【気づけテメーら】
千雨は一応近右衛門に連絡。
といっても、用件だけ言って切ったが。
図書館島の奥に潜入した千雨は、彼女達とは違い2時間もかけずにその場所に到着。
気配のする場所へと向かえば、車輪つきの小さな黒板で授業をしているクラスメイトと担任を発見。
近右衛門のから朝に彼女達の様子を聞いていたため驚きはないが、さすがの千雨も順応性の高い彼女達に呆れてしまう。
「親の心子知らず、ってか?」
そんな言葉をこぼしながらも、千雨は彼女達へと近づいていく。
千雨は木乃香の護衛のために来たわけではないからだ。
「おい」
「あれ?えっと、長谷川、さん・・・?」
「え?長谷川さんも魔法の本を探しに来たの!?」
「するか」
最後に疑問符を浮かべるネギを無視して、見当違いのことを叫ぶ明日菜に即答。
それから、夕映へと近づき。
「私の言ったこと、すっかり忘れてたみてーじゃねえか」
「あぅっ」
「え?どういうこと?」
気まずそうに千雨から目を逸らす夕映。
まき絵が他の面々を代弁するかのように問いかけ。
千雨は面倒くさそうに、夕映から昨夜話しを聞いたこと。
そして、その時夕映に言ったことをそのまま伝えた。
微妙な空気を放つ彼女達。
反対にネギはわけがわからず。
「あ、あの、それってどういうことですか?僕、自分がクビになるってことしか聞いてないんですけど・・・」
一瞬の沈黙。
直後、叫ぶ面々。
「ネギ君、辞めさせられちゃうの!?」
「それはそれで大変でござるな〜」
慌てるまき絵と、そんなことを言いながらのんびりとした口調の楓。
ネギは頷き。
だが。
「ああ、それも多分ウソだぞ」
千雨の言葉に、一同はもう一度固まった。
「普通に考えろよ。たった1ヶ月程度で担任交代させるなんて、ありえるはずがねーだろ。本当なら生徒をなめてるとしか思えねー」
「け、けど、僕課題で最下位脱出することって!」
「その紙は?」
「あ、これです!」
渡された短い文。
それを見て、千雨は呆れた目をネギへと向ける。
すると、そんな目を向けられたネギが戸惑いを浮かべた。
理由がわからないからだ。
「千雨さん、なんと書かれているのですか?」
「最下位脱出したら正式な先生にしてやる、だけだ」
読んで、夕映たちにも見えるようにする。
全員が読んだことを確認すると、紙をネギに返し。
「よく読め。これに、失敗したらクビ、なんて書かれてねーだろうが」
「あ・・・、でもっ」
「大体、あんたみてーな10歳のガキが、たった1ヶ月しか担任してねーのに最下位脱出できなくてクビになるなら、前担任である高畑先生はどうなるんだよ」
「あ・・・!」
全員の声が重なる。
「あの人はうちのクラスを2年間担任してて、その期間ずっと最下位だったんだぞ?そっちの方がクビ切りもんだろ」
「ちょっと長谷川さん!高畑先生を悪く言うのやめてよね!」
「あのな、神楽坂。私にそう言われる一端だったあんたが、それを言う資格あるのかよ」
「ぐっ」
確かに。
バカレンジャーの中でも、明日菜は特に頭が悪い。
一番の原因は明日菜と言ってもいいくらいに、テスト時では足を引っぱっていたのだ。
明日菜もそう言われて、悔しそうに言葉に詰まる。
「ところで、長谷川さんはなんでここにきたん?」
暗くなった空気を変えるためか、はたまた実際に疑問だったのか木乃香がそう問いかけてきた。
それにそういえば、という顔で千雨を見る面々。
今さらかよ、と千雨はため息をつくも、今までの話し上そんなことを聞ける状態ではなかっただけだと思いなおす。
「様子を見に来たんだよ」
「様子を見に来たって、どういう意味よ」
「あんたら、今自分たちがどんな状況か気づいてるのか?行方不明扱いされてるんだぞ?」
「ありゃりゃ・・・」
