【千雨復活】
治療を終えたその日の夕方。
今夜は各々どこに泊まろうか、と悩んでいた。
いつ千雨が目を覚ましても良いようにと、誰も離れたくないのだ。
場所はいつまでも保健室にいるわけにはいかないと、刹那と真名の寮室に移っており、すでに茶々丸が濡れタオルで簡単ではあるものの血は拭ってある。
それと、本来ならば学校にいっている時間だが、幸い今日は日曜日であり、エヴァがここにいても問題はない。
ちなみに何故千雨の部屋ではないのかというと、室内があまりにも凄いことになっているため急遽彼女達の部屋に移動したのだ。
さすがに、部屋をパソコンが我が物顔で占領しているあの中に、千雨を含めて7人は入らない。
千雨の部屋は、入室4人が限度なのだ。
その時、千雨がちょうど目を覚ました。
木乃香と刹那は泣きながら千雨に抱きついて。
真名はそこまでしなかったが、満面の笑みを浮かべている。
反対に暗いのはエヴァや茶々丸、それと明日菜だ。
千雨はそんな3人に気づいて。
まず言った言葉、それは。
「無事だったのか、絡繰」
というもので、3人はその言葉に目を見開いた。
叱咤されることはあっても、そんなことを言われるとは予想していなかったのだろう。
けれどすぐに、千雨が自分達の事情を知らないからだと思い。
「―――――― ということなんだ。・・・すまない、お前を巻き込んでしまって。そして、私の事実を隠していて」
エヴァが自分のことを、茶々丸のことを。
自分達とネギ達の事情を。
それと、その怪我の後遺症のことを。
そして、原因の一端である自分はどんな罰も受けると。
それらを話し、エヴァは頭を下げた。
「・・・だから、左の耳は聞こえねー上に、左腕も一切動かねーのか。右わき腹もなんか引きつるし」
耳元を右手で軽く叩きながら呟く千雨に、一気に空気が暗くなる。
それに気づいた千雨は困ったように頬をかいて。
「それと、マクダウェル。別に、隠してたことは謝らなくても良いぜ?」
「何故だ?」
「あー・・・、私も実は裏の人間なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
沈黙の後そう呟いたのは、エヴァか明日菜か。
といっても、茶々丸も木乃香も驚いている。
驚いていないのは、小さい頃に出会った真名と刹那だけ。
「だからな?私は初めから、マクダウェルがどういう存在か知ってて、あー・・・ダチになったと」
恥ずかしそうに、友人と紡ぐ千雨。
それから数秒のち。
「んなにぃぃぃぃぃぃぃーーーーーー!!!???」
大きな大きな叫び声に、慌てて真名たちは耳を塞ぎ。
千雨は幸い、動く方の腕で聞こえる方の耳を押さえることに成功。
エヴァの隣にいた茶々丸は、あまりの音量の大きさにだろうモーター音をたてて何やら呟き。
もう1人被害を被った明日菜は耳を押さえ、屈みこんで唸っている。
「きさっ貴様は私を真祖だと知っていて近づいてきたのか!?何の目的で!!」
「いや、目的は知ってんだろうが。あんたが茶道部だったから、作った和菓子の感想貰いたかったんだよ。初めの頃に言っただろ?」
「それは確かに聞いたが―――!!?」
「それ以外の理由なんかねー。別にあんたが真祖だろうがなんだろうが、私にとっちゃ私の料理を美味しそうに食ってくれるやつでしかねーしな」
エヴァはそれが、いつかの答えだと気がついた。
「だから、あんたへの罰はあれだ。これから腕が前みたいに動くようになるまで、私のクソ不味い料理を文句言わずに食え」
「千雨・・・」
エヴァは目を潤ませてしまう。
真祖でも気にしないという言葉と。
そして、千雨の罰が一度死ぬことだとすれば、もちろん相応に痛いが甘受しようと思っていたエヴァにとって、予想外に甘い罰。
死に掛けたというのに、あまりにも優しい罰だ。
千雨はそんなエヴァから顔をそらして。
けれど、その頬は赤く、照れているのがバレバレである。
「・・・これで納得したわ、図書館島での千雨さんの行動」
「まあ、な・・・」
千雨にとってあれは苦い思い出。
自分の実力が、一端ではあるものの楓や古菲にまでバレてしまったのだから。
「千雨さん」
「あ?」
「何故ですか?」
「は?」
「あなたが裏側の人間であったなら、魔法の矢一本にどれほどの威力があるのかもご存知のはず。なのに、何故私を庇ったのですか?」
不明瞭な茶々丸の問いかけ。
それに訝しげにしていた千雨を含んだ面々は。
