【居残りは】
桜咲刹那と龍宮真名は、夜の警護のため外を歩いていた。
その時、ネギの鍛錬現場を見つけ。
そして、それをジッと見つめる楓に気づいた。
「長瀬さん?」
「おお、真名と刹那殿でござらんか」
「ネギ先生の鍛錬を見学かい?」
「そうでござる」
刹那も真名も楓と一緒になってその光景を見つめる。
そうしてどれくらいが経っただろう。
真名が、ポツリと呟いた。
「子供がやる鍛錬ではないね」
「それに関しては拙者も同意でござる」
「・・・何故、ネギ先生はあんなになってまで・・・」
真名に楓も刹那も同意し。
そんな彼女達の視線の先には、黙々と。
汗を拭いもせず、鍛錬を行うネギがいる。
と、そのネギが動きを止めて、3人へと目を向けた。
「今日もいらっしゃるんですね、長瀬さん。それに、桜咲さんと龍宮さんも」
それに3人は驚き。
それから、ネギのもとへ。
「すまないね、覗くようなかたちで」
「いえ、かまいませんよ」
代表として謝る真名に、ネギは汗を服で拭いながら笑顔を向けた。
「あの、ネギ先生」
「なんですか?桜咲さん」
「もうこんな時間ですし、そろそろ帰ったほうが」
「それもそうだね。ネギ先生はまだ10歳なんだし、無理はいけない」
刹那と真名の言葉に、楓も糸目のまま頷き。
ネギはそれに苦笑をこぼし。
「そうですね」
一応持ってきているらしいタオルを拾い上げ。
「前みたいに血を吐くわけにもいきませんからね。教師として」
そんな、3人にとっては予想もしていなかった言葉を軽く言ってのけた。
「「「え・・・?」」」
「それじゃあ、僕はこれで」
なんでもないことのように背中を向けるネギ。
楓は咄嗟に、その小さな背中を呼び止めた。
「はい?」
「・・・ネギ坊主、今聞き捨てならぬ言葉を聞いた気がするのでござるが」
「聞き捨てならない言葉?」
険しい表情の楓。
もちろん、他の2人も同じ。
しかし、ネギは何のことだろうと、首をかしげており。
3人の表情が、さらに険しいものへと変わった。
「ネギ先生、あなたは鍛錬のやりすぎで血を吐いたことがあるのかい?」
「ええ、ありますよ?」
それがどうした、と言わんばかりの表情。
「何故そんなことをするんです!」
「守りたいモノを守るため」
簡潔な返答。
刹那はそれに、思わず言葉に詰まった。
「もう、大切なものを奪われないために」
「「「もう・・・っ?」」」
それは、一度すでに奪われたことがあるのだと言っているのと同じことで。
3人は、息を呑んだ。
ネギの瞳に、先ほどまでなかった憎しみが渦巻いているのを見て。
けれど同時に、月に照らされたその瞳は背筋が震えるほど綺麗で。
「血を吐こうが死に掛けようが、大切なモノを守れたらそれで良いんですよ、僕は」
すでに消えたその闇。
ネギは微笑み、3人に頭を下げると寮の方向へと歩いていった。
その背中を見つめていた3人は、呼吸を取り戻し。
「・・・危険でござるな・・・」
「そうだね・・・。あのままでは、いつか取り返しのつかない事態になる・・・」
「ああ・・・。死ぬことさえ恐れていないようだ・・・」
いつか倒れる、なんて甘いと3人は思った。
あのままではいつか死ぬ、と思った。
そして、ネギはそんな自分の身体に無関心だとも。
「・・・もう、奪われたくない、か・・・」
ポツリと真名が呟いた。
それに刹那も楓も沈黙。
真名はわかる、その気持ちが。
かつて、彼女も大切な人を失ったことがあるから。
だから、彼女はその言葉の重みを理解していた。
だから、ネギが本気なのだと理解できた。
もちろん、刹那たちがまったく理解できなかったわけではないが。
「ずいぶんと困った子供が担任だ・・・」
そんな真名の呟きは、他2人の思いの代弁だったのかもしれない。
明日菜はいつものように朝早くから、新聞配達のバイトをしていた。
