【あなたが愛しくて】































 夜明け前。

 私は、隣で眠るナミさんの髪を撫でていた。


 少し汗ばんだそのオレンジ色の髪は、けどさらさらと私の手の平を滑る。


「ナミさん・・・ナミさん・・・ナミさん・・・」


 あなたの名前を呼べば呼ぶ分だけ、あなたへの想いが増えていくような気がする。


 初めてこの船に乗り込んだときは、まさか彼女を好きになるなんて思っていなかった。

 この船で唯一の女性で。

 けど、どちらかというと、苦手なタイプといえたかもしれない彼女。


 まさか。

 まさか、こんなにもあなたを愛しく思うようになるだなんて。


「好きよ、ナミさん。・・・愛してる」


 疲れて眠るナミさんの髪にキスをして。

 肩までかけられた布団をめくれば見える、左肩の傷痕にもキスをした。

 それから、白い背中にも、背骨をなぞるように。


「んっ・・・」


 眠ったまま、小さくもらした声。

 強請るような。

 拒否するような。

 どちらにも取れる、曖昧な甘い声。

 いつもは聞けない、その声。


 それに、背筋がゾクリと震えた。


 ああ、まずい。

 ナミさんを、もっと抱きたくなってくる。

 静まった心が、再び熱くなってしまった。


「・・・ぁ・・・っ」


 私は彼女の背かに覆いかぶさり、キスを続けた。

 首筋に。

 うなじに。

 刺青に。

 傷痕に。

 背中に。

 華を、刻み続ける。


 わき腹に手を這わせて。

 腰を撫でて。

 太ももの付け根に手を寄せる。


「っ・・・び、び・・・っ」

「おはようございます、ナミさん」

「なに、して・・・んっ」


 寝ぼけた瞳も。

 甘い制止する声も。

 ギュッと、指先が白くなるほど枕をつかむその仕草も。

 私を止めることはできない。

 加速させることはできるけど。


「愛してます、ナミさん・・・」


 それに言葉は返ってこない。

 けど、それで良いんです。


 ナミさんはまだ、愛する気持ちを知らないから。

 私は、あなただけを愛することはできないから。

 だから、返事はいらない。


 それでも私は、あなたを愛す。

 今、ただのビビであるときだけでも。

 王族でも何でもない、海賊のビビでいるときだけは。

 あなたに本心を囁いて。

 あなたを愛したいから。

































 どうやらナミさんは、新しく仲間になったチョッパーさんがお気に入りのよう。


 ついこのあいだ倒れたナミさん。

 心臓が止まるほどに心配して。

 ナミさんを治すことがこの船の最速だと、みんなに告げて。


 けど、ごめんなさい。

 私はあの時、アラバスタよりもナミさんを優先してしまいました。

 肌で気候を感じ取ることができる彼女が航海士として指示する。

 それは確かに、最速であるはずだけど。


 それよりも前に私は、ナミさんの苦しむ様を見ていたくなくて。

 何百といる国民よりも、ナミさんを優先した。


 そして、その気持ちに後悔していない自分が、嫌だった。

 私は再びアラバスタへと向かうことができる、と喜ぶよりも前に、彼女が治ったことに喜ぶ自分が浅ましくて嫌だった。


 けどそれとは関係なく。

 チョッパーさんと楽しそうにお話しているナミさんを見ていれば見ているほど。

 私の心は、かき乱されてしまう。


「ナミさん」

「ビビ?どうかした?」

「ちょっと、来てもらっても良いですか?」

「かまわないけど・・・」


 段々と表情に深みが出てきたように思うナミさんは、ちらりと海へと目を向けた。


「あ、俺が見ておくぞ!」

「・・・じゃあお願いね、チョッパー」


 一目見てわかる笑みをチョッパーさんに向けるナミさんに、苛立ちが沸き起こる。

 ナミさんに向けても仕方がないものなのに。


 それでも、止まらない。


 私はナミさんの手を引いて、女部屋へ。


「ビビ?」


 私は答えず、ナミさんをベッドに押し倒し。

 慌てたように起き上がろうとするその肩を押さえて。

 彼女の上に跨った。


「ビビっ」


 何かを言おうとするその唇を塞ぐ。

 でも、すぐにナミさんは顔をそらして。


「何を怒ってるわけ?」

「なにも」


 そんなこと嘘。

 わかりやすい嘘。


 変わらない表情。

 戸惑ったように揺れる瞳。

 私はその瞼にキスをして。

 彼女の服を脱がしていく。

 咎めるように伸ばされた手。

 それを無視して、彼女の肌に手を滑らせた。


「・・・・っ」


 私だけを見てなんて。

 私がいって良い言葉ではないのに・・・。


 唇を噛みしめて。


 そんな私の唇に添えられた、細い指。

 その指の主は、1人しかいなくて。

 私はハッと、彼女を見た。


「何かを我慢すると唇をかむ癖、直したほうが良いわよ・・・」


 あなたの方が酷いことをされているのに。

 今、私に。

 それなのに、私を心配するようなその瞳。



 ああ、彼女が愛しくて愛しくて。


 とても、苦しい。
















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