【想い、想われ】




























「姫」

「あ、。どうしたの?」


 亜美は教室に入ってきた少女に、笑みを浮かべながら問いかけた。


 彼女は 

 亜美と幼馴染の少女だ。


 理由は亜美自身は不明だが、亜美のことを「姫」と呼ぶ。


「宿題でわからないことがありまして。姫に教えてもらおうと思ったのですが」

「ああ」


 亜美は納得すると、を手招き。

 は嬉しそうに亜美に近づくと、隣の席に座りノートを広げた。


「ここなのですが・・・・」

「亜美ちゃん、おはよう!」

「「おはよう、亜美ちゃん」」

「ふふ、おはよう、うさぎちゃん、まこちゃん、美奈子ちゃん」


 がわからないところを示そうとしたが、それよりも先にうさぎたちが。

 亜美の意識がから、3人へと。


「ねえねえ、亜美ちゃん。ちょっと話があるんだけど、良い?」


 そして、美奈子が亜美を手招きする。

 亜美が申し訳なさそうにを見れば、は笑顔を。


「大丈夫ですよ。他の人に聞きますから」

「ごめんね?。ありがとう」


 は笑みを返し、けれど亜美がいなくなると悲しそうな顔でノートを閉じた。


 最近、こんなことがよくある。

 いつからだろうか、うさぎたちと仲良くなってからの亜美は、常にうさぎたちを優先した。

 以前ならば、先に約束した方を優先していたのに。


 それに、何か隠し事をしているのも、は気づいていた。

 別に、全てを話してほしいとかは思っていない。

 にだって隠し事はあるし、そんな傲慢なことは思わない。


 それでも、あからさまに隠し事をされると、悲しくなるのだ。


「はぁ・・・・」


 もう、諦めよう。


 は、小さく呟いた。


 はため息をつき、ノートを持って廊下に出る。

 その時に見えた、楽しそうにうさぎたちと笑いあう亜美の姿。


 はそれから眉を下げて目をそらし、反対方向に歩き出すのだった。
 
 まるで、想いを吹っ切るように。






 帰り道、は1人で帰る。

 以前はいた隣も、今はいない。

 は、それがどうしようもなく虚しく、悲しい。


「良いんですけどね、別に」


 まるで、自分に言い聞かせるように。


「結局、私の想いは成就しないようにできてるんですよ、きっと」


 自嘲的な笑み。


 はかつて、亜美に告白したことがある。

 それに戸惑った亜美に、返事はいつでも良い、と返して。

 けれどそれから幾年がたったが、亜美がその返事をくれたことはいまだにない。

 たぶん、亜美は忘れているだろう、とは思っている。

 そしてきっと、それが亜美の答えなのだろう。


「私の想いは、変わらず受け入れられることはない。・・・・そう、思いませんか?マーズ」


 振り返った先。

 いたのは、レイだった。


 何故、がその名を知っているのか。

 それは、が前世で、エンディミオンを守る者だったからだ。


「いえ、今は火野レイ、でしたね。姫たちがそう話していたのを、聞いたことがあります」

「ガーディアン・・・」


 泣きそうな顔で、レイはに近づいていく。

 は、それに対し、困ったような顔をした。


 レイは知っている、の前世を。

 彼女は思い出したから、前世のことを。


「無様でしょう?前世と同じことを繰り返している私は」

「そんなことないわ」

「いえ、良いのです。やはり、私のように下っ端を気にかけてくださる方は、いないんですよ」

「・・・・そうやって、あなたはいつも諦めるわ。だから」

「当たり前じゃないですか。姫は、マーキュリーは、いつもセレニティーを見ていた。勇気を出した告白も、マーキュリーは無いものとしてしまう。・・・前世も、そうでしたよ」


 辛そうに呟くを、レイはその顔のまま、抱きしめた。


「私だって、そうだわ」

「マーズ?」

「私があなたを見ていたのに、あなたはいつもマーキュリーを見つめていたじゃない」


 レイの腕の中で、は目を見開き、顔を上げた。


「私では駄目なのっ?」

「マーズ・・・・」


 一滴、の頬に落ちる水滴。

 はそれを拭うことなく目を細め、それからレイの背中に腕を。


「すみません。私も、マーキュリーのことを言う資格はなかったようです」

「ガーディアン、私を見て?お願いだから・・・・っ」

「わかっています。だからどうか、泣かないで」


 は、泣くレイの目元にキスを送った。

























 








