【笑顔のあの子】































<サンジ 視点>


 俺は悔しいことに、それほどナミさんを知らねェ。

 俺がルフィの仲間になる前に、あの人はいなくなっちまったからだ。

 だから、俺達はナミさんを追いかけて。


 そこで、俺たちは知ったんだ。

 あの人が笑顔の仮面をかぶるわけを。

 あの人が、今にも壊れてしまいそうに見えたわけを。


 俺は確かにナミさんとは長くない。

 けど、これでもコックだ。

 人を見て何がほしいかを観察して、最善のサービスをするように心がけてきた。

 自慢じゃねェが、人を見る目はあると思ってる。


 だから俺は、一目みた時あの人の表面に気がついた。

 だから、放っておいたら駄目だって、そう思うんだ。

 女だとか男だとか関係なく。


 あの人は、とても危うい。


 ルフィたちとナミさんを追いかけて。

 ナミさんのお姉さまにであって、俺たちは知った。


 今の彼女が、どうやって出来たのか。


 辛かっただろう。

 苦しかっただろう。

 独りで絶え続けて。

 大好きな人を殺した相手と、一緒にいるなんて。


 俺もそんな幸せな子供時代をすごしたわけじゃねェから。

 だからって、あの人の心が全部わかるなんてありえねェけどよ。


 麗しいレディの。

 ナミさんの。

 大事な仲間の。


 綺麗なはずの笑顔を奪ったゲス野郎は、許せねェ。


 さて、どう料理してやろうか。

 ああ、安心しな。

 もちろん、デザートもつけてやるよ。























<ノジコ 視点>


 あたしは、あれ以来見ることのなかったナミの涙をみた。


 ルフィって奴がアーロンを倒して。

 ナミを仲間だと宣言した時、あの子は素の何も浮かべてない表情のまま。

 涙を流した。


 今まで抑えていたものが決壊てしまったかのように。

 何も言わず。

 表情を変えず。

 ボロボロと泣くナミ。


 あたしも泣きながら、

 ゲンさんも泣きながら、ナミを抱きしめた。


 辛いこと全部引き受けて。

 苦しくても心の奥に押し込めて。

 あたし達を騙して。

 海賊達を騙して。

 自分さえ、ずっと騙して。


 もう良いんだよ、ナミ。

 もう、我慢しなくても良いんだ。

 幸せになっても、良いんだよ。


 みんなで宴会して。

 その最中、あたしはナミに呼ばれた。


 海軍のせいでボロボロになった家の中を見渡すナミ。


「大変ね、ここを掃除するのは・・・」

「そうだろうね。ま、ちょうど改装しようと思ってたところだしね」


 そう言って笑えば、ナミも小さく笑った。


 こんな、素直な笑顔のナミを見たのは、何年ぶりだろう。

 あたしは嬉しくて、ナミを抱きしめた。

 苦しいって言われても、離してやんないよ。


「・・・ねえ、ノジコ」

「なんだい?」


 寄りかかってきたナミを抱きしめなおして、あたしは問いかえす。

 少し躊躇うようにして、ナミは口を開いた。


「最後で、良いの。・・・最後に、抱いてくれない・・・?」

「っ!」


 驚いて。

 けど、どこかでそう言われるだろうと思ってもいて。

 あたしは、ナミを見下ろした。


「お願い・・・」


 ・・・・。

 まったく、そういうことはもうやらないんじゃないのかい?

 お金を手に入れるための技術を、あたしに使うんじゃないよ。


 ま、この子には誘惑してるつもりなんてないんだろうけどさ。


 あたしは伺うように見てくるナミの頬に手をあてて、そっとキスをした。


「ノジコ・・・」

「今までの嫌な思い出、全部消してあげるよ」

「・・・お願い」


 お互いの傷が酷くならないように気をつけながら、あたし達は朝までベッドの上にいた。



 数日後、あの子達は海に出た。


 笑顔で手をふるナミ。

 それを見て、あの子の仲間は嬉しそうに笑ってる。

 良い仲間だね、やっぱり。

 あんな海賊っぽくない海賊だから、あの子の仲間に相応しかったんだろう。


 つぎ会う時は、あの子がいつも笑顔であってほしい。


「ほれ、ゲンゾウ、ノジコ」

「ん?なんだドクター。・・・これは・・・」


 ドクターの差し出した紙を、ゲンさんの隣から覗きこむ。


 その紙には、見覚えのある模様があった。

 あたしの腕に彫られてる、その刺青とほぼ同じものが。

 少し違うのは、鎖骨辺りが何かわからない不思議なマークになっている、ということだけ。


「消したと思ったら、懲りずにまたそんな刺青を入れていきおった」

「ここの部分はあたしと同じだけど、これは何なの?」

「”みかん”と”風車”だそうじゃ。自分の大好きなものを詰め込んだ、らしいぞい」


 あたしとゲンさんは顔を見合わせて、笑った。

 ドクターは呆れながらも笑ってる。


「まったく、あの子ったら。・・・つぎ会うの、楽しみにしてるからねっ」


 あんたは、幸せにならなくちゃいけないんだから、さ。


























 あとがき。


 もうしばらくプロローグは続くかもしれません。

 いや、これで終わりかもしれませんが。


 原作とは違い、ノジコの刺青をほぼパクッたものをいれたナミでした。










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