いまいち理解できていないのか、まき絵はそんな暢気なことを。
それに千雨はイラッとして。
「佐々木まき絵」
「へ?」
「和泉が泣き出し、明石と大河内は顔面蒼白であんたが無事でありますように、って祈ってた」
「あ・・・」
「綾瀬夕映」
「は、はい」
「宮崎は私に泣きついてきたぞ。早乙女は、無事だよね、なんて知るわけもねーのに私にずっと聞いてきた」
「う・・・」
「近衛木乃香」
「・・・うん」
「よく知らねーが、桜咲と友達だったのか?ずっと、お嬢様をエンドレス、それから一緒に行方不明になったこのガキの名前を呪うように呟いてたぞ。傷つけたら殺す、ってな」
「せっちゃん・・・」
「長瀬楓」
「・・・・・・」
「同室の双子が、泣いてたぞ。強いから大丈夫だよ、けどもしかしたら、つってな」
「・・・申し訳ないでござる」
「古菲」
「アル・・・」
「超は心配してねーみたいだったが、四葉が珍しく暗い様子だったぞ」
「アルぅ・・・」
「神楽坂明日菜」
「・・・・・・・」
「喧嘩してても親友か?雪広のやつが、行方不明って聞いた途端、顔面蒼白にしてあんたの名前を呟きながら倒れた」
「いいんちょ・・・」
各々暗くなり、まき絵が泣き出した。
夕映や明日菜も目尻に涙をためている。
彼女達以外も、瞳を潤ませ。
千雨はそんな彼女達にため息。
「わかったかよ、自分たちがどんな状況か。あんたらがのほほんとしてる間に、どれだけ人に心配かけて迷惑かけてたか」
ぐすっという音が聞こえる中、俯きながら頷く彼女達。
千雨に言われて、ようやく気がついた。
自分たちだって、相手が急に行方不明になれば同じように心配する。
いつもはあやかと喧嘩している明日菜とて、口では悪態をつきながら必死に探し回るだろう。
「ったく、私はこんなこと柄じゃねーんだ。わざわざ言わせんじゃねーよ」
チッと舌打ち。
そんな千雨に、彼女達は目を潤ませながら笑う。
「わかったら、さっさと戻る方法を探すぞ。何人かは、お前らを心配しすぎて勉強するどころか、倒れかねねー。雪広はすでに倒れたけどな」
そうね!と、明日菜を筆頭にいい返事。
各々が脱出口を探すために駆け出した。
親友たちに心配かけてる今の状況で、これ以上ここに居るわけにはいかないと。
千雨はそんな彼女達の後ろ姿を見ながら、「ったく」なんて悪態をつきながら微笑んでいて。
だが、ネギが酷く落ち込んでいることに気がついて眉を寄せた。
「おい、あんたも探すの手伝えよ」
「あ、あの!僕のこと心配してる人は―――!」
その言葉に、千雨は、ああ、と納得の呟きをもらした。
「あんたの方は、高畑先生が暴走してるみてーだな。さっき電話した時、ジジイのこと殺す勢いだったぜ?」
「タカミチが・・・」
生徒はそれぞれ自分の友人や、クラスメイトを心配していた。
こういってはなんだが、2年間一緒に過ごしていた者と1ヶ月程度しか一緒にいないネギでは、当然前者を心配する。
たとえそれが子供であっても、危機的状況では大切な人が最優先。
ただ、近右衛門に電話した時、千雨も聞いたことのない高畑の説明を求める怒りのこもった声を聞いていた。
それを説明すれば、ネギは一気に嬉しそうな顔になり駆け出す。
それを見送った千雨はけれど、どうでも良いとばかりに踵を返し、自らも出口を探し始めた。
数分後、楓が滝の裏側に非常口を発見。
彼女達は荷物をまとめ。
だが、それに慌てたかのようにゴーレムが現れた。
「一緒に落ちてきたんだ!」
「ん・・・?あ!!みんな、あのゴーレムの首の所を見るです!」
驚くネギにかぶるようにして、夕映の言葉。
千雨たちがそこを見れば、本が。
それは、明日菜たちが探していた「魔法の本」、メルキセデクの書。
明日菜たちは顔を見合わせ、頷く。
手に入れられるのなら手に入れたい。
