【無責任には】































 電車に乗って僕は麻帆良学園へと向かった。

 親切な人達に、初等部は違う駅だと指摘されたけど。


 ホームに降りて、僕は圧倒された。

 人の多さと。

 皆が一斉に走るその光景に。


 慌てて僕も走り出して。

 しばらくしたころ、前方に凄い魔力を感じた。

 それに自然と、眉を寄せてしまう。


 わかってはいたけど、こうも普通に魔法使いがいるのは。

 もちろん、魔法使いだけだったあの学校よりは断然マシだけど。


 僕はなるべく関わらないようにしようとして。

 けど、聞こえた会話からどうやら、僕を案内するように頼まれた人達らしい。


「?」


 ふと、その会話に違和感を感じた。

 聞いてみればどうやら、あの人達は2人とも魔法関係者ではないようだ。

 そのわりに、うち1人の魔力量が異様に多い。


 まあ良いと思い、僕は彼女達に近づいていった。

 向こうも僕に気がついたらしい。


「初めまして。僕はネギ・スプリングフィールドです」

「えっ?」

「少々伺いたいことがあるのですが、お2人は僕を迎えに来てくださった方々ですか?」

「へ!?」


 驚いたように僕を見つめるツインテールの人。

 僕は向こう側の、魔力量が多い人へと顔を向けた。


「もしかして・・・」

「新任の教師ってあんたのこと・・・?」

「やはりそうでしたか」


 相手が立ち止まり、僕も走るのを止めた。


「なななななな!!?だって、あんた子供じゃない!!」

「それに関しては同意見ですが、僕には拒否権がないといっても過言ではありませんので」

「おー。真面目な子やなー」


 そこで僕は、見知った気配に声をかけられた。

 振り返る僕と、勢いよく振り返るツインテールの人。


「お久しぶりです、高畑さん」


 挨拶をされたのなら、挨拶を返さねばならない。


「し・・・知り合い・・・!?」


 妙に大きな反応をする彼女。


「ホントなの!!?」

「改めて、この学園で英語を教えることとなりました、ネギ・スプリングフィールドです」


 頭を下げた僕をポカンと見る彼女と、何故かわくわく顔のもう1人。

 僕は彼女達に、笑顔を返した。


 その後、高畑さんに案内されて学園長室へ。

 学園長は、違う意味で化け物と呼んでも差し支えないと思ってしまう後頭部を持っていた。

 あそこには、本当に脳だけしかつまっていないのだろうか。


「なるほど、修行のために日本で学校の先生を。それはまた大変な課題をもろうたのー」


 ふぉっふぉっふぉと笑い、髭をなでる学園長。

 僕はそれに眉を寄せた。


 ここに来るまでの道中の会話で、神楽坂さんと近衛さんが魔法関係者でないことは明白だ。

 だというのに、今の発言はどういうことだろう。

 彼は、隠す気がない?


 ・・・彼女達は何かしら、裏に関わりがあると思って良いのかもしれない。


「よろしくお願いします」

「しかし、まずは教育実習となるかのう。今日から3月までじゃ」

「わかりました」

「ところでネギ君には彼女はおるのか?どーじゃな、うちの孫娘など」

「ややわじーちゃん」

「っ!?」


 ビックリした。

 おっとりして見えた近衛さんが、学園長の頭をトンカチで殴ったからだ。

 そしてそれを、誰も気にしていないというのがさらに凄い。


 ?

 ネギ君?

 僕は確かに弱いままの”私”を捨てたし、男として生活してきたけど。

 ・・・まさか、彼が僕の性別を知らないことはないだろう。

 きっと、冗談だな。


「ところで、こんな子供が先生って一体どういうことですか!?しかも、うちの担任だなんて!」


 神楽坂さんが抗議するが、学園長は無視をする。

 それにしても、血を流す彼を気にしていないあたり、やはり凄い。


「ネギ君、この修行はおそらく大変じゃぞ?ダメだったら故郷に帰らねばならん。二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのかな?」


