【憎いのは】
刹那は焦っていた。
真名も、表情に出さず焦っていた。
近くにいることはわかるのに、術者の居場所がわからない。
攻撃がくるのを避けながら、あたりに視線をめぐらせる。
しかし、やはりどこにいるのかがわからない。
このままで、焦って体力を減らしている自分達のほうが不利だと、刹那も真名も悟っていた。
「あっ!」
「刹那!」
小さなくぼみ。
いつもならば気をとられないくらいのそれに、刹那は体制を崩し。
それを好機と狙うように刹那へと向けられる、火の9矢。
「くっ・・・!」
崩した体制で何とか胴体を移動させようとするが、数発は中ってしまうだろう。
だが、少ないながらもその威力は今までで理解しており、2,3発でも中れば死ぬ可能性が高い。
それでも刹那は死なないようにと足掻く。
が、それは突如目の前に現れた誰かによって、それは全て跳ね返された。
「え・・・・・・」
「無事ですか?桜咲さん」
「あ・・・ネギ、先生・・・」
そこにいたのは、自分よりも小さな。
最近やってきた子供の、けれど子供とは思えないような鍛錬をしている担任だった。
「・・・どうやってここに?ネギ先生」
暗に、敵の術者が結界を施していたはずなのに、と。
真名があたりを警戒しながら、ネギと刹那のもとへとやってくる。
「不自然に魔力が使われたのに気づき、やってきました。あ、結界の方は壊してから改めて僕が張りなおしたので御心配なく」
ネギが返したのは、そんなあっさりとした返答。
両名はそれに驚き、同時にネギの実力にも驚いた。
「ところで、何故こんな夜中に魔法使いと戦闘を?」
「私は雇われてね。お金をもらい、こうして麻帆良に侵入してくる輩を倒しているのさ」
「私は学園長に頼まれました。お嬢様をお守りすることにも該当しますし」
ネギにとりあえず真名と刹那は答え。
「そうなんですか。なら、僕が魔法使いだと初めから?」
「あ、はい。一応、その報告は受けています」
「もっとも、そう言われていなければまったく気づかなかっただろうけどね」
頷く刹那と、肩をすくめる真名。
「あなたがたは魔法使いではありませんよね?」
防御壁を展開させながら、ネギは刹那と真名に首をかしげながら問う。
「ああ、私は傭兵のようなものだよ」
「私は神鳴流の使い手です」
「そういえば、名簿に刹那さんは神鳴流と書いてありましたね」
「め、名簿にですか・・・。一応、秘密事項なのですが・・・」
刹那は思わず頬を引きつらせてしまう。
「魔法使いにそういった配慮がされると思わないほうが良いですよ?自分勝手な存在しかいませんから」
その声は冷たく、真名と刹那は驚きに表情を変えた。
「せ、先生・・・?」
「なんですか?」
「あ、いや・・・っ」
そこにはすでにいつもの落ち着いた様子があって、刹那は見間違いかと言葉に詰まった。
けれど、真名はそんなネギをジッと見つめ。
「・・・もしかして、ネギ先生。君は魔法使いを嫌っているのかい?」
「いいえ」
即答。
ネギはそれから微笑み、闇色の瞳で真名を見上げた。
あの時見せた、怖くて綺麗な瞳で。
「僕は、魔法使い(化け物)を憎んでいるんですよ」
ビリッと、刹那と真名の背筋に走る何か。
それは恐怖か。
それとも、また違う何かなのか。
「化け物って・・・」
「僕のこと。そして、アレのことですよ」
刹那に答えながら、ネギは光りの矢を一本作り出し。
それを木の幹へと躊躇いなく突き刺した。
ネギの行動に驚く2人だったが、それはそれ以上の驚愕へと変わる。
何故なら、木の幹であったはずのそれは、術で隠れていたらしい魔法使いへと変わったからだ。
胸から血をふき出し、後ろに倒れる魔法使い。
「「な・・・っ!」」
2人は目を見開いたまま、ネギへと勢いよく目を向けた。
苦戦していた相手をあっさりと見つけたネギに驚き。
それ以上に、躊躇いなく人の命を奪うネギに驚いたのだ。
「僕にはとても大切な人がいました。とても、とっても大切な人が」
そんな視線に答えるように紡ぎ、ネギは死体へと変わったソレへと近づいていく。
真名と刹那は、無意識にそんなネギへとついていった。
「その人は吸血鬼だった」
「「っ!!?」」
「けど、僕にはどうでも良かったんです、そんなこと。全てを失ったと思っていた僕にとって、その人は唯一でした。
頭を撫でてくれる手が好きでした。夜中に泣いて眠れない僕を抱きしめてくれる腕が好きでした。
向けてくれる優しい笑顔が好きでした。稽古をつけてくれるときの真剣な顔が好きでした。
僕が稽古以外で怪我をすると、泣きそうな顔で手当てをしてくれるその表情も好きでした」
浮かべる笑みは、今まで見たことのない笑み。
