【ずっと触れていたいから】
夜中に、ふと目が覚めた。
痛む身体を起こして、隣のベッドを見る。
包帯だらけの彼女が、静かに眠っていた。
もちろん、私も包帯だらけ。
そして、他のクルー達も。
傷だらけになりながらも、私を助けてくれた。
思い出す、メリー号にお別れをしたとき、空からふってきた記憶のことを。
そこには、私の知らないみんなの記憶があった。
航海士さんがここまで笑うようになった過程も、メリー号にはしっかりと刻まれていた。
悲しみがあっても、みんな最後には笑顔で出航するその眩しさ。
仲間を思う全員の気持ちを、私は見た。
そしてその仲間の中に今確かに、私もいる。
ベッドから抜け出して、航海士さんのベッド端に座る。
女の子のくせに、顔は傷だらけ。
ガーゼだらけ、絆創膏だらけ。
この子はそんなこと一切気にしないでしょうけれど。
「・・・・・・・・・っ・・・ありがとう・・・本当に・・・・・・っ!!」
彼女のそんな姿を見ていて、わきあがってきた感情。
喜びとか。
嬉しさとか。
感謝とか。
色々混ざって複雑な。
それでも、嫌ではない感情。
航海士さんの胸に頭を置いて。
そんな私の頭に添えられた、華奢な手。
「っ・・・航海士さん・・・」
「そういう大事な言葉は、起きてる時に言うもんよ?」
「・・・ええ、そうね。ごめんなさいっ」
笑う航海士さんに笑い返して、身体を起こす。
そのまま彼女の顔の両脇に手をいて、顔を近づけて。
お互いに唇を切ってしまったから、痛まないように軽いキス。
そう思っていたのに。
ずいぶんと久しぶりに感じてしまう彼女の感触に、私は我慢ができず。
吐息さえ。
声さえ奪い取るようなキスをした。
「ん・・・あんた、私に血を飲ませたいわけ?」
呆れたような顔しながら、航海士さんは私の唇を拭った。
その指に、紅。
彼女の唇からも。
「ふふ。あなたの血なら、甘いから平気」
「そ?あんたの血は、普通に鉄の味がしたけどね」
「もう。ムードのない子」
「あら、ごめんなさい?お姉さま」
お互いに笑って。
もう一度、私は彼女にキスをした。
「このままする?」
「そうね。早く、あなたの温もりを感じたいわ」
体の隅々まで、触れてたい。
失ったと思った、あなたの身体に。
「・・・もう、こんなことできないと思っていたわ」
ゆっくりと、彼女の着ていたTシャツを脱がして。
自分の着ていたYシャツも脱ぐ。
お互いに、その下から現れたのは包帯。
「ってことはあんた、捕まってる時エロいことばっかり考えてたわけ?」
・・・絶対、この子の思考の方がズレてるわ。
まあ、嫉妬とか惚れ直したりとかはしてたけれど。
「・・・そういうことにしておいてあげる」
素肌に。
包帯の上からも。
キスをする。
繰り返し繰り返し。
痛くないように。
次第に息が乱れてくる航海士さん。
頬も若干染まって。
身体を隠しているのは包帯だけ。
艶やかね。
お互いに傷だらけなのに。
「手加減、できるかしら?」
そんな心配をした。
「チョッパー、私ちょっと買い物してくるわ」
「駄目よ」
「ロビン?」
服を見に行こうとした航海士さんの腕をつかむ。
不思議そうに私を見上げた船医さんに、微笑み返した。
「だって、航海士さんも私を見てるっていう役目があるでしょう?」
「それはそうだけど、チョッパーだけで良くない?」
「駄目よ。ね?船医さん」
「おう!それに俺、ナミと一緒にいるの好きだ!」
笑う船医さんから目を離して、航海士さんへと視線を移す。
彼女はそれに苦笑しながら肩をすくめて、船医さんの手をとった。
「しゃーない、チョッパーにはお世話になってるしね」
「おっ、俺は医者として当然のことしただけだぞーーコノヤロウーーー!」
ニコニコ笑顔で踊る船医さん。
航海士さんはそれに笑いながら、腕をつかんだままの私の手をくいっと肘で引っぱる。
「行きましょ」
「ええ、そうね」
航海士さんを真ん中にして、私たちは街を歩く。
「にしても、今回ナミはいっぱい泣いたなー」
「あ、あんた見てたの!?」
「もちろんだ!ロビンが無事だってわかったときと、メリー号とお別れしたときだ!」
「男は見ない振りするもんでしょ!!」
「いてっ」
べしっと帽子の上から船医さんをはたく航海士さん。
船医さんは楽しそうに笑いながら首をすくめている。
船医さんに甘い航海士さんの叩きなんて、痛くもないから。
「まったく」
「けど、ずいぶんと静かに泣くものね」
「は?」
「だから、あなた」
あんなふうに、無表情に涙だけをこぼすなんて、胸にきたわ。
涙をこぼしながら、ゆっくりと私の腰に腕をまわして抱きついてくれた。
彼女の方からきてくれなければ、きっと私は自分から抱きしめていたって、そう思うくらい。
一瞬だけだけど、心臓が鷲掴みにされた感じ。
今までで、一番貴重で。
一番可愛らしい航海士さんだったわ。
今まで私が彼女の泣く姿を見たのは、ベッドの上でだけ。
それはそれで、貴重だと思うけれど。
「あれがナミ特有の泣き方なんだって、サンジが言ってたぞ」
「もう止めろ!じゃないと苦しいくらい抱きしめるわよ!?」
「ギブギブギブ!!」
なに、その可愛らしいお仕置き。
羨ましい・・・。
と、そういえば、私もしたわ。
そんな可愛らしいお仕置き。
はたから見たらこんな感じだったのね。
・・・あの時の私たち、見ようによっては恋人同士・・・?
航海士さんと船医さんとは違って、お互い大人だし。
今度、またやってみようかしら・・・。
「もう余計なこといわない!オッケー!?」
「お、おう!」
「ったくもう」
そう言いながら、船医さんを抱きしめたまま。
「航海士さん」
「ん?」
船医さんを抱きしめたまま歩く航海士さんの耳元。
彼に気づかれないように、顔を近づけた。
「戻ったら、ベッドの上で、あなたの泣く姿見せてもらっても良い?」
「色魔」
「????」
「あら酷い」
呆れた顔で。
けど、私は気にせず笑顔を返した。
だって、仕方がないじゃない。
一度は諦めたあなた。
こうして再び航海士さんといられるなんて思ってもいなくて。
だから、あなたにずっと触れていたい。
ブラウザバックでお戻りください。
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