【仲間という存在】
ひまわりのように笑う人がいる。
まるで、今までの人生が幸せだったかのように。
そんなはずがあるわけないのに。
海賊なんてものをやっている子が、幸せだったはずがないのに。
ましてや、女なのだからそれなりの理由があるはずなのに。
あの子は、ひまわりのように笑う。
「ねえ、航海士さん。聞いても良いかしら?」
「んー?」
「その刺青には、どんな意味があるの?」
彼女には不釣合いにも見える、その異物。
航海士さんのように女の子らしい子がするには、少し疑問を感じる刺青。
その問いに、彼女はやっぱりひまわりのように笑って。
でもその瞳は、どこまでも嬉しそうな色があり。
そのまま、彼女は愛しげに右腕の二の腕を覆う刺青を撫でた。
「これは、私の全てよ」
「全て?」
「そ。この刺青には、私の大好きなものが全てつまってるの」
「それを聞いても良いかしら?」
笑顔で頷くひまわり。
「風車、みかん。それと姉」
「姉?」
「そう。血は繋がってないけどね、私には姉がいるのよ。ノジコっていう」
もう一度それを撫でながら。
「・・・不思議な組み合わせね」
「まあ、そうかもね」
くすりと笑う航海士さん。
私はその刺青を見つめ。
「触らせてもらっても良い?」
「良いけど、ロビンにとってみれば普通の刺青よ?」
その言葉にはどこか、今まで接した男にも刺青くらいあったでしょう?と。
その人達のを触らせてもらわなかったの?と。
そう聞こえたのは、私が航海士さんとは違って綺麗ではないからだろうか。
私は無言で航海士さんの刺青に触れた。
もちろん、手触りは普通の肌となんら変わらない。
なめらかな肌。
と、珍しくノースリーブだった彼女の左肩。
そこにある傷痕に、私は眉を寄せた。
「これは?」
「ああ、それ?」
困ったような表情。
聞いてはいけないことだった?
「以前は、そこに違う刺青が彫ってあったのよ。それを消した痕」
「・・・刺青マニア?」
「なによそれっ」
笑う彼女。
それにホッとしている私がいる。
らしくない。
「ロビンって、なんかズレてるわよね」
「そう?」
そんなことを言われたのは初めてで。
いつも、何を考えてるのかわからない、とか。
不気味だとか、そういうのは言われ慣れているけれど。
「あんたって、あれだわ。天然。だからズレてんのよ」
天然・・・。
そんな言葉も初めて。
「?ナミ、どうしたんだそんなに笑って」
「聞いてよウソップ。ロビンったら、私のこと刺青マニアですって」
「はあ?」
長鼻くんに、呆れた顔で見られた。
そんなに変なことを言ったつもりはないのにね。
「いい?ロビン。マニアっていうのは、ウソップみたいな嘘つきマニアのことを言うのよ?」
「ぅおい!!」
ビシッとつっこまれた航海士さんは、それにも笑っている。
本当、よく笑う子だわ。
「って、それよりナミ、ロビン。サンジがメシだってよ」
「わかったわ。行きましょう、ロビン」
「ええ」
立ち上がった航海士さんに促されて、私も立ち上がる。
キッチンへと向かう私の前で、楽しそうに話しをしている航海士さんと長鼻くん。
キッチンへと入れば、すでにご飯を取り合いしている船長さん。
それを怒りながらも、しっかりと要望に応えているコックさん。
お酒ばっかりの剣士さん。
航海士さんをみて嬉しそうに話しを始める船医さん。
海賊らしくない海賊。
今まで会ったことのない、海賊。
「ちょっとロビン、いつまでもそんなとこに突っ立ってないでよ」
「そうですよレディ。食事が冷めてしまいます」
「ふふ、ごめんなさい」
自然ともれる笑み。
本当に彼らは綺麗で。
海賊らしくないわ。
ふと、目を覚ました。
久しぶりの、感覚のように感じる。
身体を起こそうとして、右腕が重いのに気づく。
「・・・航海士さん・・・」
そこには、私の手をつかんで眠る彼女がいた。
その手をそっと離そうとして。
けれど、眠りの浅い彼女は目を覚ましてしまう。
「っロビン!!」
ハッとしたように身体を起こした彼女。
目の前に航海士さんの顔が来て、私はビックリして慌てて顔を後ろに。
なのに、彼女はまるで気にしていないように、私の額に手をあててきた。
「喉の痛みはない?だるいとか」
冷静に問いかけてくる航海士さん。
その反応に、私のほうが驚いて首を横にふることしかできなかった。
途端、ホッとしたような笑み。
「そう・・・。まったく、心配させるんじゃないわよ」
ペシリと頭を叩かれて。
痛くもないのに、その場所を手で押さえた。
「体調管理なってないわよ?お姉さま?」
「ごめんなさい」
まあ良いけど、なんて肩をすくめて航海士さんは立ち上がる。
「それじゃあ私、チョッパーを呼んでくるから。大人しくしてるのよ?」
私のほうが年上なのに、まるで言い聞かせるような。
それに素直に頷いてしまうのは、まだきっと熱が身体に残っているから。
「・・・ねえ」
「ん?」
振り返ったオレンジ。
私はそれを見つめながら、口を開く。
「ずっと、見ていてくれていたの?」
「当たり前でしょ。仲間なんだから」
仲間。
その言葉にずきりと、胸が痛んだ。
私は、あなた達を利用している・・・。
「あんたは気づいてなさそうだから言うけど、私だけじゃなくてみんな私が寝る前まで一緒にいたわよ?」
それだけ言うと、彼女は女部屋を出て行ってしまう。
そんな、どうすれば良いのか分からない言葉を残して。
ふと、先ほどまで彼女が握ってくれていた手を見つめた。
なんとなくまだ。
航海士さんの手の温もりが、残っているような気がして。
ここの子達はまだ10代で。
私は10ほど年上で。
それなのに、彼女達の暖かさへの対応がわからない。
ブラウザバックでお戻りください。
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