【目の前の犯罪】
ネギが大浴場で担当生徒達に逆セクハラを受けている頃、千雨は買い物に来ていた。
買う物は上生菓子に必要なものではなく、今回は単純な食材である。
千雨は自炊をしているため、3日に1度はスーパーに買いに来ているのだ。
その帰り道、千雨は前からやってくるクラスメイトに気がついた。
それも、最近懐かれた。
「あ、千雨ちゃんやー」
「近衛。あんたも買い物か?」
「そや。千雨ちゃんも自炊なん?」
「ああ。特に今日はレイニーデイも帰ってくるみたいだしな」
ビニールから見えたのは、たくさんの食材。
その中には白滝やら牛肉やら、すき焼きに使うような物も入っていて。
「今日はすき焼きなん?」
「ああ。あいつ、鍋が好きみたいでな。(・・・少し目を離すと、半分以上無くなってたりするのはなんでなんだろうな・・・)」
答え、千雨は遠い目。
木乃香はそれに首をかしげ、ふと気になったことを問いかけてみる。
「そういえば千雨ちゃん、ネギ君を元気づける会には出んかったん?」
「でるか。私はガキは嫌いだって言ったろ。あいつが元気なかったとして、私に何の関係がある」
嫌そうに答える千雨。
それは単純な子供嫌いには見えなかったため、木乃香は仲良くしなよ、的なことを言う気にはなれなかった。
捨てられた、という千雨の過去にも関係しているような気がして。
そして、その過去は何も知らない自分が無遠慮に踏み入っていいものではないと、わかっているから。
木乃香自身、千雨をもっと知りたいという思いは、あるにはあるのだが。
だからといって、それだけで踏みこんで良い領域ではない。
「っつーか、近衛も出てねーじゃねえか」
「あー。ほら、素肌は好きな人にしか見せたらいかんやん?」
「はっ、乙女だねぇ」
短い、まるでバカにしているかのような笑い。
けれど、その顔にはそういう要素はなく、どちらかというと茶化しているような印象を受ける。
木乃香はそれに微笑み返し。
「あ、でも前はそんなこと思ったことなかったんえ?最近、なんやそう思うようになったんよ」
「ってことは、最近好きな奴が出来たってことだろ。・・・そういう話題は苦手なんだ、変なこと言わせんじゃねーよ」
「あはは♪・・・けど、最近好きな人が出来たから、かあ・・・。そうなんかなー」
「私は近衛じゃねーんだ、知るかよ」
「それもそやね」
と、何かの鳴き声が千雨の耳に。
木乃香も聞こえたのか、首を傾げながらあたりを見渡している。
「猫?」
「だな」
「・・・こっちや」
「っおい、なんで手を引っぱるんだよ!」
千雨の言葉を無視して、木乃香は猫の鳴き声が聞こえた方へと足を進め。
着いたのは教会。
そこには茶々丸がいて、その周りには猫がたくさん。
「わー、かわええ!」
茶々丸が弾かれるように振り返り。
同時に、木乃香が茶々丸のもとへと駆け寄る。
手を引かれている千雨も当然一緒に。
「千雨さん、近衛さん」
「さっき振りやな、絡繰さん。この子達、絡繰さんが飼っとるん?」
「いえ、私は餌をあげているだけで」
「そうなんや。・・・ええ人に出会えて良かったなー」
不思議そうに近づいてきた一匹の子猫を抱き上げ、頭をナデナデ。
子猫はそれに喉をゴロゴロと鳴らして。
周りの猫たちも、自分も自分もと木乃香や、木乃香だけではなく千雨の周りにも集まってきた。
特に一匹が、千雨の足をカリカリと引っ掻いてきて、仕方なくその猫を抱き上げる。
「あの、お2人はどうしてここへ」
「猫の鳴き声聞こえたんよ。な、千雨ちゃん」
「まあな」
不本意だが、なんて呟きをもらしつつ。
それでも抱き上げた子猫を撫でてやる千雨に、木乃香も、そして茶々丸も笑みを浮かべた。
「なあ、また来てもええ?」
「はい。ちなみに何かを持ってきてくださるのでしたら、少量でお願いいたします。あまり多くてもあまりますから」
「うん、そやな。そういうわけやから、明日からもこよな!」
「・・・おい、まさか私に言ってねーよな?」
「千雨ちゃんに決まっとるやん」
なに言ってんの?みたいな顔で言われ、おいおいおい、と千雨は顔を片手で覆う。
そんな千雨を宥めているつもりなのか、それとも単純に撫でてほしいのか、覆っている手の甲に頭を擦りつける子猫。
「私の都合はお構いなしかよ・・・」
「千雨ちゃん、帰宅部ちゃうん?それとも、ウチと一緒なんは嫌?絡繰さんも、千雨ちゃんと一緒がええよな?」
