【植えられた芽は】































 昼間は、のんびりとした麻帆良。

 けれど、そこは夜には一変した印象を与える。


 生徒達が行き交い。

 たくさんの声が交わされる。

 だが、闇夜に染まったその場所は、昼間とは真逆の殺伐とした空気に支配されるのだ。


 闇を闊歩するものが単体で、または群集で、目的の物を奪おうと。

 はたまた、ただただ攻撃せんと。


 もちろん、それを退けるための人員もいる。


「疾風!広範囲の結界を張ったぞ!」

「ありがとう、刹那」

「こぼれたモノは、私に任せろ」

「お願いね、真名」


 その中には、最近麻帆良に”仕事”としてやってきたはやてもいた。


「・・・無風火山」


 シィン、とした空間に響くは、はやての低い声。

 同時に、まるで世界から音が消えたように静寂した。

 風が消えたように。

 時が止まったかのように。


 周りにいる異形たちがなんだ?と首を傾げた。

 その瞬間、異形たちの中心から爆発的な風が巻き上がり。

 それは瞬間的に竜巻となって彼らを上空へと巻き上げた。


 もし風に色があるのなら、見えただろう。

 まるで、火山が勢いよく噴火したかのような風の流れが。


 上空へと放られた彼らは、翼が有るものも無いものも関係なく。

 なすすべもなく、ただ地面へと落ちるのみ。


「真名」

「わかっている」


 その中で、幾人かが余裕を取り戻し、本能的に逃げようとする。

 はやてはそれを真名に任せ、冷静な瞳を彼らに向けた。


 途端、はやての立っていた場所が理由不明の爆発を起こし。

 しかし、はやての身体は怪我も何もなく。


 凄い速さで、落ちてくる彼らのもとへと昇った。

 腰に下げている、小刀の柄に左手を触れさせたまま。


 それはさながら、ジェット噴射させるロケットの如く。


 ほとんどの異形たちはようやくそこで、自分の状況を理解し。

 そして、やってきたはやてを攻撃しようとあがく。

 もちろん、空中で体制を整えることさえできないもののほうが多く。


 彼らは、はやてが通り過ぎた瞬間、まるで見えない刃物で切られたかのように斬られていき。

 なにをすることも出来ず、還っていった。


 ――― スタ・・・


 本来ならば骨折だけでは済まないだろうほど上空から落ちてきたというのに、はやてはまるで1メートルもないような場所から着地するかのような軽さで降り立つ。


 そこには、もはや異形たちはいなかった。


「・・・さすがだな」

「見ない間に、ずいぶんと攻撃範囲が広くなったな」


 苦笑しながら、そんなはやてに刹那は近づいていき。

 真名も、狙撃していた場所から出てきた。

 はやてはそんな2人に、笑い返す。


「日々精進してるもの」


 それから、真名が出てきたのとは反対の草陰に目を移した。


「出てきたら?」


 はやての言葉に驚いて夕凪に手をかける刹那と、銃を構える真名。

 そんな2人をはやてが手で制するのと、2人の人物が出てきたのは同時。


「・・・貴様、”カマイタチ”か」

「こんばんは、黒鉄さん、龍宮さん、桜咲さん」


 エヴァと茶々丸の2人だった。


 それを見て警戒をとく刹那と真名。

 はやては笑みを浮かべ。


「正解」


 音符が付属しているのでは、と思うくらい明るい声。

 エヴァはそれが気に入らないのか、一瞬だけ視線を鋭くし。

 それから、鼻で笑った。


「私を退治するためにでも呼ばれたか?」

「・・・・」


 茶々丸が、頭のネジを外し、機械的な瞳ではやてたちを見。

 といた警戒を、刹那と真名もすぐに戻す。


 空間が、張り詰めた。


 だが、はやては一切気にした様子はなく首を傾げ。


「なんで?」


 ――― すべしっ!


