【ネギ?鍋の材料?】































 千雨は、肌寒さで目が覚めた。

 だが何故かすぐ隣は暖かくて。


「・・・?」


 身体を起こし。


「っしゅん!」


 可愛らしいくしゃみを一つ。


「・・・風邪か?・・・・???」


 若干まだ眠気でぼやける視界の中、隣が何故かふくらんでいる。

 掛け布団で見えないが、見るかぎり人。


 久しぶりにした熟睡。

 それに内心首をかしげていた千雨は、それを見て気づく。

 熟睡した。

 熟睡できた理由に。


「あー・・・。昨日、真名と酒飲んだんだっけか」


 隣で眠る、見知った気配。

 数年前まで、互いの背中を預けて戦っていた相棒。

 その相手がそこにいるだけで安心し、平常時でも熟睡できない千雨が珍しく熟睡できた理由。


 その相方が、昨晩お酒を持って訪問してきたのだ。

 何でも、依頼の報酬に良いお酒を手に入れたから、一緒に飲もうと思ったらしい。

 事実、飲んでみればそれは随分と美味しくて。

 ただ、飲みはじめて2時間ほど経ってからの記憶が、千雨にはなかったりする。

 もともと千雨はお酒に強いわけでもないし、日頃もお酒を飲むこともないため当然といえば当然。


「っしゅん!・・・つーか、なんで寒いん――― は・・・?」


 2度目のくしゃみ。

 久しぶりのお酒のおかげで鈍い頭のまま、ふと視線をおろせば。


「はだか・・・?」


 思ってもみない、自分の状態。


 大概の状況では動じないさすがの千雨も、これには思考が停止。

 はて、と下腹部に鈍痛を感じるのにも気がつき。


「おいおいおいおい・・・」


 自分も、多分隣で眠っている長年連れ添った相棒も裸。

 わからないはずがない。

 こんがらがった思考から至った結論。

 それにウソだろ、と千雨は口の中で小さく呟いた。


 別に千雨は、中学生なのに、なんて倫理的なことを言っているわけではない。

 もとより、歳が一桁の頃から戦場をかけていた千雨だ、今さらそんな倫理観など持ち合わせていない。

 お互いの合意のもと、さらにちゃんと責任を取れるのであれば、中学生でもそういうことをやっても良いと思っている。

 こういうことは異性間のみの行為だ、という認識も別段ない。

 が、千雨には信じられないのだ。

 真名と寝てしまったのだという事実が。


 確かに千雨は、誰が一番信用し、信頼しているかと聞かれれば、真名の名を上げるだろう。

 それは真名も同じだと自負している。

 それくらい一緒にいて、共に命のやり取りを繰り返してきた。


 だが、愛しているかと聞かれると、千雨は答えられない。

 もとい、愛する、という感情を今だ理解できない。

 それに関して、真名も同じだとは思ってはいない。

 けれど、真名が自分を愛しているのだと言われても、違うだろ、と答えるだろう。


 はっきり言えば、真名が自分を好きだ、愛してるだなんてクソ甘い感情を抱くはずがないと何となく思っていたのだ。


「・・・ああ、欲求不満か」


 ゆえに千雨は、そういう結論に達した。


 なんだかんだいって、千雨ほどとはいかないが真名もお酒に強いわけではない。

 そのせいでお互いにイイ具合に酔い、流れで身体を重ねた。

 そう考えれば、千雨はそれが正解なんじゃないかと思えてきて。


 結果、気にしないことにした。

 初めてを奪われたわけだが、千雨自身そんなことどうでも良いと思っているのもあったし。


「ま、裸じゃ寒いわな」


 床に転がった服を回収。

 ついでに真名の分も回収して、洗濯機の中へ。


 昨夜の名残だろう、ボサボサになった髪を手櫛で梳きながら、着替えを持ってお風呂へ。


 千雨が身体を洗っていると、浴室のドアが開く。

 当然、入ってきたのは真名だ。


「おはよう、千雨。一瞬どこに行ったのかと思ったよ」

「はよ。つーか、2人も入れるほど広くねーんだけどな」

「くっつけば良いさ」


 有限実行。

 泡まみれの千雨を、真名が後ろから抱きしめてくる。

 女ならば誰しもが羨むような身体つきの真名だが、千雨はこれ以上自分の身体に肉がつくのを嫌っているためそういう感情はわきあがらず。

 ただ、呆れた顔で後ろを振り向き。


「体が洗え―――」

「私が洗うよ」


 文句を言おうとした口は、肉厚な唇にふさがれ。

 低めの声で、囁かれた。


 千雨の肌を這いまわる褐色の手。

 その手をちらりと見て、落とされるキスを甘受して目を閉じる。


「(まだ欲求不満かよ)」


 内心そんなことを思いながら。


「千雨、綺麗だ・・・」


 焦れたようなキス。

 興奮したような声。

 弾む息。


 それらは色香を纏い。

 真名がそれをすれば、さらに艶めかしく。


 長年一緒にいて、初めて見る真名の様子に触発されるように千雨の息も荒くなり。

 うなじや首筋に落ちるキスに、

 撫でるように這う手に反応を返す。


「トライアスロンはごめんだぞ・・・。しかも、終了式の日にっ」

「ああ、私ものんびりするのが好きだからね」


 お互い、まるで戦う前のような笑みを交わした。







































「首に痕つけんじゃねーよ」

「ふふ、制服から見えるところにはしていないさ」

「見えるとこだったらぶっ殺す」

「これからは気をつけるよ」


 メガネの奥から睨みつけるが、真名は随分と機嫌がいいようで。

 むしろ、次回のことを暗に言われた。

 千雨はそれにため息。


「おはようございます!長谷川さん!」

「んー。2−Aでも特に目立たない方の千雨ちゃんまで覚えてるなんて、教師の鏡っ」