「えっ、そ、そうですねっ、私も千雨さんと一緒の方が・・・っ」
茶々丸にしては珍しく焦った様子で。
な?と、茶々丸の言葉ににっこりと微笑み、千雨を見る木乃香。
そんな2人に千雨は大きな、大きなため息。
「好きにしてくれ・・・」
木乃香はその返答に嬉しそうに微笑み。
茶々丸にしても、珍しいほどにわかりやすい笑みを。
それを受けて千雨は再びため息。
それと、こっそりとこちらを見ている刹那も道連れにしてやろうと、密かに決意していた。
次の日、千雨は終礼を終えて、刹那のもとへ。
立ち上がろうとするその肩に手を乗せて、椅子の上に戻す。
「っ!?・・・長谷川、さん?」
「ちょっと良いか?」
「あ、はい、なんでしょう」
刹那は戸惑いつつ頷く。
すると、千雨の顔が息が届くほどに近づいてきて、思わず顔が赤くなる。
周りがなにやら騒いでいるが、そんなこと意識にも入らず。
千雨はそんなこと興味ないとばかりに。
「頼みがあるんだけどよ。ちょっとばかし、昔のお友達に手を貸してくれねーか?」
「・・・え?」
「・・・わかんねーか?」
目を見開いて千雨を見る刹那に、耳を隠しているサイドの髪を少し避ける。
そこには、中学生らしからぬピアスがあって。
けれどそれは、刹那にとって見慣れたもの。
「あ・・・!やはりあなたは・・・!!」
「・・・マジで気づいてなかった、はねーよな?入学当初から私のことチラチラ見てたしよ」
「あ、あの、確証がなくてっ!」
「ふーん。・・・とりあえず、暇なら手伝ってくれねーか?」
「・・・うん、ちーちゃんの頼みやったらええよ」
かつての口調で微笑み頷く刹那。
千雨もそれにかつてのように微笑み返し。
そんな2人に突き刺さる視線。
それに顔をあげれば、真名や木乃香を筆頭にした数人が自分達を見ていて。
「・・・千雨ちゃん、せっちゃんと友達やったん?」
そこにやってきた木乃香は、傷ついた顔で。
刹那の方は苦しそうで。
千雨は片眉をあげ。
「昔な。それより行こうぜ」
刹那と木乃香の手を引いて。
まるで逃げるように、ではなく千雨は集中する視線から逃げた。
刹那と木乃香はそれに戸惑った様子だったが、何も言わずお互いをチラチラと。
学校を出て教会へと向かう最中、刹那は千雨から簡単な説明を受けた。
「・・・そういうことですか」
内容はなんとも下らないこと。
木乃香と猫に会いに行くこととなり、かといって自分だけ犠牲になるのは嫌だから刹那も道連れ。
さすがの刹那もため息をついてしまう。
「良いじゃねーか。・・・これを機に、仲直りしちまえ」
「「え!?」」
「気づいてないと思ってたのか?まあ、刹那が一方的に離れてるって感じがしたから、仲直りとは違うのかもしんねーけどな」
「それは・・・・・・」
「せっちゃん・・・」
俯く刹那。
何かを期待するような顔で刹那を見る木乃香。
千雨は前を向いたまま。
「一応な、私も刹那が何を怖がってんのかわかってるつもりだ」
「ちーちゃん・・・」
「けどよ、お前が大切に思うやつの心、信じてやれよ。・・・私の親友が大切に思ってるやつを、信じてやれよ」
刹那はその言葉に目を見開いた。
それをちらりと見て、千雨は続ける。
「それでも怖いっつーなら、言わなくて良い。・・・けど、近衛の傍にはいてやったらどうだ?こいつは、私から見てもクソ甘いからな」
「・・・口悪いわ、ちーちゃん」
「うるせー」
隣を歩く刹那の首に腕をまわし。
かつてのように、くっついて歩く。
笑いながら。
それを寂しそうに見ている木乃香に気づき、刹那は咳を一つ。
千雨も刹那の首から腕を離し。
「ウチ、このちゃんに嘘ついとるけど、それでも一緒にいてええ?」
「っ当たり前やん!!」
今度は、木乃香も満面の笑みで。
3人はそれから、止めていた歩みを再開。
だが、先ほどとは違いそこに気まずい空気はなく。
「なあなあ、せっちゃんと千雨ちゃんはいつ知り合ったん?」
「私とちーちゃんは、お嬢さ・・・このちゃんと出会う前に知り合いました。・・・そういえば、謝るのを忘れていました。申し訳ありません」
90度の謝罪。
千雨はそれが何かわかり、手を横にふる。
「別に気にしてねーよ」
「?どういうこと?」
「実は、ちーちゃんとは1ヶ月ほど一緒にいたのですが、私がこのちゃんのお父上に引き取られてからは、ちーちゃんとよく一緒にいた場所にいけなくなってしまって。