ただ今日は休みの人の分も配達するため、少し量が多く。
「神楽坂さん」
よろけた彼女にかけられた声。
明日菜は振り返り。
「あ、ネギじゃない。今日もランニング?」
担任としてやってきたネギが、いつの間にか隣にいた。
ネギがきてから毎朝ランニングをしていることを知っている明日菜は、少し呆れ顔で。
ネギはそんな明日菜に微笑み返し。
「はい。ところで、今日は多くありませんか?」
「ああ、風邪で来られない人の分もやることになったから」
「だったら手伝いますよ」
ネギが立ち止まれば、明日菜は慌てたように立ち止まり。
「良いわよ別に」
「かまいませんよ。それに、その方が良い鍛錬になりますし」
手を差し出すネギに、明日菜は悩み顔。
真面目で一応担任だとしても、ネギは10歳。
明日菜は少し躊躇い。
が、半ば無理矢理ネギに半分奪われてしまう。
「あ・・・。わかったわよ、けど私もついてくからね!場所わかんないでしょ」
「そうですね。お願いします」
2人は並んで走り。
「ところで、何であんたみたいな子供がそんなことしてるわけ?」
「鍛錬ですか?」
「そ。ガキなんだから、そんなことしなくても良いじゃない」
「ふふ、秘密です」
にっこりと笑い、口に指をあてるネギ。
明日菜はそれにまあ良いけど、と。
そのあとネギの手伝いもあり、順調に配達を終わらせることができた。
寮室に戻った明日菜は、タオルを持ちながらネギに問いかける。
「ねえ、お風呂私が先に入っても良い?」
「かまいませんよ。僕はタオルを取りに着ただけですから」
「・・・どういうこと?」
「あと1時間ほど続けようと思って」
明日菜はそれに呆れ顔。
「ほどほどにしなさいよね」
「わかっています」
明日菜に微笑み返して、ネギはタオルを持って部屋を出て行き。
明日菜はため息をついて、備えつけられているお風呂場へ。
それから1時間を少し過ぎたころにネギは戻ってきた。
その間に木乃香は起きており、朝食を。
明日菜は二度寝だ。
「ネギ君、あと少しでご飯できるえー」
「わかりました。すぐに汗を流してきますね」
木乃香に答えて、ネギはお風呂場へ。
20分ほどしてお風呂から上がったネギは、明日菜を起こして3人で朝食を。
食べ終えた後は学校へと向かった。
――― 職員室。
ネギはそこで、しずなから居残りさんリストを貰った。
何でも、テストの点が特に悪い人達なんだとか。
「この5人ですか・・・」
「ええ。ただ、3学期だし、赤点をとるような生徒が出ると実習生としても問題ありですよ」
「・・・そうですね。エスカレーター式で高校まではいけるとしても、今のままではその先でつまってしまいますね」
「?ネギ先生も、このままでは修行をちゃんと終えることができないのでは?」
ネギの言葉が予想外だったのか、しずなは改めて告げ。
だが、返って来たのは笑っているように見えない笑顔。
「不思議なことを言いますね。僕の修行と、彼女達の赤点とは関係ないでしょう」
「・・・と、言いますと?」
「僕は確かにここに修行をしに来ていますが、そのために彼女達の能力をあげるのはおかしいでしょう?」
「・・・・・・・」
「僕は彼女達の担任です。だから、彼女達の未来を考えて勉強を教えます。教師とはそういうものでしょう?それとも、あなたは違うんですか?」
にっこりと。
しずなはそれに驚き。
その間に、ネギはそのリストを持って職員室を出て行ってしまい。
その後ろ姿を、しずなは驚きの表情のまま見送ったのだった。
時間は進み、放課後。
教室に集められたのはリストに載っていた5人。
「バカレンジャーが揃いましたね」
「誰がバカレンジャーよ!」
夕映につっこむ明日菜。
他3人は照れたように笑ったりのんびりと踊ったり。
ネギはそんな彼女達にくすりと笑う。