学校で見せる、冷静な微笑みとは違う。
子供らしくて、けれど大人のような美しさ。
「僕は、とても幸せでした」
本当に幸せだったと、それを見ただけでわかるような笑顔。
けれどそれは、瞬時に違うものへ。
憎しみのこもった闇色へと変わり、死体を睨むように、ではなく睨みつけた。
「それなのに、急にあいつらが現れた!そいつらはマスターを吸血鬼、化け物と罵り!あまつさえ、反撃をしようとしないマスターを殺した!!」
噴き出る殺気。
息をつまるほどのそれは、子供が出せるものではない。
「マスターの亡骸に呆然とする僕の耳に聞こえたのは、あいつらの歓声だった!!僕の唯一を奪い!自らを正義などとあり得もしない妄想に浸るあの化け物どもの!!」
「・・・君にとって化け物とは、魔法使いを意味するんだね」
「ええ、そうです。命を奪い、喜ぶその姿は化け物でしょう!アレらは、この世でもっとも醜い化け物だ!!」
「なら何故、君は魔法使いになったんだい?」
ハッとする刹那。
刹那はネギを見つめ。
ネギは、うっすらと微笑んで真名を見上げた。
「強くなるためですよ。今度こそ、化け物どもに大切なものを奪われないために」
「・・・そのために、憎くさえ思っている魔法使いと同じになる。・・・辛くは、なかったのかい?」
「辛い?辛いのは、大切な人を失うことだ!!」
「マスターが殺されるのをただ見ているだけだった”私”なんていらない!!強く!強く!!もう何も奪われないために強くならなくちゃいけないんだ!!!大切な人を守れるように強く!!!」
それは慟哭だった。
刹那は気がつけば、涙を流していた。
その悲鳴にも似た慟哭が苦しくて、痛くて。
ネギが、助けてと泣いているように見えて。
「・・・・・・」
真名は無言で膝をつき、その小さな身体を抱きしめた。
ボーっと昨晩のことを考えていた刹那は、ぽかりと真名に頭を叩かれた。
「っ・・・なんだ、龍宮か」
「気を抜きすぎじゃないのかい?・・・まあ、わからなくもないけどね」
肩をすくめる真名に、刹那はうつむき。
真名はそれに小さくため息を吐いて、刹那の隣に座った。
「気づいたかい?」
「何をだ?」
「ネギ先生さ」
「・・・ネギ先生が、魔法使い以上に自分を憎んでいることを、か?」
小さな声のやり取り。
真名は刹那の言葉に頷き。
刹那は憂鬱そうにため息を吐き、窓の外へと目を移す。
「ネギ先生が何故アレほど自分の身体を酷使するのか、ずっと疑問だった。その答えはきっと、昨日の言葉だろう」
「私もそれに同感だ。”彼女”にとって自分の身体を労わらないのは、自身さえ憎いからだろう。もちろん強くなるというのもある。けれど、それ以上に憎くて仕方がないからだ。マスターとやらが殺されたとき何も出来なかった自分がね」
刹那は窓から目を移さず、真名は見ていないだろうが教室内に目を向けたまま。
が、刹那は何かに気づき真名を見た。
その目は驚きに見開かれている。
「まて、龍宮。彼女?」
「おや、気づいていないのかい?ネギ先生は、ただ見ている”私”はいらない、と言っただろう?まあ、女性だけがその一人称を使うわけじゃないけどね」
「・・・弱い”私(女)”を捨て、強い”僕(男)”になるために・・・?」
「その可能性もあるね。まあ、単純に気持ちの切り替えのための一人称変更かもしれないけれどね。”私(弱さ)を捨て、僕に(強く)なる”とかね。」
私はそちらを押しているよ、と。
「だが、何故”僕”なんだ?」
「マスターさんの一人称だったのかもしれないよ?」
刹那はそれに酷く納得した。
もちろん本当のところはわからない。
ただなんとなく、それが正解ではないかと内心思っていたが。
その時、教室にネギが入ってきた。
合う視線。
ネギは2人に微笑みかける。
いつもと同じ。
一つ違うところがあるとすればそれは、そこに困ったような色が見えること。
真名はそれにニヤリと笑い返し、刹那はくすりと笑って返す。
『なら私は、ネギ先生を守れるように今よりも強くなろう』
『ならば私は、あなたがこれ以上苦しまないように腕を磨きましょう』
『『だから、1人で抱え込まないように(してください)』』
その時のポカンとしたネギの顔は、初めて見る子供の顔であった。
あとがき。
やはり、わたしはエヴァ、真名、刹那が好きらしい。
楓はどこにいったのか(汗
でも、一応あの方にはあの方でやってもらいたいことがあるので。
たぶん、続きを書くときがきたら彼女の出番も増えるのではないかと(汗
ブラウザバックでお戻りください。
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