そんな彼女達を見て、千雨は考えがわかるも何もいわない。
あれを手に入れるために1日なんて時間を延ばすのならまだしも、そこまで求めているわけではないというのがわかっているから。
「私のリボンがあれば、ある程度近づいたら取れるよ!」
「あいあい。しからば、拙者がまき絵殿を抱いて近づくでござるよ」
「なら、私がひきつけるアル!」
そうして、あっさりとその本を手に入れた。
楓と古菲の連携のおかげ以上に、まき絵の驚異的なリボン技術の勝利である。
「おいおい、どんなリボンだよ」
思わず見ていた千雨も呆れるくらいだ。
もし彼女が昨夜、図書館島に侵入した時リボン一本で自身の体重を支えたと知れば、もはや呆れて何も言えないだろう。
幸い(?)千雨はそんなことを知らないので、しっかりと突っ込んだが。
「よし逃げろーーー!!」
本も手に入れ、一気に見つけた出口へ。
だが、そうそう上手くいかなかった。
「扉に問題がついてるーー!!?」
『フォフォフォ。逃がさんぞー!』
脱出するためには、その問題を解かねばいけないらしい。
焦る明日菜たち。
だが、千雨はゴーレムを操っているのか誰だかわかったため、焦る様子はない。
ただ、ゴーレムに対する怒りは感じているが。
「おせえ。【リード(read)】の過去分詞の発音は【レッド(red)】だ」
千雨の回答に開いた扉。
明日菜たちは慌ててその通路に入り込み、駆け出す。
その通路を抜け、目に入ったのは。
「うわ、なにコレ!?」
「らせん階段!?」
「これ、上まで登るん?」
どこまでも続きそうな螺旋階段であった。
だが、彼女達には使命がある。
無事、友人たちに再会する、という。
ゆえに、登らないという選択肢はなく。
登っている途中、壁を突き破って現れたゴーレム。
それを気にしながらも、けれど途中に存在する扉に彫られた問題は千雨や木乃香達があっさりと解いてくれるので問題はない。
ただそれでも続く螺旋階段に体力が続かなくなってきた。
「あうっ」
「夕映ちゃん!?」
その途中、夕映が木の根に転び足をくじいてしまう。
「さ、先に行ってくださ―――ひゃう!?」
「良いから走れ!」
先に言ってくれ、と伝える途中、夕映を千雨が肩に担いで走り出し。
それを見て全員が驚くが、後ろからゴーレムも来ているのを思い出して慌てて止まっていた足をすすめる。
その途中、息も絶え絶えな木乃香も回収、夕映とは反対の肩に担ぐ。
「長谷川さん、体力あるのね!」
「頭も良いでござるしな〜」
「チッ」
明日菜と楓の言葉に舌打ちを返すだけ。
当然だ、今まで隠していたことがここに来てバレたのだから。
それもこれもネギが来たせいであり、近右衛門のせいだ。
近右衛門への怒りがさらに強まる。
「ち、千雨さん!?おおお下ろしてください!」
「ウチも、まだ走れるえっ」
「それよりここから脱出することが先決だろーが!」
照れる夕映と気遣う木乃香に、強めの声で千雨は返し。
その後2時間近く走り続け。
ようやく、階段の終わりが見えてきた。
同時に、夕映が携帯の電波が入ったことを報告。
「みんな見てください!地上に直通のエレベーターですよ!!」
「こ、これで帰れるの!?」
息も絶え絶えだった者達の表情に、希望が浮かぶ。
すぐにエレベーターに乗り込み。
けれど、重量オーバーのブザー。
『フォフォフォフォ、追い詰めたぞよーー。覚悟するのじゃー』
そこにゴーレムも到着。
「っこうなったら、みんな脱げるもの全部脱いで―――!」
「その必要はねー」
「え?長谷川さん」
遮られた言葉にきょとんとして、明日菜は振り返る。
同時に、床に転がっているメルキセデクの書を拾い上げ、エレベーターから出た。
途端、静かになるブザー。
「ちょっ!」