 ・・・不思議なことを聞く人だ。


「もちろんです」


 教師、ということは、彼女達のような生徒を指導し導く者のことだ。

 それは当然、大変で当たり前のこと。

 彼女達の人生を手助けする、ということなのだから。


 ・・・それとも、学園長はそれほど真摯に生徒と接していない、ということなのだろうか。

 ああ、いくら修行だとしても僕のような9歳の子供に生徒を任せる時点で、生徒達を大切に思っていると判断する方が間違いか。


「・・・うむ、わかった!では今日からさっそくやってもらおうかの。指導教員のしずな先生を紹介しよう」


 現れたのは、優しそうな女性。

 僕の指導教員となるのだから、彼女も裏に関わっているのだろう。


「よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 本当は関わりたくないけど。

 教師に関する本を読んだりして勉強はしたけど、実地は初めて。

 指導してもらわなければいけない。


 学園長はさらに。


「それともう一つ、このか、アスナちゃん、しばらくはネギ君をお前達の部屋に泊めてくれんかの?」


 ・・・決定だ。

 この2人は、本人のあずかり知らぬところで裏に関わっている。

 近衛さんは学園長の孫娘だから仕方がないとして。

 神楽坂さんは一体・・・。


 調べてみる必要があるな。


 僕は反対する神楽坂さんを見つめ、そう決意した。


「では、頑張るのじゃぞ、ネギ君」

「わかっています」


 修業という理由だけで大切な生徒を、無責任に任せる魔法使い達。

 僕が英雄の子供だからか。

 それとも、他の魔法使い達も同じような修業なのか。


 いや、アーニャは占い師だ。

 僕のように、こんな在り得ない事態にはなっていない。


 そうさせるのは、やはりナギのことがあるからだろう。

 もしくは、ナギにかかわる何かがここに存在するか・・・。


 ともかく、魔法使い達の被害者になんて、させるわけにはいかない。

 教師として、精一杯頑張ろう。


 僕は、お前達のように無責任なことはしない。
































 しずな先生に案内される途中、クラス名簿を見て生徒たちの顔と名前を覚える。

 31名。

 彼女達が、これから僕が教える生徒だ。


 僕は教室のドアを開け。

 上から降ってきた何かを、僕は横に半身ずれることで避け。

 それを受け止める。


「黒板消し?日本にもあるんだ」


 それにしても、ずいぶんとたっぷり粉がついて・・・。


 僕は苦笑しながらそれを持ち、足元のトラップをまたいでから回収。

 落ちてきた水入りのバケツを右足で受け止めて、縄を持ったほうの手に持ち。

 後ろから飛んできた遊び矢を避けた。


 ・・・トラップ、多すぎだよ。


 しんと静まり返った教室。

 僕は黒板消し、縄、バケツを教卓において。


「今日から皆さんに英語を教えることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」


 生徒達の顔を見渡して。


「っ!?」


 僕は、息を呑んだ。


 マスターと、同じナニカを持つ人がいた・・・っ。


 加速しはじめた心臓を押し殺して。

 さり気なく彼女から視線を外して。

 先ほど覚えた名簿表を、開いた。


 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル


 それが、マスターと同じナニカを発する人の名前だった。


「っキャァァァァ!!かわいい!!」

「すごぉぉぉぉい!!!」

「っ!?」


 急な声に僕は驚いて、思わず一歩後退。

 同時に駆け寄ってきた人達。


「何歳なの〜〜〜!?」

「あ、10歳に・・・」


 なります、とは言えずに次々と質問が。


 困惑しつつ教室内を見渡せば、数人が着席したままで。

 きっと、その中の何人かは裏関係者なのだろう。


 と、ふと一番前の右の席。

 僕は目に魔力をまわし。


 なるほど。

 相坂さんは幽霊というわけか。

 それがわかれば、これから先戸惑うこともない。


「静かに、席に着いてください!」


 そう言うと、彼女達は嬉しそうに席に着いてくれた。

 なら、授業だ。


「・・・・・・」


 黒板を見上げ。

 僕は小さくため息。

 届かないわけではないけど、背伸びしなくちゃだ。


 仕方ないと割り切って、僕は皆さんを見渡して問いかける。


「では、授業を始めます。何ページまで進めたんですか?」

「128ページですわ、ネギ先生」

「ありがとうございます、雪広さん」

「どういたしまして」


 嬉しそうな笑顔の雪広さんに微笑み返して、僕は真新しい教科書を開いた。
















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