【愛されてる?】
千雨はその光景を呆れ顔で見ていた。
目の前で行われているのは、簡単に言えば場所の取り合い。
相手は高等部の生徒で、原因は小学生みたいな理由だ。
「綾瀬」
「なんでしょう」
一番近くにいる夕映に声をかければ、いつもの無表情で千雨を見上げ。
千雨はメガネを押し上げながら。
「なんで私まで参加するメンバーに加わってんだ?」
「他の方々が不参加を申し出ましたので」
不参加のメンバーは、ザジとチアリーダー3人組を除けば高校生でさえ相手にならない猛者たち。
エヴァ、茶々丸、真名、刹那、長瀬楓。
確かに彼女達が不参加なのはわかる。
が、千雨は納得できない理由があった。
「っつーかよ。あっちは自習でこっちは正式な授業なんだから、向こうが譲るのが筋だろ。それに、うちらは中学生でここは中等部の校舎。使う権利があるのは私らだろ。私らが、わざわざ高等部の校舎に行ったならまだしも」
「・・・・・・・・・・」
ポン、と手を叩く夕映。
夕映だけではなく、聞こえていたらしい2−A全員が、そりゃそうだ、顔である。
「そうよ!さっさと出て行きなさいよ!」
「ふ、ふん!先にとった者勝ちでしょ!」
「馬鹿じゃねーの?こっちは正式な授業だっつっただろーがよ。勝手できるレクリエーションじゃなくて、体育をしなくちゃ授業放棄に相当すんだよ」
神楽坂明日菜に答える高等部の生徒、英子。
だがそんな苦し紛れの発言も、千雨はスパッと切り返し。
さらに。
「それとよ、あんたらが体育をするつもりなのにもかかわらず制服のままなのは、私らよりも先にここにいたかったからか?わざわざ大変だな」
「ぐっ!」
哀れみの視線を向けられ。
千雨の言葉が図星だったのか、英子を筆頭にした高等部生たちが言葉に詰まる。
それを見てニヤニヤと笑う明日菜他、クラスメイト達数名。
それ以外の者たちは、ここまで言葉を発した千雨を見たことがないため、驚きの表情だ。
「・・・千雨さん、あなたのいうとおりです。私たちは何も、戦う必要などなかったのです」
「じゃあ、私たちはバレーをしましょうか」
「ま、待ちなさい!ここまで来て今さらそんなことを言うなんて、私たちに勝てないと思ったからでしょう!!」
ビシッと英子が千雨を指差し。
けれど、千雨は腕を組んだままため息。
あきらかに面倒くさそうだ。
それを見た英子の額に浮かぶ青筋。
「勝手にやってくれ」
「ちょっ、長谷川さん!」
「やるなら勝手にしろよ。ただし、人数は相手と同じにしとけ」
「え?」
さっさとコートから出て行こうとする千雨を呼び止めたのは、いいんちょこと雪広あやか。
かき回すだけかき回していなくなるとは何事か、と止めたのだろう。
そんな彼女に千雨が返せば、きょとんとした顔で。
千雨はそれにさらにため息。
「ドッヂボールは12対12が一応の公式ルールだ。それには相応の理由がある。それ以上は、多くて動きにくくなるからだ。このコートも、別にドッヂボールのコートとあんま変わんねーだろうぜ。ってことは、この広さで22人は自分らの首を絞めこそすれ、有利になんかならねー」
「あ・・・」
「じゃ、そういうことで」
言いたいことは終わった、とさっさと見学メンバーへと合流しに行く千雨。
それが気に入らないのか、英子はどこからかボールと持ち出し。
英子にとって、自分の最高のボールを千雨の背中へと。
「あ!」
「長谷川さん危ない!!」
響くクラスメイト達の言葉。
だが、千雨は一般人に扮しており、何より千雨にしてみれば彼女の球など大したことはない。
ゆえに、そのまま後頭部で受け止めた。
「臆病者はさっさと退場しなさい!!」
「あ、あんた!!」
「ぼ、僕の生徒になにしてるんですかーー!!」
明日菜はつかみかからんとし。
ネギも慌てながら文句を言う。
けれど。
「気は済んだか?」
千雨は一切気にすることなくそう問い、歩みを再開。
思わず呆ける明日菜たち。
英子達も一瞬呆け、すぐまた怒りをぶり返す。
だが、それ以上に怒りを感じている者に気がつかなかった。
「・・・茶々丸」
「もちろんです」
「・・・神楽坂さん、メンバーを再構成するなら私も入れてくれないかな?」
「・・・私も参加させていただきます」
加わった、四天王のうちの2人。
さらにそこに茶々丸も加わり。
「なんでだよ」
「お前が気にすることじゃない」
「はい。千雨さんは患部を冷やして見学なさっていてください」
「ああ、千雨は見学していてくれ」
「わ、私はただの気まぐれですので」
4人の中で千雨が裏の人間だと知っているのは真名1人。
刹那は”ちーちゃん”なら裏関係者かも、とは思っているがまだ確証は得られていないためそう言い訳。
