猛臣は驚き、里奈は尊敬の念をいだき、怨み屋は小さく笑った。


「まあ、というわけで、これから少しの間よろしくね」


 こうして、あたらな仲間が、一時的にしろ、加わった。








「帰らないの?」

「だって、帰ってもパパいないし」


 みんなが帰ったあと、だけがパソコンをいじっている。

 怨み屋はそんなに近づいていき、パソコン画面を覗き込んだ。


「これは?」

「自殺サイト」


 さらりと答えながら、すでに飴のない残った棒を口先で転がしている。


「・・・は、自殺したいの?」

「まさか。見てるだけ。どんな人がいるのかな、って」


 そう呟くように言ったの顔に笑みはない。

 けれど、興味をしめした色もない。


 と、は急に振り返った。

 怨み屋はそれに驚いたりせず、を見つめ返す。


「ねえ、怨み屋」

「なぁに?」

「100万渡すからあたしを抱いて、って言ったら抱いてくれる?」

「・・・・・・・」


 怨み屋はそれに、かすかに目を見開いた。

 それもすぐに消え、真意を探るためかの瞳をジッと見つめた。

 そこに、冗談の色はない。


「なぜ?」

「たぶん、人生で最初で最後だと思うから。怨み屋みたいに、あたしを抱いてくれそうな人と出会えるの」

「あら、100万なら誰だって抱いてくれるんじゃない?」

「誰でも良いわけじゃないから、怨み屋に聞いてみたんじゃん」


 そう答えてから、は再びパソコンへ。


「でも、今の忘れていいや」


 少しの間のあと、の首に腕がまわされた。

 もちろんこの場に怨み屋としかいないのだから、その腕の主は怨み屋だけ。


 の体が、びくりと固まった。


「良いわよ、別に」

「・・・あたし、本気で言ったんだよ?」

「私も、本気よ?」


 怨み屋の細い手が、すぅーっとの顎にすべり、後ろに向かせる。

 息さえも届きそうな位置にある、怨み屋の綺麗な顔。


「口を開けて」


 は、恐る恐るといったように口を開けた。

 怨み屋はその口から飛び出ている残骸である棒を、抜き取る。


 そして、怨み屋顔が近づいてくるのを見て、はそっと目を閉じた。






































「はい、これが対象者の情報」


 プリントアウトした情報を、は怨み屋に渡す。


「結構面白いことやってるね〜」


 トレードマークである、棒つき飴を口の中で転がしながら、は里奈たちににっこりと返した。


「婦女暴行に始まって、殺人まで。さすが警察官僚さま。何をやっても許されるみたいだね〜」

「凄いね、

「ありがとう、里奈」


 笑顔を里奈に向ければ、里奈は恥ずかしそうに頬を染めた。

 はその内に隠されたものに気付かなかったが、怨み屋はそれに気付いたのか、里奈を少し見つめる。

 それもすぐに逸らされ、へ。


「他に情報は?」

「必要なら、まだまだ出てくるよ?」


 はパソコンいじり、自身のメールボックスを開いた。


「これは、あたしの『耳(隠語で、情報提供者の意)』からの情報」


 そこには、数々の行われた非道が書き連ねてあった。


「情報屋の耳と同じ人?」

「ううん。彼女は、警察の不正は許さない、警察は常に正義であるべき、と考えてる警察の人で、それが更正されるなら情報漏洩もしちゃう、矛盾の人」

「本当に矛盾ね」

「でしょ?けど、そこが面白いの」


 飴を転がしながら、本当に面白そうに怨み屋へ笑い返す


「けど、メールなんかでとっておいたら、誰かに見られたりとかするんじゃない?」

「ああ、それについては大丈夫だよ、里奈。これでも情報屋ですから、そんなことしようとするヤツは徹底的に排除するように設定してあるの」


 自信満々に言い切った姿から、かなり厳重な設定がしてあると思われる。


 それもプリントアウトし、怨み屋たちに渡す。

 それを読み、シュウや猛臣、里奈は不快そうに眉を寄せた。



 そのあとは、いつものように怨み屋が対象者を社会的抹殺をし、その依頼は終わった。

 それから4回ほど怨み屋たちと共に仕事をしたあと、ようやく情報屋が戻ってきた。


「おかえり〜、パパ」

「おう。ちゃんとできたか?」

「それについては、怨み屋に聞いて。あたしじゃわかんないから」


 情報屋が怨み屋を見れば、怨み屋は口端をあげる。


「そうね。優秀な情報屋だわ」

「やった」

「よかったね、

「うん」


 相変わらず棒つき飴を転がしながら、は里奈に笑い返す。

 里奈も頬を染めながら、それに笑い返した。


「じゃあ、あたしそろそろ帰るね。パパも戻ってきたし」

「おう」

「それじゃあ、。また明日学校でね」

「うん。じゃあね、里奈」


 シュウや猛臣ともお別れの挨拶をして、は事務所を出て行った。

 怨み屋から何も言われないことを、寂しく感じながら。


 その日の夜、携帯にメールが。

 相手は、怨み屋。


「?怨み屋から?」


 開けてみると、内容が簡潔に。


「事務所に来なさい、って。今から?」


 すでに夜の8時。

 あまり夜に出歩くのが好きじゃないは、夜だからヤダ、という返信をした。

 しかし、それに返って着たのは。


【あと1時間後に事務所で会いましょう】


 という、の意思無視な内容。


「はぁ。・・・・・仕方ない。これも、惚れた弱みだ」


 苦笑をこぼし、はコートを着込んだ。


?お前がこんな時間に出かけるなんて、珍しいな」

「あたしもそう思う。けど、怨み屋からの呼び出しだから。たぶん、泊まってくるから」

「おう」


 が夜に出かけるときは、基本的に呼び出してきた相手の家に泊まる。

 理由は、家に帰る、という行為が面倒くさいから。


 それを知っている情報屋は、何の疑問も持たずにを見送った。


 怨み屋の事務所についたは、今までのように何の疑問もなく中へ。

 部屋には、椅子に座る怨み屋が。


「こんば〜」

「いらっしゃい、


 相変わらずカラコロ、と音をさせながら、は怨み屋の前に椅子を持ってきて、背もたれを前にして座った。


「用は何?」


 全てを言い切る前に、棒つき飴をとられ、頬を押さえられ、キスをされていた。


「んっ!?」


 驚き、は怨み屋の肩を押すが、相手のほうが力が強く、離れてくれない。

 むしろ、さらに深くキスをされてしまった。


 抵抗していた手はいつの間にか怨み屋の腕を縋るようにつかみ、自らも応えるように舌を絡める。


「は・・・・・な・・に・・・・?」


 今まで何度か体を重ねたことがあるが、どれもから依頼しただけ。

 怨み屋からこういうことを仕掛けてきたのは、初めてである。

 ゆえに、は混乱する頭で、問いかけた。


 しかし、それに返って来たのは、怨み屋特有の笑み。

 その笑みを浮かべたまま怨み屋はの手をとって立たせると、長椅子のところへと連れて行き、押し倒す。


 ゆっくりとコートを脱がせ、首筋にキスをしながら服を順々と。


「わけ、わかんない・・・・っ」


 時おり肩を震わせながら、はそう呟く。

 やはり怨み屋はそれに笑みを深めて返すだけ。


 人間らしい、嫉妬なんて。

 私が、するとは思ってもいなかったわ。


 怨み屋は心の中で、呆れたように呟いた。























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