けれど、最後のその言葉で、茶々丸が何を聞きたいのか悟った。
向けられる視線。
特に茶々丸と明日菜の視線は、当事者だからだろうか強くて。
千雨はそれに小さくため息をつき、少し頬を染めながら。
「2年も一緒だったやつを見捨てるほど、薄情なつもりはねーよ。それに、あんたは、ま・・・友人だしな」
「千雨さん・・・」
「まあ、千雨はなんだかんだいって2-Aを気に入っているからね」
「ええ。ちーちゃんは口も態度も悪いせいで、あまり気づいている人はいないと思いますが」
「そやなー。千雨ちゃん素直やないもんな♪」
「ほっとけ」
真名の発言をスルーして、千雨は刹那と木乃香を軽く睨む。
2人はそれに微笑み返すだけで。
「あのさ、それで私の罰は・・・」
「あ?神楽坂のか?・・・そういや、あの場所にいたな、あんた」
「う、うん」
「・・・ま、あのガキが教師以外の用事で私に近づこうとしたら止めろ。それで良い」
「それで良いって、それだけ!?」
「見てりゃーわかるが、あんたあのガキ共からちゃんと裏側のこと聞いてたわけじゃねーんだろ?襲撃の時だって」
「そ、それは、確かにそうだけど・・・」
納得いかない様子で頷く明日菜を、千雨はデフォルトである面倒くさそうな表情で。
「大方、あのオコジョも初めからそのつもりであんたに詳しいことは言わなかったんだろうぜ。これから実行するのに、ビビられちゃかなわねーからな」
「あいつ・・・!」
「まあ、ようは裏側ってのは、自分達のためなら一緒に戦う仲間さえも騙すような世界ってことだ」
例のオコジョを思い出しているのだろう、明日菜は拳を握り締め。
けれどと、千雨を見る。
「でも、私がやったことは許されることじゃ―――!!」
「だろうな。けどよ、あんたは騙されてた。それに、私が死にかけるような魔法を放ったのは、あのガキだ。あんたに罪はないとは言わないけどよ、私は神楽坂を恨んでねーし。だから、あのガキを私に近づけるな。それでチャラにしてやるよ」
「・・・千雨ちゃん・・・ありがとう・・・!」
バッと勢いよく頭を下げる明日菜に、千雨は手をヒラヒラとふって。
その言葉は、ある意味ここにいる裏を知るものの総意といっても間違いはない。
話しを聞けば、本当に表面的なことしか教えられていなかったらしい。
例えれば、戦いのないファンタジー小説の序章くらいの内容だけ。
そうしたのはネギ・オコジョ共々わざとだったのか、そこまで考えが至らなかったのか。
前者ならば子供のくせにろくでもないし、後者であれば卒業課題などやらずもう一度学校に通いなおすべきだ。
にもかかわらず、仮契約を交わすことを断れないような言い回しで、オコジョに強引に話しを進められたという。
さらにネギから、一度だけ、と懇願もされたらしく、一度だけなら、と了承してしまうのは人の常。
けれど、仮契約を一度だけ、などと裏を知る側にしてみれば馬鹿にしているとしか思えず。
契約するたびに契約破棄をするつもりなのだろうか、あまりにも非効率だ。
それに、ネギの心情など千雨たちがわかるはずもないが、その発言は使い捨てにすることを前提にした言葉にしか聞こえない。
もはやそこまでいくと、パートナーを得る資格などないと言わざるを得ない。
真実を語らない、ということはパートナーになるよう迫っておいて信頼していない、ということにも繋がるのだから。
さすがにそれを聞いてしまえば、エヴァも真名も刹那も、裏をなめるななどと明日菜を責めることは出来なかった。
表の人間でしかない明日菜は、裏の人間にそう言われてしまうとそれを信じて鵜呑みにするしかないのだから。
仮であっても契約したとなれば、それがどういう意味を持つのかの説明など皆無だったというのだ。
実際は、契約をするという行為はそんな簡単なものではない。
これを聞いた千雨は、あまりにもな内容に、怒りを通り越して呆れてしまった。
千雨は今まで色々な悪の魔法使い達に出会い、殺してもきたが、ネギはそれとはまたベクトルの違う最悪な魔法使いであった。
というか、自分達もエヴァのパートナーである茶々丸を狙ったのだから、ネギのパートナーとなった自分も狙われる可能性が出てくることを考えなかったのだろうか。
「とりあえず、左腕をどうにかしねーとな。どれくらいで動くか聞いてるか?」
「短くて2,3ヶ月、長くて1年くらいはリハビリせんといかんて」
「・・・はぁ、そりゃそうだよなぁ・・・」
