「カマイタチ、1つ聞いても?」

「どうしたの?」

「大したことじゃないんだけどね、なぜ履歴書の写真が、仮初のあの姿だったんだい?」

「ああ、それは天地の方で使った写真だからだよ」

「確かに中1には見えないが、普通の学園で姿を隠す必要はないと思うが」


 真名と刹那にいわれ、はやては苦笑。


「天地には、凪が身体を治すまでの身代わりとして入っているからね。だから、凪と同じ背格好でいなければいけなかったの」


 それに2人は納得。


「それにしても、龍宮で十分15歳としてはおかしいが、疾風も一切13歳には見えないな」

「刹那と初めて会ったときは、あなたのほうが身長高かったからね」

「ああ。急に抜かれたな」

「私を抜かすときが来るかもな」

「これ以上の身長は、別にいらないんだけれどね」


 2人にそれぞれ返したところで、苦笑していた近右衛門が。


「そろそろ、教室に行った方がいいじゃろう」

「そうするとしようか、刹那」

「ああ。行こう、龍宮。疾風、また後で」

「教室で待っているよ、カマイタチ」

「また後でね、2人とも」


 はやての微笑みに2人とも笑い返し、理事長室を出て行った。


「では、ネギ君が来るまで待つとするかのう」

「了解」

「おっと、忘れるところじゃった。天地の方には、上手く誤魔化しておいたからのう」

「うん、わかった」


 そう返事を返すも、はやてはあまり安心はしていない。

 短い間ではあるが、天地を取り仕切るひつぎの能力は認めているから。





























【まずいぞ】































「初めまして、私は黒鉄はやて。よろしくね」


 また中学生らしからぬ生徒がきた、と幾人かがどこかげんなりした表情をする。

 それに目ざとく気づき、はやては小さく苦笑をこぼした。


 龍宮 真名。

 長瀬 楓。


 特にこの2名は、かなりの似非中学生度を発揮している。

 反対の意味で、似非中学生度を発揮しているものもいるが。


 そんな彼女達を見て、私がいる意味はあるのかな?なんて思うはやて。


 なんせ、明らかに堅気じゃない存在が数名。

 人外も数名。

 これだけいれば、はやては確かにいらないかもしれない。


「それじゃあ、黒鉄さんはあちらの席に座ってくれますか?」

「了解」


 笑顔で頷き、はやてはネギに示された、ある少女の隣の席へと。


「初めまして、キティ」

「っ!?貴様―――!!」

「ふふ、冗談だよ」


 ギラッとした視線を柳の如く受け流し、はやてはくすりと笑って腰掛けた。


 満月の日以外、牙も出なければもはやただの女の子と変わらない600歳の真祖。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 殺気は放てなくとも、その視線は通常なら恐れを抱くほどに鋭いもの。

