【女の勘】































「・・・・・・・・・」

「航海士さん、賞金首になったのがショックなのはわかったから、いい加減こっちに戻ってきてちょうだい」


 魂がぬけたようにテーブルに頬杖をついて、ボーっとしている航海士さん。

 船医さんも、どうやら金額が気に入らないらしく、航海士さんの膝の上でショックを受けている。


「違う、違うのよロビン・・・」

「?じゃあ、一体どうしたの?」


 すっと差し出されたそれ。

 綺麗に撮れてるじゃない。


「綺麗だわ」


 後ろ髪をかきあげて、斜め後ろからの悪戯っ子の笑みの写真。

 それは、小悪魔といえる色っぽさがある。


 航海士さんがこんなポーズをとるなんて、珍しい。

 その珍しい姿を、彼女のことなんて一切知らない人達が知っているのは不愉快だけれど。


「そうじゃないってば。・・・まさか、こんな悪乗りした写真が使われるなんて・・・雑誌の記者だっていうから了承したのに!他のやつ使いなさいよ!!」

「何が嫌なの?」

「手配書は、その賞金首を表すものでしょ?ってことは、ノジコ達のところにこれが行くってこと!」

「ええ、そうね」

「・・・ノジコたちには、普通の笑顔を見せたかったのに・・・」

「・・・何故?」

「今の私は、これだけ笑えるようになったよ、って・・・」


 そう伝えたいから、だなんて可愛い理由。

 健気な子。

 本当に、どうしようもなく可愛い子。


「今度、村に戻れば良いわ。その時に、本物の笑顔を見せに行きましょう?」


 頭をなでてそう優しく言えば、航海士さんは小さくため息をついて笑う。


「そうね。機会があれば行きましょ。あのころよりも、仲間が増えたし」


 ポンポン、と船医さんの帽子を叩く航海士さん。

 ・・・何故、彼だけ?