木乃香の言葉に憂鬱そうにため息をつく千雨。
それに俯いてしまうのが3名ほどいるが、仕方がないことだ。
たとえ千雨に、咎めるつもりがないとわかっていたとしても。
早々罪悪感など消えないし、気にしないほうが人として問題である。
「リハビリ、手伝うから」
「私もだ」
「私も、お手伝いさせていただきます」
「ああ、その時はよろしく頼むぜ」
明日菜、エヴァ、茶々丸が真剣な顔で申し出る。
千雨もそれに頷き。
そろそろご飯にしよう、ということに。
「千雨ちゃん、なんや食べたいものあるー?」
「血がたんねー」
「了解や」
「私もお手伝いします」
「ありがとな、茶々丸さん」
「いえ、当然のことですので」
木乃香が自室から持ってきた食材を手に、茶々丸と共にキッチンへ。
「そういえば千雨、お前のあの部屋は一体なんなんだ?あれがあるから、今まで一度も部屋に入れようとしなかったんだろう?」
「ああ、ありゃー仕事道具だ」
「仕事道具?ちーちゃんは、確か剣術を扱うんじゃ・・・」
「”クラッシャー”という存在を知っているかい?」
「国外の大統領の貯金さえ調べられると言われているほどの能力を持った、あのウィザードだろう。茶々丸が密かにライバル視しているようだが・・・・・・・・・まさか」
話しの流れでわかったらしい、エヴァは真名から視線を外し、千雨へと向ける。
驚愕に染まった視線を。
「そのまさかだよ。私がクラッシャーだ」
「・・・・・・・・お前は、今日だけで私をどれだけ驚かせるつもりなんだ」
「驚かせるつもりはねーけどな。ま、そっちの仕事もしばらくは休業だ。さすがにあの作業は片手じゃ出来ねー」
「・・・まあ、そうだろうな」
「一々暗くなるなよウザってー」
千雨はそう言ってエヴァの額に右手でデコピン。
その箇所を押さえつつ、それが千雨なりの優しさだと理解しているエヴァは小さく泣き笑いのような表情を浮かべ。
何となく、今回のことでエヴァの態度が千雨に対して幼くなったようにも思える。
そんな彼女達に刹那、明日菜の2名がそっと手をあげて。
「あの、私達には何の話かまったくわからないのですが・・・。いえ、今のエヴァンジェリンさんの言葉でちーちゃんが凄いのは何となくわかったのですが」
「なに、それで十分さ。要するに、パソコンを操る者にとって千雨は神と崇められているほどの存在ということだよ。私も、それほど詳しくはわからないからね」
刹那に真名が肩をすくめて。
確かに、パソコンに詳しくなければ、説明してもわからないだろう。
とりあえず、千雨のパソコン技術は凄い、ということだけ理解していれば良い。
「できたえー」
ということで、まずは腹ごしらえ。
なんだかんだいって、千雨以外の面々もご飯を食べていなかったのだ。
千雨が心配でそれどころではなかったため。
それからご飯を食べ終えて、久しぶりにも感じるのんびりとした時間。
そこで、明日菜の携帯が震えた。
「学園長、どうしたんですか?・・・・え・・・ネギが、見つかった・・・そう、ですか・・・」
その言葉で一気に張り詰める空気。
主な発生源は、エヴァ、刹那、真名の3人である。
千雨はやはりどうでも良さそうで、木乃香と茶々丸に腕をマッサージしてもらっている。
ただ、木乃香の顔は明日菜と同じくらい強張っているが。
電話を切った明日菜に集中する、千雨と木乃香以外の視線。
「ジジイはなんと言っていた」
「なんでか長瀬さんと今まで一緒にいたらしくて、もうすぐ寮に戻ってくるだろうって」
「・・・ちょうど良い。私はあいつに聞きたいことがあったんです」
夕凪を手に立ち上がる刹那。
それに続いて真名も、懐に銃があるのを確認しながら立ち上がり。
「おいおい、獲物持って何聞きに行くんだよ。明日にしろ」
それは千雨なりの、周りにクラスメイトがいれば物騒な行動をしないだろう、という考えのもとの発言。
別にネギを思って、なんていう気持ちからではない。
変な行動を起こして刹那たちの立場が危うくなるのを危惧したからだ。
2人ともそんな千雨の心配を悟り、不承不承ではあるものの矛をおさめる。
自分達を心配してくれる千雨の気持ちを無碍にしたくなくて。
そんな2人を視界の隅におさめながら、茶々丸が問いかけた。
「学園長からの電話は、彼が帰還したことの報告だけですか?」