「さて、時間は有限ですし、そろそろ始めましょうか」
全員が席に着いたところで、ネギはプリントを配る。
「とりあえず今日は、僕が初めてというのもあるので、皆さんがどれほど英語を理解しているのかを調べようと思います。
皆さんが習う初めての英語から、今日やったまでの内容を詰め込んでみました。10点が満点となりますので」
配り終えたネギは教卓に戻り。
「時間は20分間です。では、始めてください」
ペンを持ち、テストへと意識を向ける5人。
時々うなるような声にネギは苦笑しながら、20分間待っていた。
20分後、ネギは5人の答案を回収、その場で採点をしていく。
「綾瀬さんは9点です。余裕で合格ですね」
ネギは笑顔で夕映の座っている席の机に答案を置く。
「このテストで9点取れるのに、何故最後尾に位置しているんですか?」
「・・・勉強、キライなんです」
口をへの字に、眉をハの字にして答える夕映にネギは苦笑してしまう。
学生なのだから、勉強が好きな者の方が少ないだろう。
ネギにとって勉強とは強くなるための道具に過ぎないので、好きも嫌いもないのだが。
「学生ですから、それはしょうがないですね。けど、一応本番ではちゃんとしてくれると嬉しいです」
ネギは微笑み、楓へと。
「長瀬さんは6点ですね。所々小さなミスが多いので、そこが改善できれば大丈夫ですね」
「あいあい」
「古菲さんは4点ですが、それは日本語の間違いのようなので、焦る必要もないでしょう」
「頑張るアルよ」
「佐々木さんは6点です。英単語のつづりを所々ミスしていますので、覚えられるように頑張りましょうね」
「馬鹿でごめんね〜」
「神楽坂さんは3点ですね。神楽坂さんの場合は、基本の方で詰まっているために応用がきかないようですが、基本を覚えれば問題はないでしょう」
「ぐっ・・・」
それぞれに答案を返し、ネギは教卓に戻る。
「とりあえず、今日はここまでにします。次からは5点以下の方には残ってもらいますので、御了承ください。では、お疲れ様でした」
良い返事が返ってきて、それぞれ部活やら寮へやらへと。
残ったネギはしばらくそのままでいたが、そっと静かにある一つの席へと歩き出す。
それは、ネギの心を乱して止まない一人の少女の席。
失礼ではあると理解しながらも、ネギはその椅子に座った。
そのまま、周りと変わらない机を撫で。
「マスター・・・」
小さな小さな呟きをもらした。
敬愛していた人と同じ雰囲気を持つ、小さな少女。
似ているわけではない。
むしろ、似ているところなんて一切ない。
それでも、吸血鬼特有の雰囲気とでもいうのか、そんなものが感じられるから。
まるで、大好きだった人が傍にいてくれるように感じるから。
「・・・ありえないのに・・・」
机に頬を押し付けて、もれた自嘲。
子供らしからぬ、暗い瞳で。
【闇の福音】
【人形使い】
他にもエヴァンジェリンは異名を持つ。
ネギはそれをマホネットで調べ、知った。
ネギの敬愛する人は真祖ではなかったが、吸血鬼であるのは同じ。
曲げぬポリシーをもつというエヴァンジェリンは、やはりネギには眩しくて、痛くて。
どんなに気にしないようにしようとしても、ネギの弱い心をかき乱す。
同時にネギは思うのだ。
もしエヴァンジェリンが吸血鬼というだけで傷つけられそうだったとき、その時は今度こそ守ってみせようと。
たとえ魔法界を敵にまわしたとしても、
たとえ死ぬことになろうとも。
それが、彼の人が殺されるのを見ていることしかできなかった自分への戒めであり。
それがネギにとって、彼の人への唯一の懺悔であると思うから。
ブラウザバックでお戻りください。
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