 思わず顔面からこけてしまったエヴァ。

 刹那と真名も、わけのわからない見えないなにかに躓いた。


「マスター、鼻血が」


 反対にこれといって反応せず、マイペースに主を抱き起こすのは茶々丸。


 張り詰めていた空間が、途端に波状する。


 そんな彼女達にくすりと笑い、はやては戦場であるがゆえにバンダナで1つに結っていた栗色の髪をとき。

 それがはやてにとって、闘う気がないことを表していると知っている2人だけが、同じように武器から手を離した。


「ど、どういうつもりだ!!」

「どういうつもりも何も、私はそんな依頼受けてないもの」

「なんだと!?」

「私が受けた依頼はただ1つ。ネギ・スプリングフィールドによって巻き込まれた厄災から、担当生徒達を護ること。オプションで、警護の仕事も有料で引き受けたけれどね」


 にっこりと笑うはやて。


「ここに、私がいたとしてもか!?」

「なぜ?」

「なぜだと!?私は、ヴァンパイアの真祖だぞ!?」

「そう。私は人間だよ。よろしくね」


 エヴァにしてみれば、予想外の返答。

 むしろ、会話が成り立っているのかも、あやしいと感じた。


「っ私は、様々な人間を手にかけた真祖だといっているんだ!!」


「―――勘違いしないで、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル」


 凛としたその声は、エヴァの声を封じ。

 音を消し。

 風を消した。


「私は、正義のヒーローではないの」


 それは、その意味は、ここにいる全員に伝わった。


 正義とか悪とか、そういった括りさえ混濁させる戦場にいた真名。

 かつて、正義の名の下に全ての異形たちを惨滅させていた刹那。


 ”ヴァンパイア”で”真祖”という、いやがおうにも悪に分類される要素を欲しくもないのに手に入れてしまったがために、命を狙われ続けていたエヴァ。

 エヴァの従者であるからこそ、識る者たちから邪険にされ、それさえも受け入れ続けてきたガイノイドである茶々丸。


 2組の違いは何か。

 それは、はやてと知り合っていたか知り合っていないかの差。


 自分のやっていることが良いことなのかと、小さいながらに思っていた、銃を手に戦場を駆け抜けていた子供は、知り合った。

 正義という”偽善”を嫌う少女に。

 悪という”正義であるために必要な道具”の存在を嫌う可愛い子に。


 正義だからと、同属である異形たちを斬り伏せていた、烏族と人間のハーフである子供は、出会った。

 正義に”酔う”者達を嫌う少女に。

 悪に”泣く”異形たちに向かって笑う綺麗な子に。


「ヴァンパイア?真祖?だからなに?そんなこと、私には関係がないの」

「人間である?人間ではない?そんなこと、私には関係がない」

「私の”世界”は、気に入っている者か気に入らない者か。それだけ。単純で明快な世界」


 柔らかく笑うはやて。

 エヴァはそんなはやてを、理解不能なものでも見るような目で見ていた。


 600年。

 短くはない年月。

 けれど、不老不死の真祖にとって、別段長くもない年月。


 だというのに。

 だというにもかかわらず。

 はやてはエヴァにとって、初めて目にした生き物(存在)だった。

 初めて、聞いた生き方(性格)だった。


「覚えておいてね、キティ」

「”カマイタチ”は、正義じゃ”酔え”ない」

「”瞬間の疾風”は、悪じゃ”酔わ”ない」


 不適に笑う、黒鉄はやて。

 たった、13歳の少女。

 月に照らされたその姿は。


 まるで、どこかの騎士のように凛としていて。

 まるで、どこかの王のような気高さがあり。

 まるで、野生の狼のような高潔さをもち。


 まるで、全てを総べる神のように神秘的で、絶対な何かを持っていた。


 はやてはすっと踵を返して。

 見惚れていた者たちは、それに我にかえり。

 追いかけるものと佇む者にわかれた。


「・・・・・・・黒鉄はやて・・・・・・・」


 去っていくその背中を見つめて。

 エヴァはポツリと呟く。


 意図したわけではなく。

 無意識にでたその言葉。

 その名前。


 エヴァも。

 そして、茶々丸も気づかない。


 彼女が、今の自分達を壊すものであるということを。

 そして、その芽が今、植えられたということを。


 時がたち、2人は過去を振り返って気づくのだ。

 今の自分たちがあるのは、

 今の自分たちになるキッカケは。


 まさしく、今夜の”助力屋”との出会いだったと。


















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