【泣いた女の子】































 粉塵の舞う荒野。

 そこには2人の女の子がいた。

 2人とも10歳いっていないだろう。

 もしかすれば、7歳もいっていないかもしれない。

 それくらいの幼い。


 けれど、その目はまごうことなく戦士の目であった。


「聞いたよ、ブレイド。近々、日本に行くらしいね」

「まあな。つっても、神鳴流っつーところに近衛詠春の依頼で出稽古に行くだけだけどな」

「なんだ、こちらにすぐ戻ってくるのかい?」

「ああ。長くても1ヶ月くらいじゃねー?まあ、ガントにそれほど迷惑かけるつもりはねーよ」


 ブレイドと呼ばれた女の子は、荒い口調で双ふりの、身長よりもある刀を整備しながら。

 ガントと呼ばれた女の子は、子供らしからぬ口調で、ライフルの調整をしながら。


 そんな彼女達の周囲は、かつて死んだ者達の死体があり。

 つい先ほどまで、小さな体で彼らを埋葬していた2人。

 その幼さで人の命を奪うことに慣れている彼女達は同時に、その弔う方法も熟知していた。


 ただ今は淡々と、己の命綱を整え。


「だが、何故近衛詠春から依頼が?」

「生前師匠が近衛詠春と仲が良かったらしくてな。それ経由で依頼がきた。年下でも実力のあるやつが混じれば、今より精進する、って思ったんじゃねェの?」

「なるほどね。ブレイドは彼らの嫌う魔法使いでもない。むしろ彼ら寄りだからね」

「そういうこった。ま、魔法も使えるけどな」

「ほとんど使わないじゃないか」

「はん、機会がねーんだよ」


 それは言外に、相手が弱いと言っているも同義。

 たった10歳にも至っていない女の子が口にできるものではなく。

 だからこそ、彼女の、否 彼女達の実力が垣間見えるというもの。


「私も言ってみたいね、そんな風に」

「他の奴らが聞いたら、私とどっこいどっこいだって言うと思うぜ?」

「ふふ、それは確かにそうかもしれないね」


 ガントはニヤリと笑い。

 ブレイドもそれに同様の笑みを返す。


「さて、と。マスターがお呼びだ」

「了解」


 ブレイドはそういって立ち上がり。

 それに習うように、ガントも立ち上がる。


「・・・期待してるぜ、相棒」

「ふふ、フォローは任せてくれ、相棒」


 2人は互いの獲物をコツリと叩きあい、あらたな戦場へと向かった。


 その足によどみはなく。

 躊躇うこともなく。

 命のやり取りをする場所へと向かう。

 信頼する戦友と共に。

































 刹那はいつものように、同属からの虐待に気を失っていた。

 烏族でもなく、人間でもなく。

 中途半端な、ハーフという存在。

 そんな自分を産んだ両親など、顔も知らず。

 幼いながらに、何度己が身を呪ったことか。


 いつもなら気絶したまま放置され、地面の固い感触を感じるのに、むしろ暖かくて。

 刹那は無意識にその暖かさをさらに求めるように。

 身体を包む柔らかさをさらに求めるように。


「なんだ、寒いのか?」


 その声で、一気に覚醒した。


 慌てて顔をあげ。

 視界に入ったのは、数センチしか離れていない見知らぬ顔。


 驚いて慌てて離れようとした刹那。

 けれど。


「うわっ!落ち着け!」


 相手は、慌てたように。

 刹那の飛び出したままの白い翼の下を通り、腰にまわしていた腕を強く引き寄せた。

 それによって刹那は地面に倒れることはなく。


 どうやら刹那は、同じ歳くらいの女の子の胡坐の上に横抱きに座っていたらしい。


「はっ、離しっ!」

「落ち着けって。っつーか、そこまで怯えられると、こっちが悪いみてーじゃねーか」


 ガクガク身体を震わせながら。

 かといって、強い力に抵抗することができず。


 そんな刹那の頭を、女の子はポンポンと軽く叩き。

 それに一瞬怯えた顔をするも、その行動にすぐきょとんとした顔で。


「別に何にもしねーよ。ってか、私ってそんなに怖いか?」


 どことなく不安そうに顔を覗き込んでくる女の子に、刹那は戸惑いつつ首を横にふり。

