【教えてくれますか?】
「ねえ、航海士さん」
「んー?」
まどろみの中にいるような声。
私はそんな声を出す航海士さんに笑いながら、そっと彼女の髪を撫でた。
「聞きたいことがあるのだけれど、良いかしら?」
「内容にもよるけど、なに?」
「このベッド、お姫さまも使ったのよね?」
「まあ、1つしかないしね」
わかりきったことでしょ?と、意外と眠そうなのに多弁に返ってくる言葉。
いつもは頭の回転が速いくせに。
こういうことに関してだけは、とっても鈍感。
けれど、そこがまた可愛いといったら、あなたはどうするかしら?
いつもみたいに、困ったように笑うのかもしれないわね。
年頃だけれど、そういう経験のなかったあなたは。
まるで、私みたいね。
もしかして、お似合い?
ふとそんなことを思って、馬鹿みたいだと首を横にふる。
けど、少しだけ体温が上昇したように感じて。
航海士さんからよく、アホと言われるけれど。
本当にアホかもしれないわ、私。
「なら、彼女ともこのベッドで寝たのね?」
「ああ、そういう質問なわけね」
慌てるでもなく。
気にしたようでもなく。
当たり前のことのように、「そうよ」なんて。
自然と、航海士さんをみる目がきつくなってしまう。
それに、枕に埋もれながら首を傾げる鈍感な彼女。
「何が聞きたいの?・・・あ、小説みたいにヤキモチとかそういうこと?」
「・・・・・・・」
違うわよ、そういおうとした言葉は。
結局、口から出ない。
気持ちを隠すなんて容易いはずなのに。
初めての恋は、私を駄目にしているみたい。
「ふ〜ん・・・」
よくわからない。
そんな顔で。
それに沈む心。
けれど、航海士さんだからそれは当然の感情。
でも、沈む。
そんな私の手を、航海士さんが握ってきた。
驚いて彼女を見ると、少し躊躇ったように。
「・・・ねえ、ロビンは私に”愛”っていうモノを教えてくれる?」
「え?」
「あんたは、私に教えられる?欲しいんでしょ?私の心」
「・・・私で良いの?」
警報を鳴らす。
いつかこの船を出るくせに。
今までのように。
そんなこと、今さら。
「よくわかんないけど」
「そう・・・お姫さまにも、そう言ったの?」
それはちょっと嫌。
誰にもでそんなことを言う子ではないとわかっているけれど。
この子は、仲間を思う気持ちはわかっても、人を想う気持ちがわからないし。
そこらへんが曖昧な境界線で。
たぶん、ここのクルー達に求められれば、不思議にも思わずに身体を開いてしまう気がする。
そう思って、不快になった。
「なんで?」
けれど、返って来たのは予想外な言葉。
抱かれていた彼女にも、言っていると思ったのに。
「だって、あの子とは無理でしょう?それとも、簡単に教えられるものなの?その”愛”って」
言いたいことの意味がわかって、落胆。
そういう意味。
期限が決まっていたお姫さまからは、それを教えてもらえるはずがないと。
あなたは長期戦になると思っているわけね。
無意識に気がついているのかしら。
いえ、わからないからこそ、そう予想付けているのね。
「それに、ビビからよく言われてたの。私1人を愛することはできない、って。だから、応えようとしてくれなくて良い、って。あの子は王女だもんね」
肩をすくめて。
眠気のとんだ顔で。
「そう。・・・なら、教えてあげるわ。大人の技術力を見ていなさい」
なんて、本当は私も誰かを好きになったのはこの子が初めてなんだけど。
それでも、相手を好きにさせるように仕向けたことは、数え切れないほどある。
同じようなことをしていたらしい彼女に、効果があるかは分からない。
けれど、私だって無駄に歳をとっているわけではないし。
って、こういうときに使う言葉だったかしら?
「なら、楽しみにしてるわ、お姉さま♪」
ひまわりのように笑って、彼女は眠る体制に入った。
私はそんな航海士さんを抱き寄せて。
そうすれば、体温を無意識に求めている彼女は素直に身体を寄せてくれる。
自然と上がる口端で、額にキスをした。
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
目を閉じた航海士さんの頬を少しだけこちらに向けて。
彼女の唇に、自らのそれを重ねた。
「おやすみなさいのキス?」
「ええ。愛しい人にはするものよ?」
「みんなには―――」
「当然、したら駄目」
「了解、お姉さま v」
悪戯っ子の笑み。
わかっていて聞いたわね、この子。
もしかしたら、お姫さまとしたやり取りなのかもしれない。
とりあえずヤキモチを抑えて、航海士さんを抱きしめる腕に力をこめた。
甲板で本を読んでいると、航海士さんと船医さんがやってきた。
集中は途切れて、そちらへと意識が向かう。
私が見ているとは気づかないらしい航海士さんは、床にごろんと寝そべり。
船医さんがそんな彼女の胸に、ダイビング。
・・・なに、あれ・・・。
「お、久しぶりだな、あの光景」
「長鼻くん・・・。この船では見慣れた光景なの?」
「見慣れた、っていうほどじゃないけどな。ロビンが来る前は、ちょくちょくあんなふうに寝てたぞ?ビビも一緒になって・・・あ、わりぃ」
「いえ、気にしないで」
別に、いない人のことは良いわ。
恋敵だったみたいだけれど。
そう、今はいないし。
騙して申し訳ないとは思うけれど。
ええ、今はいないもの。
視線の先。
2人して、気持ち良さそうに目を閉じている。
時おり何か話しているのか、口を開いては笑って。
「・・・あの2人って、仲良いわよね」
「ほら、あいつ医者だろ?だから、ナミが情緒不安定になると率先して傍にいるんだよ。それでじゃないか?」
そういえば、前に船医さんは航海士さんを癒す役目だ、と言っていたわね。
あの光景を見ていると、その言葉に頷ける。
以前の、盗み聞いてしまった会話のこともあるし。
私は本を閉じて、テーブルに置いた。
「?どうした?」
「いえ。・・・私も混ざってこようかと思って」
「・・・あはは。良いんじゃねェか?」
・・・気づかれたかしら?
「ロビンって、意外と可愛い物好きなんだな」
「そう?・・・そうね」
船医さんは可愛い。
けれど、航海士さんはもっと可愛い。
あの、歪んだところも含めて。
長鼻くんと別れて、私は航海士さんたちのところへと向かう。
「あれ?ロビン?」
「あ、ロビンも日向ぼっこか?」
「ええ。私も加わっていいかしら?」
問いかけながら、すでに航海士さんの横に座っている私。
加わる気満々よ?もちろん。
2人して笑顔の了承。
私もそれに微笑み返して、ねっころがる。
ついでとばかりに、船医さんを抱きしめている航海士さんを抱き寄せて。
「わっ。ビックリした」
「俺もだ。ロビンも、くっついて寝たかったのか?」
「そうね。くっついていたいわ」
航海士さんと。
「俺たちと一緒だな」
「ふふ、そうみたいね」
そんな私の内心に気づかず、顔を見合わせて笑う2人。
・・・こんなことに一々ヤキモチ妬いていたら、大変そうだわ。
楽しそうに笑っている2人を見ながら、そんなことを思い。
ちょっと、苦笑。
ブラウザバックでお戻りください。
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