「あ、ううん。私に部屋に帰ってほしいって。パートナーを破棄するにしても継続するにしても、話し合う必要があるだろうからって。木乃香が部屋を移ることとかも説明しないといけないし(・・・もしかしたら私も)」
「は?近衛、部屋移るのか?」
「そやよ。さすがのウチも、あの場面見たあとにネギ君と暮らすんは無理やから・・・」
「そりゃそうか」
千雨はどことなく申し訳なさそうな顔で、落ち込んだ笑みを浮かべた木乃香の頭に手をおき。
木乃香はその手に安心したように、その手に自らの手を重ねて頬をへと持ってくる。
そのまま頬をすりよせ。
千雨は一瞬木乃香の行動にポカンとしたが、すぐに不安なんだろう、と苦笑を浮かべて思いされるがまま。
そんな2人をギッと睨んでいる者が3名ほどいるがスルー。
なんとなく明日菜と茶々丸の視線も痛いように感じるが、千雨は気にしない。
「なら、部屋が決まるまで私の部屋で泊まると良いよ。私は千雨の部屋に泊まるからね」
「んな!?別にそっちに3人で暮らせば良いだろう!腕の動かない千雨は私の家に住まわせる!」
「千雨さんの身の回りのお世話は、私がさせていただきます」
真名の発言に声を荒げるエヴァ。
それに、純粋な心配と一緒にいたいという2つの感情を持って茶々丸が追従する。
その後、刹那や木乃香も参入。
本人を無視して何やら騒がしくなった。
「おいおい、私の意思は無視かよ・・・」
若干の諦めをこめながら、千雨は面倒くさそうに呟く。
そんな千雨の小さな抵抗に、誰も反応せず。
千雨ははぁ、と大きなため息。
「めんどくせー・・・」
ここ最近妙に言うことが増えた呟きをもらし。
一方そんな彼女達を、明日菜は何かを思案するようにジッと見つめていた。
ネギは明日菜からの説明を聞き、喜んでいた。
千雨が無事だと聞いたからだ。
それと、学園長が自分の試練のためにエヴァをたきつけたと聞き、もともと殺すつもりはなかったのだとホッとして。
試練ならば頑張ろうと意気込み。
だから、木乃香が部屋を移ることになったという説明を、そして理由を聞き逃していた。
それと、千雨が近づくなと言っていた、という言葉も。
千雨の腕と耳が、しばらくか永遠かは不明だが機能しないことも。
「・・・・・・・(なんでこいつ、こんなに喜んでんのかしら・・・)」
明日菜はネギの心情など気づくはずもないため、そんな彼を冷めた目で見てしまい。
「・・・ネギ、私もう寝るわね」
明日のバイトのこともあるし、さっさと寝ることにした。
なんだか余計なことまで言ってしまいそうで。
そうなれば、自分自身でも制御できなくなるような気がして。
そんな状態の自分が、話し合いなんて出来ないと悟り。
ちらつく、血の海に横たわる千雨の姿。
目を閉じれば浮かぶ、青白い、死人とも呼べるほどの千雨の顔。
明日菜はギュッと目を閉じて、おやすみなさい、と明るい声で言ってくるネギに答えず布団の中にもぐりこんだ。
まさかその後、ネギとオコジョが最悪な予定を立てるとも知らずに。
あとがき。
どうしても入れたかったんです。あの場面で人が死に掛ける、という状況を。
ふふふ、余は満足じゃ〜♪(アホ
話しは変わりますが、このお話しでは、ネギ達の事情といったものをあまり千雨たちへと明かされません。
というよりも、千雨たちが余り関わり合いになりたくないので、ネギと対話、という描写がないのです。
そのため、ちーちゃん達はネギの事情を知りません。
聞いてもいないのに相手の事情を理解できるほどこの話しのちーちゃんは万能ではないし、ネギたちに興味もありませんので。
なので、この時ネギはそうする他なかったんだよ!という感情をもたれる方もいらっしゃると思います。
その場合は、すぐにブラウザバックをすることをおすすめします。
この先も千雨マンセーになると思いますので。
話しは変わりますが、原作では、襲撃は学校が終わったあとなので、土曜日。
翌日 日曜日に逃げ出して楓に出会い、月曜日の早朝に帰る、と。
ですがこのお話で、ネギ側に一切触れませんでしたが、というかネギ側を一切考えていないだけなのですが。
とりあえず、襲撃直後まで落ち込みながらフラフラしていて原作どおり楓に出会い、励ましてもらい、日曜日の夜に帰ってきた、ということでお願いいたします。
書き終えた後に原作を確かめてビックリしました・・・(凹
ブラウザバックでお戻りください。
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