 事実、気迫だけで逸脱した者たちが何事かとはやてとエヴァを見ている。


 だというのに、はやてはまるで何も感じていないかのよう。


「これから隣同士、よろしくね。エヴァンジェリン」

「・・・貴様、何者だ・・・」


 その声は低く。

 可愛らしい外見からは想像もできない声。


 けれど、はやてはそれににこりと微笑んだ。


「秘密。探してみてよ。答えを教えるよりも、そのほうが面白そうだからね」

「・・・チッ」


 機嫌悪そうに舌打ちをするエヴァに、はやては楽しそうに小さく笑った。


 休み時間。

 凄い速さで、はやての席に朝倉和美が近づいてきた。


「転校生への質問いい!?」

「質問?かまわないよ」

「なら、1つ。何で、この時期に?家の事情?」

「そうだね。そう思ってくれてかまわないよ」


 にっこりとした、曖昧な答え。

 ふむ、と和美はうなった。

 手ごわそうな相手だ、と思ったからだ。


「じゃあ、次。なんか、桜咲さんと龍宮さんと仲がいいみたいだけど、何でなの?」

「刹那とは、京都で知り合ったんだ。真名とは、それよりも前にね。麻帆良に来るキッカケも、その2人に紹介されてだよ」


 それに反応を見せたのは、一人の少女。

 近衛 木乃香。

 刹那と幼馴染であるはずなのに、刹那自身から距離を置かれている少女だ。


 それに気づきはするも、はやては何も言わずに和美を見つめる。


「続いては、身長が幾つか教えてくれる?」

「身長は175チかな。まだ伸びるとは思うけど」


 本来は、成長期真っ只中の、中学1年生だから。


「高いわね。・・・じゃあ、次は」


 和美はちらりとはやてを見て。

 それもすぐに、視線をメモ帳に移す。


 これには、さすがに年頃の女の子。

 反応を示すだろうと予測して。

 その、変わらない笑顔を剥がしたくて。


「スリーサイズ、教えてくれる?」

「上から、79/49/77だよ」


 ・・・・・・・。


 あっさりと答えたはやて。

 そしてその内容に、教室中が沈黙。

 さりげなく、みな聞いていたらしい。

 やはり、お年頃。


「・・・胸勝ってるのに、何でこんなに敗北感感じるんだろう・・・」

「腰、細すぎ・・・っ」

「人?」


 ようやく再起動したらしい、クラスメイト達。

 にしては、酷い言いようだ。


「(確かに、腰は細かったな)」

「(折れてしまうかと思ったぞ、私は)」

「(そのわりにはずいぶんと激しく・・・・)」

「(う、うるさい!)」


 真名と刹那はそんな会話をしているし。


 はやてはそれに苦笑。


「これでも、去年よりは太ったんだけどね」

「嘘!?それで!?」

「うん。嘘はつかないよ」


 はやてはそう言うが、太った、というよりも、成長した、といったほうが良いだろう。


「それで?次の質問はあるのかな?」

「あ!え、ええ!ずばり、初体験はいつ!!」


 さすがにそれはありえないだろう。

 と、和美を含めた、2人を除くみんなが思った。


 だが、彼女達の予想に反してそれは裏切られてしまうわけで。


「一昨日、かな?」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 先ほど以上の沈黙。

 そして。


『一昨日!!!???』


 綺麗にそろった声。

 その中には、エヴァもいて。


「そう。驚いた?」


 コクコク、と一様に頷く和美たち。

 はやてはそれにくすりと笑い。


 それが中学生らしからず、色っぽくて。

 もともと綺麗だったはやてを、より美しく見せていて。

 同じ歳のはずなのに、年上に見えて(実際は、反対に年下)。


 和美たちは、その笑みに見惚れてしまう。

 彼氏がいるはずの者たちさえ。

 それは、あのエヴァでさえも。


 それほど、今のはやては美しく。

 どこか、神秘的に見えた。


「・・・・刹那、まずいと思わないか?」

「・・・そうだな」


 思わず、自分たちも見惚れていた真名たちはハッとして、呟きあった。


 2人からして見れば、はやてはどちらかと言えば、付き合えば付き合うほど良さが見えてくるタイプ。

 例えば、噛めば噛むほど味が出てくる干し魚みたいなタイプだ。

 時間を共にした分だけ、惹かれてしまう不思議な方程式。


 だがそれも、今よりももっと小さな子供の頃の話だ。


 はやては、2人が初めて会った頃から、大人寄りの思考を持ち。

 それでいて、柔軟な考え。

 頑固ではあるが、堅物ではなくて。

 突き通すべきところは突き通すし、柔な部分を入れるべきところは、見ていてあっさりしてると思うほど簡単に他の人の意見を取り入れる。


 真名と刹那はそんなところにまず、尊敬を抱き。

 そして、次第に惹かれていった。

 愛してやまなくなった。


 だが、今は違うのだ。


 100人が100人とも綺麗と思える容姿。

 それでも、やはり女性全員を魅了することはできないし、男性全員の場合も然り。


 けれど、その姿でその笑みは駄目だと、真名と刹那は改めて思う。


 似合っているがゆえに、綺麗で。

 歳不相応であるがゆえに、色っぽく。

 外見に似合っているがこそゆえに、魅力的で。

 姿に合っているようないないような、不思議な雰囲気を醸し出す。


「まずいな・・・」

「ああ・・・」


 改めてはやては綺麗だと、そう思いながら。

 改めて、はやてが愛しいと思いながら。


 2人は、これからのことに頭が痛くなった。



















 ブラウザバックでお戻りください。


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送