 うさぎたちは愕然としていた。

 戦闘中、急に現れた少女。

 タキシード仮面のような姿ではなく、戦闘に特化された機能性重視の薄手の格好。

 両手には、今の日本にはないような剣が。

 そして口元を隠すようにしてある、白い布。

 それは、彼女たちにかすかに残る前世の記憶を、かすかに刺激する見覚えのある姿だった。


 その少女は、うさぎたちが四苦八苦していた敵を、急に現れたかと思うと、いともたやすく倒してしまったのだ。


「何者だ」


 今回、見ていることだけしかしていないタキシード仮面が、そう問いかける。

 といっても、彼は毎回、別にやらなくても良いことしかしないが。


「姫」

「え?」


 けれど、彼女はそれに答えることなく、剣を鞘に戻してそう呟いた。

 それに反応を見せたのは、亜美。


 しかし、彼女はそれを無視し、レイの前にくると膝をつけた。


「遅れて申し訳ありません。お迎えにあがりました」

「・・・・遅いわよ」


 目を潤ませるレイに、見える目が細まる。


「申し訳ありません」

・・・・?」


 聞き覚えのある声。

 いつもその声が、自分をそう呼んでくれていた。

 にもかかわらず、今そう呼ぶのは、仲間であるレイに対して。

 亜美は、混乱した頭で、相手の名を呼ぶ。


 相手、はそれにかすかに目を細めることだけを返し、レイを見つめた。


「あなたを、誰にも、マーキュリーにだって渡さないわよ?」

「承知しています。私はもはや、姫以外を見ることなどできません。お迎えにあがったのが、何よりの証拠」

「ガーディアン!」


 レイは、感極まったかのように、に抱きついた。

 もそれを抱きとめる。


「ちょっと待ちなよ!どういうことなんだい!?」

「そ、そうよ!急に出てきて、なんなのよ!」


 慌てたように入ってくるまことと美奈子。

 その声に、うさぎたちも我にかえった。


「レイちゃん、どういうことなの?」

「うさぎたちは憶えていないかもしれないけど、彼女はかつてエンディミオン様をお守りしていた子よ」


 目を見開く亜美たち。


「ガーディアンと申します」

「まさか、が・・・・」

「お互いにこの姿でお会いするのは、久しぶりですね、マーキュリー。といっても、あなたは憶えていないでしょうが」

「ルナは、憶えているかしら?」


 視線がルナに集まり、ルナは小さく頷いた。


「そうね、憶えているわ。地球の王と、4人の守護者。その5人を守っていた子。あなたも、転生していたのね。それも、女性として」

「はい。お久しぶりです」


 目元を和らげるに、ルナも笑みを返す。


「今は、エンディミオン様よりも守りたい方ができたので、近衛隊長ではありませんが」


 がそういってレイを見れば、レイも笑い返した。




 次の日。


「あ、あの、


 亜美がのクラスに赴き、声をかける。

 はそれに微笑み返しながら、亜美に近づいていった。


「どうしました?亜美」


 初めてではないか。

 彼女に、名を呼ばれるのは。

 最近は、は亜美に会いにくることがなかったし。


 亜美は、何故だか急に胸が苦しくなった。


「もう、あの呼び名は使ってもらえないのね・・・」

「はい。私が守りたいと思った方のみ、そう呼ぶことにしていますから」


 それは、亜美を守りたいと思っていた、ということ。


「・・・そうよね。ごめんなさい。それじゃあ、私はクラスに戻るわね」

「はい」


 が自らの席に戻る姿を見ていた亜美だったが、少しして自分もクラスに戻るために踵を返す。

 けれど、湧いてくる悲しみを我慢ができず、お手洗いに駆け込む。

 そこで亜美は、しばらく泣いた。


 は知らない。


 亜美は、ちゃんとの告白を覚えていたことを。

 返事をする機会がなかなかなくて、できなかっただけだということを。


 本当は、亜美もを好きだったことを。





















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