【授業は】































<長瀬 楓>


 今日、子供と呼んで差し支えないほどの者が拙者どもの担任としてやってきたでござる。

 ネギ・スプリングフィールド。


 彼は、子供らしからぬ雰囲気を持っており。

 その腕も相当のものと判断。


 何よりも、彼の瞳は本当に10歳なのかと疑問を感じるほどに。

 強い意志が想いがこめられ。

 それが異常に感じたでござるよ。


 稚拙ではあるが、多くのトラップを見もせずに回避した身体能力。

 その動きは、ただの10歳ができることではござらぬ。


 教師としても、不慣れながら拙者たちに対する真剣さが感じられ。


 いやはや、ネギ坊主は本当に子供なのでござろうか。


 その日の夜、拙者は修行の後寮へと帰る途中、

 ネギ坊主が、修行をしていたでござる。


 時刻はすでに夜中の1時をまわり。

 あたりはもちろん、寮内でも起きている者もごく少数でござろう。

 そんな時間に、ネギ坊主は修行をしていたのでござる。


 古菲の体術とも違う。

 拙者の知らぬ、基本の動きなのだろうそれを永遠と。


 その表情は、昼間に見ていた穏やかな顔とは違い。

 昼間よりも強い、強い意志を感じたでござる。


 拙者は、ネギ坊主の動きの変化で我にかえったでござる。

 それは実践を想定したような。

 敵をイメージしているような動きでござった。


 拙者は不覚にも、見惚れてしまったでござるよ。

 ネギ坊主の動きは荒削りであり、綺麗とは到底いえぬ。

 されど、他人に見せるものではなく倒すための動きであるゆえ、それも致し方ない。


 拙者が見惚れたのはその動きではなく。

 その、真剣な表情にでござる。


 14年。

 拙者は、あそこまで強い意志がこもった表情を、見たことはござらん。

 それを、たった10歳の子供が。


 ・・・ネギ坊主に体術を指導したとすれば。

 それは、見せるものにも劣らぬ魅せるものとなるでござろう。

 今よりももっと、洗練された動きになるでござろう。


 鍛えてみたい。


 それが拙者の、素直な気持ちでござった。


 拙者はそれから朝日が顔を覗かせるまで。

 ネギ坊主の動きを見ていたでござる。


 ・・・ハッ!しまった!

 寝ていないでござるよ!!?




























「あんた、あんな汗だくでなにやってたわけ?」

「体術の修行ですよ」

「「体術?」」

「はい」


 学校へと走りながら、僕は神楽坂さんに答えた。


 毎日欠かさずに行っていること。

 昨日は新しい場所というのもあって、一晩中やってしまった。

 もっとも、一日寝ないくらいで疲れるほど軟な体はしていないつもり。

 もともと寝ないで鍛錬、というのは何度もしていたから。


 それが前アーニャたちにバレて、凄い怒られちゃったけど。


 それにしても、途中から長瀬さんの気配がしていた。

 彼女も眠っていないだろうし、大丈夫かな?


 そのあと僕たちは教室へと。

 途中雪広さんと合流して。


「あ、宮崎さん。おはようございます」

「おは、おはよーです」


 教室の窓からこちらを見ていた宮崎さんに近づいて。


「一晩立ちましたが、体のほうはどうですか?」

「な、何も問題ありませんっ」

「それは良かった」


 ドアを開ければ、昨日のように黒板消しのトラップ。

 避けるけれど、それは雪広さんが受け止めてくれた。


 それにお礼を言って教卓につくと、宮崎さんが何かの挨拶を。


「き、起立―――気をつけ―――礼ぃ」

「おはよーございます」


 その挨拶に僕は戸惑いつつ返した。


 向こうではこんなことしなかったけど。

 なるほど、日本ではこういうことをするのか。


 納得して、僕は出席を取る。

 目と耳に魔力をのせて。


「相坂さよさん」

(あ、はい!)


 うん、いい返事。


 僕は彼女に微笑みを向けて、次の人へ。


「明石裕奈さん」

「はい」

「朝倉和美さん」

「はーい」


 出席を続けて。

 そのあとは、英語の授業。


「では、まず1時間目を始めます。テキストの76ページを開いてください」


 そのページに載っている長文を口に出して言う。


「The fall of Jason the flower. Spring came. Jason the flower was born on a branch of a tall tree. Hundreds of flowers were born on the tree.They were all friends.」

「この訳しができる人はいますか?」


 見渡せば、けっこうな人数の人が僕から目を逸らす。

 それに苦笑して。

 これは、あてない方が良いと判断した。


「・・・見辛いかもしれませんが、我慢してくださいね」


 僕はできるだけ上に、つま先を伸ばして長文の一部を黒板に書き。


「まずは、ここまでの説明をします。わからない人はノートに書いたり、教科書にメモする等をしてくださいね」


 出来るかぎり詳細に、長文の説明していく。


「今までの説明をふまえて、訳せる人はいますか?」


 自身がなさそうな人達が何人か。

 その中の一人。


「では、大河内さん」

「・・・はい」


 焦ったような彼女に微笑みかけ、促す。

 大河内さんは意を決したように口を開いて。


「はい、正解です」


 笑顔で頷くと、大河内さんはホッとしたように少しだけ表情を柔らかくした。


 その後も授業を続け。

 自己採点では、50点くらいはできたような気がする。

 200点目指して頑張らないと。


 お昼休み、僕は昨日と同じ段差で一休み。

 そこに。


「あ、あの、ネギ先生・・・」


 何故か早乙女さんと綾瀬さんに押されるようにして、宮崎さんたちがやってきた。


「宮崎さん、どうしたんですか?」

「スミマセン、ネギ先生。朝の授業について質問が」

「はい、良いですよ。職員室に移動しますか?」

「だ、大丈夫ですっ」


 答えたのは宮崎さん。

 どうやら、質問があるのは宮崎さんらしい。


「そうですか。それで、質問というのは」

「その―――」


 宮崎さんからの質問に、僕は丁寧に説明して。


「――― ということになります」

「わかりました。わざわざありがとうございます!」

「いえ。他に何か質問は?」

「ありませんっ」

「そうですか」


 僕は立ち上がって、リュックを持つ。


「午後の用意もありますから、僕はこれで失礼しますね」

「は、はい、ありがとうございますっ」

「いえ。わからないことがあれば、また聞いてください」


 頭を下げて、学校へと歩き出し。

 ふと、言い忘れていることがあったのを思い出した。


「宮崎さん」

「あ、はいっ」


 振り返り、首を傾げた宮崎さんに微笑みかける。


「その髪型、似合っていてとても可愛いですよ。それでは」


 もう一度頭を下げて、僕は職員室へと向かった。











「ネギ君、カッコイー。あんなに小さくても、紳士だねぇ」

「ホントです」


 去り際の一言にハルナと夕映は感心するように呟き。

 ふと、無言ののどかへと視線を向けた。

 そこには、顔を真っ赤にしたのどかがいて。


「・・・のどか、良かったですね」

「だね。褒めてもらえたじゃない」

「・・・う、うん・・・っ」


 のどかは見惚れるように。

 去っていくその小さな背中を見つめた。
















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