自由になる時間が出来たのは、それから1ヶ月たった後だったんです。それですぐにいつもの場所に行ったのですが、当然ちーちゃんはいなくて」
「1ヶ月かよ。なら、あと2,3日待ってれば刹那に会えたのか。失敗したな」
「っそんなに待っててくれたん!?」
「ま、親友だしな」
驚く刹那に顔をあわせず、明後日の方へと顔を向ける千雨。
刹那はそんな彼女に目を潤ませ、木乃香は千雨の仕草に微笑む。
「やったら、その分これからは一緒にいよな♪」
「・・・そうですね!」
「はいはい」
投げやりにも見える千雨ににっこりと笑い、木乃香は千雨の右手を握って刹那を見る。
刹那はそれだけで理解し、恥ずかしそうにしながらも驚く千雨の左手をとる。
「おいおい。小学生じゃねーんだぞ?」
「ええやん。仲良しの証拠やえ?」
「ごめんこうむる」
「けどちーちゃん、昔は手、握っててくれたやろ?」
「あの時と今は違うだろ」
「一緒やって。な、せっちゃん」
「はい」
微笑みあう木乃香と刹那。
千雨は離してくれなさそうな2人にため息。
かといって、その手をムリヤリ離そうとはせず。
2人はそれに顔を見合わせ、もう一度微笑みあった。
千雨たちは、下駄箱のところでなにやら妙にハイテンションなあやかと会った。
あまりのハイテンションっぷりに、3人が3人とも声をかけるのを躊躇うほど。
「とうとう壊れたか・・・?」
「ち、ちーちゃん、それはちょっと・・・」
「なー、いいんちょなんか持っとるえ?」
とりあえず遠巻きの位置から観察。
くるくる器用に回ってお花とハートを乱舞させている。
と、あやかがピタリと止まり、舞台女優の如く叫んだ。
「まさかネギ先生からラブレターをいただけるなんて!!」
「あー、なるほど」×3
お花とハートにキラキラも追加された。
それらがたとえ幻想であったとしても、あまり目にいい光景ではない。
何より、いつまでも見ていてあれと同じクラスの同類と思われてはかなわない。
理由も知ることが出来たし。
だが如何せん、あやかがいなくなってくれなければ靴が取れない。
「まあ、雪広をあんなに出来るのは確かにあのガキだけか」
「そうですね。奇行の方に目がいって、原因の模索を忘れていました」
「ネギ君、いいんちょに告白するんかー。するんやったら明日菜やとおもっとったわぁ」
それはぶっちゃけ、千雨も刹那も思っていた。
もちろん告白するなら、というのが前提だが、明日菜とネギは、明日菜本人は否定するだろうが仲が良い。
その次に仲が良いと言えるのは、木乃香であろう。
それでも、明日菜と木乃香にはネギが魔法使いだと知っているか知っていないかの違いがあり、となるとネギからしたらやはり両者への親密度も多少なりと違う。
それなのに、告白するのはあやか?
確かにあやかは全面でネギへのラブを語ってはいるが・・・。
まあ、千雨達には一切関係ないわけで。
「ああ!こうしてはいられませんわ!相応の姿でお待ちしなくては!!」
粉塵を巻き上げて爆走。
「・・・やっといなくなったな」
「そうですね。よほど嬉しかったんでしょう」
「今日はお祝いしたげな♪」
ネギとは授業以外で関わることのない千雨と刹那は他人事として。
ネギと一緒に住んでいる木乃香はニコニコ顔で。
3人は最近の位置、刹那、千雨、木乃香の順で並んで子猫のもとへと向かった。
次の日、千雨が学校にやってくると、下駄箱のところでエヴァと茶々丸がなにやらネギや明日菜と不穏な会話を。
よく見れば、ネギの肩にはオコジョ。
千雨はそれをちらりと見た後、ニヤリと笑っているエヴァの頭に持ってきた白い箱を乗せ。
「朝からなにやってんだよ、マクダウェル」
「おはようございます、千雨さん」
「っこれは!?千雨!頭に乗せるな!落ちて潰れたらどうする!!」
「はいはい」
先ほどまでの悪い表情は消え、一気に慌てふためいたものへと変わる。
千雨は呆れ顔で白い箱を改めてエヴァの手に乗せながら、挨拶をしてきた茶々丸に片手をあげて。
エヴァは表情は硬いながらも、千雨と茶々丸がわかるくらいには嬉しそうな顔。
「あ、おはよう、千雨ちゃん」
「はよ、神楽坂。・・・なあ、ネギ先生?」
「は、はい!?」
「・・・教師が学校にペット連れてくるって、どうなんだ?」
「あぅっ」
「寮がペット可だからって、校内も、なんてあるわけねーだろ。フツーに考えろよ」