エヴァと茶々丸は千雨を完全に表の存在だと思っている。
そんな彼女達に共通するのは、千雨を大切だと思っていること。
ゆえに、本人が一切気にしていなくとも彼女達は我慢できなくて。
臆病者と侮辱されたことで、さらにヤる気は満々だ。
「・・・ふむ。しからば、拙者も参戦いたすとしよう」
そうして加わった、四天王の最後のメンバー。
結果、四天王 古菲 真名、刹那、楓の全員が加わることとなり。
「・・・おい、レイニーデイ。そんな高いところに乗って、落ちないようにしろよ」
「・・・(こくん」
千雨は呆れながらザジに声をかけ、エヴァの隣に腰掛けた。
突如加わったメンバー。
それをふまえて再構成したメンバーは、当然 四天王+茶々丸。
それと、運動部組みの大河内アキラ、明石裕奈、佐々木まき絵、和泉亜子。
発端と言ってもいい、明日菜とあやかの両名となった。
結果。
「・・・あっさり勝ちやがった」
「す、凄いです・・・」
「た、龍宮さん達ってこんなに凄かったのね・・・」
10分もかからず。
さらに、身内には一切の退出者なく勝ちが決まり。
そのあっさり具合は、ネギと明日菜がそう呟いてしまうくらい。
「くくっ、千雨を侮辱するからそうなるのさ」
「なんだ、もう終わりか。ふん、つまらん」
味方さえポカンと、いつもとは違い嗤う真名とエヴァを見ていたのだった。
「・・・アホか」
そう照れくさそうに呟く千雨。
そんな千雨を隣でニヤニヤと見てくるエヴァ。
ザジもわざわざ千雨の顔を覗き込んでくる。
そんな2人に気づいて仏頂面になる千雨に、エヴァはさらに笑みを深める。
それが照れているのを隠しているのだとわかっているから。
「千雨、新作作っておけよ」
「あーはいはい」
「おい、レイニーデイ。私飲み物かってくるけど、ついでに買ってきてほしいものあるか?」
「・・・」
いつもはサーカスで寝泊りしているザジが珍しく寮室へと帰ってきた。
ほとんど1人部屋と化しているその部屋は、個人のパソコンが3台とそれに接続されているケーブルが縦横無尽に入り乱れている。
というのも千雨は、ハッカー、いやウィザードというべき卓越したパソコン技術を持っており、設備もそれなりのものとなったのである。
それだけではなく、裏だけではなく表でも”クラッシャー”という名で有名になっていて、公的機関や裏の人間から依頼を受けてハッキング、及びクラッキグをしたりもする。
ちなみにハッキングは、コンピュータやソフトウェアの仕組みを研究・調査する行為であり、善悪の要素を持たない。
反対にクラッキングとは、破壊などを伴い他者に迷惑をかけるものや、秘匿されたデータに不正にアクセスするなど、悪意・害意を伴う行為である。
そのためクラッキングは犯罪行為といってもよく、けれども公的機関からの依頼の場合は罪にならないことになっている。
向こうが依頼してきたのだから当然といえば当然だが。
ザジはそんなこと知りはしないが、一応自分の部屋にもかかわらずこれといって文句を言うことはなく。
それでも千雨としては罪滅ぼしなのだろうか、ザジが部屋に帰ってくると何かと世話をしており。
だからだろうか、ザジは何もいわないが千雨に懐いていたりする。
座っていたベッドから立ち上がるザジ。
千雨はその意味に気付き。
「ん?一緒に行くのか?」
「・・・(こくん」
「じゃあ、行こうぜ」
2人で部屋を出て。
そこですぐに夕映とあった。
後はもう寝るだけの時間のはずなのに、何故か制服姿の。
「ち、千雨さんにレイニーデイさん」
「おい、綾瀬。なんで制服着てんだよ」
「ちょ、ちょっとばかり、学校に用事がありましてっ」
「は?用事って、もうすぐ11時になるぞ?」
「あ、そ、そうですねー」
夕映らしからぬ、棒読みの焦ったような様子。
千雨はメガネの奥で眉を寄せ。
「なにするつもりだ?」
それは、何かをする前提の質問。
ビクリと肩を震わせ、少しばかり夕映はあたりを見渡す。
呆れてしまうくらい挙動不審だ。
よほど鈍くなければ、すぐに何か隠していると気づくだろう。
ましてや、常の夕映は千雨と同じくらい冷静なタイプなのだから。
「・・・はあ、絶対誰にも言わないでくださいね?レイニーデイさんもです」
「ああ」
千雨は短く答え、ザジは無言で頷く。
夕映はもう一度ため息をつき、口を開いた。
「私たちはこれから、読めば頭がよくなるという「魔法の本」を探しに行くのです」
「魔法の本だぁ?」
「私としては、出来のいい参考書程度だとは思っていますが、それでも強力な武器になります」
「いや、だからって探しに行くか、フツー?」
完全に呆れてる千雨。
ザジもどことなく呆れているように見えなくもない?
