「あっやな〜〜〜!!!」

「っ抱きついてくるなバカタレ!!」


 勢いよく飛びつくのは、黒鉄はやて。

 それと同じくらいの勢いで吹っ飛ばすのは、無道綾那。


「毎日毎日目障りなんだよ!!大体、年上を呼び捨てにするな!!」

「気にしない気にしない。あたしと綾那の仲じゃん♪」


 うふっ♪と笑う気持ち悪さに、綾那の背筋に悪寒が。


「キモイんじゃボケーーーー!!!」


 素晴らしいアッパー。

 豪快に噴き出される紅は、すでに致死量をこえており。

 血の海に沈んだ小さな体は、危険信号を発するように痙攣していた。


「ったく!しつこい奴め・・・!」


 何かを振り切るように呟くと、綾那ははやてを置いてとっととその場から去ってしまう。

 2人が刃友になるには、まだまだ時間がかかりそうだ。


「・・・日に日に拳の強さが増していく」


 綾那がいなくなったとたん、はやてはすくっと何事もなかったかのように立ち上がり、服を払う。

 その顔には苦笑。

 バカ顔しか知らない綾那が見れば、驚くくらい落ち着いた。


 と、はやては何かに気がついたようにポケットをあさった。

 取り出したのは、簡素な携帯。


「わ、珍しい。いつもはこんな時間にメールなんてしてこないのに」


 開いて確認したメールの送り主。

 それは、はやてが予想していなかった人物だったようだ。


 とりあえず、スタコラサッサとマヌケに見える走りでお手洗いへ。

 誰もいないのを確認し、個室の中に入るとその内容を見てみる。


「・・・・・・」


 無言で読み終えたはやての顔には、柔らかな苦笑。


「まだ、凪がこっちに来てないんだけどね」


 うっすらと変わった口調でそう呟きつつ、はやては携帯を閉じてポケットに戻した。

 それから、身体をグッと伸ばして。


「ま、いいか。彼女が私に頼み事するなんて、余程のことだろうし」


 個室のドアを開けたはやての笑顔。

 それを見た者がいなかったのは、ひどく残念なことであった。


 浮かんでいたその笑顔は、とても魅力的なものだったのだから。






































【頼まれた仕事】































「疾風・・・!」

「久しぶりだな、カマイタチ」

「あれ? 真名も一緒なんだね」

「ああ。それにしても、カマイタチと刹那が知り合いとは驚いたよ」


 麻帆良学園中央駅に降り立ったはやてを待っていたのは、

 髪をサイドで一本に縛った、白い肌をもつ真面目そうな少女。

 もう1人、はやてがかなり見上げなければいけないほど長身の、褐色の肌を持つ余裕な笑みを浮かべた少女。

 その2人。


「私だって、龍宮が疾風と知り合いだなんて知らなかった」

「刹那が知っているのかわからないのに、話すわけないだろう?」

「それはそうだが・・・」


 不満そうにそう答えるのは、桜咲 刹那。

 彼女は、自身が麻帆良に来る前、京都ではやてと初めて会い。

 今でも、その交流は絶たれずメールなどのやり取りを交わしている。


「さて、君を歓迎しよう。カマイタチ」


 そう言ってはやてに手を差し出したのは、龍宮 真名。

 はやてとの出会いは刹那よりも早く、はやてが思い出すかぎり、一番長い関係を持つものである。


「その前に、詳細を聞きたいんだけど?」


 差し出された手を叩き、はやては挑発的な笑みで真名を見上げた。

 あいにく真名との身長差がありすぎて、背伸びしている子供にしか見えないが。


「それは、本来の依頼主から話してもらうつもりだから、もう少し待っていてくれるかな?」

「ってことは、やっぱり2人が依頼主ではないんだね。あなた達は、大抵のことじゃ私を呼び寄せないものね」


 肩をすくめるはやてに、刹那が慌てたように。


「ご、誤解だ疾風!騙したわけじゃなく、私から依頼主に進言したんだ!」