呆れた、バカじゃんこいつ、的な眼差しを向けられ、ネギは言葉につまり。
その間に千雨はさっさと踵を返して教室へと。
エヴァと茶々丸はそれを追うようにして背を向け。
「じゃあな、先生。・・・そうそう、タカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また生徒を襲われたくはないだろう?」
エヴァはフフフと笑い、茶々丸は無言で頭を下げ。
2人は千雨へと足早に向かい、3人でなにやら話しをしながら。
その表情は3人ともやわらかく、それは仲の良い友人達の光景。
「・・・長谷川さんって、茶々丸さんと同じエヴァンジェリンさんの従者なんでしょうか・・・」
「そりゃ確かに千雨ちゃんは1年生の頃からエヴァちゃんと仲良かったけど、多分違うんじゃない?」
「け、けど、あのエヴァンジェリンさんが仲良くしてるんですよ!?それに2学期最後の日も、用事があるって3人で帰っちゃいましたし!!」
「た、確かにそうだけど、千雨ちゃんは別にエヴァちゃんや茶々丸さんの2人だけと仲がいいわけじゃないし」
「でもエヴァンジェリンさんは悪の魔法使いで、ならその人と仲が良いのも悪の魔法使いか従者だからじゃ!」
「いや、それ以前に千雨ちゃんって魔法使いなの?」
ネギはあ・・・、と小さな声をもらす。
明日菜にしては鋭いツッコミが冴え渡る。
・・・・・・・・。
「とりあえず、千雨ちゃんのことは保留ってことにしましょ」
「そうですね・・・」
魔法使いかどうかなんて、こちらで勝手に想像しても意味のないことだ。
ただオコジョが、ジッと千雨達の去っていった方向を睨むように見つめていたが。
その日の放課後、のどかに頼まれて千雨は本を図書館島へと移すのを手伝い。
占い研究会と剣道部、それぞれ部活動を終えた木乃香や刹那と合流。
もはや恒例のように、2人に手を引かれる形で千雨は教会へ。
「今日はちょっと遅くなりましたね」
「そやな。もう、茶々丸さんも来てはるやろか」
「いるんじゃねーの?あいつは毎日行くみた―――っ!?」
「っちーちゃん!」
「え?どうしたん!?」
駆け出した千雨。
それを慌てて追う刹那と木乃香。
木乃香はわかっていないが、刹那は魔力を感じたから。
最近の見慣れた道を走り。
見えたのは、茶々丸と対峙するような位置にいるネギと明日菜の姿。
「アスナ?」
「ちーちゃんっ」
「チッ。近衛もいたんだよな。刹那、近衛をどこかへ―――」
そう言いかけたところで視界に入ってきたのは、茶々丸に迫る魔法の矢 11本。
それはまるで、花火のようで。
「わ、綺麗やなー」
のほほん、とした木乃香。
けれど、千雨も刹那も焦った。
茶々丸は何故か素人のはずの明日菜に押され、無防備状態。
避けきれるはずもなければ、その魔法が初期魔法ではあるものの威力があることを知っているから。
一本でも、岩を砕くほどの威力を持っていることを知っているから。
「っ絡繰ーーーー!!!」
ここにいる誰もが初めて聞く。
もしかすれば、真名でさえ聞いたことがないかもしれない、千雨の叫び声。
千雨の足はすでにそこへと向かっていて。
茶々丸が。
明日菜が。
ネギが。
それぞれ、その声でようやく千雨の存在に気がつく。
ネギの魔法が着弾する前、茶々丸は突き飛ばされた。
数百の重さを持つ茶々丸が、驚くほどの距離をすべり。
響き渡る、爆発音。
地面に伝わる、地震のごとき地響き。
「ぁ・・・・・・・っ」
「え?千雨ちゃん?」
「え?なんで千雨ちゃん?」
「あわわ!」
「やっぱり、あの千雨って女はエヴァンジェリンの仲間だったんすよ!!まあ、けどこれでエヴァンジェリンの従者を1人ヤれたっすね!!」
言葉を失う刹那。
不安そうな顔をする木乃香。
明日菜は不思議そうな顔で千雨のいた、今は粉塵が舞い何も見えないそこを見。
ネギは慌て。
オコジョはこれで決定だ!と。
その時、刹那の頬に何かが中った。
それを慌てて手にとり。
「あぁ・・・ぁぁ・・・・・・っ」
それは。
「せっちゃん・・・それ・・・っ」
刹那の知っているピアス―――。
「うそや・・・うそやぁっ・・・!」
――― のついた、血濡れの耳だった。
「っちーちゃぁぁん!!!!」
ブラウザバックでお戻りください。
SEO
掲示板
[PR]
爆速!無料ブログ
無料ホームページ開設
無料ライブ放送