 女の子はそれに安堵したように笑う。


 刹那が今までみたことのない、

 向けられたことのない、温かい笑顔だった。


「じゃあ、それ取ってくれねーか?」


 刹那の頭に乗せていた手で示したのは、床に転がった上着。

 頷いてそれに手を伸ばし、刹那は女の子に上着を渡す。

 すると、彼女はそれを軽く叩くと自分で着ることはせず、刹那の肩にかけてくれた。


「え・・・?」

「寒いんだろ?」

「け、けど、これ・・・」

「気にすんなよ。大体、あんたさっき震えてたんだぜ?」


 じわじわとしみこんでくる暖かさ。

 それは、いまだ密着している彼女の身体から。

 そして、彼女のものであろう上着からも。

 そんな行為を今まで受けたことのない刹那は戸惑い、対応ができない。


 ただ、この暖かさを手放したくないと、そう思った。


「ところで、あんた名前は?」

「あ、ウチ、刹那」

「刹那か、良い名前じゃねーか。私は千雨だ」

「ちさめ・・・ちーちゃん・・・?」


 きょとんと首を傾げれば、千雨と名乗った少女は顔をしかめ。

 それに何かまずいことを言ったか、と影を落とす刹那に気づかず。


「まあ、いっか。・・・そんな呼び方許すのは、あんたにだけだぞ?」

「あ・・・。・・・うん!」


 まるで自分が特別だ、とでも言われているみたいで。

 刹那はすぐに、明るい表情へ。

 千雨もそれに微笑み返す。


 その日から、千雨と刹那は一緒にいるようになった。

 といっても、千雨にはやることがあるらしく、一日中一緒にいる、というわけにはいかなかったけれど。

 それでも、ハーフである自分を害しない。

 どころか、暖かい目を向けてくれる存在に会ったことはなく。


 それはある意味、吊り橋効果だったのかもしれない。

 けれど確かに、刹那にとっては必然であった。


 幼心に、本当の自分を受け入れてくれた千雨に恋をするのは。


 けれど刹那自身それに気づくこともなく。

 本人が気づいていないことを、千雨が気づくはずもなく。

 2人は一緒に笑いあい、たまに千雨が扱う刀で稽古をつけてもらったりもした。

 千雨を抱いて空を飛んだり、なんてことも。


 そんな関係が1ヶ月ほど続いた日。

 刹那はわけもわからないうちに、関西呪術協会に引き取られた。


 その日から翼を消せるように訓練され、それが終わればすぐに長の下へと。

 そこでは神鳴流を習いつつ、長の一人娘の遊び相手を勤めたり。


 気がつけば、千雨と会えなくなって1ヶ月近くたっていた。


 何とか1日自由をもらい、いつも千雨と会っていた場所へと久しぶりにやってきた。

 そこは、約束なんてしていなくても、2人が待ち合わせ場所として使っていた出会った河原。


 かつて千雨が座っていた木の根に腰掛。

 1時間。

 2時間。

 3時間。

 それ以上に待ち続けた。


 朝早くからやってきて、あたりはすでに夕方。

 茜色に照らされる中、刹那は涙を流していた。


「ちーちゃん・・・」


 何でいないの、なんてこと刹那は思わない。

 何故なら、一番最初にこの場所から遠のいたのは自分だと気がついているから。

 それが不可抗力であることは事実だが、その事情を大好きな友人が知っているなんて刹那とて思っていない。

 何より不可抗力であったとしても、誰もいない一人ぽっちの中で相手を待ち続けることの辛さを、刹那は今日知ったから。

 何日待ってくれていたのかは知らないが、彼女の優しさを知っている刹那は1日やそこらではないと自信を持って言える。


 刹那は、出生もあり、同年代に比べて聡明であった。

 ゆえに、理解していた。


 大好きで大切な、初めての友人を失ったのだ、と。

 失ってしまったのだ、と。


「ごめん・・・ごめんなぁ・・・ちーちゃん・・・っ」


 刹那はその日の夜、朝日が顔を出す時間まで布団の中で泣いていた。






















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