そんな視線に耐えられなかったのか、彼女らしからぬ大きな声で。
「ち、千雨さんは知らないからそんなこと言えるです!」
「?どういうことだ?」
「・・・実は、今回のテストで最下位だったクラスは解散。その中でも特に点数の悪かった人は、小学生からやり直しだと聞きました!!」
どどーん!!
そんな効果音さえ聞こえてきそうな何かを背中に背負って、夕映は堂々とそれを告げる。
「・・・・・・・・・」
千雨からもれたのは、盛大なため息。
顔さえ手で覆っている。
夕映はそれにムッとした顔になるが。
「綾瀬、2つほど言わせてもらって良いか?」
「・・・どうぞ」
「まず、クラス解散が事実だとして、わざわざ一クラスのためだけに2学年の全クラスがクラス替えすんのか?3学期のこの時期に?」
「あ・・・・・・・」
「それと、中学は義務教育だ。いくら頭が悪くても、不登校でも、大概は年があけりゃ学年が上がるんだぞ?それを、もう一度小学生から?そんなの、中学卒業で就職しなきゃ、高校になったら就職条件の年齢オーバーも起こりうるぞ?大学に行くなんてもっての他だ」
「あぅぅ・・・っ」
「あのジジイじゃやりかねんかもしれねーが、あいつも自分の娯楽のためだけに数人の人生狂わせるほど傲慢じゃねーよ」
「た、確かに、そう言われればそうですっ。私としたことが、まったく気づきませんでしたっ」
今にも床に四肢をつきそうなほどに落ち込む夕映。
自分が日頃冷静だと自覚しているからこそのダメージだろう。
彼女もあまりの状況に、顔に出てはいないがテンパっていたらしい。
「のどか達にも報告してくるです・・・」
夕映は肩を落としたまま、自分の部屋のあるほうへと足を向け。
千雨は肩をすくめると、何も言わずに後ろに居たザジへと振り返った。
「悪いな、時間くって」
「・・・(ふるふる」
気にしないで、とでも言うように首を横にふるザジに小さく微笑み。
2人は止めていた足を再開。
そこでふと思う。
クラス解散よりも子供先生解雇のほうがまだ現実的だな、と。
かといって、たった1ヶ月程度しか教えていないのに解雇はないだろう、と。
教師と生徒という関係には、当然信頼関係なども必須である。
ましてや、子供先生は担任なのだ。
にもかかわらず、ようやく馴染み始めた彼を最下位だから解雇、なんてあまりにも生徒を見下している。
もっとも、千雨は実際そうなったとしても痛くも痒くもないのだが。
次の日、朝早くから千雨は近右衛門に呼び出され、バカレンジャー+αが図書館島に行ったことを聞いた。
詳細も聞き、さらに木乃香の護衛として彼女達に接触せずに護ってほしい、という依頼も。
だが、千雨はその依頼をネギのフォロー時と同様に断り、慌てふためく近右衛門を無視してさっさと教室へ。
ネギの課題だけではなく、近右衛門の娯楽もあるのだろう。
それに付き合う気は毛頭ないのだ、千雨は。
教室に入ると、あやかがいつも以上に騒いでいた。
何でも、最下位から脱出しなければネギがクビだと、桜子から聞いたらしい。
「くだらねー」
千雨はため息をつきながら席につき。
そんな千雨に、真名が近づいていく。
「おはよう、千雨」
「ああ、はよう、真名」
「ネギ先生が行方不明だと学園長から聞いたわりには、驚かないんだね」
「あいつがどこに行こうがどこでのたれ死のうが、私には一切関係ないからな」
本当に興味なさそうな千雨に、真名は苦笑。
気を許した相手以外がどうなろうと気にしない、千雨らしい発言。
といっても、真名も千雨同様、ネギがどうなろうとたいして気にもとめない。
心配なのは、2年間一緒にいたクラスメイトが無事かどうかであるが、学園長も怪我などはさせないだろうし千雨も慌てた様子はない。
自分と同じく、千雨もクラスメイト達にはそれなりに気を許していることを知っているから。
最近一緒にいるようになったとしても、10年弱ほど相棒で1年以上観察してきたのだ、それくらい真名もわかる。
「けど、学園長から依頼は受けなかったのかい?」