「私も増えたわ」

「ああ、そうだったわね」

「・・・酷い人」

「凹みすぎだから。冗談でしょーが」


 ピン、と額にされるデコピン。


「ま、ビビにもいってるだろうし。あれが私たちなりの便り、ってね」

「・・・彼女、どんな反応するかしら」


 元敵の私が、この子達の仲間になっていることを知ったら。

 それにたぶん、私の気持ちも勘付かれると思う。

 女の勘は、自分もそうだからわかるけれど、侮れないもの。


「あの子のことだから、気にしないと思うけどね」

「そうかしら?」

「そうよ」


 肩をすくめる航海士さん。


 って、そうだったわ。

 女の勘で思い出した。


「ねえ、航海士さん」

「ん?」

「CP9のオンナ、いたじゃない?」

「ああ、カリファ?」


 ・・・名前を呼んでいることも、腹が立つのだけれど。


「彼女と、何があったの?」

「は?」

「だって、長鼻くんみたいな鼻のオトコが言っていたわ。彼女、航海士さんを妙に気にしてた、って」

「ああ、あのキャラが面白くてね」


 何を思い出したのか、笑い出す。

 そんな航海士さんに、眉がよった。


 船医さんはそんな私たちを不思議そうにみている。


「どういうこと?」

「メリー号の修理を頼みにいったとき、ちょうどあいつも来てさ。キャラが面白いから、ちょっと遊んでやったわけ」

「そう・・・」


 きっと、船長さんたちが気に入っていたんでしょうね、その女のこと。


「そうそう。私ね、カリファと戦ったんだけどさ、あいつ天然ね。おっきくなったチョッパーを見て、私が変身した、とかいってたわよ?」

「俺とナミを間違えたのか!?」

「そう!アホだわ!」


 楽しそうに笑う航海士さんと、慌てた様子の船医さん。

 そんな彼女を、少しきつめの視線で見てしまう。


「そう睨まないでよ。敵だったけど、ただたんに面白い奴だった、ってだけ」

「だって・・・」


 他の女のことを考えるなんて。

 確かに、私と航海士さんはまだ恋人にはなれていないけど。

 なんていう、私の嫉妬にも気づいていないんでしょうね。


「ろ、ロビン、安心しろ!また来ても、俺たちがやっつけてやるからな!」

「そうね。ま、次はあんたにも戦ってもらうけど」


 ほら、船医さんと一緒に見当違いなこといってるわ。

 そういうこと言ってるわけじゃないに。

 せめて、私が嫉妬していることくらいは気づいてほしいのにね。

 まだ、無理かしら。


「それにしても、船楽しみ。ね、チョッパー♪」

「ああ!診察室、あるといいな俺!」

「できるだけ要望に応えたい、って言ってたからあるんじゃない?」


 2人はすでに、新しい船へ思いを飛ばしている。


 ああ、何故かしら?

 ようやく彼女達の本当の仲間になれたのに。

 この、嫌な予感は・・・。
























<ビビ 視点>


 パパ達には、何とも思っていないと答えた。

 それは合っている。

 ニコ・ロビンが仲間にいることは確かに、なんとも思っていない。


 ただ、前から綺麗だったのに。

 さらに綺麗になったナミさんの傍に、彼女がいるという事実が・・・。


 きっと。

 たぶん。

 ニコ・ロビンは、ナミさんを好きなような気がする。


 何故そう思うのかはわからない。

 手配書を見ても、わかるはずもない。

 それでも、なんとなくわかる。

 わかってしまう。


 ジッとナミさんの手配書を見つめて。

 手を、触れた。


 今でも思い出せる、あの船での記憶。

 楽しかった記憶。

 こんな風に危険視されるみんなの、明るさを。


 思い出せる。

 ナミさんと過ごした日々を。

 ナミさんの淡い笑みを。

 瞳を。

 声を。

 身体を。


 忘れることなんて出来はしない。

 だって、初めて好きになった人で。

 初めて抱いた人、だから。


 今もなお愛している人、だから。


「ビビ」

「っ!」


 ハッとして顔を上げると、目の前にはパパがいて。

 パパは、とても穏やかな顔で、私を見ていた。


「な、何?」

「会いたいかね?」

「え・・・?」

「彼らに」

「・・・・・・・ええ」


 それは、偽らざる本心。


 会いたい。

 彼らに。

 何より、ナミさんに。


 私に、今すぐあなたに会いにいける翼があれば良いのに・・・。






























<ノジコ 視点>


 淫らだと騒ぐゲンさん。

 なのに、ちゃっかり引き伸ばして壁に貼ってるところが笑える。


 ゲンさんに蜜柑を届けて、自分の家へ。


 目立つところに張ってある、ナミの手配書。

 あの日から見ることのなかった、茶目っ気たっぷりな笑み。


 あたしもね、実はゲンさんと同じこと考えてた。

 これじゃあ、賞金稼ぎよりも求婚者が集まるんじゃないか、って。


 そんなこと話しながら。

 あたし達は、泣いたんだよ?


 あんたは、もうこんな風に笑えるようになったんだ、って。

 あんたは、昔みたいなお茶目な部分を取り戻したんだ、って。


 やっぱり、あいつらが仲間で良かったって、そう思った。


「・・・でもねェ・・・」


 ちょっと、失敗したと思うこともあったりする。


 取り出した、一枚の手配書。

 ナミと同じ”麦わら”のクルー。


 ニコ・ロビン


 あたしの勘をくすぐるその女性。

 妹を大切に思うゆえに働く姉の勘と。

 ただ1人を愛し続けているからこそ働く女の勘。


 何にもなきゃ良いけど、なんて。

 それはたぶん、ありえない話し。


「ゲンさんたちは気づいてないけどさ」


 だって、手配書に映ったあの子の背中には、髪に隠れた”痕”がかすかに見えるから。


 ナミは気づいているのかいないのか。

 はたまた、気にしていないのか。

 あぁ、そっちの可能性のほうが高そうだ。


 まあ良っか。

 大切な大切な。

 妹への。

 想い人への。

 からかいの手紙でも、書こうかね。


 想いは秘めて。

 けど出来れば。

 過去の出来事は。

 あたしとあんたの過去は。


 ずっと、覚えていてほしい。


 ねえ、可愛い可愛いナミ。
















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