「えっ、あのっ、長谷川さんは凄い人で・・・・・・・!」

「えー?」


「うるせえ」

「正式に担任になったからね。機嫌が良いのさ」


 朝から大きな声で挨拶され、うざったそうにネギを見る千雨。

 真名はそんな千雨の肩を笑みを浮かべながら叩く。


 学校に行くと、朝礼で近右衛門からネギが正式に先生になることが発表され。

 かといって、千雨にはどうでも良いので興味のない目で遠くを見。

 教室に戻ると、いつものようにわいわいガヤガヤ。

 あやかがまるで泣いたことを振り切るかのように、期末テストでトップになれたのはネギのおかげだと賞賛。

 直後、クラスメイト達にからかわれ、顔を真っ赤にして怒っている。

 ただしその中に、明日菜は入っていない。

 彼女としても、泣かせた原因が自分であると理解しているからだろう。


 その後、なんのかんのあり「学年トップおめでとうパーティ」をやることとなる。

 出席するのは暇な人ということらしいので、千雨はさっさと席を立ち。


「マクダウェル。これから作るけど、そっちで作るか?それとも部屋で作ってもっていくか?」

「当然私の家だ。茶々丸、帰るぞ」

「はい。千雨さん、材料はどうなさいますか?」

「マクダウェルの家にあるので十分だろ。まだ残ってるよな?」

「はい」

「ならそのまま向かうぞ」


「あ、あの!長谷川さん達、パーティに出ないんですか!?」

「ああ、私と茶々丸、千雨は欠席だ。それ以上に大切なことがある」


 上生菓子作成とか。

 確かに、エヴァにとって千雨の上生菓子は何よりも優先すべきことだろう。


「大切なことって一体・・・」

「お前が知る必要はない」


 千雨の手をとってさっさと教室を出て行くエヴァ。

 その後を茶々丸はペコリと頭を下げ、追いかける。


 それを残念そうに見つめるネギ。

 そんな彼に声をかけたのは、千雨の隣の席である夕映。

 その表情はネギ同様、どこか残念そうだ。

 前回の期末テストの出来事以降、夕映たち3人はさらに千雨に、表現はおかしいが懐いているから。


「あのお2人は、1年から仲がよかったですから。その理由を一切私は知りませんが」


 プライドの高いエヴァが話すはずもないだろう。

 千雨の上生菓子に虜になっているなどと。

 いや、エヴァはそれを周りに知られて、自分の食べる量が減ることを懸念しているのだ。


「それより、寮行ってパーティ始めよ、ネギ君っ」

「・・・すいません!先にやっていてください!」


 風香が嬉しそうに声をかけるが、ネギは頭を下げて教室を出て行った。


 電車を降りてエヴァの家へと向かう途中。


「待ってください!」


 背中からかけられた声。

 ただそれが誰であるか、千雨たちは気配でわかっていた。


 千雨たちは面倒くさそうな表情で振り返る。

 いたのは彼女達の予想通りの人物。

 自分たちよりも幼い担任。


「・・・私たちは欠席だといっただろう」

「け、けど、せっかくですし!」

「いいか、ぼうや。もともと暇な奴は出るということになっている。私たちは用事があるんだよ」

「でもほら、今日はこんなにいい天気ですし!」


 だからなんだよ。

 それが、千雨とエヴァの内心の返答。

 だが、それを口にはしない。

 別にネギを思って、というわけではなく、面倒くさいからだ。


「申しわけありません、ネギ先生。私たちは本当に用事がありますので」

「そういうわけだ。じゃあな、ぼうや」


 教室の時のようにスタスタとエヴァは歩き出し。

 千雨も同じように手を引かれ。

 茶々丸は改めて頭を下げて背中を向けた。


 そんな彼女達にネギは肩を落として去っていく。


 エヴァの家へとやってきた千雨は、さっそく材料を冷蔵庫から取り出してキッチンへ。

 この時ばかりは、茶々丸もキッチンには立たない。


「千雨、今日はなんだ?」

「お楽しみだ」


 ネギのことなどすっかり忘れ、エヴァはワクワクを押さえつつ問いかける。

 返ってきたのは、楽しそうな小さな笑み。

 その笑みは、千雨が上生菓子を作るとき特有の笑み。

 それ以外では滅多に浮かべることのない、エヴァの密かに気に入っている表情。


 自然とエヴァも笑みを浮かべていて。

 さらに茶々丸も、小さく微笑んでいた。


 彼女達は知らない。

 今日のことが、後に大変な誤解をうむことを。

 それでも今はただ、ほのぼのと。











 

















 あとがき。


 何とか出来た・・・!


 それにしても、原作の千雨の趣味がネギにバレる話しですが。

 ウィキで調べたところ、千雨ちゃんは対人恐怖症の気があり、メガネがなければ人と素面で接することが出来ないんだとか。

 そんな心を護るための防具と言ってもいいメガネを強奪し、嫌だって言ってるのにムリヤリ連れて行くってどうなのだろうか。

 ましてや、ネギ本人の意思ではないにしろ、思考の理解できないクラスメイトたちの前でまっぱにされるって。

 普通はさらに対人恐怖症が強くなって、最悪部屋からも出てこられなくなるんじゃないかな、と私は思うんですけど・・・?

 こんなにいい天気なんですから、ってどんな理由だ?

 私なら普通にネギのこと殴りそうなんですけど(ぉぃ


 そんなわけで、今回はネギ君の言葉に、なに言ってんの?的な感じで相手にせずに終わりました。

 では、お見苦しい文をここまで読んでくださり、ありがとうございます。





















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