「あのジジイに付き合う気はない。あいつだって、自分の孫を危険にさらすほどバカじゃねーだろ。それに、ここにいるってことは真名も同じだろ?」
「まあね」
そんな会話をしていると、のどかとハルナが教室に駆け込んできた。
「みんな大変だよーー!!」
「バカレンジャーとネギ先生が行方不明に・・・・・・!!」
ハルナとのどかの言葉に、止まった空間。
それもすぐに消え、2人に押し寄せるクラスメイト達。
「みんなが行方不明ってどういうこと!?まき絵は―――!!」
「ま、まき絵ぇ・・・」
「だ、大丈夫だよ、亜子。古菲たちと一緒かもしれないし・・・っ」
「明日菜さん・・・そんな・・・っ」
「あらあら、夏美ちゃん、あやかを保健室に連れて行きましょう」
「う、うんっ」
「ぐすぐす・・・。お姉ちゃ〜〜〜ん、かえで姉大丈夫でしょうか!?」
「へ、平気だよ!かえで姉は強いんだから!だ、だから泣かないでよ史伽!」
「こ、これは由々しきことでは・・・」
「まあ、古菲なら大丈夫ヨ」
―― そうですよね・・・きっと・・・ ――
「お嬢様お嬢様お嬢様・・・・・・・・・もしこのちゃんに何かあったら ネギ・スプリングフィールド・・・・・・・殺す」
訪れた阿鼻叫喚。
1人危険な思考の者がいるが、ほとんどの者が自分の近しい者達を心配している。
双子などお互いに涙をこぼしているし、あやかなど卒倒して2名の協力のもと保健室行き。
いつもはバカレンジャーだなんだと言って、お祭り騒ぎが日常の彼女達。
だからといって、彼女達だって中学生。
2年間一緒にいた友人たちが急に行方不明になれば、取り乱さないはずがない。
ましてや、まき絵や楓といつも一緒にいる者たちは、昨夜寮室に帰ってこず、勉強すると聞いていた明日菜達の部屋に行けば誰もいない。
さらに携帯にかけても繋がらず、彼女達は心配で眠れぬ夜を過ごしていたのだ。
双子とて、いくら楓が強いと知っていても全てを知っているわけではないのだから。
そんな彼女達を、メガネの奥から険しい瞳で見つめていた千雨。
千雨自身も気づかぬうちにもれていた舌打ち。
そこに、のどかとハルナが泣き出しそうな表情で近づいてきた。
「ど、どうすれば良いんでしょう、千雨さん!夕映が、夕映が・・・!」
「夕映たち、無事だよね!?絶対に無事だよね!?」
千雨に縋りつくように泣き出すのどか。
何度も無事かどうかを千雨に確認してくるハルナ。
心優しく気の弱いのどかには、他の者達と同様今の状態が不安で仕方がないらしい。
いつもは好奇心優先なところもあるハルナも、今回ばかりはそうも言ってられないようで。
千雨は知らないが、夕映達を止めずに協力してしまったと自覚しているため、ことさら。
千雨はそんなのどかを抱きとめながら。
真名からの剣呑な視線を無視しつつ。
「チッ」
今度は自覚して小さく舌打ちをした千雨は、乱暴な口調とは裏腹に優しい手つきでのどかを離し。
そして、席を立つ。
「え?千雨さん?」
「・・・行ってくるわ」
「えっ?」
急な発言にのどかは目を見開き。
千雨はめんどくさそうな顔のまま、教室を出て行こうとする。
「千雨」
「なんだよ?」
「私はいるかい?」
「必要ねーよ」
さっさと教室を出て行った千雨を唖然と見送り。
だが、すぐに我にかえると、のどかとハルナは戸惑いながら真名を見上げた。
今の会話から、千雨がなにをするつもりなのか彼女ならわかると思ったから。
真名はそんな2人に、口元に笑みを浮かべながら肩をすくめ。
「図書館島に行ってくるそうだよ」
「え?」
「彼女は優しいからね」
片目を細めながら。
そして、若干の嫉妬の色を宿しながら真名は微笑み。
のどかはその言葉に驚くと同時に、頬を染めた。
「千雨さん・・・」
「・・・ありがとう、千雨ちゃん」
感動するように、嬉しそうにのどかは千雨の名をつぶやき。
ハルナは千雨の背中を見つめ。
真名はため息をつく。
ライバルが多いことを、今さらながらに気がついた。
ブラウザバックでお戻りください。
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