「おい、じじい。随分、うちのクラスのやつが世話になったみてーじゃねえか・・・」
『フォ!?』
千雨から溢れ出る怒気。
それはピンポイントでゴーレムへ向けられているため、誰も気づかず。
けれど、ゴーレムはその凄まじい怒気に怯え。
そんな千雨の隣に、ネギがたった。
「っ僕が残ります!長谷川さんは皆さんと一緒に!」
「ネギまで!?」
「あんたはまだ、テスト日までバカレンジャー達を教える仕事が残ってんだろーが」
「け、けど!」
「担任が生徒見捨てんじゃねー!」
最後まではいわせず、千雨は隣にやってきたネギを突き飛ばし。
だが、千雨も後ろ襟首をつかまれて後ろに引き寄せられてしまう。
「神楽坂!」
「うるさい!長谷川さん1人だけ残せるはずがないでしょう!?みんなで帰るの!!」
再び鳴り出したブザーよりも大きな声で怒鳴り、明日菜は千雨の持っていた本を奪う。
待っていてくれたのか、はたまた千雨に恐怖したのか、向かってこずにいたゴーレムに向かって本を投げ。
それはパシッパシッと、あきらかにありえない光を放ち、ゴーレムの顔に直撃。
そのまま、重量のあるゴーレムが後ろへと傾き。
その後を見届けることなく、エレベーターの扉がしまった。
同時に動き出したエレベーター。
「動いたー!」
「脱出や〜」
「これでのどか達のもとに帰れます」
「あいあい。拙者も風香たちに謝らねば」
「はい、これで万事解決。ね?」
誰1人メルキセデクの書を失ったことに残念がるものはおらず。
ただただ、帰れる。
友人たちに会えることを喜ぶのみ。
明日菜も笑いながら、千雨を見。
千雨は目を逸らし、小さく舌打ちをした。
「千雨さん」
「なんだよ」
「ありがとうございました。わざわざのどか達の状況を教えに来てくれたことも、運んでくれたことも」
「ウチも、ありがとな〜♪」
「大したことじゃねー」
どうでもいい、と言わんばかりに座り込んで壁に寄りかかり、目を閉じる千雨。
その姿は、いつもの大人しい無口なクラスメイトとは違い、酷く頼もしく見えた。
そんな千雨に明日菜たちは顔を見合わせて笑う。
無事戻ってきた明日菜たち。
時刻は夜中と呼べる時間だったが、寝ずに待っていてくれた友人たちから抱きしめられ、無事を喜ばれた。
「アスナさん!!ご無事でしたのね!!!」
あやかも、いつもの態度などどこへいったのか。
帰ってきたことをすぐ報告に行けば、姿をみた途端泣きながら抱きついてきて。
明日菜も思わず涙腺を緩ませて、抱きしめ返し。
木乃香は刹那の部屋へと向かう。
「お嬢様・・・!」
目を潤ませて歓喜の表情を浮かべる刹那に、千雨の言っていたことが事実だとわかり、満面の笑みで刹那に抱きつき。
刹那が慌てて離れようとするが、どこにそんな力があるのかと思うほどの強さで抱きしめられ。
それを、真名への報告で一緒にいた千雨に、優しい目で「諦めろ」なんて言われて。
不承不承を装いながら、木乃香を抱きしめ返した。
その後、夜中にもかかわらず、クラス全員が大浴場に集まり大騒ぎ。
管理人から文句を言われるも、彼女達の喜びが消えるはずもなく。
連れてこられたネギもオロオロしながら止めようとするが、止まるはずもなく。
待っていた者たちは、無事に戻ってきたことが嬉しくて。
帰ってきた者たちは、友人の暖かさを再確認してテンションが上がり。
明日からテスト日まで勉強会、ということに相成ったが、今日はそれを忘れて笑い合う。
「うるせーやつら」
「そう言いながら笑っているよ?千雨」
うるせえ、なんて千雨も、口元に笑みを浮かべながら指摘してきた真名に微笑みを返して。
2人は、のんびり湯ぶねにつかっていた。
ブラウザバックでお戻りください。
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