「私もその場にいたから、刹那の言っていることは本当さ。それで、私は刹那が君を知っていることを知ったんだからね」

「ふふ、ごめん。ちょっとした意地悪のつもりだっただけだから、そんなに焦らないで」

「っ疾風!」


 頬を染めて怒鳴る刹那に、はやては無邪気な笑顔を。


 その笑顔は、ずっと浮かべている落ち着いた様子とは真逆の幼い笑顔で。

 はやては知らないが、刹那は初めて会ったときからその笑顔に弱かった。

 ゆえに、黙ってしまうわけで。


「?刹那、どうかした?」

「っなななな何でもない!行くぞ!疾風、龍宮!」


「刹那、どうしたんだろう?真名、何か知ってる?」

「知っていても、絶対に言わないよ」

「・・・なんだか、見ない間に意地悪くなっていない?」

「そうかな?」


 真名はくすりと笑い、刹那の後を追いかけ。

 はやては首をひねりながら、2人の後を追った。





 2人に連れてこられたのは、麻帆良学園 学園長室。


「久しぶりだね、近右衛門」

「うむ、久しぶりじゃのう、”瞬間の疾風(しゅんまのはやて)”よ」

「疾風は学園長ともお知り合いなのか!?」

「なに、不思議ではないだろう?刹那。カマイタチは”助力屋”だ。受けた依頼が気に入れば、どんなことでも手助けしてくれ、その強さはそうとうな実力者も認めるほど。そんな相手に、学園長が依頼したことがないはずがない」


 真名の言葉に、刹那は思い出したような顔で納得した。


 はやてはそれに苦笑しながら、笑っている近右衛門を見る。


「それで、今回はどんな依頼なのかな?」

「お主に、桜咲君たちのおるクラスに入ってほしいのじゃよ」

「それはまた、長期任務みたいだね」

「うむ。お主に入ってほしい3−Aは、ワケありの子達が多くてのぅ。そんな彼女達を、護ってほしいのじゃ」

「あなた達だけでは護れないと?」


 ジッと近右衛門を見つめ、はやては問う。

 近右衛門もそれに真剣な瞳を返し。


「彼女達の担任となったものは、ネギ・スプリングフィールドという者なのじゃよ」


 その返答に、はやては軽く目を見張った。


「それはまた・・・。厄介ごとを引き寄せる人を担任にしたものだね。事実だとすれば、生徒達が危険じゃない」

「じゃから、お主に彼女達を護ってほしい、と頼んでおるのじゃ。・・・どうじゃね?引き受けてくれんか?」


 背中に突き刺さる、”わかってるよな?””駄目だろうか”といった、顔を見なくともわかるくらい多弁な視線。

 前から向けられる、切望さえこめられたような視線。


 はやては苦笑をこぼしたまま、ため息をついた。


「わかった、引き受けるよ」

「っ本当か!?」


 すぐに反応を見せたのは刹那で、すでにはやての前に回りこんでいる。

 はやてはそれに苦笑を深め。


「うん。それに、そろそろ天地も飽きてきた頃だし。何より、刹那たちと一緒にいるのは好きだからね」


 にっこりと。


 刹那はそれに顔を赤くし、うつむいて。

 真名は余裕の笑みの中に嬉しさがこめられる。

 近右衛門も嬉しそうだ。


「これで安心したわい。依頼の詳細は、この紙に書いてある、しっかり見ておいてくれ」

「了解」

「部屋は、彼女達の部屋がいいじゃろう。2人と、知り合いのようじゃしな」

「それについてもわかったよ」


「では、私たちの部屋に案内しよう!」

「わかったから引っぱらないで、刹那」

「は、疾風が遅いだけだ!」

「それじゃあ、失礼する」


 さっさと学園長室から出て行ってしまった刹那とはやてを追うように真名が挨拶をして、出て行った。


 一気に静かになった室内。

 それに寂しいと思うよりも、近右衛門は強い味方が出来た、と安堵していた。

 こちら側に彼女がいると知れば、どこかの組織も早々に手を出さんじゃろう、と。



















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